34 / 42
34
しおりを挟む
テッドの好意は丸わかりで吹き出しそうだったけど、ここがあの乙女ゲームの世界と知ったときから、デリアは決めていた。
(あたしの相手に相応しいのは、第一王子のクライブ。イケメンなイアンとセオドアも捨てがたいけど、あたしを好きになるだけならせておいて、最後はクライブを選ぼーっと)
特待生となるための勉強は大変だったけど、その努力に見合う未来を知っているので、デリアはその日を目指し、ひたすら頑張った。
そして訪れた、王立学園の入学式の日。
テッドからわざとはぐれ、あのイベントを待ちわびる。クライブの顔をはじめて間近で拝んだとき、あまりの綺麗さに、息を吞んだ。
(……これが、あたしのものになるんだ)
ぼーっとしていると、クライブは去って行ってしまった。はっとしたとき、クライブが向かっていった先に、イアンがいることに気付いた。
「……イ、イケメンっ」
並ぶ国宝級の顔面に見惚れていると、二人はどこかへ行ってしまった。追いかけようとしたが、もう一つのイベントがあることを思い出し、はたと足を止めた。
(迷子になって、セオドアに見つけてもらわないとっ)
人波からわざと外れ、きょろきょろとあたりを見回す。セオドアを探すが、見当たらない。そうこうしているうちに、テッドに見つかってしまった。
「デリア! 良かった……やっと見つけた」
心底ほっとしたような平凡な顔に、デリアが心の中で舌打ちする。同じ過ちを繰り返さないためにも、この世界では、いい子を演じると決めたから。
「心細かったよ、テッド」
目を潤ませれば、テッドは頬を赤く染めた。チョロいなあ。デリアは胸中で吐き捨てた。
(ま、当然だけど)
セオドアには会えなかったが、同じ学園にいることは確かだから、そのうち会えるだろう。とりあえず、本命のクライブとの大事な出会いは果たしたから、よしとしよう。デリアはテッドと手を繋ぎ、入学式が行われる講堂へと向かった。
新入生代表として、壇上の近くに座るクライブ。女子生徒たちが遠くから見惚れているのが伝わってきて、優越感に浸るデリア。
(ふふ、クライブったら。なんか少しそわそわしてる。初恋の人と同じ顔をしているあたしのことが気になって仕方ないのね)
頭の中はきっと、あたしのことでいっぱいだろう。そう思うと、にやけが止まってくれなかった。
(まあ、それはイアンも同じ……あれ。そういえば、イアンがいないな。いつもクライブの傍にいるのに)
視線をうろうろさせる。後ろかなと振り向いたとき、講堂の扉が開いた。
そこから現れたのは、三人目のイケメン──セオドアだった。
同じようにセオドアの存在に気付いた女子生徒たちが、静かにどよめく。あの男もいずれあたしに惚れるのよ。ドヤ顔をしていると、見覚えのある、悪役令嬢を視界の先に捉えた。
(フェリシア・ハウエルズ。あたしにも引けを取らない美少女。でも、あたしになにもかもくれる、憐れな悪役令嬢)
口元を手でおさえ、笑いをこらえる。挨拶を終えたクライブが、フェリシアの元に駆け寄ったのは少し意外だったが、いまはまだ、正当な婚約者はあの子だしなあと、余裕をかましていた。
テッドは子爵令息で、デリアは使用人という立場ではあったが、与えられた部屋のグレードに差はなく、デリアは一人、バルコニーに立つ。
クライブがこちらを意識しているのは明らか。テッドは変わらず好意が丸わかりだったし、デリアはご機嫌だった。イアンとティモシー、セオドアに関しては、まあこれからねと、夜空に口笛を吹く。
けれど。
一週間経っても、あの悪役令嬢は虐めるどころか、接触すらしてこず。セオドアとは一度も会えず、クライブもイアンも、意識していないわけないのに、全然話しかけてこない。どころか、悪役令嬢と一緒に昼食はとるわ、放課後に自ら迎えに行くわ。馬鹿じゃないのと、デリアは苛ついていた。
ティモシーは誰にでも平等に優しく。予定通りの行動をしてくれるのは、テッドだけ。
まだ一週間。されど一週間。ちやほやされるために、嫌いな勉強をこれまで必死に頑張ってきた。いずれ聖女となるから必要ないのに、それでも特待生となるために努力した。だから、早くイケメンに囲まれたくて仕方なかった。
セオドアを探している途中。姿は見えないが、踊り場を挟んだ先で、なにやら男女の会話が聞こえてきた。誰だろうと思っていたら、階段下に悪役令嬢が現れた。やっときた。心を震わせたのに、そいつは踵を返した。
「……はあ?」
なにあいつ。追いかけるように階段を下ると、セオドアがいた。ようやく会えたと感激したかったが、悪役令嬢がなぜかセオドアに抱き抱えられていて、ぴしっと血管が浮いた気がした。
悪役令嬢に罵倒するでもなく、こちらに関心も示さないセオドアに、早く行きなさいと告げられた。
──相手、間違えてない?
吐き出しそうになったが、なんとかこらえた。男に媚びる、俯いたままの悪役令嬢がとにかく憎くて、横を通り過ぎる瞬間、睨んでやった。僅かにびくつく気配がして、なにこいつ、と更に腹が立った。
(前世の世界だったら、間違いなく、虐められる側じゃない?)
