22 / 27
おまけ 1
しおりを挟む
-
アスファーの誤解が解けて、俺の心に引っかかってた不安も薄れた。
出会ったばかりで惹かれたせいもあるだろうけど、お互い……特にアスファーは思いもよらない勘違いをしていたみたいだ。
俺が大人だと理解した彼は、今まで手を出さないように我慢していたんだと告げて、抑圧していた想いをぶつけるように体を苛まれた。
怒涛のように彼に愛され、ようやく解放されて、まどろんでいた俺はふいに頭に浮かんだことにぱちりと目を開ける。
窓の外を伺うと、もう日が暮れて辺りはすっかり暗くなっていた。
「あー、俺、セッテに会わなきゃ」
結局体調不良ということで今日の勉強会はナシにしてもらっていた。
でも真面目すぎるほど真面目なセッテは、たとえ勉強会がなくても俺のことを気遣って部屋にやってきたりする。
それに王宮の人に俺が『竜の巣』にいることも知らせないと、大丈夫だとは思うけど行方不明みたいになってたら困る。
今後の勉強方針も変えてもらわなきゃいけないし、セッテに会いたかった。
何しろ俺は一人で自活する気満々で勉強していたんだ。
アスファーと俺はたぶん恋人になったんだろうし、この様子なら直ぐに別れることはないと思う。
たぶん、だけど。
別に今でも100%彼に頼っていいと安心してはいない。
今までの恋人みたいにいつか放り出されるんじゃないか、という不安は、僅かだけど俺の心の奥にこびりついている。
でも完全に知り合いもいない状態で一人暮らしする気だったから、この世界での住宅事情とか職業とか、一人暮らし前提で色々聞いていた。
誰も訪れないだろうからできるだけ安い賃貸がある地域はどこか、みたいなことを聞いていたけど、今後アスファーが恋人になるなら、__たとえこの竜の巣からは追い出されても、彼を招けるようにもう少しマシな住宅エリアを教えてもらおうか。
もちろんその頃にはアスファーが完全に俺に飽きていて、来てくれない可能性はあるけれど。
とにかく、そこらへんも併せて彼に確認しないといけない。
よ、と勢いを付けて重たい体をベッドから起こす。
アスファーが濡れた布で体を拭いてくれたから気持ちの悪さはないけど、とりあえず風呂を借りよう。
あちこち痛むけど、ゆっくりなら歩けるだろう。
床に足を下ろそうとして__ベッドサイドに腰掛けた状態で、後ろから太い腕に抱きしめられた。
「駄目だよ。会わせない」
「っ、わ、」
力強い腕が体に回されて、耳朶に小さく噛みつかれる。
ベッドに引き戻されて押し倒されて、圧し掛かるアスファーに睨まれた。
「会わせるわけない。ちゃんと分かってるのか?ウィチは俺の番だ」
「いや、でもセッテに、」
「ウィチ。他の雄の名前を出すなんて、俺のこと煽ってるの?」
彼は俺の髪をくしけずり、剥き出しになった額に口付けてくる。
口調も口づけも優しいのに、俺の上に覆いかぶさった体は力強くてびくりともしない。
彼の唇が俺の首筋にまで降りてきて、優しく、時にきつく吸いあげる。
くすぐったいのに仄かに官能を刺激するぬめった感触に、俺は体を捩った。
「何言ってるんだよ……セッテはまだ子供だろ」
「俺もお前たちが仲が良いのは、幼獣がじゃれてるんだと思って我慢してたけど……人間は、俺が思っているよりも成長が早いみたいだからな。他の雄と二人っきりにさせるなんて、もう2度とない。ウィチは目を離したら他の雄を誘惑するかもしれないし、ウィチにその気がなくてもお前の可愛さに目が眩んで襲い掛かる不埒者がでてくるかもしれないだろう?」
「いやいや、人間から見てもセッテはまだまだ子供だし、だいたい俺が他の人とどうにかなるわけないって」
「ウィチ。そんなに何度もそいつの名前を呼んで……そいつも、駆除した方がいい?」
ツキ、とした痛みが肌に走って今までよりずっと強く吸い上げられたのを感じる。
なにするんだ、と彼の顔を見ると、アスファーは至近距離で俺と視線を合わせてくる。
その瞳には、デニスを吹き飛ばした時の冷酷な色が浮かんでいて、俺は文句を言おうと思っていた口を閉じて眉を下げた。
……もしかして、他の人の名前を呼ぶなって本気なのか。
