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03 ゲストハウス連続殺人事件 【後編】
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塩田社長が大学生時代のミステリー同好会メンバーで集まることになり、俺は社長の付き添いとして参加することになった。その宿泊する予定のゲストハウスでは6年前に事件が起き、そこで一人の男性が亡くなった。死因は毒殺。疑われたのはコーヒーを用意した人物だが、決定的証拠はなく事件は迷宮入りした。皆は久しぶりの再会を祝うと同時に、その迷宮入りした事件について実際にあった現場から推理してみるという予定であったが、同じ日の同じ時間に、その時と同じようにコーヒーを飲んだ海老原が突然苦しみだし、そして亡くなった。状況からして後藤が怪しいが、ブレーカーが突然落ち暗闇になった僅かな時間で後藤が消えた。だが、警察の捜索により発見された時には後藤は既に亡くなっていた。
俺達は警察の指示に従いホテルにその日に聞き取りを受け、そのままホテルに宿泊してからもう一度警察の聞き取りを受けた。どう考えてもあの状況であのメンバーの誰かが後藤かなを殺害するのは難しい。一方で福田が約束に来ず、その連絡も取れないときた。警察も福田が怪しいとみて彼の行方の捜索にあたっているようだが、福田はスマホのGPSを起動しておらず、連絡も遮断しているから時間はかかりそうだった。彼の職場によれば休みの届け出はされており、出勤はしていない。福田は独身で実家にも福田の姿はなかった。
もし、福田が犯人だとしたら既にゲストハウスに来ていて、ブレーカーを落とし、それから後藤かなを連れ去り、殺害したあと川に流す。その途中で後藤かなは遺体として警察が発見する。だが、福田が後藤かなを殺害する動機が分からない。それに、海老原が殺害された件はどうだ? カップの取っ手の向きは福田には出来ない。やはりあれは後藤かなの仕業なのか。もしくは後藤かなと福田は共犯者だった。しかし、そうなると福田は海老原に対しても動機があることになる。
そこで気になるのはミステリー同好会のメンバーの関係性だ。塩田社長曰く仲が悪かったことはなくトラブルも大学の時は少なくともなかった。大学を卒業しそれぞれの道に進んだ後も連絡を取り合っており、そこでもう一度全員久しぶりに揃わないかという話しになり、今回の集まりに繋がることになるわけだが、そもそもそれを言い出したのは誰なのか? 塩田社長が言うには後藤かなだった気がすると言ったが、高橋は福田だったと言う。だからこそ言い出しっぺの福田が現れないことに不思議に感じていた。武田は後から知らされた為に誰かは知らないとのこと。後藤かなの付き添いである荻は当然知らない。
ここで一つまとめる。
■誰が今回の集まりを言い出したのか?
①塩田社長は後藤かな(死亡)から直接聞いて彼女が最初だと語る。
②高橋は福田から直接その話しを聞き、福田が初めだと語る。
何故、違う答えになるのか、その原因は全員が揃って会話をしているわけではなく、バラバラに連絡を取り合った中でなんとなくそんな話しになったという流れからきているからだ。武田は高橋から今回の集まりを聞き、女子グループである塩田、海老原、後藤の三人の中で後藤が最初に誘ってきた。後藤が他の男子にもその話しをしていたのか、それとも男子からその話しを受けて塩田と海老原を誘ったのか?
