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5. 望郷
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「ロルド?元気がないが、大丈夫か?」
ただ黙って皆の後を歩いていた俺の顔を、ウォーレンが覗き込んだ。
元気がない。
そう見えてしまうのか。
そうだと分かってしまうのか。
俺は心配そうな顔をしているウォーレンを見上げて、ため息を飲み込んだ。
ウォーレンに興味がないと言われたくらい、なんだって言うんだ。
そんなこと分かり切っていたことだし、別にもとから彼との間になにかあるんじゃないかって期待したわけじゃない。
彼の優しさは誰にでも与えられるものだって、さっき僧侶にも聞いたばかりじゃないか。
なのにぎゅうぎゅうと胸が押しつぶされて苦しい。
……嫌だな。
俺はいつから、ウォーレンにこんなに依存していたんだろう。
実力不足なのにパーティーに入れてもらえて、優しく守られて、それでこんな簡単にウォーレンに惹かれてしまったのか?
最初の頃は彼はただ体の大きい強い男ってだけだったのに、いつの間に。
しかも彼が好きだと気が付いてしまうのが……その張本人からの否定の言葉でなんて。
俺は歯牙にもかけられていないのだからどうしようもないことだけど、それでも暗い気持ちに肩が落ちる。
大人しくしていればバレないと思っていたのに、どうしてウォーレンは目敏いんだ。
「疲れているなら少し休んでいこう」
「大丈夫だよ。疲れてない」
俺の背中にそっとウォーレンが掌を添わせる。
だけどそれを振り払って、俺は首を横に振った。
別に疲れているわけじゃない。
精神的に消耗したせいか足取りは重くなっているけど、体は健康そのものだ。
むしろ___俺に気がないなら構わないでほしい。
そんな自分勝手なことを言いたくなって、唇を噛んだ。
同じパーティーの仲間として心配してくれているウォーレンに八つ当たりなんてしたくない。
なのにあの時のウォーレンの冷たい言葉が頭の中をぐるぐると回る。
「だけど顔色が良くない。何かあったのか?」
「本当に……大丈夫」
心配そうな顔も、優し気に響くその声も。
全て誰にでも与えられるもので、俺だけ特別じゃない。
俺なんかは特別にはなりえるはずがないんだから。
だったらせめて仕事だけでもしっかりやらなければ。
うじうじと下を向いていた自分に活を入れる。
「心配かけてごめん。ちゃんと罠とかは気を配ってるから、大丈夫だよ」
ウォーレンの特別ではなくても、それでも俺は俺にできることをしないと。
俺は努めて明るくそう言葉を放つと、ウォーレンから逃れるように小走りで先へと進んだ。
冒険者の夜は、野営が基本だ。
もちろん町に辿り着ければ宿をとれるけど、そうじゃない場合の方が多い。
幸いこの辺りは温暖な気候で野宿もそれほど辛くはない。
だけどだからと言って楽しいものではないのだけれど。
「水浴び行ってきます」
戦士や魔術師が焚火の近くで話し合っているのを横目に、俺は小声で呟いて野営をしているメンバーからそっと離れた。
簡易なテントの影から抜け出しても、誰もこちらを見向きもしない。
単独行動は俺くらいの実力だと避けるべきだけど、昨日もおとといも風呂に入れていなくて気持ちが悪かった。
ウォーレンがこの近くに魔獣はいないって言っていたから安全だろう。
そう思って歩いて数分の湖に足を進めた。
夜の月が水面に映る、澄んだ湖。
こんな綺麗なところで水浴びできるのはそうないことだ。
今日は気持ちが沈みっぱなしだった俺は、服を脱ぎ捨てるとそっと体を水に浸した。
冷たさに体がぶるりと震える。
あんまり長く浸かっていると体が冷えてしまうかもしれない。
でもなぜだろうか。
水に体を沈めて、ただ水面から月を見上げていると、俺の体も湖の一体になってしまうようで。
どこか安心するような恐ろしような不思議な気分だ。
真っ暗な空を見上げていると、自分がどこにいるのか分からなくなる。
まだ故郷の村にいるような気すらしてくる。
育ったのは、王都から何週間もかけて歩かなければ辿り着けないような小さな村だった。
この山道と同じくらいよく星が見えた。
働き者で穏やかな父と優しいけど気の強い母。
でももうその故郷はなくなってしまった。
魔獣の群れが襲ってきて、たった一晩で消えてしまった。
魔獣と戦うと外へ飛び出した父も、子供を守ると言って道に立ちふさがった母もいなくなってしまった。
残ったのは、子供で役に立たない、逃がされた俺だけだ。
山に逃げて隠れることができたそのほんの一握の村人たちも、散り散りになって会うことは二度とないだろう。
……俺はもっと強くならないと。
そうして周りの役に立って認められて求められるようになって、そしていつか……また故郷をつくることができたら。
誰かと一緒に暮らせる故郷を見つけて、そこを守れるようにならないと。
だからこんなところで落ち込んでいる暇はないんだ。
ウォーレンに求められないなら、別の人に求められるようにならないと。
それかもっともっと鍛錬を積んで、何かの役に立てるようにならないと。
大事な人ができた時に、守ることができるようにならないと。
いつまでも……帰る場所がないのは辛いから。
水の中で息を潜めるように体を揺らめかせていたら、誰かが木の葉を踏みしめる音がした。
「ロルド?元気がないが、大丈夫か?」
ただ黙って皆の後を歩いていた俺の顔を、ウォーレンが覗き込んだ。
元気がない。
そう見えてしまうのか。
そうだと分かってしまうのか。
俺は心配そうな顔をしているウォーレンを見上げて、ため息を飲み込んだ。
ウォーレンに興味がないと言われたくらい、なんだって言うんだ。
そんなこと分かり切っていたことだし、別にもとから彼との間になにかあるんじゃないかって期待したわけじゃない。
彼の優しさは誰にでも与えられるものだって、さっき僧侶にも聞いたばかりじゃないか。
なのにぎゅうぎゅうと胸が押しつぶされて苦しい。
……嫌だな。
俺はいつから、ウォーレンにこんなに依存していたんだろう。
実力不足なのにパーティーに入れてもらえて、優しく守られて、それでこんな簡単にウォーレンに惹かれてしまったのか?
