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告白するかしないか、それが問題だ
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速水七瀬は今、人生最大の岐路に立たされている。
たかだか高校三年、十数年生きただけで人生最大、なんて大袈裟なのは七瀬にもわかっていた。しかし、自分の決断次第で、この先の人生が大きく変わってしまう、かもしれないのは事実だ。
「明日は十時チェックアウトだからな。寝坊するなよお前ら!」
「お前が一番あぶねーじゃん!」
「っは、ちげーねえ。じゃ、おやすみ」
「おやすみ~」
七瀬は高校で仲の良かった四人で、卒業旅行に来ていた。この日のために皆でバイトして、テーマパークを中心に三日間、目一杯遊んだ。
——……もう、明日が最後だ。今夜しかない。
ずっと、胸に抱えてきた思い。宿はツインの部屋をふた部屋予約することになった時、できるだけさりげなく、同室になるように話を誘導した。
「七瀬ー、風呂いいよー」
「おう、りょーかいー」
——あー、直視できねえ。見たら絶対勃つ……。
同室をもぎ取った相手、中川悠里こそ、七瀬が三年の間ずっと片想いをしていた相手である。
一年の時、隣のクラスにバスケで全国まで行ったやつが入学してきた、と噂で持ちきりだったのが、悠里だった。
顔よし、体格よし、性格よしの三拍子揃っていれば、女子も男子も誰もが友達になりたがった。自分のような取り立てて特技のない、ごく普通の男子高生が悠里のような有名人に近づけるわけがない、遠くから見られれば十分だと思っていたのに、たまたま行事の実行委員で一緒になったことから縁がつながった。
勝手にバスケ馬鹿だと決めつけていた悠里は意外にも本が好きで、七瀬の鞄に入っていた文庫本を目に留めて話しかけてきたのをきっかけに、七瀬はあっという間に悠里とよく話す間柄になった。七瀬はこれまで全く縁のないバスケ部の応援に行くようになり、逆に最近よく話題にしている作者の作品が映画化したと知って、誘ってきたのは悠里からだった。
——感触は、悪くないと思うんだよな……。
悠里からもうっすら、好意を感じるのは、自惚れではないと思う。
試すようなことをするのはどうかと思ったけれど、彼女ができたと噂に聞いて、それまでは昼休みになると教室へ誘いに行っていたのを、わざと声をかけなくなった。
「俺、なんかした?」
深刻そうな顔で、わざわざクラスの他のやつに居場所を聞いてまで七瀬を探しにきた悠里は七瀬を見つけるなり開口一番、そう言った。
「いや、悠里、彼女できたって聞いたからさ。昼飯とか、彼女と食うんじゃないかと思って」
それを聞いた悠里の表情に、七瀬はぐらりときた。
——ただのダチ相手に、そんな顔、するか?
その後しばらくして、悠里が彼女と別れたと聞いた。
それ以降、悠里は浮いた話ひとつなく、ずっと七瀬と一緒に昼休みを過ごし、たまに休みに映画を見たり、買い物をしたりする間柄でいる。
二人が同じクラスになった二年の途中から、修学旅行の班がたまたま一緒になった森川智樹と宮山晴久が二人に加わり、四人でよく遊ぶようになった。それぞれ共通して好きなものとそうでないものがあり、話が途切れることがない。
けれど、仲良しとはいえ、四人の進路はばらばらだ。智樹は地元の大学へ進学、晴久は東京の専門学校へ、悠里はスポーツ推薦で東京の強豪大、そして七瀬は本当は悠里と同じ大学へ行きたかったが模試の結果が思わしくなく、なんとか同じ東京の別の大学への進学が決まっている。
「またさ、みんなが地元へ戻った時に四人で集まろうな!」
四人の中でただ一人地元へのこる智樹が夕飯前に、少し寂しそうな笑顔で言っていた。
そうだ、これから当分の間、これが四人で集まる最後。それは同時に、悠里とも今までのようには会えなくなることを指している。
最終日の前の夜に、告白しよう。七瀬は出発前に、そう決めていた。
もし気まずくなっても、明日解散してしまえば、もう顔を合わせることもない。
それに、悠里は、七瀬が決心するのを待っているのではないか、という感覚がほのかにあった。何度も、悠里が何かを言いかけてやめることが、最近増えてきている。距離が以前よりほんの少しだけれど、近い気がする。何かというと、髪の毛や体に触れてくることが増えた。
それが思い過ごしかどうか、確率は五分五分だと七瀬は思っている。でも、悠里の性格を考えたら、十分にありそうだとも思っていた。
ああ見えて、悠里はひどく奥手だ。一年の時にできた彼女も、後々聞いたらほとんど知らないのに熱心に告白され、押し切られるような形で付き合ったのだという。
だから、好きのサインだけはチラチラ発しているけれど、自分からは言えない、まして相手は同性、という可能性は決して少なくない。
——まあ、それでもまあまあな賭け、だけどな……。
万一本当に期待されているなら、応えないのは七瀬の美学に反する。まして、自分も十二分に惚れ込んでいる相手なら尚更に。
七瀬は七瀬で、自分に悠里が好意を抱くよう、三年かけて必死で外堀を埋めてきたのだ。さりげなく世話を焼き、自分と過ごす時間を楽しいと思ってもらえるよう情報を仕入れ、囲いすぎないよう適度に野に放つ。その努力を、いっときの恐怖と不安で無にするわけにはいかない。
「頑張れ俺……!」
シャワーを頭から被り、七瀬は自分に喝を入れた。何を勘違いしたか元気になりかける愚息を叱りつけ、手早く寝巻きに着替えて、バスルームを出る。
