幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ

文字の大きさ
20 / 34

20

しおりを挟む
「あの……ごめんなさい。リチャードさん。ハロルド様が好きなことを黙っていて……」

 申し訳なさそうに謝罪するセシリアに、リチャードが首をかしげる。

「何に対する謝罪でしょうか?」

「リチャードさんは、ハロルド様と奥様のことを大切に、大切に想っていますから……だから」

「けれど私、セシリア様の気持ちには気付いていましたけれど」

「……え?」

「セシリア様はわかりやすいですから。ですから私、陰ながらずっと応援しておりました。できるだけお二人になれるようにと心掛けたり」

 セシリアは目を丸くした。

「なっ……どうしてですか? ハロルド様が奥様以外を愛してもよいのですか?!」

「もちろんです。旦那様の幸せが何よりですし──きっと奥様も、同じ気持ちでしょう」

 リチャードが優しく目を細める。セシリアは思わず、その視線から逃れるように顔をうつ向かせてしまった。

「……けれど。ハロルド様は同情からわたしを此処においてくださっているだけで……」

「同情からはじまる恋があってもよいのでは?」

「……ですが」

「いくら同情したといっても、少なからず好意を持てる相手でなければ、ずっと此処にいていいなどとは言わないと思いますよ?」

「そう、でしょうか……」

「少なくとも、セシリア様と一緒におられるときの旦那様は、とても楽しそうでしたよ。だからこそ私も、あなたの背を押す気になったのです」

「リチャードさん……」

「だから、はじめから諦めたりしないでください。まずは旦那様の考えを聞きましょう。すべてはそれから決めればよいのです」

 セシリアはしばらく黙考してから、静かに、はい、と答えた。


 季節は巡り。セシリアがハロルドの屋敷に住むようになってから、三度目の秋を迎えようとしていたころ。

 最初は、ただの身体の不調だと思っていた。でも、傍目にもわかるほどお腹が大きくなってきて、セシリアは涙した。ハロルドもリチャードも、手放しで喜んでくれた。

「セシリア。やった、やったよ。わたしたちの子どもだ!」

「妊娠、おめでとうございます。奥様」

 セシリアはハロルドの腕の中で、そっとお腹を撫でた。いる。いるのだ。ここに。どんどん、実感がわいてくる。

(──わたしと、ハロルド様の、子)

 悪霊にとり憑かれているなんて、本気で信じているわけではなかった。でも、まさかと思うこともあった。ハロルドは子どもなどいなくてもいいよと、結婚するとき言ってくれたけれど。ハロルドが子ども好きなのは、見ていてわかった。

 はじめて本当の幸せをくれた人。その人を喜ばせてあげたい。何より、愛しい人との子が欲しい。その想いは、いつでも近くにあった。だから、本当に、心から嬉しかった。

(ねえ、早く産まれてきてね。わたし、たくさん愛するからね)

 幸せの絶頂にあるセシリアの元に、かつての夫が訪ねてきたのは、それから五日後のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかパーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

幼馴染と結婚したけれど幸せじゃありません。逃げてもいいですか?

恋愛
 私の夫オーウェンは勇者。  おとぎ話のような話だけれど、この世界にある日突然魔王が現れた。  予言者のお告げにより勇者として、パン屋の息子オーウェンが魔王討伐の旅に出た。  幾多の苦難を乗り越え、魔王討伐を果たした勇者オーウェンは生まれ育った国へ帰ってきて、幼馴染の私と結婚をした。  それは夢のようなハッピーエンド。  世間の人たちから見れば、私は幸せな花嫁だった。  けれど、私は幸せだと思えず、結婚生活の中で孤独を募らせていって……? ※ゆるゆる設定のご都合主義です。  

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

処理中です...