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校舎内にある、すべての教室や部屋を見て回ったところで、クラレンスは止まった。息を整えるために。
(……なんでいないんだ)
もしや、もう外に。
はたと、少し先にある階段に目をやった。屋上へと続く階段だ。
(でも……屋上は立ち入り禁止のはず。いや……万が一ということも)
クラレンスは地を蹴り、駆けた。階段を上り、屋上へと続く扉の取っ手に手をかけた。ガチャ。取っ手は引っかかることなく、下に動いた。
「……開いてる」
扉を開けた。真っ赤な西日が、容赦なく目に降り注いでくる。我慢ができなくて、咄嗟に瞼を閉じる。生温かい風に紛れて流れてきた、鉄の臭いが鼻についた。
「……グロリア様……?」
夕陽の光が焼き付いた瞳を、無理やり、細目にして開ける。クラレンスに背を向け立っていたのは、グロリアだった。クラレンスの声に気付いたグロリアが、ゆるりと振り向く。その双眸は、ぎょろりと鈍く光っていた。
「……ああ、クラレンス様。違うのですよ。あたし、最初はきちんと説得するつもりでしたのよ。お金はいくらでもあげますから、クラレンス様を解放してあげてくださいと」
「……? なんのことですか?」
「いやですわ、クラレンス様ったら。あたしとお付き合いしたいけれど、アーリンが納得してくれないと、嘆いていたではありませんか」
「いったい、なんの話しを──」
光に慣れたクラレンスが、目を開いた。視界がいっぱいになって、ようやく、グロリアの前に誰かが横たわっているのがわかった。
眩い光と、グロリアの陰になっていて、それが誰か、はっきりとは認識できない。
──だが。
「アーリン……?」
震える足をなんとか動かして近付き、膝をついて、人影を起こした。それは紛れもなく、アーリンだった。
「アーリン! アーリン!」
名を叫ぶ。けれど、ぴくりとも動いてくれない。目も、かたく閉ざされたまま。
「あ、ああああああああ……っっ」
アーリンの腕から、胸から、腹から滴る、液体。夕陽と混じり、色は判別できない。でも、ぬるりとしたその感触は、臭いは、確かに、血だった。
アーリンの頬にそっと手を添えてみる。まだ、温かい。大丈夫。大丈夫。震える手を、心臓にあててみた。
心臓は、完全に沈黙していた。
「嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だ」
クラレンスは血塗れのアーリンを強く抱き締め、嘘だと叫び続けた。グロリアのことなど、忘れていた。頭になかった。ただ、アーリンの死が受け入れられなくて、泣き続けた。
いつ、眠ったのか。あるいは気を失ったのか。覚えてはいない。
けれど気付けば、クラレンスは、自室の寝台に横たわっていたのだ。
(……なんでいないんだ)
もしや、もう外に。
はたと、少し先にある階段に目をやった。屋上へと続く階段だ。
(でも……屋上は立ち入り禁止のはず。いや……万が一ということも)
クラレンスは地を蹴り、駆けた。階段を上り、屋上へと続く扉の取っ手に手をかけた。ガチャ。取っ手は引っかかることなく、下に動いた。
「……開いてる」
扉を開けた。真っ赤な西日が、容赦なく目に降り注いでくる。我慢ができなくて、咄嗟に瞼を閉じる。生温かい風に紛れて流れてきた、鉄の臭いが鼻についた。
「……グロリア様……?」
夕陽の光が焼き付いた瞳を、無理やり、細目にして開ける。クラレンスに背を向け立っていたのは、グロリアだった。クラレンスの声に気付いたグロリアが、ゆるりと振り向く。その双眸は、ぎょろりと鈍く光っていた。
「……ああ、クラレンス様。違うのですよ。あたし、最初はきちんと説得するつもりでしたのよ。お金はいくらでもあげますから、クラレンス様を解放してあげてくださいと」
「……? なんのことですか?」
「いやですわ、クラレンス様ったら。あたしとお付き合いしたいけれど、アーリンが納得してくれないと、嘆いていたではありませんか」
「いったい、なんの話しを──」
光に慣れたクラレンスが、目を開いた。視界がいっぱいになって、ようやく、グロリアの前に誰かが横たわっているのがわかった。
眩い光と、グロリアの陰になっていて、それが誰か、はっきりとは認識できない。
──だが。
「アーリン……?」
震える足をなんとか動かして近付き、膝をついて、人影を起こした。それは紛れもなく、アーリンだった。
「アーリン! アーリン!」
名を叫ぶ。けれど、ぴくりとも動いてくれない。目も、かたく閉ざされたまま。
「あ、ああああああああ……っっ」
アーリンの腕から、胸から、腹から滴る、液体。夕陽と混じり、色は判別できない。でも、ぬるりとしたその感触は、臭いは、確かに、血だった。
アーリンの頬にそっと手を添えてみる。まだ、温かい。大丈夫。大丈夫。震える手を、心臓にあててみた。
心臓は、完全に沈黙していた。
「嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だ」
クラレンスは血塗れのアーリンを強く抱き締め、嘘だと叫び続けた。グロリアのことなど、忘れていた。頭になかった。ただ、アーリンの死が受け入れられなくて、泣き続けた。
いつ、眠ったのか。あるいは気を失ったのか。覚えてはいない。
けれど気付けば、クラレンスは、自室の寝台に横たわっていたのだ。
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