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「……え?」
目を見張るクライブに、自身でも意図せず漏れ出てしまった言葉に、フェリシアは慌てた。
「い、いえ。リサ様と似ているから、でしたね。ちゃんと覚えています。申し訳ありません」
「……うん。それも、ごめん。無神経だった」
心から反省している様子のクライブに、やはり根は真面目でまともな人なんだなあと、フェリシアは思った。
「好き、か」
呟いてから、クライブは「きみには好きな人が──」ともらしてから、はっとしたように言葉を止めた。
「クライブ殿下?」
「いや、いいんだ。ごめん。もうすぐ予鈴が鳴るよ。行こう」
「は、い」
促され、フェリシアは席を立った。
(わたしにも好きな人がいるのか聞こうとしたのかな。リサ様を忘れられないクライブ殿下からしたら、その方が気が楽よね)
もしヒロインがゲーム内のように、清く美しい心の持ち主だったら、クライブはきっと、今のような対応はできていなかっただろう。そうしたら、フェリシアと別れられないこの状況は、もっと苦痛だったはずだ。
(ゲームとはストーリーが全然違ってきているけど、これからどうなるんだろう)
デリアは特待生としての資格を失い、これまでの、そしてこれからの授業料を払えず、王立学園を退学。そんなデリアは、現在、ほとんどの時間を教会の一室で過ごしているという。
とはいえ、王侯貴族相手には聖女として、その癒やしの力を存分に発揮しているらしい彼女には、貴族から多数の婚約の申し込みがきているそうだ。
正直複雑ではあるが、こちらにかかわってこないのなら、それだけでありがたいと思うことにした。
(……好きな人、ね)
貴族として生まれたからには、自由に恋をすることがどれほど贅沢かは理解している。しかし、自由に恋愛できた前世の記憶があるからか。この状況が、苦しくて仕方なかった。
(わたしが心からクライブ殿下を信頼することは、きっと、もうできない)
クライブも、罪悪感を捨てきることはできないだろう。
それが少し──いやかなり、寂しかった。
しかし、それから僅か数日後に、これらの状況が一変する事故が起きた。
それが偶然だったのか。必然だったのか。誰にもわからないその一連の出来事は、フェリシアには、必然のように思えてならなかった。
幼い頃から、クライブは乗馬が好きだった。慣れたもので、クライブはもう何年も、落馬などしたことはなかった。しかし、たまにはイアンと二人で息抜きしてはどうかとフェリシアが提案した週末。
晴れの空に雷が鳴り、近くに落ちた。馬が驚き、暴れ、クライブは馬から勢いよく落ちた。王宮専属の医師によれば、怪我は大したことなかったものの、クライブは意識を失ったまま、数時間経っても目を覚まさなかった。
そこで呼ばれたのが、聖女であるデリアだった。私室で眠るクライブの手を、無言で握る。傍には国王や王妃、フェリシアたちもいた。意識を取り戻してほしくて、フェリシアはデリアに対する嫌悪感も忘れ、必死で祈った。
(……あんなこと、わたしが言わなければっ)
あんな提案をしなければ、きっとクライブは、いつものようにフェリシアをデートに誘っていただろう。そうすれば、こんなことにはならなかった。
(……ごめんなさい。こんなこと、わたし望んでない……っ)
信じてくれなかったことが苦しかった。でも、悪い人ではない。必死に償おうとしてくれていた。知っていたのに。
「…………あ」
デリアが、小さく声を上げた。はっとしてクライブを見ると、閉じていた瞼が、ゆっくりと開いていくのを見た。
室内が、歓喜に満ちる。
けれど。
クライブの記憶がなくなっていることに気付いたのは、それから数分経ってからのことだった。
目を見張るクライブに、自身でも意図せず漏れ出てしまった言葉に、フェリシアは慌てた。
「い、いえ。リサ様と似ているから、でしたね。ちゃんと覚えています。申し訳ありません」
「……うん。それも、ごめん。無神経だった」
心から反省している様子のクライブに、やはり根は真面目でまともな人なんだなあと、フェリシアは思った。
「好き、か」
呟いてから、クライブは「きみには好きな人が──」ともらしてから、はっとしたように言葉を止めた。
「クライブ殿下?」
「いや、いいんだ。ごめん。もうすぐ予鈴が鳴るよ。行こう」
「は、い」
促され、フェリシアは席を立った。
(わたしにも好きな人がいるのか聞こうとしたのかな。リサ様を忘れられないクライブ殿下からしたら、その方が気が楽よね)
もしヒロインがゲーム内のように、清く美しい心の持ち主だったら、クライブはきっと、今のような対応はできていなかっただろう。そうしたら、フェリシアと別れられないこの状況は、もっと苦痛だったはずだ。
(ゲームとはストーリーが全然違ってきているけど、これからどうなるんだろう)
デリアは特待生としての資格を失い、これまでの、そしてこれからの授業料を払えず、王立学園を退学。そんなデリアは、現在、ほとんどの時間を教会の一室で過ごしているという。
とはいえ、王侯貴族相手には聖女として、その癒やしの力を存分に発揮しているらしい彼女には、貴族から多数の婚約の申し込みがきているそうだ。
正直複雑ではあるが、こちらにかかわってこないのなら、それだけでありがたいと思うことにした。
(……好きな人、ね)
貴族として生まれたからには、自由に恋をすることがどれほど贅沢かは理解している。しかし、自由に恋愛できた前世の記憶があるからか。この状況が、苦しくて仕方なかった。
(わたしが心からクライブ殿下を信頼することは、きっと、もうできない)
クライブも、罪悪感を捨てきることはできないだろう。
それが少し──いやかなり、寂しかった。
しかし、それから僅か数日後に、これらの状況が一変する事故が起きた。
それが偶然だったのか。必然だったのか。誰にもわからないその一連の出来事は、フェリシアには、必然のように思えてならなかった。
幼い頃から、クライブは乗馬が好きだった。慣れたもので、クライブはもう何年も、落馬などしたことはなかった。しかし、たまにはイアンと二人で息抜きしてはどうかとフェリシアが提案した週末。
晴れの空に雷が鳴り、近くに落ちた。馬が驚き、暴れ、クライブは馬から勢いよく落ちた。王宮専属の医師によれば、怪我は大したことなかったものの、クライブは意識を失ったまま、数時間経っても目を覚まさなかった。
そこで呼ばれたのが、聖女であるデリアだった。私室で眠るクライブの手を、無言で握る。傍には国王や王妃、フェリシアたちもいた。意識を取り戻してほしくて、フェリシアはデリアに対する嫌悪感も忘れ、必死で祈った。
(……あんなこと、わたしが言わなければっ)
あんな提案をしなければ、きっとクライブは、いつものようにフェリシアをデートに誘っていただろう。そうすれば、こんなことにはならなかった。
(……ごめんなさい。こんなこと、わたし望んでない……っ)
信じてくれなかったことが苦しかった。でも、悪い人ではない。必死に償おうとしてくれていた。知っていたのに。
「…………あ」
デリアが、小さく声を上げた。はっとしてクライブを見ると、閉じていた瞼が、ゆっくりと開いていくのを見た。
室内が、歓喜に満ちる。
けれど。
クライブの記憶がなくなっていることに気付いたのは、それから数分経ってからのことだった。
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