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「──脅迫ではないですか!」
エリンが声をあげる。伯爵令嬢は「……ネイト様にその自覚があったかはわかりませんが」と呟いた。
「……あたしはあのとき、ネイト様にはじめて恐怖を覚えました。それから少しして、別の方とお付き合いをはじめられて……約束がありますから近付くことはできませんでしたが、そうこうするうちに別れられて……」
「その方と、お話をされたのですか?」
「はい。そうしましたら、やはり……あたしと似たようなことされたようで……あの方が恐ろしいと泣いておられました」
そうですか。
呟き、エリンは伯爵令嬢の手をそっと握った。
「お話してくれて、ありがとうございます。とても勇気がいったことでしょう」
「……アデラさんと一緒に帰るというネイト様の言葉に、今しかないと思いまして。突然のことで、いきなり全ては信じられないかとも思いますが……どうか、お気をつけて」
伯爵令嬢は、ぎゅっと、エリンの手を握り返した。その手は緊張のためか、少し、ひやっとしていた。
帰りの馬車の中。エリンは一人、窓から赤く染まりはじめた空を見上げていた。
昼に聞いた、伯爵令嬢の話を思い返す。もう何度目だろう。エリンにはどうしても、あの子が嘘をついているようには思えなかった。
だとして。それが真実だと、どう確かめるか。ネイトに直接問うてみるのが一番確実なのはわかっているものの。
(──本当だよ、なんて。いくらなんでも素直に答えてくれるでしょうか)
それとは別にして、ネイトへの愛情が、確かに揺らぎつつあるのをエリンは感じていた。そもそもどうして、エリンに惹かれたのだったか。
「……笑顔、でしたっけ」
ぽそっと呟く。そして、公爵令嬢としてではなく、わたし自身を見てくれたと感じたから。
『アデラから、きみは優しい人だと聞いていたから、付き合ったのに。残念だよ』
伯爵令嬢から聞いたネイトの科白を思いだし、エリンは、本当にそうなのかしら、と一人ごちた。
エリンが声をあげる。伯爵令嬢は「……ネイト様にその自覚があったかはわかりませんが」と呟いた。
「……あたしはあのとき、ネイト様にはじめて恐怖を覚えました。それから少しして、別の方とお付き合いをはじめられて……約束がありますから近付くことはできませんでしたが、そうこうするうちに別れられて……」
「その方と、お話をされたのですか?」
「はい。そうしましたら、やはり……あたしと似たようなことされたようで……あの方が恐ろしいと泣いておられました」
そうですか。
呟き、エリンは伯爵令嬢の手をそっと握った。
「お話してくれて、ありがとうございます。とても勇気がいったことでしょう」
「……アデラさんと一緒に帰るというネイト様の言葉に、今しかないと思いまして。突然のことで、いきなり全ては信じられないかとも思いますが……どうか、お気をつけて」
伯爵令嬢は、ぎゅっと、エリンの手を握り返した。その手は緊張のためか、少し、ひやっとしていた。
帰りの馬車の中。エリンは一人、窓から赤く染まりはじめた空を見上げていた。
昼に聞いた、伯爵令嬢の話を思い返す。もう何度目だろう。エリンにはどうしても、あの子が嘘をついているようには思えなかった。
だとして。それが真実だと、どう確かめるか。ネイトに直接問うてみるのが一番確実なのはわかっているものの。
(──本当だよ、なんて。いくらなんでも素直に答えてくれるでしょうか)
それとは別にして、ネイトへの愛情が、確かに揺らぎつつあるのをエリンは感じていた。そもそもどうして、エリンに惹かれたのだったか。
「……笑顔、でしたっけ」
ぽそっと呟く。そして、公爵令嬢としてではなく、わたし自身を見てくれたと感じたから。
『アデラから、きみは優しい人だと聞いていたから、付き合ったのに。残念だよ』
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