まいにち、晴れて

満奇

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坂本凪と辻晴香の邂逅 図書館にて1

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俺は一人暮らしの生活費を捻出するために、バイトをしている。ただ、人とのコミュニケーションが多く求められる飲食店や塾で働くことは抵抗があって、大学入学時から、大学附属図書館でのバイトを主として働いている。他にも内職みたいなことはしているけど、主な収入源は図書館バイトだ。時給は安くて、昇給もないし、金銭的なうまみが大きいとは言えないけど、よく聞くブラックバイトみたいに理不尽なシフトを組まれることはないし、授業とか学業優先が徹底されているから、俺にとっては働きやすくて良い職場だった。普段からバイトとか関係なく、勉強のために図書館に入り浸っている俺だが、バイトのことも考えると、かなりの時間を図書館で過ごしていることになる。

 今日は勉強のためではなく、15時から21時のシフトのために図書館にいた。普段のバイト中は、ひたすら本を棚や書庫に戻したり、貸出返却の手続きをしたりと、意外と忙しく過ごしているのだが、今日は少し話が違った。

 辻が図書館にいるのである。

 もちろん、成績優秀者である辻が図書館にいても、なんらおかしくないし、常連の利用者なのだが、いつもは彼が所属する経済学部系の書籍や論文が充実している東棟にこもっていることが多いから、本棟で作業する俺と出くわすことはめったにない。しかし、今日は本棟で何かを探している様子だった。

「すみません」

 結構近い距離にいるから、近づきすぎ、見つめすぎはダメだと思いながらも、ついチラチラと姿を追ってしまっていたら、話しかけられた。内心焦りすぎて、心臓ばくばくだし、どうにかなってしまいそうだったが、それを悟られないように、図書館職員の仮面を被って対応する。

「この本探してるんですけど」

「あぁ、少々お待ちください」

 彼が尋ねてきた本は、よく貸出される本なので、数冊所蔵しているものだったが、一冊だけ棚にだし、他は書庫にしまいこんでいるものだった。だから、一度書庫へ行って目当ての本を探しだし、カウンター付近でうろついていた彼に差し出した。

「この本でお間違えないでしょうか」

「はい、ありがとうございます」

 彼は人を虜にするような笑みを浮かべて、小さく頭を下げた。

「バイトされてるのよく見るんですけど、こうやってお話するのははじめてですよね」

 頭をあげたあとの彼の言葉は、丁寧で優しい口調だったけれど、彼の知らないうちに俺を傷つけている。

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