つまり、行方不明の福田が先か死亡した後藤が先かと、確かめようのない地点に俺達はいた。警察もこれには困惑し、とりあえず福田を見つけた方が早いとみている感じだ。
◇◆◇◆◇
前田という警部に呼び出された俺は三度目の聞き取りに応じた。
ホテルの借りた部屋で警部と他刑事二人と密室で俺は少し緊張しながらも前田警部にとりあえず集中した。
前田警部は中年男性、スーツに刈り上げの短髪、顔がデカく当然髭は剃られてある。他の刑事二人の方が身重は高かった。
「何度も何度もお呼びして申し訳ありません中村さん。それで、今回お聞きしたいのは別の質問でして。後藤かなの所持品でこんなものが見つかりまして」
そう言いながら警部はタブレットで証拠品の画像を見せた。
それはA4サイズの紙に一行目には太陽、月、星の絵文字、二行目には、あなたを忘れはしない、とあった。
「この意味分かりますか?」
「分かりません。後藤かなさんが持っていたものですか?」
「そうです。私には誰かがこれを後藤さんに渡したのではないかとみています。このあなたが後藤さんを示しているとしたらそう考えられると思うのですが、あなたは何かご存知ですか? この紙や誰かが後藤さんに渡していたとか?」
「ありません」
「そうですか。因みに福田さんとは本当にお知り合いではないですか?」
「はい。前回もお話しした通り私はあの日初めて皆さんと会いました」
「高橋さんも武田さんも荻さんも同じようにあなたとは初めてになると仰った。三人からは確認がとれましたが、亡くなられた海老原さん、後藤さん、そして行方不明の福田さんからは当然ですが確認がとれません」
「私を疑っているんですか?」
「疑っているというわけではありません。ただ、気になると言いますか。同好会メンバーでもないあなたがこの会に参加していることがどうも腑に落ちないんです。百歩譲って荻さんは後藤さんと友人関係にあり、後藤さんに誘われた。でも、あなたと塩田さんはただの雇い主と従業員の関係。あなたは塩田さんとはそれ以外の関係はないと言い、塩田さんも同じ返答をした。なら、何故塩田さんはあなたをこの会に誘ったのでしょうか?」
「分かりません。正直、俺なんかは皆さんの邪魔になるだろうって。でも、社長は給料を出すと言ったので」
「正直に言いますと、私は色々な事件を見てきましたが、この事件は特に不可解だ。まず、いるべき人が集まりにおらず、むしろ不要な人が集まりに来ている。そして、次々と人が亡くなる。一晩に二人も」
「言われてみたらそうですね」
暫く沈黙が続いた。
「ゴホン……もう一度質問します。この画像に心当たりは?」
「ありません」
「そうですか。では、新たに気になったこととかありますか?」
「後藤さんの死因は何だったんですか?」
「それはお答え出来ません」
「事故か他殺か分からないからとかですか?」
「どうしてそう思われるのですか?」
「そう思ったからです。ゲストハウスから下流の方で遺体が発見された。突き落とされたのか、明かりのない夜で逃げる際に踏み外し転落したのか。もし、後者なら今回の事件は後藤かなによる海老原さん殺害の犯人として容疑者死亡のまま不起訴で事件は終わるでしょう。しかし、警部はその事に引っ掛かっている。それはいるべき人がおらず、未だ連絡が取れない状態にあるからです。そもそも福田さんは生きているのか? もし、ゲストハウスに来れなかった理由が既に亡くなっていたのなら、連絡が取れないのも説明がついてしまう。付け加えるなら不可解なことはもう一つあります。皆さんは福田さんが来なかったことを気にしつつも、事故に巻き込まれた、その可能性を誰も口にしなかったことです。言い方を変えれば皆さんは福田さんに対して私はどこかドライに感じました。しかし、塩田社長は仲が悪かったことはないと言う。社長の言うことに嘘はないでしょう。あの時、妙に感じたものは何だったのか? もし、その答えが全員が福田が来ないことを何となく気づいていた、とか」
「しかし、そうなると高橋さんは嘘を言ったことになりますね。高橋さんは言い出した福田さんが現れないことに不思議に感じたと」
「そこも気になるところです。何故、不思議に感じたのでしょうか? 普通は心配しませんか? ドライに感じた理由もそれだと思います」
「君の主張を鵜呑みにすると、全員疑わしいということになるね。君含めて」
「一つだけいいですか?」
「何でしょう?」
「殺害された海老原さんの所持品から何か出てきませんでしたか?」
