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「事故に遭ったというからわざわざ足を運んでやったのに、まるで軽傷ではないか。ふざけやがって」

「まったくですわ、ヘイデン殿下。頭を少し打っただけで呼ばれては、困りますわよねえ」

「申し訳ありません、ヘイデン殿下。本当にこの娘は、昔から不出来で」

「我が家の恥さらしですわね。いっそ死んでしまえば良かったのに」

「それは困るぞ、ベーム公爵夫人。この女ほど、便利で都合のいいやつをまた一から探すのは面倒だからな」

 傍で寝ている者を気遣うことなく、大声で話し続ける四人がいるのは、王立病院。その一室。寝台に横たわり、目を閉じているのは、マイラだ。

 この個室には、他に誰もいない。まわりの目を気にする必要のない四人は先ほどから、言いたい放題だった。

 ほどなくして、マイラが目を覚ました。ぼうっと天井を見上げている。気付いたパメラが「あら。もう目が覚めたの? 早かったわね」と鼻で笑った。

「怪我がたいしたことない証拠だろう。大袈裟に包帯まで巻きやがって」

「……あの」

 マイラのか細い声をかき消すように、ベーム公爵が口を開いた。

「ヘイデン殿下。わざわざご足労いただき、ありがとうございました。どうでしょう。この近くに、美味しい肉料理を出す店があるのですが」

「ほう、いいな」

「行きましょう、行きましょう。そうだ! マヌエルも呼びましょう。大切な家族ですもの」

 パメラの提案に、みながうなずく。ベーム公爵はマイラに視線を向け「入院するのも、ただではないんだ」と吐き捨てた。

「まだ昼前だからな。すぐに退院の手続きをさせるから、お前は学園に行け。それが終われば、王妃教育を受けろ。お前にできることは、それだけなのだからな」

「…………あの」

「何だ。言いたいことがあるならはっきり言え」


 マイラは迷い、怯えながらも「あなたたちは、いったい誰なのでしょうか……?」と呟いた。

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