13 / 13
12.フワフワ
◇
小さく泣き声を上げて目を開けると辺りは真っ暗だった。
一人きりは嫌だ。
悲しい。
寂しい。
もういなくなってしまいたい。
そう思って顔をくしゃりと歪ませたら……低い声が響いた。
「アイレ」
闇の中で浮かび上がる赤い瞳がこちらを見ていた。
何かと暗闇で目を凝らすと、蔓で編まれた団扇でアルディートがゆるやかな風を俺に送ってきていた。
「アイレどうしたんだ、寝苦しかった? それとも怖い夢でも見た? 俺の愛しい番」
番。
……そうだ。
俺はアルディートと番になったんだ。
彼が手に入らないなら寿命なんてどうでもいいと思って番をつくらないと決めたのに、突然アルディートが俺を選んだんだ。
じっと彼を見つめる俺を胸に引き寄せて、アルディートは俺の背中をさすった。
金縛りが解けたようにその体にぎゅっと抱き着く。
「アルディート、アルディート、」
「うん、アイレ。ここにいるよ」
「俺の、番だよな?」
「うん。アイレだけの番だよ」
その言葉に俺は大きく息を吐いて体の力を抜いた。
昔の夢を見て縋りつくなんて女々しすぎる。
でも何度も涙した記憶がなかなか抜けなくて、目が覚めた時に一人だとすべて夢だったのか、俺はもしかしてまだ一人なのかと取り乱してしまう。
そのせいでアルディートは俺を決して一人で眠らせないし、起きるときは側にいてくれる。
いつの間にか俺のために新鮮な果物や花の蜜も用意しているし、いつ寝ているんだと尋ねたら『竜族は生きるのに食事も睡眠もあんまり要らない。必要なのは、番の愛情だけ』と蕩けるような顔で微笑まれてしまった。
「昔の夢、見たの?」
彼は俺の求愛に気が付いていなかったことをすごく後悔しているらしく、俺が小さく頷くと俺を抱きしめて苦しそうに呟いた。
「ごめんね、俺がもっと早くアイレを閉じ込めておけばよかった」
「別にいい。気にしてない」
本当に気にしていない。
むしろ俺が何度も昔のことを思い出してしまうのは、今が幸せすぎるからだと思う。
相手にされていない意識されていないと思っていたアルディート。
まさか気が付かれていなかったとは思わなかったけど、そんなずっとずっと恋していた相手と番になれて、どれだけでも愛おしいと囀れる。
彼と一緒に過ごす日々は夢のように幸せなんだ。
「俺、アルディートと一緒に止まり木で休みたい。朝日を浴びて囀りたい。……時間はかかったけど、アルディートに会えて本当に幸せなんだ」
「俺も幸せだよ」
ちゅ、と音をたてて何度も唇が俺の頬に落とされる。
首筋を指先で撫でられて、くすぐったくてもぞもぞ動くと柔らかく微笑まれた。
「じゃあ今度、南の湖まで行こうか。あそこなら二人で止まれそうな大木があるし、誰にも見られないで水遊びができるよ」
「見られないって……竜族は本当に心配症なんだな。俺みたいな地味な羽の奴、誰も気にしない。誰かに見られても平気だって」
アルディートは、俺を番にするときに彼自身がそう宣言した通り、俺を一人で外へ出さない。
他の誰かに俺が攫われるんじゃないかと無駄な心配ばかりしている。
おかげで竜族の領土に来ているのに未だに他の竜族とは誰も会っていない。
でもアルディートも知っている通り俺は地味で誰にも奪われることはないから、そんなことに気を回す必要はないのに。
そう思って笑うとアルディートはとても微妙な顔で眉根を寄せた。
「……アイレ、気が付いていないの? アイレの羽、生え変わりかけてるよ」
「へ?」
アルディートの手が伸びて来て、そっと俺の羽をかき分ける。
彼の手に導かれて覗き込んだ俺の羽の付け根は……雪のように白かった。
「アイレは成長が遅かったんだろうね。ようやくもうじき成鳥の姿になりそうだ。きっと真っ白な翼も綺麗だと思うよ」
「嘘だろ……」
俺はずっとずっと鼠色で。
薄汚れた色で、一族の恥さらしで、誰も欲しがらない色で。
そう思ってきたのに……そんなことがあるんだろうか。
呆然と目を見開く俺の頬を、アルディートの大きな掌が包む。
間近で瞳を覗き込まれて、彼の赤い瞳に吸い込まれそうだ。
もう何度も見ているはずだしキスもそれ以上もしているのに、近い距離にどきりと心臓が高鳴る。
「だけど忘れないでね。俺は、アイレの羽の色に恋したわけじゃないよ。……俺はフワフワして柔らかい、アイレの魂に恋をしたんだから」
唇が近づいて来て、甘く口づけられる。
優しく唇を噛まれ、薄く開けた口に舌を吸われてくらりと頭の中がぼやける。
アルディートと出会ってから、ずっと心にフワフワと柔らかい、あたたかな感情が宿っている。
きっとこれは恋なんだろう。
そしていつの間にか、愛に育ったみたいだ。
◇◇◇
アルディート:他の有翼族がアイレにしていた仕打ちを『アイレに有翼族の番を作るため』に我慢していたけど、自分が番になっちゃったので鳥族の領土で暴れて追い出す。それまで有翼族は竜族のおひざ元にいることで守られていたので、散り散りになって人間に狩られて数を減らすことに。
アイレ:あんまり閉じ込められてる自覚はないまま、のんびりな日々。
またいつか、鳥族のその後も書けたらいいなと思います。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。