害虫でも殺すみたいに忌々し気にデニスを甚振っていたアスファーを思い出していると、ふとアスファーが酷薄そうな瞳のまま呟いた。
「そう言えば、ウィチ。なんでもするって言ってたよね」
「うん? あー、ああ、……そう言えば、そんなこと言ってたかも」
頭の中の記憶をたどって自分が何を言っていたのか思い出そうとする。
そう言われれば、そんなこと言った気もするけど、あの時は怖くてただ彼を止めたくてそんなこと口走ったきがする。
正直、怖くて何が起こってたのか覚えていない。
俺があいまいに頷くと、アスファーはその瞳を細めて、口の端を吊り上げた。
「あの時はウィチが子供だから何も分からずに言ってたんだと思ったけど……ウィチは大人だよね?」
全身から漏れ出る色気を隠そうともせずに、彼は唇を舐めた。
彼の指先が、そろりと俺の頬を撫でる。
たったそれだけのことで、俺の肌は粟立って腰にぞくぞくとした痺れを感じた。
「い、いや、ちょっと待ってくれ! あの時のなんでもするってのは、」
「ん? そう? じゃあ、やっぱりあの雄は殺して来た方がいい?」
待ってくれ。これじゃあ脅しじゃないか。
そう思うけど、俺の口はぱくぱくと声にならずに開閉を繰り返すだけだ。
笑顔を浮かべたままのアスファーだけど、こいつはやるといったらやるタイプだ。
俺が震える声で『それは駄目だ』と言ったら、アスファーは獲物を目の前にした肉食獣のような目で笑った。
「それじゃあ、……なに、してもらおうかな?」
視線が俺の体の上をゆっくりと撫でる。
その熱に炙られるようにして体に欲情の火が灯っていくのが分かって、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
アスファーの誤解が解けて、俺の心に引っかかってた不安も薄れた。
出会ったばかりで惹かれたせいもあるだろうけど、お互い……特にアスファーは思いもよらない勘違いをしていたみたいだ。
俺が大人だと理解した彼は、今まで手を出さないように我慢していたんだと告げて、抑圧していた想いをぶつけるように体を苛まれた。
怒涛のように彼に愛され、ようやく解放されて、まどろんでいた俺はふいに頭に浮かんだことにぱちりと目を開ける。
窓の外を伺うと、もう日が暮れて辺りはすっかり暗くなっていた。
「あー、俺、セッテに会わなきゃ」
結局体調不良ということで今日の勉強会はナシにしてもらっていた。
でも真面目すぎるほど真面目なセッテは、たとえ勉強会がなくても俺のことを気遣って部屋にやってきたりする。
それに王宮の人に俺が『竜の巣』にいることも知らせないと、大丈夫だとは思うけど行方不明みたいになってたら困る。
今後の勉強方針も変えてもらわなきゃいけないし、セッテに会いたかった。
何しろ俺は一人で自活する気満々で勉強していたんだ。
アスファーと俺はたぶん恋人になったんだろうし、この様子なら直ぐに別れることはないと思う。
たぶん、だけど。
別に今でも100%彼に頼っていいと安心してはいない。
今までの恋人みたいにいつか放り出されるんじゃないか、という不安は、僅かだけど俺の心の奥にこびりついている。
でも完全に知り合いもいない状態で一人暮らしする気だったから、この世界での住宅事情とか職業とか、一人暮らし前提で色々聞いていた。
誰も訪れないだろうからできるだけ安い賃貸がある地域はどこか、みたいなことを聞いていたけど、今後アスファーが恋人になるなら、__たとえこの竜の巣からは追い出されても、彼を招けるようにもう少しマシな住宅エリアを教えてもらおうか。
もちろんその頃にはアスファーが完全に俺に飽きていて、来てくれない可能性はあるけれど。
とにかく、そこらへんも併せて彼に確認しないといけない。
よ、と勢いを付けて重たい体をベッドから起こす。
アスファーが濡れた布で体を拭いてくれたから気持ちの悪さはないけど、とりあえず風呂を借りよう。
あちこち痛むけど、ゆっくりなら歩けるだろう。
床に足を下ろそうとして__ベッドサイドに腰掛けた状態で、後ろから太い腕に抱きしめられた。
「駄目だよ。会わせない」
「っ、わ、」
力強い腕が体に回されて、耳朶に小さく噛みつかれる。