三人は見合わせてから警部は「内密に頼む」と言ったので俺は頷いた。
「ドレスが見つかった。3着だ。ゲストハウスにドレスが必要だとは思わないが」
◇◆◇◆◇
聞き取りが終わり戻ると、その通路で塩田が待っていてくれていた。
「何か分かった?」
「まるで期待されてるみたいだ」
「質問に答えて」
「はい」
「何が分かった?」
「警察は二人の所持品を俺に教えてくれました。亡くなられた後藤さんと海老原さんの二人のです。後藤さんには奇妙なメッセージが。星、太陽、月。それと「あなたを忘れはしない」という言葉。海老原さんにはドレスが3着。警察から見せてもらって一つ分かったことがあります。社長は『千匹皮』をご存知ですか」
「ああ」
「その童話には星、太陽、月、ドレスの3つのワードが出てきます。そして、物語は」
「近親相姦の話しだな」
「はい。王様が王妃を亡くし、新たな女性を選ぶ際に王妃に似ていく娘を見て、その娘を選ぶという話しです」
「まさか」
「はい。後藤さんと海老原さんは名字は違いますが二人の関係は血で実は繋がっていた」
「気づかなかった」
「もし、後藤さんが海老原さんを殺害する動機が単に不仲ではなく、二人の関係、その秘密を守る為の犯行だったとしたら後藤さんはその為に海老原さんを殺害し、逃亡の途中で転落し川に落ちて流された」
「殺してまで?」
「殺してまで隠したい秘密とか、まぁ、まだ推測ですが。分からないこともあります。福田さんがどうなったのか、そしてもう一つ、それに周りは気にする素振りを見せるが心配する様子がない。社長もです。どうですか?」
「……」
「まるで皆さんの関係はツギハギのようだ。本来はバラバラでそれをミステリー同好会という括りで繋ぎ合わせている。千匹皮のように。皆さんは普段全員が揃うことはない。普段はネット上での繋がりがメインだった。それが同好会の正体じゃありませんか? 実際は他のサークルとは違い、単に同じ大学というだけで学部学科が違っていて、単に趣味が合う人同士で繋げた今どきのマッチングアプリのように皆さんはネット上で繋がりコミュニケーションをとっていった。そこではトラブルはなく、時々はリアルで会うことはするものの、ちゃんと全員がネット上以外で集まったのは今回が初めてだったりしませんか? だとしたら後藤さんが友人の荻さんを呼んだのも、社長が俺を連れてきたのも、少し不安だったからじゃありませんか?」
「そうだ」
「それ、何でもっと早く言ってくれなかったんですか?」
「悪いとは思っている……」
「他にもまだ言ってないことありますよね?」
「海老原さんと後藤さんが血縁関係なのは知らなかった。ただ、海老原さんはどこか後藤さんを好きでいるんじゃないかという雰囲気があった。でも、確証がなかった。ただ、仲がいいだけかもと」
「実際は好意だった」
「……」
「これも推測ですが、誰が言い出しっぺなのか、社長と高橋さんの話しによれば後藤さんか福田さんのどちらか。もしくはその二人が最初に考え出したことか」
「!?」
「福田さんは男性グループに、後藤さんは女性グループにそれぞれ話しを持ちかける。そうなると、言い出した人は二人になりますよね? 福田さんと後藤さんは皆さんが知らない関係にあったかもしれない。そう思うのは後藤さんが追い詰められた時、タイミングよくブレーカーが落ちた理由です。誘拐だったら後藤さんは抵抗するでしょうし、自分の足で逃げたと考えるべきでしょう。その後のことは福田さんが何かを知っているし、トラブルの渦中にある。だから誰の連絡にも出ないし知られるわけにはいかない。あとは時間が解決してくれるでしょう。ずっと警察から逃亡し続けられるとは思えませんし」
「一つ訊いても?」
俺は頷いた。
「海老原さんはドレスを何に使うつもりだったんだ?」
「実際ドレスを着て後藤さんの前に現れるつもりだったんでしょう。それだけで後藤さんにはそれが告白を意味すると分かった筈です。ただ、好きと伝えるのではなく、月が綺麗ですねという告白の言葉があるように、海老原さんは後藤にメッセージを送り私達は千匹皮の物語のように結ばれることを言いたかったんじゃないでしょうか? 好きになるまでドレスをかえ何度でも現れる」
「歪ね。それに、実際の千匹皮は娘は結婚を望んではいなかった筈。だからこその千匹皮だと思うの」
