14 / 25
14
いや、駄目だ。感傷に浸っている場合ではないと、セシリーは姿勢を正した。
どうしても、伝えておかなければならないことがあったから。
「あの、サイラス殿下。わたしに婚約を申し込んだこと、両親と姉には言わないでいただけますか?」
「──理由は?」
サイラスが柔く問う。セシリーはつかの間、口をつぐんだ。けれどすぐに、この方ならと口を開いた。
「両親と姉は、機嫌が悪くなると使用人たちにきつくあたる人たちなんです。怒鳴ったり……酷いときには暴力をふるうこともあります。あの人たちはわたしを見下しているから……サイラス殿下に婚約を申し込まれたなんて知ったら、きっと不機嫌になります……だから」
セシリーが膝の上に置いたこぶしを握る。家族から見下されていることはもちろん、家族の醜悪さをわざわざ暴露しているのだから仕方のないことだが、内心では、羞恥心でいっぱいだったから。
「そうか……」
囁かれた声音に、労るような、それでいて包みこむような優しさを感じたセシリーは、思わずサイラスを見つめた。その双眸に呆れなどの感情は一切宿っておらず、セシリーはまた、泣きそうになった。
サイラスが「……優しいな」と呟く。けれどそれは、セシリーの耳に届かないぐらいの小声で。
「……え? あの、何かおっしゃいましたか?」
「いいや? とにかく、事情はよくわかった。今日きみを訊ねてきたのは──昨日の件を謝罪しに来たとでも言っておくよ。それは嘘ではないしね」
言いながら、サイラスは席を立った。セシリーが、あ、と小さく声をもらす。
「も、もうお帰りになるのですか?」
「ああ。父上たちに早くきみとの婚約を了承してもらいたいからな。もし良い返事をもらえたら、すぐにきみにしらせるよ──それでいいか?」
暗に、婚約話を進めてよいかと問われた気がして、セシリーは頬を緩めながら答えた。
「はい。お待ちしております」
けれどそれから半月が経っても、サイラスが屋敷を訪れることはなく、手紙もしらせも来なかった。
どうしても、伝えておかなければならないことがあったから。
「あの、サイラス殿下。わたしに婚約を申し込んだこと、両親と姉には言わないでいただけますか?」
「──理由は?」
サイラスが柔く問う。セシリーはつかの間、口をつぐんだ。けれどすぐに、この方ならと口を開いた。
「両親と姉は、機嫌が悪くなると使用人たちにきつくあたる人たちなんです。怒鳴ったり……酷いときには暴力をふるうこともあります。あの人たちはわたしを見下しているから……サイラス殿下に婚約を申し込まれたなんて知ったら、きっと不機嫌になります……だから」
セシリーが膝の上に置いたこぶしを握る。家族から見下されていることはもちろん、家族の醜悪さをわざわざ暴露しているのだから仕方のないことだが、内心では、羞恥心でいっぱいだったから。
「そうか……」
囁かれた声音に、労るような、それでいて包みこむような優しさを感じたセシリーは、思わずサイラスを見つめた。その双眸に呆れなどの感情は一切宿っておらず、セシリーはまた、泣きそうになった。
サイラスが「……優しいな」と呟く。けれどそれは、セシリーの耳に届かないぐらいの小声で。
「……え? あの、何かおっしゃいましたか?」
「いいや? とにかく、事情はよくわかった。今日きみを訊ねてきたのは──昨日の件を謝罪しに来たとでも言っておくよ。それは嘘ではないしね」
言いながら、サイラスは席を立った。セシリーが、あ、と小さく声をもらす。
「も、もうお帰りになるのですか?」
「ああ。父上たちに早くきみとの婚約を了承してもらいたいからな。もし良い返事をもらえたら、すぐにきみにしらせるよ──それでいいか?」
暗に、婚約話を進めてよいかと問われた気がして、セシリーは頬を緩めながら答えた。
「はい。お待ちしております」
けれどそれから半月が経っても、サイラスが屋敷を訪れることはなく、手紙もしらせも来なかった。
あなたにおすすめの小説
『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』
六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。
王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。 数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。
そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。
「復讐? いいえ、これは正当な監査です」
リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。 孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。 やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ@4月1日新刊発売!
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
旦那様は、義妹の味方をしたことを心から後悔されているみたいですね♪
睡蓮
恋愛
マリーナとの婚約関係を築いていたクルーゲル伯爵、しかし彼はマリーナにとって義妹にあたるリオーネラとの関係を深めてしまい、その果てに子どもを作ってしまう。伯爵はマリーナを捨ててリオーネラを正式な婚約者にするよう動こうとするものの、その行いこそが自分たちを破滅に導く第一歩となってしまうのだった…。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。