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「ストイチコフ伯爵たちは、本当にデレクが、純粋だと思っているのですか?」

 淡々と、エセルが問いかける。ストイチコフ伯爵も、ストイチコフ伯爵夫人も、思っているとは答えず、ただ、目をそらした。

「わたしに黙ってルイザさんと付き合っていたあげく、ルイザさんには婚約者がいることを、黙っていました。それだけでもかなり悪質だと思いますが。いかがですか?」

 重ねて問うが、やはり答えはなく。

「わたしが愛人を認めないと。婚約を破棄すると言ったとき、デレクは、ルイザさんを責めました。そしてあろうことか、ルイザさんの頬を打ったのですよ? そんな男が純粋と言えますか?」

「そ、それは……頭に血がのぼって、つい……悪いとは思っているし、反省もしている……」

 デレクが指を忙しなくいじりながら、言い訳の言葉を口にする。エセルたちが、侮蔑の眼差しをデレクに向ける。それに気付いたデレクが、何だよ、と口調を強めた。

「ぼくは悪くない! 例え誤解だったとしても、父上と母上から、貴族は愛人をつくるものだと間違った教育を受けたせいなんだからな!」

 これには流石に、ストイチコフ伯爵たちも、怒りと呆れを感じたようで。

「お前というやつは……っ」

「もうかばいきれません。あなたなぞ、婚約解消されてしまいなさい!」

 ストイチコフ伯爵夫人の科白に、エセルは、待ったをかけた。

「お待ちください、ストイチコフ伯爵夫人。どうして婚約解消なのですか?」

「どうして? 確かにデレクは最低だとわたくしも認めますが──この子が浮気をしたと、暴力をふるったという証拠はあるのですか?」

 エセルは、不快に眉をひそめた。

「被害者であるルイザさんが証言してくれます」

「その女性があなたと結託し、嘘をついているかもしれませんよね。暴力をふるったところも、その方とあなたしか見ていなかったようですし……ねえ、デレク。あなた、本当にこの平民の女性と浮気していたのですか? 頬を打ったのですか? そんなこと、していませんよねえ?」

 ストイチコフ伯爵夫人にじっと見られたデレクが、はっとしたように顔をあげた。

「していません! 全て、その女とエセルが仕組んだことです!」

「ほら、やっぱり。確固たる証拠もなく、息子を責めるなんて、ひどいですよ。ですが、今回はデレクにも悪いところはあったようですし、婚約解消には応じてさしあげますよ」

 
 ストイチコフ伯爵夫人は、にっこりと笑った。
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