ベッドに引き戻されて押し倒されて、圧し掛かるアスファーに睨まれた。
「会わせるわけない。ちゃんと分かってるのか?ウィチは俺の番だ」
「いや、でもセッテに、」
「ウィチ。他の雄の名前を出すなんて、俺のこと煽ってるの?」
彼は俺の髪をくしけずり、剥き出しになった額に口付けてくる。
口調も口づけも優しいのに、俺の上に覆いかぶさった体は力強くてびくりともしない。
彼の唇が俺の首筋にまで降りてきて、優しく、時にきつく吸いあげる。
くすぐったいのに仄かに官能を刺激するぬめった感触に、俺は体を捩った。
「何言ってるんだよ……セッテはまだ子供だろ」
「俺もお前たちが仲が良いのは、幼獣がじゃれてるんだと思って我慢してたけど……人間は、俺が思っているよりも成長が早いみたいだからな。他の雄と二人っきりにさせるなんて、もう2度とない。ウィチは目を離したら他の雄を誘惑するかもしれないし、ウィチにその気がなくてもお前の可愛さに目が眩んで襲い掛かる不埒者がでてくるかもしれないだろう?」
「いやいや、人間から見てもセッテはまだまだ子供だし、だいたい俺が他の人とどうにかなるわけないって」
「ウィチ。そんなに何度もそいつの名前を呼んで……そいつも、駆除した方がいい?」
ツキ、とした痛みが肌に走って今までよりずっと強く吸い上げられたのを感じる。
なにするんだ、と彼の顔を見ると、アスファーは至近距離で俺と視線を合わせてくる。
その瞳には、デニスを吹き飛ばした時の冷酷な色が浮かんでいて、俺は文句を言おうと思っていた口を閉じて眉を下げた。
……もしかして、他の人の名前を呼ぶなって本気なのか。
害虫でも殺すみたいに忌々し気にデニスを甚振っていたアスファーを思い出していると、ふとアスファーが酷薄そうな瞳のまま呟いた。
「そう言えば、ウィチ。なんでもするって言ってたよね」
「うん? あー、ああ、……そう言えば、そんなこと言ってたかも」
頭の中の記憶をたどって自分が何を言っていたのか思い出そうとする。
そう言われれば、そんなこと言った気もするけど、あの時は怖くてただ彼を止めたくてそんなこと口走ったきがする。
正直、怖くて何が起こってたのか覚えていない。
俺があいまいに頷くと、アスファーはその瞳を細めて、口の端を吊り上げた。
「あの時はウィチが子供だから何も分からずに言ってたんだと思ったけど……ウィチは大人だよね?」
全身から漏れ出る色気を隠そうともせずに、彼は唇を舐めた。
彼の指先が、そろりと俺の頬を撫でる。
たったそれだけのことで、俺の肌は粟立って腰にぞくぞくとした痺れを感じた。
「い、いや、ちょっと待ってくれ! あの時のなんでもするってのは、」
「ん? そう? じゃあ、やっぱりあの雄は殺して来た方がいい?」
待ってくれ。これじゃあ脅しじゃないか。
そう思うけど、俺の口はぱくぱくと声にならずに開閉を繰り返すだけだ。
笑顔を浮かべたままのアスファーだけど、こいつはやるといったらやるタイプだ。
俺が震える声で『それは駄目だ』と言ったら、アスファーは獲物を目の前にした肉食獣のような目で笑った。
「それじゃあ、……なに、してもらおうかな?」
視線が俺の体の上をゆっくりと撫でる。
その熱に炙られるようにして体に欲情の火が灯っていくのが分かって、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
375
あなたにおすすめの小説
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
恋人がキスをしてくれなくなった話
神代天音
BL
大学1年の頃から付き合っていた恋人が、ある日キスしてくれなくなった。それまでは普通にしてくれていた。そして、性生活のぎこちなさが影響して、日常生活もなんだかぎくしゃく。理由は怖くて尋ねられない。いい加減耐えかねて、別れ話を持ちかけてみると……?
〈注意〉神代の完全なる趣味で「身体改造(筋肉ではない)」「スプリットタン」が出てきます。自己責任でお読みください。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる