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死体の山と少女
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血液で溢れかえった廊下を歩き進んでいくと、その先には死体の山......、などはなく特に目新しいものは一切見受けられなかった。
にしても鉄臭い......、普通時間経過で血は固まるはずなのだが、びちゃびちゃと台風が過ぎ去った後の地面にできる水溜まりのように、血溜まりが至るところにできていた。
一応教室から職員室、保健室に体育館、はては夜な夜な出ると噂されていた、地下室にも侵入したのだが、血があるだけでそれ以外に目立ったことはなかった。
いや、血にまみれていることも相当ショッキングな光景ではあるのだが、どうやら学校中を見回しているうちに、すっかり血液に対してある程度の耐性ができたのか、最初のときほど恐怖感は消えていた。
「慣れってホント怖えな......」
慣れるようなことではないがな。にしてもここまで血眼になって(血だけに)校内中を探しても、誰もいないどころかいた形跡すらないのはどういうことだ?
副会長にしても自分のスマートフォンだけを残して雲隠れするというのは、少々気がかりだ。
ただこのスマホだけが唯一の手掛かりではあるので、あまりクヨクヨ考えていても仕方がないか......。
考えるのを止めて、俺は再び校舎内の探索を続けることにした。
そのとき、
「きゃあっ! 誰かっ!!」
「!!」
突如として誰かに助けを求める少女の声が耳に入ってきた。
他に人がいる、これだけでも今の状況ではかなりの進展だ。
だが襲われているだと? 校内に不審者でも入り込んできたのか?
......考えてる場合ではないな。
こういうときに役に立つのが消火器だ。火を消すためではなく、頑丈な鈍器として武器に使うことができる。緊急時ように校内のあらゆる箇所に設置されているしな。俺は近くに設置された消火器を一本拝借して、すぐさま少女の元へと向かっていった。
けど、ここで気づくべきだったのだ。誰が助けを求めている、だからこそ「俺が助ける」という思想はヒーローではなく、場違いな愚か者の考えであるということを......。
少女の声が聞こえてきたのは、校庭のほうからだった。よくよく考えたら校舎を調べることに集中していて、外を調査することを疎かにしていたな......。
......ただ校庭はさらに悲惨な状況だった。いや、違うな。悲惨とか凄惨とか残虐とか、それらの言葉でも簡単には表せないほどのグロテスクな光景が待ち構えていたのだ。
「なっ!? しっ、死体が......!!!?」
ずっと気になっていた校舎にへばりつく大量の血液の発生源、校内に死体が見つからなかったからすっかり安心しきっていたが、不意を突かれてしまった。
ざっと百人分はあるだろうか? 膨大な死体が山となって校庭にゴミのごとく積まれていた。
「はぁ...、はぁ...!」
動悸が激しくなる。無理もない、生まれて初めてこの目で死体を見たのだから、精神的ダメージが大きいのは必然だ。
「おえっ......」
吐き気も襲ってくる。だが吐き出しそうになるのをすんでのところで我慢した。
......聞こえたからだ。こちらに向けられた小さな声が。
「助けて......」
「! そ、そこに誰かいるのか!?」
眼前の死体の山から少女の助けが聞こえてきたのだ。よかった、まだ生存者がいる。おそらくこの大量の死体の山のどこかに、少女が潜んでいるのだろう。
ならばやることは一つしかない。生存者を助けて保護をすること、これだけだ。
普段は怠惰でめんどくさがりな俺でも、いざこうした危機的状況下となれば、アニメや漫画の理想のヒーロー像を思い浮かべてしまい、つい無謀な行動に出てしまう。
トラウマもすっかり忘れてしまった。
それでいい、気にしないことが一番だ。
ただ一つ俺は勘違いをしていた。自分は正義を重んじるヒーローではない、ただの高校2年生だということを......。
「おんやぁ? 見かけない奴がおるなぁ?」
「え?」
死体の山の背後、文字通りの死角で見えていなかった。助けを求める少女以外にも誰かがいることなど、想定していなかった。
出てきたのはボロボロのデニムジャケットとジーパンを着た、無精髭で小太りの男だった。口をモグモグとさせているとこから、何か食べているようだ。
「あ、あんたは?」
「ああん? 余所者、お前礼儀知らずだなぁ? 名乗るのは自分からだって学校で教わらなかったのかぁ?」
「......!!」
「どうしたぁ? 黙っちまって何も言い返せねえのかぁ?」
「な、なぁ、あんた? ここで一体何をしてるんだ?」
「ああん?」
僅かてはあるが見えてしまったのだ。男の背後にぐちゃぐちゃに分解されていた地面に乱雑に置かれている何かを......。グラウンドに突き刺さっている血だらけになった手斧を......。
「あ、あんたまさか......!?」
「くくっ、何だ。もう見つかっちまってたかぁ。だったら仕方ねえ、あの小娘より先にまずはお前から始末してやろうかぁ......?」
「つっ......!」
小太りの男は手斧を右手に取り、ゆっくりとこちらへ近づく。
「さぁ、楽しいディナータイムの始まりだぁ!!!」
にしても鉄臭い......、普通時間経過で血は固まるはずなのだが、びちゃびちゃと台風が過ぎ去った後の地面にできる水溜まりのように、血溜まりが至るところにできていた。
一応教室から職員室、保健室に体育館、はては夜な夜な出ると噂されていた、地下室にも侵入したのだが、血があるだけでそれ以外に目立ったことはなかった。
いや、血にまみれていることも相当ショッキングな光景ではあるのだが、どうやら学校中を見回しているうちに、すっかり血液に対してある程度の耐性ができたのか、最初のときほど恐怖感は消えていた。
「慣れってホント怖えな......」
慣れるようなことではないがな。にしてもここまで血眼になって(血だけに)校内中を探しても、誰もいないどころかいた形跡すらないのはどういうことだ?
副会長にしても自分のスマートフォンだけを残して雲隠れするというのは、少々気がかりだ。
ただこのスマホだけが唯一の手掛かりではあるので、あまりクヨクヨ考えていても仕方がないか......。
考えるのを止めて、俺は再び校舎内の探索を続けることにした。
そのとき、
「きゃあっ! 誰かっ!!」
「!!」
突如として誰かに助けを求める少女の声が耳に入ってきた。
他に人がいる、これだけでも今の状況ではかなりの進展だ。
だが襲われているだと? 校内に不審者でも入り込んできたのか?
......考えてる場合ではないな。
こういうときに役に立つのが消火器だ。火を消すためではなく、頑丈な鈍器として武器に使うことができる。緊急時ように校内のあらゆる箇所に設置されているしな。俺は近くに設置された消火器を一本拝借して、すぐさま少女の元へと向かっていった。
けど、ここで気づくべきだったのだ。誰が助けを求めている、だからこそ「俺が助ける」という思想はヒーローではなく、場違いな愚か者の考えであるということを......。
少女の声が聞こえてきたのは、校庭のほうからだった。よくよく考えたら校舎を調べることに集中していて、外を調査することを疎かにしていたな......。
......ただ校庭はさらに悲惨な状況だった。いや、違うな。悲惨とか凄惨とか残虐とか、それらの言葉でも簡単には表せないほどのグロテスクな光景が待ち構えていたのだ。
「なっ!? しっ、死体が......!!!?」
ずっと気になっていた校舎にへばりつく大量の血液の発生源、校内に死体が見つからなかったからすっかり安心しきっていたが、不意を突かれてしまった。
ざっと百人分はあるだろうか? 膨大な死体が山となって校庭にゴミのごとく積まれていた。
「はぁ...、はぁ...!」
動悸が激しくなる。無理もない、生まれて初めてこの目で死体を見たのだから、精神的ダメージが大きいのは必然だ。
「おえっ......」
吐き気も襲ってくる。だが吐き出しそうになるのをすんでのところで我慢した。
......聞こえたからだ。こちらに向けられた小さな声が。
「助けて......」
「! そ、そこに誰かいるのか!?」
眼前の死体の山から少女の助けが聞こえてきたのだ。よかった、まだ生存者がいる。おそらくこの大量の死体の山のどこかに、少女が潜んでいるのだろう。
ならばやることは一つしかない。生存者を助けて保護をすること、これだけだ。
普段は怠惰でめんどくさがりな俺でも、いざこうした危機的状況下となれば、アニメや漫画の理想のヒーロー像を思い浮かべてしまい、つい無謀な行動に出てしまう。
トラウマもすっかり忘れてしまった。
それでいい、気にしないことが一番だ。
ただ一つ俺は勘違いをしていた。自分は正義を重んじるヒーローではない、ただの高校2年生だということを......。
「おんやぁ? 見かけない奴がおるなぁ?」
「え?」
死体の山の背後、文字通りの死角で見えていなかった。助けを求める少女以外にも誰かがいることなど、想定していなかった。
出てきたのはボロボロのデニムジャケットとジーパンを着た、無精髭で小太りの男だった。口をモグモグとさせているとこから、何か食べているようだ。
「あ、あんたは?」
「ああん? 余所者、お前礼儀知らずだなぁ? 名乗るのは自分からだって学校で教わらなかったのかぁ?」
「......!!」
「どうしたぁ? 黙っちまって何も言い返せねえのかぁ?」
「な、なぁ、あんた? ここで一体何をしてるんだ?」
「ああん?」
僅かてはあるが見えてしまったのだ。男の背後にぐちゃぐちゃに分解されていた地面に乱雑に置かれている何かを......。グラウンドに突き刺さっている血だらけになった手斧を......。
「あ、あんたまさか......!?」
「くくっ、何だ。もう見つかっちまってたかぁ。だったら仕方ねえ、あの小娘より先にまずはお前から始末してやろうかぁ......?」
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