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カイラと兄の婚約者。どちらが嘘をついていたのか。証拠はなにもない。もしかしたら、カイラが正しい可能性もある。でも、カイラのことしか信じていなかった自分を、謝罪したかった。
門番に名を告げる。会ってもらえない覚悟も、もちろんしていたが、以外にもあっさり、屋敷内に通された。
(……わたしが領主の息子だからか)
当たり前のことに気付いたとき、兄の婚約者が応接室に姿を見せた。
「突然、すみません」
立ち上がったアラスターに、兄の婚約者は、いえ、と視線を泳がす。
「わたしと顔も合わせたくないのは承知しています。これきり、二度とあなたの前に現れないことを約束しますので、少しだけ、話を聞いてもらえませんか?」
「……あなたは次期領主なのですから、そんな、頼み事のような真似」
「そうですね。卑怯でした。すみません」
「そうではなく……っ。いえ、なんでもないです。それで、お話とは……?」
「あなたがわたしの婚約者候補となったとき、カイラに会いにいった。それは間違いありませんか?」
兄の婚約者は「あ、あのときのことを責めにきたのですか?」と、ギョッとしたので、慌てて否定した。
「違います。逆です」
「……逆?」
「はい。わたしはあのとき、カイラの言葉だけを信じ、あなたの話をろくに聞きもしなかった。ですから……もう遅いですが、あなたの言葉を、聞きにきました。あなたはどうして、カイラに会いにいったのですか?」
「……あのとき、申した通りです。あなたとはじめて会ったあの日。あの方が亡くって日が浅く、私の心は深く傷付いたまま。オールディス伯爵たちの言葉に耳を貸さず、あなたに酷い言葉を投げかけましたよね。でも、考えたのです。あの方があなたを虐めていたことが本当なら、と。とても信じられませんでしたが……まずは、あなたの人となりを調べてみようと」
「だから、カイラに……?」
「あなたと愛し合っている人が、あなたのことを一番、理解しているのではないかと思いまして。ですが……信じてもらえないかもしれませんが、相手はあなたを渡さないと怒鳴ってばかりで、ほとんど会話にならず。もちろん、打ったりなど、誓ってしていません。打たれそうにはなりましたが」
「……そう、だったのですか」
兄の婚約者は、信じるのですか、と目を丸くしていた。アラスターが、苦笑する。
「兄の行いを信じられなかった気持ち、いまのわたしには、痛いほどわかります。わたしも、この目で見ていなければ、とてもじゃないですが、信じられなかったでしょうから……」
「なにか、あったのですね」
「はい、ありました。正直、いまも混乱したままですが──」
アラスターは、ゆっくりと、頭を下げた。
「一方的に責めて、すみませんでした」
「や、止めてください! 言ったでしょう? 私にも非はありました!」
慌てる兄の婚約者に、アラスターはふっと力を抜いた。
「……父の言っていた通り、あなたは、家柄も人柄も申し分なかったみたいです。わたしは本当に、見る目がない」
「それはきっと、お互い様です」
いまは違う方と婚約して、幸せです。だからどうか、気になさらないで。
そう言って、彼女は笑った。
門番に名を告げる。会ってもらえない覚悟も、もちろんしていたが、以外にもあっさり、屋敷内に通された。
(……わたしが領主の息子だからか)
当たり前のことに気付いたとき、兄の婚約者が応接室に姿を見せた。
「突然、すみません」
立ち上がったアラスターに、兄の婚約者は、いえ、と視線を泳がす。
「わたしと顔も合わせたくないのは承知しています。これきり、二度とあなたの前に現れないことを約束しますので、少しだけ、話を聞いてもらえませんか?」
「……あなたは次期領主なのですから、そんな、頼み事のような真似」
「そうですね。卑怯でした。すみません」
「そうではなく……っ。いえ、なんでもないです。それで、お話とは……?」
「あなたがわたしの婚約者候補となったとき、カイラに会いにいった。それは間違いありませんか?」
兄の婚約者は「あ、あのときのことを責めにきたのですか?」と、ギョッとしたので、慌てて否定した。
「違います。逆です」
「……逆?」
「はい。わたしはあのとき、カイラの言葉だけを信じ、あなたの話をろくに聞きもしなかった。ですから……もう遅いですが、あなたの言葉を、聞きにきました。あなたはどうして、カイラに会いにいったのですか?」
「……あのとき、申した通りです。あなたとはじめて会ったあの日。あの方が亡くって日が浅く、私の心は深く傷付いたまま。オールディス伯爵たちの言葉に耳を貸さず、あなたに酷い言葉を投げかけましたよね。でも、考えたのです。あの方があなたを虐めていたことが本当なら、と。とても信じられませんでしたが……まずは、あなたの人となりを調べてみようと」
「だから、カイラに……?」
「あなたと愛し合っている人が、あなたのことを一番、理解しているのではないかと思いまして。ですが……信じてもらえないかもしれませんが、相手はあなたを渡さないと怒鳴ってばかりで、ほとんど会話にならず。もちろん、打ったりなど、誓ってしていません。打たれそうにはなりましたが」
「……そう、だったのですか」
兄の婚約者は、信じるのですか、と目を丸くしていた。アラスターが、苦笑する。
「兄の行いを信じられなかった気持ち、いまのわたしには、痛いほどわかります。わたしも、この目で見ていなければ、とてもじゃないですが、信じられなかったでしょうから……」
「なにか、あったのですね」
「はい、ありました。正直、いまも混乱したままですが──」
アラスターは、ゆっくりと、頭を下げた。
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「や、止めてください! 言ったでしょう? 私にも非はありました!」
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「……父の言っていた通り、あなたは、家柄も人柄も申し分なかったみたいです。わたしは本当に、見る目がない」
「それはきっと、お互い様です」
いまは違う方と婚約して、幸せです。だからどうか、気になさらないで。
そう言って、彼女は笑った。
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