ゲームの世界なのに、ストーリー通りに中々進まない。こんな臆病な悪役令嬢に任せていたら駄目だと、デリアは行動を起こすことにした。
(あたしの相手に相応しいのは、第一王子のクライブ。イケメンなイアンとセオドアも捨てがたいけど、あたしを好きになるだけならせておいて、最後はクライブを選ぼーっと)
特待生となるための勉強は大変だったけど、その努力に見合う未来を知っているので、デリアはその日を目指し、ひたすら頑張った。
そして訪れた、王立学園の入学式の日。
テッドからわざとはぐれ、あのイベントを待ちわびる。クライブの顔をはじめて間近で拝んだとき、あまりの綺麗さに、息を吞んだ。
(……これが、あたしのものになるんだ)
ぼーっとしていると、クライブは去って行ってしまった。はっとしたとき、クライブが向かっていった先に、イアンがいることに気付いた。
「……イ、イケメンっ」
並ぶ国宝級の顔面に見惚れていると、二人はどこかへ行ってしまった。追いかけようとしたが、もう一つのイベントがあることを思い出し、はたと足を止めた。
(迷子になって、セオドアに見つけてもらわないとっ)
人波からわざと外れ、きょろきょろとあたりを見回す。セオドアを探すが、見当たらない。そうこうしているうちに、テッドに見つかってしまった。
「デリア! 良かった……やっと見つけた」
心底ほっとしたような平凡な顔に、デリアが心の中で舌打ちする。同じ過ちを繰り返さないためにも、この世界では、いい子を演じると決めたから。
「心細かったよ、テッド」
目を潤ませれば、テッドは頬を赤く染めた。チョロいなあ。デリアは胸中で吐き捨てた。
(ま、当然だけど)
セオドアには会えなかったが、同じ学園にいることは確かだから、そのうち会えるだろう。とりあえず、本命のクライブとの大事な出会いは果たしたから、よしとしよう。デリアはテッドと手を繋ぎ、入学式が行われる講堂へと向かった。
新入生代表として、壇上の近くに座るクライブ。女子生徒たちが遠くから見惚れているのが伝わってきて、優越感に浸るデリア。
(ふふ、クライブったら。なんか少しそわそわしてる。初恋の人と同じ顔をしているあたしのことが気になって仕方ないのね)
頭の中はきっと、あたしのことでいっぱいだろう。そう思うと、にやけが止まってくれなかった。
(まあ、それはイアンも同じ……あれ。そういえば、イアンがいないな。いつもクライブの傍にいるのに)
視線をうろうろさせる。後ろかなと振り向いたとき、講堂の扉が開いた。
そこから現れたのは、三人目のイケメン──セオドアだった。
同じようにセオドアの存在に気付いた女子生徒たちが、静かにどよめく。あの男もいずれあたしに惚れるのよ。ドヤ顔をしていると、見覚えのある、悪役令嬢を視界の先に捉えた。
(フェリシア・ハウエルズ。あたしにも引けを取らない美少女。でも、あたしになにもかもくれる、憐れな悪役令嬢)
口元を手でおさえ、笑いをこらえる。挨拶を終えたクライブが、フェリシアの元に駆け寄ったのは少し意外だったが、いまはまだ、正当な婚約者はあの子だしなあと、余裕をかましていた。
テッドは子爵令息で、デリアは使用人という立場ではあったが、与えられた部屋のグレードに差はなく、デリアは一人、バルコニーに立つ。
クライブがこちらを意識しているのは明らか。テッドは変わらず好意が丸わかりだったし、デリアはご機嫌だった。イアンとティモシー、セオドアに関しては、まあこれからねと、夜空に口笛を吹く。
けれど。
一週間経っても、あの悪役令嬢は虐めるどころか、接触すらしてこず。セオドアとは一度も会えず、クライブもイアンも、意識していないわけないのに、全然話しかけてこない。どころか、悪役令嬢と一緒に昼食はとるわ、放課後に自ら迎えに行くわ。馬鹿じゃないのと、デリアは苛ついていた。
ティモシーは誰にでも平等に優しく。予定通りの行動をしてくれるのは、テッドだけ。
まだ一週間。されど一週間。ちやほやされるために、嫌いな勉強をこれまで必死に頑張ってきた。いずれ聖女となるから必要ないのに、それでも特待生となるために努力した。だから、早くイケメンに囲まれたくて仕方なかった。
セオドアを探している途中。姿は見えないが、踊り場を挟んだ先で、なにやら男女の会話が聞こえてきた。誰だろうと思っていたら、階段下に悪役令嬢が現れた。やっときた。心を震わせたのに、そいつは踵を返した。
「……はあ?」
なにあいつ。追いかけるように階段を下ると、セオドアがいた。ようやく会えたと感激したかったが、悪役令嬢がなぜかセオドアに抱き抱えられていて、ぴしっと血管が浮いた気がした。
悪役令嬢に罵倒するでもなく、こちらに関心も示さないセオドアに、早く行きなさいと告げられた。
──相手、間違えてない?
吐き出しそうになったが、なんとかこらえた。男に媚びる、俯いたままの悪役令嬢がとにかく憎くて、横を通り過ぎる瞬間、睨んでやった。僅かにびくつく気配がして、なにこいつ、と更に腹が立った。
(前世の世界だったら、間違いなく、虐められる側じゃない?)
ゲームの世界なのに、ストーリー通りに中々進まない。こんな臆病な悪役令嬢に任せていたら駄目だと、デリアは行動を起こすことにした。
2,019
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる