模型の立体推理

アズ

文字の大きさ
2 / 3

02 ゲストハウス連続殺人事件 【前編】

しおりを挟む
 私は塩田愛花。父を事故で亡くし探偵事務所を引き継ぐかたちになり、現在その社長だ。母は私が事務所を継ぐことに反対していたし、もっと前からだと父が警察を辞めることも、その後に探偵事務所をやると言った時も大反対した。それでも最後は根負けして私達の好きなようにやらせてくれた。だが、父から探偵について色々話しを聞いたりはしていたが、運営は好景気とはいえなかった。
 現在の社員はたった一人。私の隣で運転する彼は中村直人。父が残した未解決事件の解決にかなり役に立ったが、たまに彼は集中しているか集中力が切れてる時に敬語を忘れるところがある。私は気にしないが、そんな中村はこの会社を辞めたがっている。手取りが20万いかないでずっとやっていけるとは流石に思っていないだろう。彼が本当に会社を辞めると言ってきたら、私は呼び止めるつもりはない。その方が彼の為だからだ。




 乾いたアスファルトを車が走り、二人を乗せた白の社用車は群馬へと向かっていた。事務所に飾るダルマをわざわざ遠くの群馬で買っていた。父がそうしていたからというのもそうだけど、群馬はダルマが有名だ。群馬で買ったダルマは群馬の寺におさめるべき。そうやって特に信仰心とかあるわけではないのに、根付いた文化に自然と従っている。
 途中釜飯を食べて、ダルマの店に行き注文したダルマを受け取る。代金を支払い車に戻ると中村は地図をスマホで確認してからエンジンをかけた。
「これから会うのは大学当時のミステリー同好会のメンバーってことですよね? 関係のない自分が一緒に行って良かったんですか?」
「もう既にメンバーには伝えてある。事件解決に参加していた君に皆は興味津々だったよ」
「え? そんなたいしたことはしてませんよ。ただ、社長と模型と資料から推理しただけです。むしろ、未だに金田茂の奥さんが自白したのが驚きです。勿論、罪に耐えかねて早く楽になりたかったというのはあるんでしょうが」
「鍵をとりつけたネジ、あれは倒産した金田のとこのネジだった。証拠品は警察が保管してあるし、あれがあとからつけられたものかは証明できるだろう。鍵の取り付けを簡単に外れるように細工されてあったのなら、当然金田茂が取り付けたものではない」
「成る程」
 車は群馬にあるとあるホテルへと向かった。そのホテルで約束したメンバーが時間通り集まった。
 一人は背が高く痩せ型、建築会社に現在勤めているという高橋裕太。上下がほぼ黒色で統一してある。髭はなく丸眼鏡が特徴といったところか。
 二人目は中肉中背の茶髪のポニーテールに白いスカートを履いている後藤かな。名前のかなはひらがなになる。現在は中学の国語の教師。
 三人目は海老原真帆。ブレイズヘアという頭にチャラそうな格好、ジャラジャラしたネックレスをかけて香水が鼻につく。だが、実はこの中で唯一婚約していて子どもがいる。今は子どもを実家に預けてあるのだと。
 四人目は小太りの武田タケル。母親がペルーで父親が日本人のハーフ。彼からはタバコ臭が漂っていた。かなりのヘビースモーカーなのだろう。
 そして、ミステリー同好会ではないものの後藤かなの付き添いである三つ編みの荻奈月は小柄で介護福祉士の仕事をしている。
 すると、高橋が皆を見て「あれ? 福田がいないじゃん」と言った。周りもそれに気づいたが、何故福田がまだ来ていないのか皆知らなかった。
 その福田四郎は役所勤めの公務員。時間や約束事を疎かにするような人ではないらしいが、現に約束の時間を過ぎていた。高橋が受付でホテルに既に福田という男が来ているかどうか確認にしに行って暫く戻ってくると、まだ福田はホテルに来ていないことが分かった。その後、高橋はスマホで電話をかけてみるが、繋がることはなかった。後藤は「移動中で電話に出れないだけとか?」と言って「先に私達だけ行ってようよ。そう、メッセージに残しておけばいいと思うし」と提案し、皆そうしようということで、一人不在の5人と塩田と中村は旅館から徒歩5分するバス停でバスに乗り、そこから約10分移動したところにあるゲストハウスに向かった。
 木造の二階建てに広い共有スペースのリビングに広いお風呂、客室は全て二階になっている。近くには川が流れており、秋には紅葉がゲストハウスを囲む。だが、今はまだ残暑が続く時期で紅葉を楽しむには早すぎる。では、何故この時期にかつてのミステリー同好会がこうして集まったのか…… 。
 塩田の荷物を二階客室に持っていきながら塩田は不吉なことを語り始める。
「このゲストハウスにはあれが出るという噂がある」
「え、それって幽霊ってことですか?」
 塩田は頷いた。
「このゲストハウスは6年前に一人の男性が殺された。殺害方法は警察の調べによると毒殺、実際その被害男性はコーヒーを飲んだ直後急に苦しみだし、そして亡くなられた。だが、その事件は不可解なんだ。事件当時、コーヒーを全員分揃え持ってきたのを仮にAさんとし、お盆から先に選び取ったのはその被害者男性だ。Aさんかしてみたら、誰がどのコーヒーを取るかは分からない。因みに、全員ホットコーヒーだったから、アイスコーヒーに使える氷に毒を仕込み、溶けた氷から毒が混入する、そんなトリックは使えないことになる。重要なのは誰が混入をしたのか」
「え、それじゃ犯人は捕まってないんですか」
「警察は分からなかった。全員の荷物検査をしても毒物は見つからなかった。警察としてはどうしても毒物と犯人が繋がる証拠がなければ犯人を捕らえることが出来ない」
「それで、塩田社長はその事件誰が犯人だと思うんですか?」
「それを久しぶりに会ったメンバーで推理をするんだ」
「どうして久しぶりに会ったのに未解決事件の推理になるんですか」
「忘れたのか? 私達がミステリー同好会だったのを」




