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10.特別
翌朝、竜の領地まで飛んでいくと、笑顔のアルディートが出迎えてくれた。
アルディートはいつも通り優しくて、それが辛かった。
「アイレ、どうした?」
「どうしたって、なにが?」
「なんだか顔色悪いし、……泣いてた? 目が腫れてる」
ふいに彼の指が伸びてきて、俺の目元をそっと撫でる。
触れあったことは別にはじめてじゃないのに、固い指先が繊細に俺の皮膚の上をすべることにぞくぞくと背筋が震えた。だけどそれを悟られまいと、俺はわざと大げさに首を横に振った。
「泣いてないよ。子供じゃないんだから、俺は泣かない」
「そう?」
嘘だ。本当は泣いた。泣きすぎて目が溶けてなくなりそうなほど沢山泣いて、泣き疲れて眠っていた。アルディートに失恋して、悲しくて子供みたいに泣いていた。でもそんなことを言ったらアルディートが困るだけだって分かっていたから、俺は言葉をごくんと飲み込んだ。
「なんかあったなら、俺に言ってよ。アイレのためなら、なんでもするから。……そうだ。鳥族の領地を出て、俺の家に住めば?」
「はぁ?」
心配そうに顔を歪ませたアルディートが、ぱっと顔を明るくして手を叩いた。
名案だとでも言いたげに、にこにこ笑いながら俺の手を取る。
「ね、俺のところに住めばいいよ。果物も木の実もたっくさんあるし、なくなったら俺がとってくる」
「え、いや、そんな迷惑かけられないし……」
「迷惑じゃないよ。そうすれば朝からずっと一緒に遊べるし、その方がお互い楽だろ?」
うきうきと言葉を並べるアルディート。幸せそうに微笑まれて、胸がぎゅうっと苦しくなった。そんなに優しいことを言って、手を差し伸べてくれるのに、なんで俺の番になってくれないんだ。俺を愛してくれないくせに、一緒に餌をとって、同じ巣で寝ようだなんて。鳥族だったら結婚の申し込みだと思われるぞ。
「無理だよ」
でもきっと分かってないんだろうな、とため息をつくと、俺は手をひらひらと振る。
一緒に住んで、その後にアルディートに番ができたからって追い出されたらたまらない。
「え、駄目? いいじゃん。嫌なところがあったら、言ってくれたら直すし……」
不満そうにアルディートは口をとがらせる。俺のことを友達としか見てない男の残酷さが憎かった。
「本当に無理だって」
「残念。じゃあ気が変わったら教えてよ」
「いや、お前ね……ただでさえ、竜族で鳥族と仲良くしてるのなんてお前くらいなんだから、一緒に住んだりしたら変に思われるぞ」
「そんなことないって」
「鳥族は思ってるよ。鳥族に興味があるなら、他の奴を誘ってやれよ」
他の奴を誘ってやれ。
本当はそんなことは思っていないけど、するりと言葉が口から滑り出てしまった。
自分が独り占めをしたいけど、気軽に一緒に住もうなんて言われて、思わず言ってしまった。
「あ、……」
ぱっと口を閉じるけど、言葉はもう戻らない。
これで、じゃあ他の奴に声をかけようか、なんて言われたら傷つくのは俺なのに。
心臓がぐっとつぶれるような気がして、恐る恐るアルディートを伺うと。
はははっ、と明るい声でアルディートは笑った。俺よりもずっと大きな口。中で健康そうな白い歯がきらきら光って、俺は瞳をそっと細めた。
「俺が興味あるのは、アイレだよ」
「……え、」
「アイレは特別だよ」
笑顔のまま、アルディートは俺を見つめる。
その瞳があまりにも穏やかで、温かかったから、胸の奥から欲がちらりと顔を覗かせる。
「……なぁ」
『最初に会ったとき、俺を見てなにか思った?』
喉までその言葉が出かかって、なんとか飲み込んだ。
最初に言われていただろう。綿埃って。
竜族は一目見て恋に落ちる。
恋に落ちた相手に、綿埃とは言わないだろう。
「どうした? アイレ」
「…………なんでもない」
唇を噛みと、下を向いた。
悲しい、悲しい。この人が自分のものじゃないのが苦しい。好きになって。俺を好きになってよ。大事にするから。絶対に浮気もしないし、悲しい思いもさせないのに。たくさん愛の歌を囀って、アルディートが毎日笑っていられるようにするのに。
アルディートが好き。好きでしょうがない。でも諦めないといけなくて、胸が裂けそうだった。
外に出せない気持ちが渦巻いて、頭がくらくらした。
「それよりアルディート……。今日は、どこまで飛ぼうか」
平静を装って出したはずの声は、小さく震えていた。
◇◇◇
次回、少し話の中の時間が飛びます。
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