死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

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「本当によかったのですか?」

 夜更け。先に寝ていると思っていたニアが、寝台に入ってきたアラスターの方へごろんと寝返りを打ち、小さく訊ねてきた。アラスターが横になりながら、眉をひそめる。

「……まさか、カイラのことか?」

「はい。カイラ様は心から反省したとおっしゃっていました。それが偽りではなかったとしたら、本当は、やり直したかったのではないですか? けれどわたしたちの手前、必死に我慢していたのではないですか?」

 からかうでも嫌味でもなく、本音を語っているのがわかるからこそ、アラスターは頭を抱える。

(……まだそんな風に考えてしまうのか)

 どれだけ信用がないのだろう。確認したわけではないから、確かではないが、カイラだけを信用し、愛すると言ってしまったあの宣言が、ずっとニアの奥底で根付いているような気がしてならない。

「……そうだと言ったら?」

 試すような口調で小さく訊ねると、ニアは、やはり、と上半身を起こした。

「この地への立ち入りを禁止する命、いまならまだ、取り下げられるのではないでしょうか。わたし、いまから行ってきましょうか?」

 アラスターは大きくため息をつくと、上体を起こし、ニアを抱き締めた。

「……嘘に決まっているだろう。信じないでくれ」

「嘘、ですか?」

「……当たり前だろう。あいつを目の前にしたとき、わたしがどれほど不快だったか」

「そう、ですか」

 抑揚のない口調だが、アラスターの腕の中で、ニアが安堵したようにほっと胸をなで下ろす。けれど、アラスターは気付かない。

「……あいつのせいで、久しぶりの家族の外食が、中止になってしまったな」

「そうですね」

「きみにもクリフにも、悪いことをした」

「わたしは、あなたが悪いとは思っていませんよ」

 答えながら、久しぶりの愛しい人の匂いと温もりを堪能する。

 領主となってまだ日が浅いアラスター。そのアラスターの妻として、日々、アラスターの母から教育を受けるニア。目まぐるしい日々の中、すれ違いの毎日が続き、こうして抱き締めてもらうのはいつ以来だろうか。

 いまだに、滅多に感情を表に出すことがないニア。出来ないと言ってもいいそれが動くのは、こうして、愛する人と触れ合っているときだけ。

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