死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

文字の大きさ
45 / 47

45

しおりを挟む
「クリフ。こちらにおいで」

 アラスターの呼びかけに、クリフがとてとてと駆け寄ってくる。

「なんでしょう、おとうさま。もうばじゃのなかでまっていなくていいのですか?」

「ああ。大事なことを、クリフに教えなければと思ってね」

 アラスターはクリフを抱き上げ、前に立ち尽くすカイラを見た。カイラは、嘘よ、と唖然としていた。

「……ニアさんとの子ども? 嘘……嘘よ。だってアラスターは、あたしとの子どもしか欲しくないって」

 ぶつぶつ。ぶつぶつ。涙を流しながら、カイラが呟く。呟く。

「クリフ。この人の顔を、よく覚えておくんだ。この人はわたしを騙し、母様をいじめた悪い人だからな」

 クリフは見知らぬ人にキョトンとしていたが、アラスターの説明に、どんどん目を吊り上げていった。

「……このひとは、おとうさまとおかあさまをきずつけたわるいひとなんですね?」

「そうだ。だから決して近付いてはならない。いいな?」

「はい。もしおとうさまがいないときは、ぼくがおかあさまをまもります」

 アラスターは満足げに、いい子だ、と口角を上げ、門番に顔を向けた。

「わたしの大事な妻と子どもに害をなすかもしれない存在がこの地にいると、わたしは仕事もなにも手につかなくなってしまう。だからこの女には、生涯、オールディス家の領土に立ち入ることを禁じる。手続きを頼む」

「わかりました。しかし領主様、もしかしてこの女が噂の……」

 一人の門番の言葉に、相方が、ああ、と閃いたように声を上げた。

「領主様の、昔のこい──」

「……あとでいくらでも説明するから、せめて、妻と子の前では止めてくれ」

 抱き上げたままのクリフの片耳を塞ぎ、アラスターが低く唸る。そんなアラスターの服の袖を、ニアがくいっと引っ張った。

「クリフはともかく、わたしの前ではかまいませんよ? もしなにかお話したいことがあるなら、クリフを連れてお屋敷に戻りますので……いたっ」

 無言でニアの頬を抓るアラスター。クリフが、おとうさま、と頬を膨らます。

「おかまさまのほっぺたをつねらないでください!」

 どちらかといえばアラスターに同情した門番たちは「ではこの女、連れて行きますね」と、その場をそそくさと後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...