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「あの……ごめんなさい。リチャードさん。ハロルド様が好きなことを黙っていて……」
申し訳なさそうに謝罪するセシリアに、リチャードが首をかしげる。
「何に対する謝罪でしょうか?」
「リチャードさんは、ハロルド様と奥様のことを大切に、大切に想っていますから……だから」
「けれど私、セシリア様の気持ちには気付いていましたけれど」
「……え?」
「セシリア様はわかりやすいですから。ですから私、陰ながらずっと応援しておりました。できるだけお二人になれるようにと心掛けたり」
セシリアは目を丸くした。
「なっ……どうしてですか? ハロルド様が奥様以外を愛してもよいのですか?!」
「もちろんです。旦那様の幸せが何よりですし──きっと奥様も、同じ気持ちでしょう」
リチャードが優しく目を細める。セシリアは思わず、その視線から逃れるように顔をうつ向かせてしまった。
「……けれど。ハロルド様は同情からわたしを此処においてくださっているだけで……」
「同情からはじまる恋があってもよいのでは?」
「……ですが」
「いくら同情したといっても、少なからず好意を持てる相手でなければ、ずっと此処にいていいなどとは言わないと思いますよ?」
「そう、でしょうか……」
「少なくとも、セシリア様と一緒におられるときの旦那様は、とても楽しそうでしたよ。だからこそ私も、あなたの背を押す気になったのです」
「リチャードさん……」
「だから、はじめから諦めたりしないでください。まずは旦那様の考えを聞きましょう。すべてはそれから決めればよいのです」
セシリアはしばらく黙考してから、静かに、はい、と答えた。
季節は巡り。セシリアがハロルドの屋敷に住むようになってから、三度目の秋を迎えようとしていたころ。
最初は、ただの身体の不調だと思っていた。でも、傍目にもわかるほどお腹が大きくなってきて、セシリアは涙した。ハロルドもリチャードも、手放しで喜んでくれた。
「セシリア。やった、やったよ。わたしたちの子どもだ!」
「妊娠、おめでとうございます。奥様」
セシリアはハロルドの腕の中で、そっとお腹を撫でた。いる。いるのだ。ここに。どんどん、実感がわいてくる。
(──わたしと、ハロルド様の、子)
悪霊にとり憑かれているなんて、本気で信じているわけではなかった。でも、まさかと思うこともあった。ハロルドは子どもなどいなくてもいいよと、結婚するとき言ってくれたけれど。ハロルドが子ども好きなのは、見ていてわかった。
はじめて本当の幸せをくれた人。その人を喜ばせてあげたい。何より、愛しい人との子が欲しい。その想いは、いつでも近くにあった。だから、本当に、心から嬉しかった。
(ねえ、早く産まれてきてね。わたし、たくさん愛するからね)
幸せの絶頂にあるセシリアの元に、かつての夫が訪ねてきたのは、それから五日後のことだった。
申し訳なさそうに謝罪するセシリアに、リチャードが首をかしげる。
「何に対する謝罪でしょうか?」
「リチャードさんは、ハロルド様と奥様のことを大切に、大切に想っていますから……だから」
「けれど私、セシリア様の気持ちには気付いていましたけれど」
「……え?」
「セシリア様はわかりやすいですから。ですから私、陰ながらずっと応援しておりました。できるだけお二人になれるようにと心掛けたり」
セシリアは目を丸くした。
「なっ……どうしてですか? ハロルド様が奥様以外を愛してもよいのですか?!」
「もちろんです。旦那様の幸せが何よりですし──きっと奥様も、同じ気持ちでしょう」
リチャードが優しく目を細める。セシリアは思わず、その視線から逃れるように顔をうつ向かせてしまった。
「……けれど。ハロルド様は同情からわたしを此処においてくださっているだけで……」
「同情からはじまる恋があってもよいのでは?」
「……ですが」
「いくら同情したといっても、少なからず好意を持てる相手でなければ、ずっと此処にいていいなどとは言わないと思いますよ?」
「そう、でしょうか……」
「少なくとも、セシリア様と一緒におられるときの旦那様は、とても楽しそうでしたよ。だからこそ私も、あなたの背を押す気になったのです」
「リチャードさん……」
「だから、はじめから諦めたりしないでください。まずは旦那様の考えを聞きましょう。すべてはそれから決めればよいのです」
セシリアはしばらく黙考してから、静かに、はい、と答えた。
季節は巡り。セシリアがハロルドの屋敷に住むようになってから、三度目の秋を迎えようとしていたころ。
最初は、ただの身体の不調だと思っていた。でも、傍目にもわかるほどお腹が大きくなってきて、セシリアは涙した。ハロルドもリチャードも、手放しで喜んでくれた。
「セシリア。やった、やったよ。わたしたちの子どもだ!」
「妊娠、おめでとうございます。奥様」
セシリアはハロルドの腕の中で、そっとお腹を撫でた。いる。いるのだ。ここに。どんどん、実感がわいてくる。
(──わたしと、ハロルド様の、子)
悪霊にとり憑かれているなんて、本気で信じているわけではなかった。でも、まさかと思うこともあった。ハロルドは子どもなどいなくてもいいよと、結婚するとき言ってくれたけれど。ハロルドが子ども好きなのは、見ていてわかった。
はじめて本当の幸せをくれた人。その人を喜ばせてあげたい。何より、愛しい人との子が欲しい。その想いは、いつでも近くにあった。だから、本当に、心から嬉しかった。
(ねえ、早く産まれてきてね。わたし、たくさん愛するからね)
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