死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

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「……どうして?」

 アラスターが静かに問うと、ニアは、確認したいのです、と答えた。

「わたしが腐ったものを口にして、嘔吐したり、お腹を壊したりすると、みなはこう言ってました。それはわたしが弱いからだと。わたしが悪いのだと」

「……なるほど。それはわたしも、ぜひとも確認してみたい。そう断言するからには、よほど強靱な身体を持っているということだからな。例えどのようなものを食べても、腹など壊さないだろうよ」

 低音で語るアラスターの口調には、確かな怒りが宿っていた。オールディス伯爵は二人の会話を聞いてから、わかった、と頷いてみせた。

「さすがに、この人数分の腐った食べ物は屋敷にはないだろう。探してこなければな」

 フラトン子爵が「……冗談ですよね?」と、頬をひくつかせる。オールディス伯爵は、心配するな、と苦笑した。

「表に、兵が待機している。ここにいるみなの材料を探してくるのに、そう時間はかかるまい」

「兵……?!」

 フラトン子爵は応接室の窓から外を確認しようとしたが、腕を掴まれているため、動けない。兵は本当にいるのか。何人いるのか。ここからでは把握できない。

 ごくりと唾を呑み込む。

 地方から王都まで、わざわざ兵を引き連れてきたのか。護衛だと言い聞かせようとしても、嫌な予感が脳裏をちらつく。

 フラトン子爵家にも、護衛の者はいる。だが、たった二人。動かせる軍など、もちろんない。

(……逆らえない)

 だらりと、フラトン子爵の身体から力が抜けた。それから一時間もしないうちに材料は集められ、お湯で煮ただけのスープが、フラトン子爵家の者たち全員の前に配られた。テーブルの上ではなく、応接室の床に。

 みんな、スープを前に、正座をさせられていた。

「ふざけんじゃないわよ! あんた、ちゃんとテーブルで食べてたわよね?!」

 耐えられないように叫んだのは、義姉だった。

「こんなことして楽しいの? ねえ?!」

「わたしは確認したいだけなので、楽しくはないです。みなさんはいつも、楽しそうでしたけど」

「十人座れるテーブルがこの屋敷にはないからだろう。それに、ニア嬢が貴様たちにされてきたことをそのまま体験したいなら、望み通りにしてやるが?」

 立ち上がり、義姉を見下ろし、アラスターが淡々と告げる。義姉は震え、さっと目を逸らせた。

「……わかりました。それでニアの気がすむのなら」

 フラトン子爵は床から皿を持ち上げ、スプーンで一切れの肉をすくった。これぐらいなんだと、口に含む。吐き気がしたが、なんとかスプーンを進め、それを完食した。

 フラトン子爵家の者が唖然としながらその一連の流れを見ていると、フラトン子爵はふらふらしながら、全員を睨み付けた。

「……なにをしている。早く食べないか」

「嘘でしょ、お父様……こんなもの」

 信じられないという目を向ける義姉に、フラトン子爵は怒鳴りつけた。

「誰のせいでこんな目に合っていると思っているんだ! 殺されたくなければとっととそれを完食しろ!!」

 義姉の頭を掴み、無理やり食べさせようとするフラトン子爵。これは本気だとようやく悟った面々は、涙を浮かべながら、あるいは一口食べるたびに口元を押さえながら、全員がそれを、残さず完食した。

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