俺が竜人の番に抱いてもらえない話する?

のらねことすていぬ

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おまけ 1

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 アスファーの誤解が解けて、俺の心に引っかかってた不安も薄れた。

 出会ったばかりで惹かれたせいもあるだろうけど、お互い……特にアスファーは思いもよらない勘違いをしていたみたいだ。

 俺が大人だと理解した彼は、今まで手を出さないように我慢していたんだと告げて、抑圧していた想いをぶつけるように体を苛まれた。
怒涛のように彼に愛され、ようやく解放されて、まどろんでいた俺はふいに頭に浮かんだことにぱちりと目を開ける。

窓の外を伺うと、もう日が暮れて辺りはすっかり暗くなっていた。


「あー、俺、セッテに会わなきゃ」


結局体調不良ということで今日の勉強会はナシにしてもらっていた。
でも真面目すぎるほど真面目なセッテは、たとえ勉強会がなくても俺のことを気遣って部屋にやってきたりする。
それに王宮の人に俺が『竜の巣』にいることも知らせないと、大丈夫だとは思うけど行方不明みたいになってたら困る。

今後の勉強方針も変えてもらわなきゃいけないし、セッテに会いたかった。
何しろ俺は一人で自活する気満々で勉強していたんだ。
アスファーと俺はたぶん恋人になったんだろうし、この様子なら直ぐに別れることはないと思う。
たぶん、だけど。

別に今でも100%彼に頼っていいと安心してはいない。
今までの恋人みたいにいつか放り出されるんじゃないか、という不安は、僅かだけど俺の心の奥にこびりついている。

でも完全に知り合いもいない状態で一人暮らしする気だったから、この世界での住宅事情とか職業とか、一人暮らし前提で色々聞いていた。
誰も訪れないだろうからできるだけ安い賃貸がある地域はどこか、みたいなことを聞いていたけど、今後アスファーが恋人になるなら、__たとえこの竜の巣からは追い出されても、彼を招けるようにもう少しマシな住宅エリアを教えてもらおうか。
もちろんその頃にはアスファーが完全に俺に飽きていて、来てくれない可能性はあるけれど。

とにかく、そこらへんも併せて彼に確認しないといけない。



よ、と勢いを付けて重たい体をベッドから起こす。
アスファーが濡れた布で体を拭いてくれたから気持ちの悪さはないけど、とりあえず風呂を借りよう。

あちこち痛むけど、ゆっくりなら歩けるだろう。
床に足を下ろそうとして__ベッドサイドに腰掛けた状態で、後ろから太い腕に抱きしめられた。


「駄目だよ。会わせない」

「っ、わ、」


力強い腕が体に回されて、耳朶に小さく噛みつかれる。
ベッドに引き戻されて押し倒されて、圧し掛かるアスファーに睨まれた。


「会わせるわけない。ちゃんと分かってるのか?ウィチは俺の番だ」

「いや、でもセッテに、」

「ウィチ。他の雄の名前を出すなんて、俺のこと煽ってるの?」


彼は俺の髪をくしけずり、剥き出しになった額に口付けてくる。
口調も口づけも優しいのに、俺の上に覆いかぶさった体は力強くてびくりともしない。

彼の唇が俺の首筋にまで降りてきて、優しく、時にきつく吸いあげる。
くすぐったいのに仄かに官能を刺激するぬめった感触に、俺は体を捩った。


「何言ってるんだよ……セッテはまだ子供だろ」

「俺もお前たちが仲が良いのは、幼獣がじゃれてるんだと思って我慢してたけど……人間は、俺が思っているよりも成長が早いみたいだからな。他の雄と二人っきりにさせるなんて、もう2度とない。ウィチは目を離したら他の雄を誘惑するかもしれないし、ウィチにその気がなくてもお前の可愛さに目が眩んで襲い掛かる不埒者がでてくるかもしれないだろう?」

「いやいや、人間から見てもセッテはまだまだ子供だし、だいたい俺が他の人とどうにかなるわけないって」

「ウィチ。そんなに何度もそいつの名前を呼んで……そいつも、駆除した方がいい?」


ツキ、とした痛みが肌に走って今までよりずっと強く吸い上げられたのを感じる。
なにするんだ、と彼の顔を見ると、アスファーは至近距離で俺と視線を合わせてくる。

その瞳には、デニスを吹き飛ばした時の冷酷な色が浮かんでいて、俺は文句を言おうと思っていた口を閉じて眉を下げた。

……もしかして、他の人の名前を呼ぶなって本気なのか。

害虫でも殺すみたいに忌々し気にデニスを甚振っていたアスファーを思い出していると、ふとアスファーが酷薄そうな瞳のまま呟いた。


「そう言えば、ウィチ。なんでもするって言ってたよね」

「うん? あー、ああ、……そう言えば、そんなこと言ってたかも」


頭の中の記憶をたどって自分が何を言っていたのか思い出そうとする。
そう言われれば、そんなこと言った気もするけど、あの時は怖くてただ彼を止めたくてそんなこと口走ったきがする。
正直、怖くて何が起こってたのか覚えていない。
俺があいまいに頷くと、アスファーはその瞳を細めて、口の端を吊り上げた。


「あの時はウィチが子供だから何も分からずに言ってたんだと思ったけど……ウィチは大人だよね?」


全身から漏れ出る色気を隠そうともせずに、彼は唇を舐めた。
彼の指先が、そろりと俺の頬を撫でる。
たったそれだけのことで、俺の肌は粟立って腰にぞくぞくとした痺れを感じた。


「い、いや、ちょっと待ってくれ! あの時のなんでもするってのは、」

「ん? そう? じゃあ、やっぱりあの雄は殺して来た方がいい?」


待ってくれ。これじゃあ脅しじゃないか。
そう思うけど、俺の口はぱくぱくと声にならずに開閉を繰り返すだけだ。
笑顔を浮かべたままのアスファーだけど、こいつはやるといったらやるタイプだ。
俺が震える声で『それは駄目だ』と言ったら、アスファーは獲物を目の前にした肉食獣のような目で笑った。


「それじゃあ、……なに、してもらおうかな?」


視線が俺の体の上をゆっくりと撫でる。
その熱に炙られるようにして体に欲情の火が灯っていくのが分かって、俺はごくりと唾を飲み込んだ。







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