「あの物語はそもそも辻褄が合わない。結婚から逃れた筈の娘が再び父の前に姿を現している時点でね。ただ、娘は下働きに耐えられず脱したい状況を足がふとあの華やかな舞踏会へと向いてしまったのだろうと考えれば、娘は両方の全く違う世界を行ったり来たりと彷徨っていたことになる。娘の運命は結局のところ物語の結末にあるように父と娘は結ばれる。ネットで我慢していた海老原さんは遂にリアルを求めた。二つの全く違う世界の中で、私達は物語のように結ばれるのだと。海老原さんはそれに気づき福田さんに相談した。海老原さんは血縁関係の同性の後藤さんに恋をし、その後藤さんによって海老原さんは殺害され、その舞台をゲストハウスに選んだ。海老原さんには華やかな舞踏会ではなく死の舞台へ招待して」
◇◆◇◆◇
夕焼けの頃、福田は警察によって発見され、その後の聞き取りで彼は自白した。その後の供述で後藤は逃走中に誤って転落し川に落ちたとのこと。福田はショックを受け彼女を助けたかったが、既に彼女は亡くなっていた。福田は彼女をそのままにし逃亡。後藤は川の水でより冷たくなっていた。好きだった彼に置いてかれて。
俺達は警察の指示に従いホテルにその日に聞き取りを受け、そのままホテルに宿泊してからもう一度警察の聞き取りを受けた。どう考えてもあの状況であのメンバーの誰かが後藤かなを殺害するのは難しい。一方で福田が約束に来ず、その連絡も取れないときた。警察も福田が怪しいとみて彼の行方の捜索にあたっているようだが、福田はスマホのGPSを起動しておらず、連絡も遮断しているから時間はかかりそうだった。彼の職場によれば休みの届け出はされており、出勤はしていない。福田は独身で実家にも福田の姿はなかった。
もし、福田が犯人だとしたら既にゲストハウスに来ていて、ブレーカーを落とし、それから後藤かなを連れ去り、殺害したあと川に流す。その途中で後藤かなは遺体として警察が発見する。だが、福田が後藤かなを殺害する動機が分からない。それに、海老原が殺害された件はどうだ? カップの取っ手の向きは福田には出来ない。やはりあれは後藤かなの仕業なのか。もしくは後藤かなと福田は共犯者だった。しかし、そうなると福田は海老原に対しても動機があることになる。
そこで気になるのはミステリー同好会のメンバーの関係性だ。塩田社長曰く仲が悪かったことはなくトラブルも大学の時は少なくともなかった。大学を卒業しそれぞれの道に進んだ後も連絡を取り合っており、そこでもう一度全員久しぶりに揃わないかという話しになり、今回の集まりに繋がることになるわけだが、そもそもそれを言い出したのは誰なのか? 塩田社長が言うには後藤かなだった気がすると言ったが、高橋は福田だったと言う。だからこそ言い出しっぺの福田が現れないことに不思議に感じていた。武田は後から知らされた為に誰かは知らないとのこと。後藤かなの付き添いである荻は当然知らない。
ここで一つまとめる。
■誰が今回の集まりを言い出したのか?
①塩田社長は後藤かな(死亡)から直接聞いて彼女が最初だと語る。
②高橋は福田から直接その話しを聞き、福田が初めだと語る。
何故、違う答えになるのか、その原因は全員が揃って会話をしているわけではなく、バラバラに連絡を取り合った中でなんとなくそんな話しになったという流れからきているからだ。武田は高橋から今回の集まりを聞き、女子グループである塩田、海老原、後藤の三人の中で後藤が最初に誘ってきた。後藤が他の男子にもその話しをしていたのか、それとも男子からその話しを受けて塩田と海老原を誘ったのか?
つまり、行方不明の福田が先か死亡した後藤が先かと、確かめようのない地点に俺達はいた。警察もこれには困惑し、とりあえず福田を見つけた方が早いとみている感じだ。
◇◆◇◆◇
前田という警部に呼び出された俺は三度目の聞き取りに応じた。
ホテルの借りた部屋で警部と他刑事二人と密室で俺は少し緊張しながらも前田警部にとりあえず集中した。
前田警部は中年男性、スーツに刈り上げの短髪、顔がデカく当然髭は剃られてある。他の刑事二人の方が身重は高かった。
「何度も何度もお呼びして申し訳ありません中村さん。それで、今回お聞きしたいのは別の質問でして。後藤かなの所持品でこんなものが見つかりまして」
そう言いながら警部はタブレットで証拠品の画像を見せた。
それはA4サイズの紙に一行目には太陽、月、星の絵文字、二行目には、あなたを忘れはしない、とあった。
「この意味分かりますか?」
「分かりません。後藤かなさんが持っていたものですか?」
