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「ニアさんて、もともと引きこもりのような生活をしていたみたいね」
夕刻。
帰宅してきたアラスターと、屋敷のみなが食堂で食事をしているとき、カイラは言った。
「だから、お部屋に閉じこもっているのが落ち着くんだって。なにもしなくても食事が出てくるし、ここでの暮らし、案外気に入っているんじゃないかしら」
メイドのブリアナが、そうね、と笑う。
「無愛想だけれど。まあ……それぐらい、ね」
「うん。今までの人より、全然マシ。嫌がらせっていっても、大したことないし」
アラスターが「嫌がらせ?」と眉をひそめると、カイラは慌てたように口を開いた。
「本当に、大したことないの。洗濯物投げつけてきたり、急に、あれ食べたいこれ食べたいって騒ぐぐらいで」
「……そんなことを」
「あ。これ、ニアさんには言わないでね。告げ口したみたいで嫌だから」
「──いや。これからもっとエスカレートするかもしれない。早いうちに屋敷を出て行ってもらった方が……」
「駄目だったら。かなり無茶な条件を出して、それでもいいって来てくれた人なんでしょ?」
「……きみに危害が及ぶぐらいなら、伯爵の地位など、いらないよ」
「ふふ、ありがとう。それでも、権力がなければできないことも多いし、なにより、見返したいんでしょ?」
アラスターは黙り込んだあと、席を立った。
「どうしたの?」
「ニア嬢と、話をしてくる」
「話てどうするの?」
「態度を改めてほしいと注意する」
「でも……それで家に帰られたら?」
「それはおそらく……ない、と思う」
「どうして?」
「憶測だ。確実ではない」
カイラは、わかったわ、とため息をついた。
「あたしも行く」
コンコン。コンコン。
ノックのあと、アラスターだ、との声に、寝台に横になっていたニアは身体を起こした。
アラスターが屋敷にいるあいだは部屋から出てくるなと命じられていたので、はて、と思いながらニアは扉を開けた。アラスターの怒りの表情に、ニアはなんとなく、アラスターが訪れた理由を察した。
「──部屋に入らせてもらうぞ」
そう告げたアラスターのあとに、当然のようにカイラが続く。
とうとう追いだされる日が来たか。
短かったなあ。
思いながら、アラスターとカイラが座った正面に立った。
「……話にくいから、座ってくれ」
「はい」
椅子を示され、ニアはアラスターのちょうど正面にある椅子に腰掛けた。
「洗濯物を投げつけたり、屋敷にないものを食べたいと騒いだそうだが……」
実際、洗濯物を投げつけてきたのはブリアナだったが、それをニアがしたとカイラたちはアラスターに吹き込んだらしい。
(なるほど。だから怒っているのか)
どうしても、他人事のように考えてしまう。事実、されたのはニアなので、どうしようもない。
「どうしてこんなことをするんだ。カイラたちが黙っていると思ったのか? 屋敷を追いだされるとは思考が及ばなかったのか? 最初にすべてを明かしたのは、なんのためだと思っているんだ」
聞かれても。と、沈黙してしまうが、こういうときは、カイラが黙っていないのを知っている。
「ねえ、そんな質問攻めにしなくても。悪気があってやったことじゃないかもしれないわ。貴族のあいだでは、使用人に対する態度は、それが一般的なのかもしれないし」
アラスターの前では、徹底的に優しくて器の大きい女性を装う。そのため、ニアを陥れたのが自分自身でも、こうやって、ニアを庇う──ふりをする。そしてアラスターは、カイラの意見に、渋々ながらも従う。
次の日から、カイラたちによる嫌がらせを超えた行為は続いたが、アラスターに嘘を吹き込むのは、止めたようだった。
夕刻。
帰宅してきたアラスターと、屋敷のみなが食堂で食事をしているとき、カイラは言った。
「だから、お部屋に閉じこもっているのが落ち着くんだって。なにもしなくても食事が出てくるし、ここでの暮らし、案外気に入っているんじゃないかしら」
メイドのブリアナが、そうね、と笑う。
「無愛想だけれど。まあ……それぐらい、ね」
「うん。今までの人より、全然マシ。嫌がらせっていっても、大したことないし」
アラスターが「嫌がらせ?」と眉をひそめると、カイラは慌てたように口を開いた。
「本当に、大したことないの。洗濯物投げつけてきたり、急に、あれ食べたいこれ食べたいって騒ぐぐらいで」
「……そんなことを」
「あ。これ、ニアさんには言わないでね。告げ口したみたいで嫌だから」
「──いや。これからもっとエスカレートするかもしれない。早いうちに屋敷を出て行ってもらった方が……」
「駄目だったら。かなり無茶な条件を出して、それでもいいって来てくれた人なんでしょ?」
「……きみに危害が及ぶぐらいなら、伯爵の地位など、いらないよ」
「ふふ、ありがとう。それでも、権力がなければできないことも多いし、なにより、見返したいんでしょ?」
アラスターは黙り込んだあと、席を立った。
「どうしたの?」
「ニア嬢と、話をしてくる」
「話てどうするの?」
「態度を改めてほしいと注意する」
「でも……それで家に帰られたら?」
「それはおそらく……ない、と思う」
「どうして?」
「憶測だ。確実ではない」
カイラは、わかったわ、とため息をついた。
「あたしも行く」
コンコン。コンコン。
ノックのあと、アラスターだ、との声に、寝台に横になっていたニアは身体を起こした。
アラスターが屋敷にいるあいだは部屋から出てくるなと命じられていたので、はて、と思いながらニアは扉を開けた。アラスターの怒りの表情に、ニアはなんとなく、アラスターが訪れた理由を察した。
「──部屋に入らせてもらうぞ」
そう告げたアラスターのあとに、当然のようにカイラが続く。
とうとう追いだされる日が来たか。
短かったなあ。
思いながら、アラスターとカイラが座った正面に立った。
「……話にくいから、座ってくれ」
「はい」
椅子を示され、ニアはアラスターのちょうど正面にある椅子に腰掛けた。
「洗濯物を投げつけたり、屋敷にないものを食べたいと騒いだそうだが……」
実際、洗濯物を投げつけてきたのはブリアナだったが、それをニアがしたとカイラたちはアラスターに吹き込んだらしい。
(なるほど。だから怒っているのか)
どうしても、他人事のように考えてしまう。事実、されたのはニアなので、どうしようもない。
「どうしてこんなことをするんだ。カイラたちが黙っていると思ったのか? 屋敷を追いだされるとは思考が及ばなかったのか? 最初にすべてを明かしたのは、なんのためだと思っているんだ」
聞かれても。と、沈黙してしまうが、こういうときは、カイラが黙っていないのを知っている。
「ねえ、そんな質問攻めにしなくても。悪気があってやったことじゃないかもしれないわ。貴族のあいだでは、使用人に対する態度は、それが一般的なのかもしれないし」
アラスターの前では、徹底的に優しくて器の大きい女性を装う。そのため、ニアを陥れたのが自分自身でも、こうやって、ニアを庇う──ふりをする。そしてアラスターは、カイラの意見に、渋々ながらも従う。
次の日から、カイラたちによる嫌がらせを超えた行為は続いたが、アラスターに嘘を吹き込むのは、止めたようだった。
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