すでにベッドに寝転んでいる悠里の背中に向かって、七瀬は大きく深呼吸をした。
「悠里、あのさ」
ーーー
第82回 お題「ギャンブル」「岐路」
たかだか高校三年、十数年生きただけで人生最大、なんて大袈裟なのは七瀬にもわかっていた。しかし、自分の決断次第で、この先の人生が大きく変わってしまう、かもしれないのは事実だ。
「明日は十時チェックアウトだからな。寝坊するなよお前ら!」
「お前が一番あぶねーじゃん!」
「っは、ちげーねえ。じゃ、おやすみ」
「おやすみ~」
七瀬は高校で仲の良かった四人で、卒業旅行に来ていた。この日のために皆でバイトして、テーマパークを中心に三日間、目一杯遊んだ。
——……もう、明日が最後だ。今夜しかない。
ずっと、胸に抱えてきた思い。宿はツインの部屋をふた部屋予約することになった時、できるだけさりげなく、同室になるように話を誘導した。
「七瀬ー、風呂いいよー」
「おう、りょーかいー」
——あー、直視できねえ。見たら絶対勃つ……。
同室をもぎ取った相手、中川悠里こそ、七瀬が三年の間ずっと片想いをしていた相手である。
一年の時、隣のクラスにバスケで全国まで行ったやつが入学してきた、と噂で持ちきりだったのが、悠里だった。
顔よし、体格よし、性格よしの三拍子揃っていれば、女子も男子も誰もが友達になりたがった。自分のような取り立てて特技のない、ごく普通の男子高生が悠里のような有名人に近づけるわけがない、遠くから見られれば十分だと思っていたのに、たまたま行事の実行委員で一緒になったことから縁がつながった。
勝手にバスケ馬鹿だと決めつけていた悠里は意外にも本が好きで、七瀬の鞄に入っていた文庫本を目に留めて話しかけてきたのをきっかけに、七瀬はあっという間に悠里とよく話す間柄になった。七瀬はこれまで全く縁のないバスケ部の応援に行くようになり、逆に最近よく話題にしている作者の作品が映画化したと知って、誘ってきたのは悠里からだった。
——感触は、悪くないと思うんだよな……。
悠里からもうっすら、好意を感じるのは、自惚れではないと思う。
試すようなことをするのはどうかと思ったけれど、彼女ができたと噂に聞いて、それまでは昼休みになると教室へ誘いに行っていたのを、わざと声をかけなくなった。
「俺、なんかした?」
深刻そうな顔で、わざわざクラスの他のやつに居場所を聞いてまで七瀬を探しにきた悠里は七瀬を見つけるなり開口一番、そう言った。
「いや、悠里、彼女できたって聞いたからさ。昼飯とか、彼女と食うんじゃないかと思って」
それを聞いた悠里の表情に、七瀬はぐらりときた。
——ただのダチ相手に、そんな顔、するか?
その後しばらくして、悠里が彼女と別れたと聞いた。
それ以降、悠里は浮いた話ひとつなく、ずっと七瀬と一緒に昼休みを過ごし、たまに休みに映画を見たり、買い物をしたりする間柄でいる。
二人が同じクラスになった二年の途中から、修学旅行の班がたまたま一緒になった森川智樹と宮山晴久が二人に加わり、四人でよく遊ぶようになった。それぞれ共通して好きなものとそうでないものがあり、話が途切れることがない。
けれど、仲良しとはいえ、四人の進路はばらばらだ。智樹は地元の大学へ進学、晴久は東京の専門学校へ、悠里はスポーツ推薦で東京の強豪大、そして七瀬は本当は悠里と同じ大学へ行きたかったが模試の結果が思わしくなく、なんとか同じ東京の別の大学への進学が決まっている。
「またさ、みんなが地元へ戻った時に四人で集まろうな!」
四人の中でただ一人地元へのこる智樹が夕飯前に、少し寂しそうな笑顔で言っていた。
そうだ、これから当分の間、これが四人で集まる最後。それは同時に、悠里とも今までのようには会えなくなることを指している。
最終日の前の夜に、告白しよう。七瀬は出発前に、そう決めていた。
もし気まずくなっても、明日解散してしまえば、もう顔を合わせることもない。
それに、悠里は、七瀬が決心するのを待っているのではないか、という感覚がほのかにあった。何度も、悠里が何かを言いかけてやめることが、最近増えてきている。距離が以前よりほんの少しだけれど、近い気がする。何かというと、髪の毛や体に触れてくることが増えた。
それが思い過ごしかどうか、確率は五分五分だと七瀬は思っている。でも、悠里の性格を考えたら、十分にありそうだとも思っていた。
ああ見えて、悠里はひどく奥手だ。一年の時にできた彼女も、後々聞いたらほとんど知らないのに熱心に告白され、押し切られるような形で付き合ったのだという。
だから、好きのサインだけはチラチラ発しているけれど、自分からは言えない、まして相手は同性、という可能性は決して少なくない。
——まあ、それでもまあまあな賭け、だけどな……。
万一本当に期待されているなら、応えないのは七瀬の美学に反する。まして、自分も十二分に惚れ込んでいる相手なら尚更に。
七瀬は七瀬で、自分に悠里が好意を抱くよう、三年かけて必死で外堀を埋めてきたのだ。さりげなく世話を焼き、自分と過ごす時間を楽しいと思ってもらえるよう情報を仕入れ、囲いすぎないよう適度に野に放つ。その努力を、いっときの恐怖と不安で無にするわけにはいかない。
「頑張れ俺……!」
シャワーを頭から被り、七瀬は自分に喝を入れた。何を勘違いしたか元気になりかける愚息を叱りつけ、手早く寝巻きに着替えて、バスルームを出る。
すでにベッドに寝転んでいる悠里の背中に向かって、七瀬は大きく深呼吸をした。
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