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浮気……?

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いつも通りの勤務を終えて基地に備え付けてあるシャワーを浴び、変装用の眼鏡と帽子を被ると、足早に夜の街へと足を向ける。
不審に思われてあれこれマティアスに尋ねられても誤魔化すのが面倒だから、できれば手早く相手を見つけて遅くならないうちに帰りたい。
マティアスと結婚する前は足しげく通っていた酒場の扉を押すと、早い時間だっていうのに店内はそこそこに賑わっていた。


「あれ、レイじゃん!」


明るい、でも野太い声が響いて、声の方を向くとニヤニヤと笑う男が手を振った。
俺の安直すぎる偽名を呼ぶのは、軍人の俺に劣らない逞しい体を持った金髪の男。
そのマティアスに似た金髪に惹かれて何度かセックスしたことがある。
名前はたしかケビンだ。
偽名だろうけど。


「レイ、久しぶりだなぁ。前は毎週来てたのに。」

「ああ、ちょっと仕事が忙しくて来れなかったんだよ。」

「ふーん?あの憧れのマティアス中尉が結婚しちゃったから、泣いて引きこもってるのかと思った。」


ケビンが意地の悪い笑みを顔に乗せて、俺の肩を抱いてくる。
そうだった。
こいつには俺のどうしようもない片思いがバレている。
酔ってぐずぐずと胸の内にとぐろを巻く思いを吐露してしまったことがあった。
と言っても、芸能人に憧れるようなミーハーなものだと思われていて、まさか実際の知り合いだとは思っていないようだけど。
ましてや俺がその『結婚相手』だなんて・・・まあ想像もしないだろうな。


「うるさいな、別にそんなんじゃねぇ。」


傷を抉るんじゃねぇとキツい口調で噛みつくけれど、ケビンは気にした様子もない。
肩に回された手に力が入り、顔を寄せて囁かれた。


「まぁ何でもいいよ。お前まで特定の相手つくっちゃたのかと思って、俺けっこうショックだったんだぜ?」

「自分よりモテない奴がいなくなって?」

「それもある・・・けど、分かってるくせに。」


ちゅ、と音を立てて首筋に吸い付かれてぞくりと鳥肌が立つ。
ああ、これだこれ。
分かりやすい明け透けな誘い。
体の相性も悪くないしお互い深追いはしない相手。
今日はこいつがいい。


「ケビン、場所変えようぜ。」


ケビンの顔を引き寄せると小声で呟くと、にやりと男の口角が上がった。
別にお互い好きとかじゃない。
ケビンだって俺に特別興味があるというわけじゃない。
すっきりしたいだけだろう。

だけどそれでもマティアスよりはマシだ。
思わせぶりな態度だけ取って、心をくれるどころか抱いてもくれないような相手よりは。
絶対に気持ちが通じない相手をずっと想って一人でマスかいてなんていられない。
誰かの熱を感じて、体の内側から暴いて欲しい。
ちょっと乱暴にされてもいいから・・・・・求められてるって錯覚でも感じたい。


ケビンの腕が俺の腰に回って、入ったばかりの店内を後にする。
辺りはすっかり暗くなっていたが念のため人目を避けて裏路地を選んで進む。

どこのホテルにするなんて話をされるが正直どうでもいい。
もうどこでもいいから早く突っ込まれて射精して熱を冷ましてしまいたい。

俯いて裏通りを歩く俺の気はそぞろで、だから気が付かなかった。
背後からそっと忍び寄ってきた男が、俺を羽交い絞めにするみたいにケビンから引き離すまで。


「・・・っ、な!」


強い力で抱き抱えられ、一気に軍人としての警戒心が呼び起こされる。
腕を振って、抱き着いてきた男を振り払うと・・・そこには金髪の美丈夫が立っていた。


「マティ、アス・・・!?」

「レイン。」


なんでここに。
ぽかんと口を開けてマティアスを見つめる。
するとマティアスはなぜか怒ったような顔で俺を睨んで、そのディープグリーンの瞳をケビンに向ける。


「随分と親密そうだったが・・・妻とはどういった関係だ?」

「は、妻・・・?」

「ちょ、マ、マティアス!」


ケビンに爆弾発言を落とすマティアスの口を慌てて塞ぐ。
あっけにとられた顔でこちらを見ているケビンに、ひきつった笑いを顔に貼りつけながら叫んだ。


「ケビン、いいか、ちょっと事情があるんだ。聞かなかったことにしてくれ。」


未だに状況が飲み込めていないのかケビンはぽかんと口を開けてマティアスを見ている。
それはそうだろう。
なかなかの有名人のマティアスが、今夜の相手のことを『妻』なんて呼んでいたら。

しかもなにやらマティアスは不機嫌なようだし、他人に見つかる前に立ち去らないと。
ケビンに誤魔化すのはまた今度だ。


「とにかくケビン、今日は悪いけど帰るよ。他の奴らには言うなよ。」


だが固まるケビンを置いてマティアスの腕を引いて立ち去ろうとすると、なぜかマティアスが足を進めない。
それどろか逆に引き戻された。


「だめだ、待てレイン。彼は誰か説明しろ。」


何言ってんだこいつは。
なんでそんなにケビンに絡むんだ。
まさかケビンが気になるなんて言うなよノンケのくせに。


「いやいやマティアス・・・何言ってんだ。目立ちたくないんだよ、頼むから。」


こんなところで男と揉めているのを誰かに見られて、俺はともかくマティアスに悪い噂でもたったら問題だろう。
俺が眉を下げて困り切っていると、マティアスは苦々しい顔で深いため息をついて『分かった』と頷いた。








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