最初の頃は彼はただ体の大きい強い男ってだけだったのに、いつの間に。
しかも彼が好きだと気が付いてしまうのが……その張本人からの否定の言葉でなんて。
俺は歯牙にもかけられていないのだからどうしようもないことだけど、それでも暗い気持ちに肩が落ちる。
大人しくしていればバレないと思っていたのに、どうしてウォーレンは目敏いんだ。
「疲れているなら少し休んでいこう」
「大丈夫だよ。疲れてない」
俺の背中にそっとウォーレンが掌を添わせる。
だけどそれを振り払って、俺は首を横に振った。
別に疲れているわけじゃない。
精神的に消耗したせいか足取りは重くなっているけど、体は健康そのものだ。
むしろ___俺に気がないなら構わないでほしい。
そんな自分勝手なことを言いたくなって、唇を噛んだ。
同じパーティーの仲間として心配してくれているウォーレンに八つ当たりなんてしたくない。
なのにあの時のウォーレンの冷たい言葉が頭の中をぐるぐると回る。
「だけど顔色が良くない。何かあったのか?」
「本当に……大丈夫」
心配そうな顔も、優し気に響くその声も。
全て誰にでも与えられるもので、俺だけ特別じゃない。
俺なんかは特別にはなりえるはずがないんだから。
だったらせめて仕事だけでもしっかりやらなければ。
うじうじと下を向いていた自分に活を入れる。
「心配かけてごめん。ちゃんと罠とかは気を配ってるから、大丈夫だよ」
ウォーレンの特別ではなくても、それでも俺は俺にできることをしないと。
俺は努めて明るくそう言葉を放つと、ウォーレンから逃れるように小走りで先へと進んだ。
冒険者の夜は、野営が基本だ。
もちろん町に辿り着ければ宿をとれるけど、そうじゃない場合の方が多い。
幸いこの辺りは温暖な気候で野宿もそれほど辛くはない。
だけどだからと言って楽しいものではないのだけれど。
「水浴び行ってきます」
戦士や魔術師が焚火の近くで話し合っているのを横目に、俺は小声で呟いて野営をしているメンバーからそっと離れた。
簡易なテントの影から抜け出しても、誰もこちらを見向きもしない。
単独行動は俺くらいの実力だと避けるべきだけど、昨日もおとといも風呂に入れていなくて気持ちが悪かった。
ウォーレンがこの近くに魔獣はいないって言っていたから安全だろう。
そう思って歩いて数分の湖に足を進めた。
夜の月が水面に映る、澄んだ湖。
こんな綺麗なところで水浴びできるのはそうないことだ。
今日は気持ちが沈みっぱなしだった俺は、服を脱ぎ捨てるとそっと体を水に浸した。
冷たさに体がぶるりと震える。
あんまり長く浸かっていると体が冷えてしまうかもしれない。
でもなぜだろうか。
水に体を沈めて、ただ水面から月を見上げていると、俺の体も湖の一体になってしまうようで。
どこか安心するような恐ろしような不思議な気分だ。
真っ暗な空を見上げていると、自分がどこにいるのか分からなくなる。
まだ故郷の村にいるような気すらしてくる。
育ったのは、王都から何週間もかけて歩かなければ辿り着けないような小さな村だった。
この山道と同じくらいよく星が見えた。
働き者で穏やかな父と優しいけど気の強い母。
でももうその故郷はなくなってしまった。
魔獣の群れが襲ってきて、たった一晩で消えてしまった。
魔獣と戦うと外へ飛び出した父も、子供を守ると言って道に立ちふさがった母もいなくなってしまった。
残ったのは、子供で役に立たない、逃がされた俺だけだ。
山に逃げて隠れることができたそのほんの一握の村人たちも、散り散りになって会うことは二度とないだろう。
……俺はもっと強くならないと。
そうして周りの役に立って認められて求められるようになって、そしていつか……また故郷をつくることができたら。
誰かと一緒に暮らせる故郷を見つけて、そこを守れるようにならないと。
だからこんなところで落ち込んでいる暇はないんだ。
ウォーレンに求められないなら、別の人に求められるようにならないと。
それかもっともっと鍛錬を積んで、何かの役に立てるようにならないと。
大事な人ができた時に、守ることができるようにならないと。
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水の中で息を潜めるように体を揺らめかせていたら、誰かが木の葉を踏みしめる音がした。
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(ムーンライトノベルにも掲載しています)