 階段は一つ。その階段を降りながら塩田は話しを続ける。
「被害者は砂糖を飲む前に入れた。だが、先に砂糖を入れたのはその被害者で、その後にも三人が同じ砂糖を使っている。その三人には何の異常もなかったし、砂糖からは毒物は検出されなかった」
「なら、やはり被害者がコーヒーを手に取ったそのカップには既に毒が混入されてあったことになる。警察は当然そのAさんを疑ったんじゃないのか?」
「それはそうなるけど、狙って出来る犯行ではない。お盆には手前にカップが3つ
奥に2つで5人分、うち被害者は手前の真ん中を取っている。偶然としか言いようがない。カップは全て同じ。被害者が特別潔癖症でこだわって選んだとも言えない。被害者にそのような癖はないし、むしろ大雑把な方だ」
「でも、毒が混入されていたカップはその一つだけだったんですよね?」
「そうだ」
「因みに被害者男性を殺害するような動機はあるんですか?」
「5人は大学の同じサークルだった。その5人に何か裏であってもおかしくはないが、警察は特に被害男性が誰かとトラブルになっていたという話しは出てこなかったという」
「動機が見当たらない事件ですか」
「動機は犯人と被害者にしか知り得ないことかもしれない」
「その被害者男性、なにか癖とかなかったですか?」
「癖?」
「えぇ。心理的にその被害者はそのカップを選ぶ。例えばいつも真ん中のカップを取るとか」
「それを知っていたら他の誰かが警察に話していただろう。でも、恐らくは皆が見落とす程に自然なものだったり……」
 すると、海老原が突然現れ「なになに、もう話し始めてるの? ダメだよ、皆でそれを話すのにズルしちゃ」と言って左手で塩田の頬をツンツンし始める。
「分かった、分かったって」
「よろしい」




