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07. 問題児、出奔する
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「あ、ったぁ……」
土砂降りの中、木立の中をできる限りの速さで駆け抜けるメイリールの前方に、見覚えのある洞窟が見えてきた。
忌まわしい記憶の地であるここに三たびくることになったのは、メイリールにとっても全く予定外の事態だ。だが、贅沢は言っていられない。
他に雨宿りができそうな場所を悠長に探している余裕はなかった。ルーヴストリヒトと天使は、メイリールとのトラブルのあったこの場所からは引っ越しているだろうから、今は誰も使っていないはず。荷物とルークを濡れないように抱き抱えながら、メイリールは走った。
「俺……しばらく人間界へ行こうと思う」
そう告げた時のヴィンスの顔は、実に傑作だった。とはいえ、ヴィンスが信じられないという顔をしたのも、無理はない。
ルシファーの息子の魔界追放という、魔界全土を揺るがせたニュースもまだ記憶に新しく、さらにはどこから漏れたのか、追放された息子はどうやら前から噂のあった天使と人間界で暮らすようだ、という話まであちこちで囁かれていた。メイリールのルーヴストリヒトへの想いを知っていたヴィンスには、またやけを起こしたのかと思われても仕方のないことだった。
メイリールだって、もっといいやり方があるならそちらを選びたい。だが、もともとあまり物事を深く考えることが得意ではないメイリールには、ストーカー化しかねないあの厄介な「お友達」から手っ取り早く逃れるのに、人間界へ姿を隠すのが今思いつく一番いい方法だった。
メイリールに考えを曲げる気がないのを察知した後も心配顔のヴィンスだったが、メイリールはそうと決めたらさっさと実行するつもりだった。
ここでぐずぐずしていたら、あの男にこの家まで探し当てられ、ヴィンスにも危害が及びかねない。それは一番避けたいことだった。
自分がだらしない生活を送ることには抵抗のないメイリールだが、自分の引き起こした厄介ごとに大切な友人を巻き添えにしていいとは全く思っていない。だから、自宅まで護衛を買って出ようとするヴィンスの申し出もきっぱりと断った。
あえて人通りの多い真っ昼間を選んでヴィンスの家を抜け出し、あたりを警戒しつつ、裏口からするりと自宅へ入る。当面は戻ってこられないだろうことを想定して、それでも最低限必要そうなものだけかばんに詰めた。
後をつけられていないか確認しながら、念には念を入れて真っ直ぐ人間界に向かうことはせずに一度繁華街の人混みの中を経由して、とうとうメイリールは魔界を後にしたのだった。
全身ずぶ濡れでようやく目当ての洞窟に駆け込んだメイリールは、髪の毛からぽたぽたと雨が滴るのも構わず、その場で固まっていた。洞窟の中に、先客がいたのである。
「えっ……」
思わずつぶやいたメイリールの声に反応するように、洞窟の奥にいた人影が頭を上げた。
濃い栗色の髪はボサボサに伸びており、髭に覆われた顔はだいぶやつれて見えたが、よく見ればまだ若さの名残も感じられる、——人間の男だった。
土砂降りの中、木立の中をできる限りの速さで駆け抜けるメイリールの前方に、見覚えのある洞窟が見えてきた。
忌まわしい記憶の地であるここに三たびくることになったのは、メイリールにとっても全く予定外の事態だ。だが、贅沢は言っていられない。
他に雨宿りができそうな場所を悠長に探している余裕はなかった。ルーヴストリヒトと天使は、メイリールとのトラブルのあったこの場所からは引っ越しているだろうから、今は誰も使っていないはず。荷物とルークを濡れないように抱き抱えながら、メイリールは走った。
「俺……しばらく人間界へ行こうと思う」
そう告げた時のヴィンスの顔は、実に傑作だった。とはいえ、ヴィンスが信じられないという顔をしたのも、無理はない。
ルシファーの息子の魔界追放という、魔界全土を揺るがせたニュースもまだ記憶に新しく、さらにはどこから漏れたのか、追放された息子はどうやら前から噂のあった天使と人間界で暮らすようだ、という話まであちこちで囁かれていた。メイリールのルーヴストリヒトへの想いを知っていたヴィンスには、またやけを起こしたのかと思われても仕方のないことだった。
メイリールだって、もっといいやり方があるならそちらを選びたい。だが、もともとあまり物事を深く考えることが得意ではないメイリールには、ストーカー化しかねないあの厄介な「お友達」から手っ取り早く逃れるのに、人間界へ姿を隠すのが今思いつく一番いい方法だった。
メイリールに考えを曲げる気がないのを察知した後も心配顔のヴィンスだったが、メイリールはそうと決めたらさっさと実行するつもりだった。
ここでぐずぐずしていたら、あの男にこの家まで探し当てられ、ヴィンスにも危害が及びかねない。それは一番避けたいことだった。
自分がだらしない生活を送ることには抵抗のないメイリールだが、自分の引き起こした厄介ごとに大切な友人を巻き添えにしていいとは全く思っていない。だから、自宅まで護衛を買って出ようとするヴィンスの申し出もきっぱりと断った。
あえて人通りの多い真っ昼間を選んでヴィンスの家を抜け出し、あたりを警戒しつつ、裏口からするりと自宅へ入る。当面は戻ってこられないだろうことを想定して、それでも最低限必要そうなものだけかばんに詰めた。
後をつけられていないか確認しながら、念には念を入れて真っ直ぐ人間界に向かうことはせずに一度繁華街の人混みの中を経由して、とうとうメイリールは魔界を後にしたのだった。
全身ずぶ濡れでようやく目当ての洞窟に駆け込んだメイリールは、髪の毛からぽたぽたと雨が滴るのも構わず、その場で固まっていた。洞窟の中に、先客がいたのである。
「えっ……」
思わずつぶやいたメイリールの声に反応するように、洞窟の奥にいた人影が頭を上げた。
濃い栗色の髪はボサボサに伸びており、髭に覆われた顔はだいぶやつれて見えたが、よく見ればまだ若さの名残も感じられる、——人間の男だった。
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