「そうです。私には誰かがこれを後藤さんに渡したのではないかとみています。このあなたが後藤さんを示しているとしたらそう考えられると思うのですが、あなたは何かご存知ですか? この紙や誰かが後藤さんに渡していたとか?」
「ありません」
「そうですか。因みに福田さんとは本当にお知り合いではないですか?」
「はい。前回もお話しした通り私はあの日初めて皆さんと会いました」
「高橋さんも武田さんも荻さんも同じようにあなたとは初めてになると仰った。三人からは確認がとれましたが、亡くなられた海老原さん、後藤さん、そして行方不明の福田さんからは当然ですが確認がとれません」
「私を疑っているんですか?」
「疑っているというわけではありません。ただ、気になると言いますか。同好会メンバーでもないあなたがこの会に参加していることがどうも腑に落ちないんです。百歩譲って荻さんは後藤さんと友人関係にあり、後藤さんに誘われた。でも、あなたと塩田さんはただの雇い主と従業員の関係。あなたは塩田さんとはそれ以外の関係はないと言い、塩田さんも同じ返答をした。なら、何故塩田さんはあなたをこの会に誘ったのでしょうか?」
「分かりません。正直、俺なんかは皆さんの邪魔になるだろうって。でも、社長は給料を出すと言ったので」
「正直に言いますと、私は色々な事件を見てきましたが、この事件は特に不可解だ。まず、いるべき人が集まりにおらず、むしろ不要な人が集まりに来ている。そして、次々と人が亡くなる。一晩に二人も」
「言われてみたらそうですね」
暫く沈黙が続いた。
「ゴホン……もう一度質問します。この画像に心当たりは?」
「ありません」
「そうですか。では、新たに気になったこととかありますか?」
「後藤さんの死因は何だったんですか?」
「それはお答え出来ません」
「事故か他殺か分からないからとかですか?」
「どうしてそう思われるのですか?」
「そう思ったからです。ゲストハウスから下流の方で遺体が発見された。突き落とされたのか、明かりのない夜で逃げる際に踏み外し転落したのか。もし、後者なら今回の事件は後藤かなによる海老原さん殺害の犯人として容疑者死亡のまま不起訴で事件は終わるでしょう。しかし、警部はその事に引っ掛かっている。それはいるべき人がおらず、未だ連絡が取れない状態にあるからです。そもそも福田さんは生きているのか? もし、ゲストハウスに来れなかった理由が既に亡くなっていたのなら、連絡が取れないのも説明がついてしまう。付け加えるなら不可解なことはもう一つあります。皆さんは福田さんが来なかったことを気にしつつも、事故に巻き込まれた、その可能性を誰も口にしなかったことです。言い方を変えれば皆さんは福田さんに対して私はどこかドライに感じました。しかし、塩田社長は仲が悪かったことはないと言う。社長の言うことに嘘はないでしょう。あの時、妙に感じたものは何だったのか? もし、その答えが全員が福田が来ないことを何となく気づいていた、とか」
「しかし、そうなると高橋さんは嘘を言ったことになりますね。高橋さんは言い出した福田さんが現れないことに不思議に感じたと」
「そこも気になるところです。何故、不思議に感じたのでしょうか? 普通は心配しませんか? ドライに感じた理由もそれだと思います」
「君の主張を鵜呑みにすると、全員疑わしいということになるね。君含めて」
「一つだけいいですか?」
「何でしょう?」
「殺害された海老原さんの所持品から何か出てきませんでしたか?」
三人は見合わせてから警部は「内密に頼む」と言ったので俺は頷いた。
「ドレスが見つかった。3着だ。ゲストハウスにドレスが必要だとは思わないが」
◇◆◇◆◇
聞き取りが終わり戻ると、その通路で塩田が待っていてくれていた。
「何か分かった?」
「まるで期待されてるみたいだ」
「質問に答えて」
「はい」
「何が分かった?」
「警察は二人の所持品を俺に教えてくれました。亡くなられた後藤さんと海老原さんの二人のです。後藤さんには奇妙なメッセージが。星、太陽、月。それと「あなたを忘れはしない」という言葉。海老原さんにはドレスが3着。警察から見せてもらって一つ分かったことがあります。社長は『千匹皮』をご存知ですか」
「ああ」
「その童話には星、太陽、月、ドレスの3つのワードが出てきます。そして、物語は」
「近親相姦の話しだな」
「はい。王様が王妃を亡くし、新たな女性を選ぶ際に王妃に似ていく娘を見て、その娘を選ぶという話しです」
「まさか」
「はい。後藤さんと海老原さんは名字は違いますが二人の関係は血で実は繋がっていた」
