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「聖女デリア? あの男好きと噂される女か? 誰が信じるか、阿呆」
一気に捲し立てられ、フェリシアはキョトンとした。
(……あれ?)
迷いながらも、恐る恐るデリアにされたことを話してみた。セオドアはあまりの出来事に顔を引き攣らせてはいたが、嘘だとフェリシアを責めることはしなかった。
「……セオドア様は、わたしの話を信じてくださるのですか?」
「信じるもなにもないだろう。あの聖女がクライブ殿下に媚びているのは学園中のみなが知っていることだ。クライブ殿下の気を引きたくて、きみの評判を落としたくてやった。そう考える方が自然だ。逆に、きみには動機がない」
「……デリアさんに嫉妬した、とか」
「嫉妬? クライブ殿下がいようがいまいが、聖女が近付いてくれば、そそくさと逃げるきみが?」
「……よくご存知ですね」
「みなは──特に女子生徒は、クライブ殿下ときみにも腹を立てているよ。どうしてもっと聖女デリアにきつく注意しないのかと」
「……それは知りませんでした」
「しかし、どうしてクライブ殿下はあんな女を一方的に信じたんだ? 私には理解できないんだが」
「それはきっと、クライブ殿下が愛した前の婚約者──リサ様に、デリアさんが似ていたからかと……それが理由のすべてとは限りませんが」
リサ。独り言のように呟いてから、セオドアは納得したように、思い出した、と言った。
「どこかで見た顔だと思っていたら、リサ嬢だったのか」
「知っているのですか?」
「写真で見たことがあるだけだ。実際にお会いしたことはない」
「写真? いったいどこで……」
「モニカ殿下に、何度かな」
モニカ。それは、この国の第四王女の名前だった。
「モニカ殿下とお知り合いだったのですか?」
「知り合いというか。王立学園に通うため、ピアソン領から王都に出てきたときに、陛下にお会いするため、王宮にきたんだ。そのときに、まあ、気に入られてな」
フェリシアはぴんときてしまった。
「もしかして、セオドア様の婚約者って、モニカ殿下……っ」
これには即座に「違う」と、セオドア。
「違うのですか?」
「モニカ殿下は、まだ六歳だ」
「知っています。ですが、そこまで珍しい年齢差ではないかと」
「単に話し相手として、お茶会に誘われているだけだ。もういいだろう。今はそんなこと気にしている場合か?」
「……そうでした」
はたと気付けば、随分と心が軽くなっていた。それは、自分でも驚くぐらいで。
「セオドア様。信じてくださり、ありがとうございました。それと、ハンカチを汚してしまって申し訳ありません。できれば、洗ってお返ししたいのですが」
「いや、かまわない」
そう言って、セオドアはすっとハンカチを懐に戻してしまった。
「では。後日、新しいものを贈らせてください」
「必要ない」
それは冷たく言い捨てるようなものではなく。優しく、気遣うような声色だった。
「そんなことより、今は自分のことだけを考えろ」
ぽん。
慰めるみたいに優しく頭に手を置かれ、フェリシアはなんともいえない気持ちになった。
こんな風にされたのは、はじめてかもしれない。彩香のときはもちろん、フェリシアとして生きている今も、少なくとも物心がついてからは覚えがない。なんだろう。この、くすぐったいような、不思議な感覚。手が離れたあと、自分の手を頭に置いてみたが、やはりというか、なにも感じることは出来なかった。
一気に捲し立てられ、フェリシアはキョトンとした。
(……あれ?)
迷いながらも、恐る恐るデリアにされたことを話してみた。セオドアはあまりの出来事に顔を引き攣らせてはいたが、嘘だとフェリシアを責めることはしなかった。
「……セオドア様は、わたしの話を信じてくださるのですか?」
「信じるもなにもないだろう。あの聖女がクライブ殿下に媚びているのは学園中のみなが知っていることだ。クライブ殿下の気を引きたくて、きみの評判を落としたくてやった。そう考える方が自然だ。逆に、きみには動機がない」
「……デリアさんに嫉妬した、とか」
「嫉妬? クライブ殿下がいようがいまいが、聖女が近付いてくれば、そそくさと逃げるきみが?」
「……よくご存知ですね」
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「……それは知りませんでした」
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「それはきっと、クライブ殿下が愛した前の婚約者──リサ様に、デリアさんが似ていたからかと……それが理由のすべてとは限りませんが」
リサ。独り言のように呟いてから、セオドアは納得したように、思い出した、と言った。
「どこかで見た顔だと思っていたら、リサ嬢だったのか」
「知っているのですか?」
「写真で見たことがあるだけだ。実際にお会いしたことはない」
「写真? いったいどこで……」
「モニカ殿下に、何度かな」
モニカ。それは、この国の第四王女の名前だった。
「モニカ殿下とお知り合いだったのですか?」
「知り合いというか。王立学園に通うため、ピアソン領から王都に出てきたときに、陛下にお会いするため、王宮にきたんだ。そのときに、まあ、気に入られてな」
フェリシアはぴんときてしまった。
「もしかして、セオドア様の婚約者って、モニカ殿下……っ」
これには即座に「違う」と、セオドア。
「違うのですか?」
「モニカ殿下は、まだ六歳だ」
「知っています。ですが、そこまで珍しい年齢差ではないかと」
「単に話し相手として、お茶会に誘われているだけだ。もういいだろう。今はそんなこと気にしている場合か?」
「……そうでした」
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「いや、かまわない」
そう言って、セオドアはすっとハンカチを懐に戻してしまった。
「では。後日、新しいものを贈らせてください」
「必要ない」
それは冷たく言い捨てるようなものではなく。優しく、気遣うような声色だった。
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