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修道院は基本、関係者以外は立ち入り禁止となっている。アンバーは修道院の近くで馬車からおりると、建物の入り口である扉のノッカーを叩いた。扉には小さな小窓がついており、そこを内側から開けた修道女が顔を覗かせた。
「はい。何かご用でしょうか」
「突然申し訳ありません。ここに、マイラという名の女性が来たと思うのですが」
「マイラ、ですか?」
「はい。公爵様がこちらまで送り届けたとおっしゃっていたのですが」
「公爵様が……? 少々お待ちください。確認してきますので」
「お願いします」
小窓が閉じる。それからしばらくして、先ほどよりも年配の修道女が小窓を開けた。
「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい。私は、アンバーと申す者です。実は──」
怪しまれないように、事情を説明しようとしたところで、修道女は「やはりそうでしたか」と笑った。
「あの……」
「マイラという子は、確かにここに来ましたよ。ですがもう、ここにはいません」
アンバーは顔から血の気が引いた。
「そ、そんなっ」
「そんな顔しないでください。その子から、あなた様宛の手紙を預かっています」
修道女が小窓から手紙を差し出す。アンバーはそれを、目を丸くしながら両手で受け取った。
「……手紙?」
確かに封筒に書かれた宛名はアンバーとなっており、それは紛れもない、マイラの字だった。
「アンバーという方が来たら、どうかこれを渡してください。そう頼まれました」
アンバーは確信した。マイラが記憶喪失になど、なっていなかったことに。アンバーは修道女に詰め寄った。
「あの! そのときのその子の様子はどうでしたか?!」
「様子ですか?」
「辛そうにはしていませんでしたか? 泣いてはいませんでしたか?」
ふふ。
修道女は、優しく微笑んだ。
「いいえ。むしろ、とても幸せそうでしたよ?」
「幸せそう……?」
「ええ。優しそうな、気品あふれる男性の方と一緒でした。頭に怪我をした彼女を、とても気遣っておられて」
アンバーは首をひねった。ベーム公爵の話しを信じるならば、マイラをこの修道院まで送り届けたのは、ベーム公爵だ。
(優しそうな、気品あふれる男性……マイラ様を気遣って……?)
「あの、その男性の方の年齢はどのぐらいに見えました?」
「そうですね。二十歳前後、といったところでしょうか」
「……他に、誰か傍にいませんでしたか?」
「私が見た限りでは」
「……そうですか」
二十歳前後の男性。誰だろう。心当たりはない。心配だが、マイラが幸せそうだという言葉にほっと息をつきながらも、アンバーはこぶしを握り締めた。
少なくともこれで、ベーム公爵がマイラを修道院まで送り届けたという話しは、嘘だったことが知れた。
「はい。何かご用でしょうか」
「突然申し訳ありません。ここに、マイラという名の女性が来たと思うのですが」
「マイラ、ですか?」
「はい。公爵様がこちらまで送り届けたとおっしゃっていたのですが」
「公爵様が……? 少々お待ちください。確認してきますので」
「お願いします」
小窓が閉じる。それからしばらくして、先ほどよりも年配の修道女が小窓を開けた。
「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい。私は、アンバーと申す者です。実は──」
怪しまれないように、事情を説明しようとしたところで、修道女は「やはりそうでしたか」と笑った。
「あの……」
「マイラという子は、確かにここに来ましたよ。ですがもう、ここにはいません」
アンバーは顔から血の気が引いた。
「そ、そんなっ」
「そんな顔しないでください。その子から、あなた様宛の手紙を預かっています」
修道女が小窓から手紙を差し出す。アンバーはそれを、目を丸くしながら両手で受け取った。
「……手紙?」
確かに封筒に書かれた宛名はアンバーとなっており、それは紛れもない、マイラの字だった。
「アンバーという方が来たら、どうかこれを渡してください。そう頼まれました」
アンバーは確信した。マイラが記憶喪失になど、なっていなかったことに。アンバーは修道女に詰め寄った。
「あの! そのときのその子の様子はどうでしたか?!」
「様子ですか?」
「辛そうにはしていませんでしたか? 泣いてはいませんでしたか?」
ふふ。
修道女は、優しく微笑んだ。
「いいえ。むしろ、とても幸せそうでしたよ?」
「幸せそう……?」
「ええ。優しそうな、気品あふれる男性の方と一緒でした。頭に怪我をした彼女を、とても気遣っておられて」
アンバーは首をひねった。ベーム公爵の話しを信じるならば、マイラをこの修道院まで送り届けたのは、ベーム公爵だ。
(優しそうな、気品あふれる男性……マイラ様を気遣って……?)
「あの、その男性の方の年齢はどのぐらいに見えました?」
「そうですね。二十歳前後、といったところでしょうか」
「……他に、誰か傍にいませんでしたか?」
「私が見た限りでは」
「……そうですか」
二十歳前後の男性。誰だろう。心当たりはない。心配だが、マイラが幸せそうだという言葉にほっと息をつきながらも、アンバーはこぶしを握り締めた。
少なくともこれで、ベーム公爵がマイラを修道院まで送り届けたという話しは、嘘だったことが知れた。
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