 それから全員が揃い福田の連絡がないまま焼肉パーティーを先に始め、腹をいっぱいにし、女性から先に風呂に入りながら男性は後片付けをする。そうこうしているうちに、窓の外は徐々に日が落ちていった。
「福田、結局来なかったな」と高橋が武田は「連絡にも出ないし、メッセージも既読にならないけど、なにかあったのかな」と返した。
「そういえばさ中村さん」
「はい」
「塩田とはどんな関係なの?」
「え?」
「いや、普通社長と単なる社員って関係じゃないでしょ」
「いえ、何もないですよ」
「え、マジで言ってるの?」
 すると、咳払いがした。振り向くとパジャマ姿の塩田が立っていた。
「何勝手なこと言ってるの」
「うわ、怖っ」
「全く……」
 それから、男性の番が回っていき、風呂からあがった頃には外は暗くなっていた。
 夜の8時。それを見て、全員はまず黙祷した。この日、この時間帯が事件のあった日だからだ。
 すると、後藤と荻が席を立ち「皆の飲み物を用意するね」と一旦テーブルから離れた。
 暫くして、お盆を持った荻が現れた。それを見て海老原が第一声に「うわっ」と言った。お盆に乗っていたのはホットコーヒーだったからだ。食器は陶器のティーカップ。砂糖はテーブルの中央に。
「誰が先に取る?」と高橋が言うと、海老原は「それじゃ私から」と言って手前の端を取った。
「やはり真ん中は避けるか」と高橋は笑いながら言った。その後、全員がコーヒーを取り、砂糖を入れる人は入れると、一斉に全員がそれを口にし飲み始めた。
 事件現場の家、そして時間とコーヒー。再現され何か分かるかもしれない。そう思った矢先、突然海老原がカップを落とし苦しみ始めた。
「え、嘘でしょ」と塩田。皆も驚く。
 苦しみながら海老原は倒れ、そこから全く動かなくなった。
 塩田は恐る恐る彼女の脈をとる。俺はその様子を見て、ふとあることに気がついた。
「死んでる」
「違う! 私じゃない」と荻。
 俺は荻に訊く。
「あなたがコーヒーを入れたんですか?」
「はい……でも、私じゃ」
「それではカップはあなたが?」
 後藤は頷いた。
「カップは食器棚から出したものです」
「私じゃありません! 本当です」
「荻さん、俺はあなたがやったとは思っていません」
「え……」
 すると高橋は「何を勝手なこと言ってるんだ」と言った。だから、俺は答える。
「荻さんはただ後藤さんに付き添いで来た。当然、海老原さんとは初対面だ。俺もそうだが、彼女には海老原さんを殺害する動機がない。それに、犯人は分かりました」
「本当!?」と武田は驚く。
「本当です。彼女の手を見て俺はこの人が左利きなのが分かりました。薄っすらとですが、腕時計をしたあとの日焼けが残ってます」
「確かに彼女は左利きだ。だからどう……そうか!」
「塩田社長も分かったと思いますが、犯人はカップの持ち手の向きを一つだけ左にしたんです。海老原さんは真ん中を避け自然と選んだのがそのカップだった。でも、左利きの彼女にとってはカップの取っ手が唯一左のを選んだことになる。無意識的に体が取りやすいものを気づいたら選んでいた。犯人はこのトリックに気づいていた。そして、今回の殺人に利用できると思った。違いますか? 後藤さん」
 全員の目線が後藤にいく。
「言い逃れは出来ない。私は海老原さんが選んだのが左に取っ手が向いていたのを覚えています。そして、それ以外は右に向いていた」
「待ってよ! 私じゃない! おかしいでしょ? 私が疑われるの分かってやるわけない」
 その直後、証明が切れて真っ暗になった。
「なんだ!?」
 皆がざわざわと騒ぎ、高橋がスマホで明かりをつける。皆も続いてスマホの明かりをつけて辺りを照らすと後藤がいない。
「後藤は!?」と高橋は言って皆辺りを探す。高橋は玄関の方へ向かった。そこにブレーカーがあり、それを照らすと落ちていたのが分かる。ブレーカーを戻し電気が復活すると、証明がつき皆はゲストハウスの全ての部屋、外の周辺を見て回った。だが、後藤の姿は見当たらなかった。
「どこに行ったと思う? そう遠くへはいけない筈だ」
 高橋の言う通り、周囲に明かりはなく荷物をそのままにして遠くへ一人で行けるとは思えない。バスも既に今日の運行は終了している。
「まさか、後藤が……」武田はそう言った。
 荻はずっとリビングで泣いていて、その背中を海老原が擦っている。
 俺のそばに来た塩田は訊く。
「どう思う?」
「ブレーカーが落ちたのは偶然じゃない。誰かの仕業だ。だが、後藤がそれをやったとは思えない」
「共犯者?」
「いや、それはない。ここにいた全員の中から誰かがブレーカーを落としに行ったら流石に気づく」
「気になることが一つ」
「福田さんが何故来なかったのか。連絡が取れないようだけど」




 だが、俺は完全に思い違いをしていた。明日、警察の捜索で川の途中に後藤かなの遺体が発見されたからだ。
 後藤かなは何者かに殺害された。これは連続殺人事件だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...