悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ

文字の大きさ
35 / 42

35

しおりを挟む
 特別室に忘れ物。確かに聞いた。いつも馬鹿みたいに一緒にいる令嬢はいなかったから、一人。これは間違いなく神がくれたチャンス。デリアは急いで、学園にある池に向かった。回りに誰もいないのを確認してから、迷いなく飛び込む。よしと、まずはテッドがいるクラスを目指した。

 テッドはデリアの言葉を疑うことなく信じた。当然ではあるけど、デリアに水をかけた犯人はフェリシアだと睨み付けるテッドは、中々どうして、愉快で可愛かった。

(クライブもイアンも、これからあの悪役令嬢をどんどん嫌っていくのね)

 考えるだけでわくわくしたが、そうはならなかった。変わったのはテッドだけで、他の攻略対象者たちの、フェリシアに対する対応に変化はなかった。



「……なんなのよ! あの根暗なビッチの悪役令嬢は!!」

 部屋で、枕に顔を押し付け叫ぶ。苛々、苛々。なびかない男にも腹は立ったが、なにより、虐めてこない悪役令嬢に怒りが収まらなかった。

「……聖女になりさえすれば、あんな奴っ」

 呟いた自身の言葉に、はっとする。そうだ。本格的にクライブたちと近付けるようになるのは、聖女として目覚めたあと。ゲーム内では二年になってからだったが、そんなの待っていられなかった。

「……でも、ヒロインは癒しって、どうやってたっけ」

 そんな描写は、絵ではなかった。文章で、奇跡の光がおこり、傷は癒えた、としか書かれていなかった気がする。

「……実際に傷を治してみるしかないわよね」

 怪我をした人を探すか。でも、もし癒せなかったとして、どうしてそんな力があることを知っているのか疑問に持たれたら、面倒くさい。こういうとき便利なのは、なんでも言うことを聞いてくれる、便利な男。

「愛するあたしの役に立てるんだから、きっと喜んでくれるわよね」

 そう思ったのに、指の先を切るだけでも顔を真っ青にさせるテッドに呆れた。それでもなんとか宥め、褒め、実験を繰り返す。イケメンじゃないこいつには、最終的に嫌われてもいいかと、傷を大きく、深く抉る。その度、ごめんねと謝罪。もう嫌だとぎゃあぎゃあ騒ぐのが面倒くさくなってきたころ、ようやく、傷を癒すことに成功した。

「ありがとう、テッド。あなたのおかげよ」

 心からの感謝の言葉だったのに、テッドはなにも答えてはくれなくて。デリアはむかついて、もうこいつは用なしだわ、と胸中で吐き捨てた。

 国王に、みんなに聖女として認められたデリア。やっとはじまる。イケメンにもてはやされる日々が、帰ってくる。

 身分の差に悩むことは、もうないの。ウキウキしながら、クライブに近付く。

 本当は、ずっと我慢してたんでしょ?
 あたしと愛し合いたくて、仕方なかったんでしょ?

 一緒に王宮へ行こうと誘ったのに、まだあの悪役令嬢に遠慮しているのか、断られてしまった。

「……あの女、生きてる意味ある?」

 男に媚びるしか脳のない、虐める根性すらない根暗。邪魔だな。死んでくれないかな。でも相手は、分不相応にも、公爵令嬢。

(あたしが悪役令嬢にしてあげるしかなさそうね)

 痛いの、やなんだけどなあ。
 
 ため息をつき、デリアは歩き出した



 いつそのときが来てもいいように、ナイフを忍ばせる。ゲームでは、嫉妬に狂ったフェリシアが、ヒロインをナイフで傷つけ、それを知ったクライブは怒りの限界にきて、フェリシアに婚約破棄を宣言する。

 どうにもそれが期待できない悪役令嬢に代わり、あたしがしっかりしないと。デリアは覚悟を決める。

(陛下にお茶会に誘われている今日とか、もしかしたら絶好のチャンスじゃない?)

 豪華な馬車内で、黙考する。国王は聖女であるデリアを信じきっているし、デレてもいる。

(聖女で容姿も整っているとなれば、当然のことだけど)

 クライブの父親だけあって、国王も顔はいい。だから悪い気はしないが、やはり欲しいのは、相応しいのは、クライブ。



 テッドの屋敷の応接室とは比べものにならないほどの煌びやかな応接室で、国王とお茶を楽しむ。さりげなくフェリシアのことを聞き、この時間は王妃教育を受けているという情報を聞き出すことに成功した。この手のことは、佳奈だったときから得意としていたことだった。

 国王が臣下に呼ばれ、お茶会が予定より早く終わりそうになった。まだフェリシアが王宮内のどこにいるのか聞き出せていなかったデリアは、王宮内を見学したいのですが、と上目遣いでお願いしてみた。国王が、それは、という困った顔をしたので、では素敵な中庭だけでも、と付け加えると、それならと了承してくれた。

(学園でやる方がいいかなあ。でも、あの女、あんまり一人にならないんだよね)

 案内役の使用人の後ろで、デリアが視線を前後左右に動かす。

 冷静さを装おうとはしていたが、早くフェリシアを本物の悪役令嬢にしてやりたくて、デリアの瞳孔は開きっぱなしだった。

「……あ」

 小さな声に、使用人がどうしましたと振り向く。デリアは、あそこに誰かいたような、と怯える演技をしながら中庭の木を指差した。使用人がそちらに視線を向けるのを確認してから、デリアはさっと柱の陰に身を隠した。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...