姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 宮殿に着いたヘイデンは、パメラを自身の執務室で待つように命じると、その足で父親である国王の執務室に向かった。

 コンコン。
 扉をノックしながら「ヘイデンです」と告げる。中から「入っていいぞ」との声に、ヘイデンは執務室へと足を踏み入れた。

 椅子に座る国王が、持っていた書類をいったん机に置いた。ヘイデンを見上げる。

「話しは聞いている。マイラ嬢が事故に遭ったとな。命にかかわるものではないとのことだったが、どうだ。お前は病院に行ったのだろう?」

 ヘイデンが「……それが」とあからさまに肩を落としたのを見て、国王は眉をひそめた。

「何だ。どうした」

「……怪我はたいしたことなかったのですが、どうやら頭を打ったことで、記憶喪失になってしまったようで」

 国王は目を見張った。

「な……っ!」

「彼女は、何も覚えてはおりませんでした。私のことも、姉や両親のこともです……そしてどうやら、これまで学んだ王妃教育はおろか、基礎的な知識まで失ってしまったようで……」

 国王は「何てことだ……」とうなだれた。

「彼女は私の理想でした。パメラを側室として迎え入れることも快く承諾してくれ、日々王妃教育に励んでくれていましたから……」

「その通りだな。王妃教育が終了するまでは、みなに婚約者だと公表するのは待ってほしい──というお前の身勝手な申し出も、マイラ嬢は二つ返事で受けてくれた。あんな心の広い令嬢は、他にいまい」

「その通りです。だからこそ私はひどく混乱していました。すると、ベーム公爵が彼女との婚約を解消してくださいと申し出てきたのです」

「ベーム公爵が……?」

「はい。記憶をなくした彼女が、将来の王妃という立場に怯えていたからだと思います。だから私は、決めたのです。彼女との婚約を解消することを」

 国王は頭を抱えた。流れとしては理解できる。仕方ないという思いもある。だが。

「父上。どうか、私と彼女の婚約解消をお認めください。そのかわり、数日中には未来の王妃に相応しい令嬢を見つけてくるとお約束します」

 ヘイデンが頭を下げる。国王は椅子の背もたれに体重を預け、ヘイデンをじっと見た。

「……パメラ嬢を側室として迎え入れることを承諾してくれる令嬢をか」

「はい」

「王妃教育から逃げたあの女のどこに、お前は魅力を感じているんだ」

 国王の怒りさえ宿した問いに、ヘイデンはすっと姿勢を正した。
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