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第3章 邂逅
9話 信じられない姿
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「ひ……っ! ば、化け物……!」
腰を抜かして地べたに尻餅をつきながら、驚愕のあまり目玉をひん剥いた鉄郎が、足をばたつかせながら後ずさる。
ようやく何かがおかしいことに気づいた蘇芳の思考が警鐘を鳴らし、霞んでいた意識が少しだけはっきりとした。
同時に、鉄郎の反応に、胸の奥がざわざわとする。恐ろしいほど既視感のある何かが、心の中で像を結ぼうとしている。
——なんで、鉄郎が、そんな……
「鉄郎、ど……して」
着物の前をなんとかかきあわせて、蘇芳が布団から起きあがろうとすると、鉄郎は一層激しく恐怖した様子で叫んだ。
「こ、こっちに来るなあ……っ!」
足をもつれさせながら鉄郎はなんとか立ち上がると、提灯も拾わずそのまま一目散に駆け出て行った。
残された蘇芳は、呆然とへたり込んでいた。
何が起こったのか理解しようとするも、体の奥に燻り続ける熱が思考を妨げる。
鉄郎が落としていった提灯の火がやけに眩しくて、まずそれを消そうと床に手をついて体を伸ばしたとき、目の端に鈍く光るものが映った。
「……?」
手を伸ばして拾い上げる。光るものの正体は手鏡だった。以前文吉がくれたものだ。
そこに今映っているもの、それは、もう忘れかかっていた、蘇芳の真の姿だった。
「う、そ……」
胸まであるまばゆい白銀の髪、真ん中が縦に裂けた暗赤色の目が、ギラギラと光りながら蘇芳を見返している。
記憶にあるより、さらに鮮やかな色彩。
おまけに、信じられない光景に開いた口から覗くのは、ミソラのものほどではないが、人としては明らかに長すぎる犬歯。
蘇芳は震える手で鏡の縁を握りしめた。
息をするのも忘れて鏡面に見入る蘇芳の身体の中で、いっときなりを潜めていた熱がまた膨れ上がってくる。その奔流に抗い、蘇芳は心の中で黒髪黒目の自分を思い描いて、姿を変えようと力をめぐらせた。
しかし鏡の中の自分は全く変わらない。確かに力が体に巡る感覚はあるのに、どうして、と焦りばかりが募り、こめかみからつうっと汗が伝う。
焦れば焦るほど心は乱れ、はっ、はっと浅い息を吐きながら、蘇芳は鏡に映る己の上気した顔の獣じみた淫らさに慄き、嫌悪した。
もうこうしているのも限界だった。
下腹で痛いほどにいきり立ったものからも、足の間からも、とろとろと雫が滴っていて、もうそこを思うさま扱いてかき回して快楽に耽ってしまいたくて、神経が焼き切れそうだ。
この姿を見られる前に、夜が明けないうちに、一度ここから逃げ出すしかないと蘇芳は最後に残った思考で悟っていた。
腰を抜かして地べたに尻餅をつきながら、驚愕のあまり目玉をひん剥いた鉄郎が、足をばたつかせながら後ずさる。
ようやく何かがおかしいことに気づいた蘇芳の思考が警鐘を鳴らし、霞んでいた意識が少しだけはっきりとした。
同時に、鉄郎の反応に、胸の奥がざわざわとする。恐ろしいほど既視感のある何かが、心の中で像を結ぼうとしている。
——なんで、鉄郎が、そんな……
「鉄郎、ど……して」
着物の前をなんとかかきあわせて、蘇芳が布団から起きあがろうとすると、鉄郎は一層激しく恐怖した様子で叫んだ。
「こ、こっちに来るなあ……っ!」
足をもつれさせながら鉄郎はなんとか立ち上がると、提灯も拾わずそのまま一目散に駆け出て行った。
残された蘇芳は、呆然とへたり込んでいた。
何が起こったのか理解しようとするも、体の奥に燻り続ける熱が思考を妨げる。
鉄郎が落としていった提灯の火がやけに眩しくて、まずそれを消そうと床に手をついて体を伸ばしたとき、目の端に鈍く光るものが映った。
「……?」
手を伸ばして拾い上げる。光るものの正体は手鏡だった。以前文吉がくれたものだ。
そこに今映っているもの、それは、もう忘れかかっていた、蘇芳の真の姿だった。
「う、そ……」
胸まであるまばゆい白銀の髪、真ん中が縦に裂けた暗赤色の目が、ギラギラと光りながら蘇芳を見返している。
記憶にあるより、さらに鮮やかな色彩。
おまけに、信じられない光景に開いた口から覗くのは、ミソラのものほどではないが、人としては明らかに長すぎる犬歯。
蘇芳は震える手で鏡の縁を握りしめた。
息をするのも忘れて鏡面に見入る蘇芳の身体の中で、いっときなりを潜めていた熱がまた膨れ上がってくる。その奔流に抗い、蘇芳は心の中で黒髪黒目の自分を思い描いて、姿を変えようと力をめぐらせた。
しかし鏡の中の自分は全く変わらない。確かに力が体に巡る感覚はあるのに、どうして、と焦りばかりが募り、こめかみからつうっと汗が伝う。
焦れば焦るほど心は乱れ、はっ、はっと浅い息を吐きながら、蘇芳は鏡に映る己の上気した顔の獣じみた淫らさに慄き、嫌悪した。
もうこうしているのも限界だった。
下腹で痛いほどにいきり立ったものからも、足の間からも、とろとろと雫が滴っていて、もうそこを思うさま扱いてかき回して快楽に耽ってしまいたくて、神経が焼き切れそうだ。
この姿を見られる前に、夜が明けないうちに、一度ここから逃げ出すしかないと蘇芳は最後に残った思考で悟っていた。
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