姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

文字の大きさ
39 / 57

39

しおりを挟む
 修道院は基本、関係者以外は立ち入り禁止となっている。アンバーは修道院の近くで馬車からおりると、建物の入り口である扉のノッカーを叩いた。扉には小さな小窓がついており、そこを内側から開けた修道女が顔を覗かせた。

「はい。何かご用でしょうか」

「突然申し訳ありません。ここに、マイラという名の女性が来たと思うのですが」

「マイラ、ですか?」

「はい。公爵様がこちらまで送り届けたとおっしゃっていたのですが」

「公爵様が……? 少々お待ちください。確認してきますので」

「お願いします」

 小窓が閉じる。それからしばらくして、先ほどよりも年配の修道女が小窓を開けた。

「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「はい。私は、アンバーと申す者です。実は──」

 怪しまれないように、事情を説明しようとしたところで、修道女は「やはりそうでしたか」と笑った。

「あの……」

「マイラという子は、確かにここに来ましたよ。ですがもう、ここにはいません」

 アンバーは顔から血の気が引いた。

「そ、そんなっ」

「そんな顔しないでください。その子から、あなた様宛の手紙を預かっています」

 修道女が小窓から手紙を差し出す。アンバーはそれを、目を丸くしながら両手で受け取った。

「……手紙?」

 確かに封筒に書かれた宛名はアンバーとなっており、それは紛れもない、マイラの字だった。

「アンバーという方が来たら、どうかこれを渡してください。そう頼まれました」

 アンバーは確信した。マイラが記憶喪失になど、なっていなかったことに。アンバーは修道女に詰め寄った。

「あの! そのときのその子の様子はどうでしたか?!」

「様子ですか?」

「辛そうにはしていませんでしたか? 泣いてはいませんでしたか?」

 ふふ。
 修道女は、優しく微笑んだ。

「いいえ。むしろ、とても幸せそうでしたよ?」

「幸せそう……?」

「ええ。優しそうな、気品あふれる男性の方と一緒でした。頭に怪我をした彼女を、とても気遣っておられて」

 アンバーは首をひねった。ベーム公爵の話しを信じるならば、マイラをこの修道院まで送り届けたのは、ベーム公爵だ。

(優しそうな、気品あふれる男性……マイラ様を気遣って……?)

「あの、その男性の方の年齢はどのぐらいに見えました?」

「そうですね。二十歳前後、といったところでしょうか」

「……他に、誰か傍にいませんでしたか?」

「私が見た限りでは」

「……そうですか」

 二十歳前後の男性。誰だろう。心当たりはない。心配だが、マイラが幸せそうだという言葉にほっと息をつきながらも、アンバーはこぶしを握り締めた。

 少なくともこれで、ベーム公爵がマイラを修道院まで送り届けたという話しは、嘘だったことが知れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅
恋愛
次期女王として王位継承が内定していたフランツェスカ。 だが戦況の悪化を理由に父王に争いの最前線に送られた。 それから一年、命からがら王都へ戻った彼女を待っていたのは労いの言葉ではなく、敵国・シュヴァルツヴァルトの王太子への輿入れ命令。 しかも父王は病弱な異母妹アリーシアを王妃に据え、フランツェスカの婚約者レナードを王にするという。 怒りと絶望の中フランツェスカはかつて敵将であったシュヴァルツヴァルト王太子・フリードのもとへお飾りの妻として嫁ぐことを決意する。 戦地での過去を封じ、王族としての最後の務めを果たすために。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...