幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ

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 思いの外、家事をするのは楽しかった。使用人として来てくれたアルマとは気が合ったし、何よりランドルが喜んでくれるのが嬉しかったから。

 例えば言葉だけで、贈り物一つされたことがなくても、セシリアはそれで良かった。実家にいるころは、感謝されることもなくて、ただただそこにいるのが苦痛だった。それに比べれば、誰かの役に立てている今は、よほど幸せだった。

 それは、嘘ではなかった。

 でも。


「セシリア。熱があるそうだね」

 寝台に横になるセシリアが、ランドルを熱っぽい双眸で見上げる。

「……はい。ご心配をおかけして、申し訳ありません」

「うん。いいんだよ。ぼくは今日、シンディーのところに泊まってくるから。きみのことは、使用人によく頼んでおいたから、安心して」

 セシリアは「シンディーのところに……行かれるのですか?」と、布団の中でこぶしをにぎった。

「そうだよ。彼女も風邪を引いたみたいでね。あの子はきみのように恵まれていないから、ぼくがついていてあげないと」

「……そう、ですか」

 ランドルは「では、行ってくるよ」と、背を向け、部屋を出ていった。セシリアは、ふと窓の外に目を向けた。日が沈み、空が深い青に染まっていこうとしている。今日はもう、帰ってきてくれないんだ。思って、視界が滲んだ。

 コンコン。
 部屋の扉をノックされ、はい、とセシリアが涙を拭いながら返事をする。入ってきたのは、アルマだった。水差しとコップをのせた盆をテーブルに置きながら、静かに口を開いた。僅かな怒気を含ませて。

「……旦那様が出掛けられたようですね」

「はい……シンディーも、風邪を引いたのだとか」

「……っ。自分の奥様もご病気なのに、優先順位がおかしくないですか?!」

 ──ああ、本当だわ。わたし、何て恵まれているのかしら。こうやって、わたしのために怒ってくれる人が近くにいるなんて。

 セシリアは、ふふ、と笑った。笑うことができた。

「大丈夫です。あの方の言う通り、わたしは恵まれていますから。だって、アルマが傍にいてくれるんですものね」

「奥様……」

 言いながら、ふと脳裏を過ったランドルの声音に、セシリアは顔を曇らせた。

(……でもね、アルマ。わたし、もっと哀しいことがあるの)

 それは、夜の営みのとき。

『愛しているよ』

 そう囁くランドルは、ときどき、行為の最中にシンディーの名を口にすることがある。そのときばかりは、胸が抉られるような痛みに襲われ、泣きそうになるのだ。

(……ねえ、ランドル様。気付いておられますか? それともわざとなのですか?)

 こんなこと、さすがにアルマにも言えない。あまりに惨め過ぎる。かといって、ランドルを問いただす勇気もない。

(……子どもを産めば、わたしだけを見てくれるかな)

 そう思い続けたまま、気付けばランドルと結婚してから三年の月日が経っていた。

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