死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

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「……会った当初から感じていたが、きみは、痩せすぎじゃないか? えり好みしている場合ではないと思うが」
 
「アラスター。貴族の令嬢様はね、ダイエットをするものなのよ。食べ物が有り余っているから、それをわざと残したりしてね」

 すかさずのカイラの返答に、ニアはいっそ、感心すらした。頭の回転が速い人だと。

「それより、ほら。早く朝ご飯にしましょ。遅れると、なにを言われるかわからないわよ」

 まだなにか言いたそうなアラスターの背を両手で押しながら、カイラはくるりとニアを振り返った。

「あとで朝食を持っていくから、少しだけお部屋で待っててね」

 それまで部屋を出るなということか。

 察したニアは、ぱたりと扉を閉めた。



「あたしはね、あなたに思い知ってほしいだけなの」

 アラスターが出掛けてから、カイラが持ってきたのは、石のように硬くなったパンが一つ。腐ったものがないだけマシだと、力を入れて、パンを一口大にちぎろうとするニア。その前に足を組んで椅子に腰掛けるカイラが語りはじめた。

「あなたがあたしに勝っているのは、生まれだけ。わかる? 容姿とスタイルはもちろんだけど、なにより、アラスターが愛しているのは、あたしなの。あんたじゃない」

「それは充分、理解していますけど」

「言葉だけじゃね。なんとでも言えるわ。だからあんたの身体と心に、徹底的に刻んでやりたいの。あたしに逆らえば、どうなるかって。そもそもの逆らう気を、なくしてもらいたいの」

 なんとか一口大にちぎったパンの欠片を、口に放り込むニア。味はなにもしない。

「勘違いしないでほしいんだけど、あたし、ちゃんと理解はしてるのよ。アラスターが伯爵になるためには、あんたのような貴族令嬢が必要なんだってこと。でもね、やっぱり腹は立つのよ。いくら飾りとはいえね。そのうえ偉そうにされたら、たまったものじゃないわ。貴族令嬢なんて、甘やかされて育った典型じゃない。一人じゃなんにもできない出来損ないのくせに」

 貴族令嬢に対する憎しみがすごいな。

 なんとかパンを噛みきりながら、ニアが口を動かす。

「アラスターは、あたしだけを信じてる。あんたがなにを言ったって無駄。それぐらいの優越感があってもいいでしょ? それに、こんなことぐらいで逃げるなんて、弱すぎるわよ。情けない」

「前の婚約者候補たちの二人にも、似たようなことをしたんですか?」

「一人にわね。あいつは本当に根性がなかったなあ。腐ったものを出しても、ちっとも食べなくて。無理やり押さえ付けて食べさせようとしたら、泣きわめいて、叫んで。大変だった。数日と持たずに帰ってしまったしね。その点、あなたは理解も早いし、従順でいいわあ。お父様に言いつけてやる、なんて捨て台詞も吐かないし」

「なーに言ってんだが。ようは飾りの婚約者候補に嫌がらせして、貴族令嬢を見下して、ストレス解消してるだけでしょ?」

 開いていた扉に寄りかかりながらクスクス笑っていたのは、メイドだった。振り返りながら、カイラが口角を上げる。

「それはあんたも同じでしょう? ブリアナ」

 メイドの名は、ブリアナというらしい。などと考えていると、つかつかと寄ってきたブリアナに、パンを取られた。

「あ」

「いつまで優雅に食べてんのよ。早く掃除をはじめて」

「ブリアナ。最低限の食事はとらせて。こんな馬鹿な貴族令嬢、そうそう見つかりはしないんだから」

「認めたの?」

「まさか。まだまだ試験は続くわよ。アラスターが甘過ぎるから、あたしが厳しくしないと」

 カイラは立ち上がり、ブリアナからパンを奪うと、床に落とした。

「ほら、早く。残りを食べなさい」

 ニアは立ち上がり、それを手に取った。頭上から、不気味な笑い声が二つ、響いた。


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