「気づかなかった」
「もし、後藤さんが海老原さんを殺害する動機が単に不仲ではなく、二人の関係、その秘密を守る為の犯行だったとしたら後藤さんはその為に海老原さんを殺害し、逃亡の途中で転落し川に落ちて流された」
「殺してまで?」
「殺してまで隠したい秘密とか、まぁ、まだ推測ですが。分からないこともあります。福田さんがどうなったのか、そしてもう一つ、それに周りは気にする素振りを見せるが心配する様子がない。社長もです。どうですか?」
「……」
「まるで皆さんの関係はツギハギのようだ。本来はバラバラでそれをミステリー同好会という括りで繋ぎ合わせている。千匹皮のように。皆さんは普段全員が揃うことはない。普段はネット上での繋がりがメインだった。それが同好会の正体じゃありませんか? 実際は他のサークルとは違い、単に同じ大学というだけで学部学科が違っていて、単に趣味が合う人同士で繋げた今どきのマッチングアプリのように皆さんはネット上で繋がりコミュニケーションをとっていった。そこではトラブルはなく、時々はリアルで会うことはするものの、ちゃんと全員がネット上以外で集まったのは今回が初めてだったりしませんか? だとしたら後藤さんが友人の荻さんを呼んだのも、社長が俺を連れてきたのも、少し不安だったからじゃありませんか?」
「そうだ」
「それ、何でもっと早く言ってくれなかったんですか?」
「悪いとは思っている……」
「他にもまだ言ってないことありますよね?」
「海老原さんと後藤さんが血縁関係なのは知らなかった。ただ、海老原さんはどこか後藤さんを好きでいるんじゃないかという雰囲気があった。でも、確証がなかった。ただ、仲がいいだけかもと」
「実際は好意だった」
「……」
「これも推測ですが、誰が言い出しっぺなのか、社長と高橋さんの話しによれば後藤さんか福田さんのどちらか。もしくはその二人が最初に考え出したことか」
「!?」
「福田さんは男性グループに、後藤さんは女性グループにそれぞれ話しを持ちかける。そうなると、言い出した人は二人になりますよね? 福田さんと後藤さんは皆さんが知らない関係にあったかもしれない。そう思うのは後藤さんが追い詰められた時、タイミングよくブレーカーが落ちた理由です。誘拐だったら後藤さんは抵抗するでしょうし、自分の足で逃げたと考えるべきでしょう。その後のことは福田さんが何かを知っているし、トラブルの渦中にある。だから誰の連絡にも出ないし知られるわけにはいかない。あとは時間が解決してくれるでしょう。ずっと警察から逃亡し続けられるとは思えませんし」
「一つ訊いても?」
俺は頷いた。
「海老原さんはドレスを何に使うつもりだったんだ?」
「実際ドレスを着て後藤さんの前に現れるつもりだったんでしょう。それだけで後藤さんにはそれが告白を意味すると分かった筈です。ただ、好きと伝えるのではなく、月が綺麗ですねという告白の言葉があるように、海老原さんは後藤にメッセージを送り私達は千匹皮の物語のように結ばれることを言いたかったんじゃないでしょうか? 好きになるまでドレスをかえ何度でも現れる」
「歪ね。それに、実際の千匹皮は娘は結婚を望んではいなかった筈。だからこその千匹皮だと思うの」
「あの物語はそもそも辻褄が合わない。結婚から逃れた筈の娘が再び父の前に姿を現している時点でね。ただ、娘は下働きに耐えられず脱したい状況を足がふとあの華やかな舞踏会へと向いてしまったのだろうと考えれば、娘は両方の全く違う世界を行ったり来たりと彷徨っていたことになる。娘の運命は結局のところ物語の結末にあるように父と娘は結ばれる。ネットで我慢していた海老原さんは遂にリアルを求めた。二つの全く違う世界の中で、私達は物語のように結ばれるのだと。海老原さんはそれに気づき福田さんに相談した。海老原さんは血縁関係の同性の後藤さんに恋をし、その後藤さんによって海老原さんは殺害され、その舞台をゲストハウスに選んだ。海老原さんには華やかな舞踏会ではなく死の舞台へ招待して」
◇◆◇◆◇
夕焼けの頃、福田は警察によって発見され、その後の聞き取りで彼は自白した。その後の供述で後藤は逃走中に誤って転落し川に落ちたとのこと。福田はショックを受け彼女を助けたかったが、既に彼女は亡くなっていた。福田は彼女をそのままにし逃亡。後藤は川の水でより冷たくなっていた。好きだった彼に置いてかれて。
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