悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ

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 心から驚愕するフェリシアに、クライブは思い知った。

 これまでの、デリアへの煮え切らない態度。そしてとどめのように、フェリシアに切りつけられたというデリアの証言を鵜呑みにしたことにより、フェリシアのクライブへの信頼は、いまや地の底になってしまっているということを。

 イアンに視線を向けると、イアンは自業自得ですとでも言わんばかりに、憐れみの目を向けてきた。

 そればかりでなく。

「ああ、クライブ殿下。ようやっと目が覚めたのですね!」

「わたくしなど、聖女デリアに惑わされているものとばかり」

 などという、主に女子生徒の声がそこら中から聞こえてきた。周囲からの評判に、うっと、クライブの息が思わず詰まった。

「ク、クライブ殿下……もしかして脅されているのですか? でなければ、あたしを害したその女のことなど──」

 クライブはギョッとし「聖女デリア。父上からの命を忘れたのか」と、デリアに鋭い視線を向けた。

 クライブの態度がよほどショックだったのか。デリアは声をなくしたように、立ち尽くした。

 こそこそ。こそこそ。
 三人を遠巻きに囲む生徒たちが、小声でなにかを言い合う。

 え、なに。なに。
 やっぱり、なにかあったのね。

 などなど。

 デリアが起こしたあの事件のことを、学園の生徒たちは知らない。だから、クライブとデリアが揃って一週間ものあいだ学園を休んでいた理由が、謹慎処分だとは想像だにしていない。

 クライブに関してフェリシアは、体調が優れないようなのです、とまわりに言っていたが、生徒たちのあいだでは密かに、もしや聖女デリアとの浮気がバレたのでは、などという憶測が広がっていた。

 フェリシアはそれに気付いていたが、どうでもよかったので、特になにもしなかった。というより、しようがなかった。結局のところ、クライブが変わらなければ、解決しない問題だったから。

 そう諦めていたから、クライブのデリアに対する対応に、フェリシアは心底、驚いていた。

 国王からの怒りがよほどこたえたのか。それともハウエルズ公爵の後ろ盾を失うことに怯えたのか。

 とはいえ。

(一過性のものでなければいいけど……)

 そう疑っていたが、クライブはそれから、心から態度を改めたようだった。デリアが身体に少しでも触れようとすれば、さっと避け、フェリシアになにか言おうものなら、不敬だよ、と一喝。

「なんでぇ……?」

 デリアがしくしくと涙を流すも、クライブは取り合わない。その徹底さに、フェリシアはかえって心配になった。

 初恋を拗らせ、リサに似たデリアの言葉を何度も真に受けたクライブが、たった一週間でこんなに変わるだろうか。

 無理してません?

 皮肉なのは承知のうえで、何度口に出しそうになったことか。ただ、今のクライブの対応の方が正しいことは、まわりの反応からも明らかで。それにクライブも気付いたのだろう。その姿勢を崩すことはなかった。
  
 デリアはそれに、三日と耐えられなかったようで。謹慎が開けて四日後から、無断欠席をするようになった。そんなデリアは特待生取り消しとなり、あっけないほどあっさりと学園を辞めてしまった。


 一方のクライブは。

 元から優しい人ではあったが、これまでの行いから、フェリシアに対して申し訳ない気持ちが溢れ、気遣いが半端なくなってしまっていた。

 贈り物の数と、デートに誘う頻度は、確実に増えた。一緒にいるときは、常にこちらに合わせ、希望を聞いてくる。

「……あの。そんなに気をつかってもらわなくても大丈夫ですよ。婚約を解消したいなんて、もう言いませんから」

 学園の食堂にて。居たたまれなくなって、王族関係者しか座れない二人きりの席でそう告げると、クライブは数秒固まってから、ナイフとフォークを皿に置き、ずんっと傍目にもわかるほど落ち込んだ。

「……ごめん。こんなことで、償いになるとは思ってないよ。でも、他にどうしたらいいかわからなくて」

「ええと……」

 フェリシアが、どう返答したものかと迷う。

 信じてくれなかったという事実は、フェリシアの心から決して消えることはないだろう。それでも、少しだけ考えてしまう。もし前世を思い出さずにいたら、自分はきっと、クライブを愛し、デリアを虐めていただろう。そしたらクライブは、フェリシアと婚約破棄し、デリアと婚約できていた。

(……まあ、可哀想ではあるんだけど)

 しかし、不思議でならない。

 どうして男性は、佳奈やデリアのような女性を、好きになれるんだろうか。

「──クライブ殿下はどうして、聖女デリアを好きになったのですか?」

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