ロリーの尻尾

アズ

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02 喧騒な夜の仮面舞踏会

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 あれから半年後。怪しい研究所から脱走した少年ロリーの尻には茶色い2本の尻尾が生えていた。それを追う怪しい連中から逃げるように、父親探しの旅は一旦途切れ南から東の喧騒な大都会へと逃げた。
 大都会ではお洒落な服や化粧、高価な宝石を身に纏った女性や葉巻を加えたピカピカに磨かれた靴を履いたブランドを全身に纏った男など、外見がまるで他の町とは大きく違った。特に華奢な女性がよくモテられた。その中でもモデルと呼ばれる容姿端麗な絶世の美女は常にスポットライトに当たっていた。だが、ロリーにはこの人達の本性がよく分からなかった。それはブランドものに知識や関心がないからとかよりもむしろ、仮面の下にある憔悴した顔が見え隠れしているような気がした。こんな大都会にずっといたらかなり疲れるだろう。色んな人の目線を気にしながら生きているのだから、むしろ自由とは程遠く感じる。何故、この人達は他者を意識して生きているのだろうか? 今直ぐにでも鎧戸を閉めて外からの景色が見える窓を遮断すれば、少しはまともな暮らしを取り戻せるだろうに。
 どこを見渡しても端正な顔立ちの住人ばかり。あちこちに整形手術を宣伝する看板ばかりだ。
 その中に怒鳴り散らす女性が一人いた。ロリーは三角屋根の上からその様子を見ていた。
「今すぐ私の顔を治して!」
「だから同意書にも書いてあるでしょ? 手術には一切の責任は持たないと。あなたはそれに同意したわけですから、お引き取り下さい」
「そんな! あんまりだわ! ただ綺麗になりたかっただけなのに、なんでこんな酷い顔になるわけ」
 しかし、医者はそれ以上受け付けようとはしなかった。ロリーは屋根から降りて、その女の所へと向かった。
「誰?」
「大丈夫ですか?」
 ロリーはそう言ってハンカチをその女性に渡した。
「ありがとう」
 その白いワンピースの女性の顔はあまりにも酷い腫れをしていた。その目からは女の涙が流れていた。
「本当……罰なのかしら?」
「綺麗になりたいと思うことが罰なんですか?」
「え?」
「あの医者は何故あなたを救おうとしないんですか?」
「あの医者はやぶ医者なのよ。実は私以外にも同じ被害者がいるの。皆、あの医者に騙されてるのよ」
 女からは憤懣ふんまんやるかたない気持ちと後悔と悲しみが同時に感じられた。




 この都市に来て一番驚いたのは沢山の整形の病院があったこと。何故そこまで人気なのかよく分からない。ありのまま生きるのもありだろう。だが、それでは駄目だと思い込んでいる人もいるのは確かだ。
 ともあれ、女性の期待を踏みにじり金儲けに目をくらんだ闇医者には成敗が必要だ。
 その日の夜。酒屋が密集している所では夜中でも賑わっていたが、医者のいる住宅街のとある一角、4階建ての最上階の住宅に屋根からバルコニーへと侵入したロリーは高そうな絨毯と高級家具に囲まれた広々とした部屋を抜け、医者をとりあえず探した。
 だが、医者は簡単に見つかった。暖炉のある一室で葡萄酒の入ったグラスを片手に雑誌を読んでいた。医者はバスローブ姿で少年にまだ気づいていない。振り子時計の音の方が大きく感じる程に静かな部屋で少年は忍び足で侵入した。
 途中、少年は自分の外套がいとうを脱いで近くにあった椅子にそれをかけると、護身用に手に入れた切れ味の鋭いナイフを持ち構えると、一気に背後から医者の首元にナイフの刃を当てた。
「な、なんだ貴様は!?」
「動くな。昼間に来た女のことは覚えているか?」
「女? あぁ……あいつの差し金か。まさか、殺し屋を雇うとはな。で、いったい幾らで雇われたんだ?」
「雇われてなんかない」
「何? それじゃ何の目的だ?」
「お前は聞かれたことだけ答えろ。あの女性以外にも何人か被害者がいるな」
「整形にはリスクがつきものだ。それは連中にも分かっていたことだ。同意書がその証拠だ。なんなら訴えたって構わない」
「本当にいいのか? お前のしたのはまだ認可されてない手術だろ。客には新しい整形だとか言って」
「ふん……知っていたか。だが、それはお互い強欲だったってところだ。俺だけが責任じゃないだろ? お互い様じゃないか。金なら支払う。よく見れば君はまだ子どもじゃないか。殺し屋なんてやめろ。どっかで恨まれてろくな死に方をしない」
「お前はどうなんだ?」
「俺か? 確かに恨まれることは幾つかしただろう。だが、それは殺される程じゃない。言ったと思うがリスクはつきものだ。この家を見てみろ。こんないい物件で豪華な食事や高価な家具に囲まれ、宝石だってある。俺が単にヤブ医者ならこんな暮らしは出来ない。地位もだ。沢山の患者を観て幸せにもしてやった。全て失敗したわけじゃない」
「なら、臓器の斡旋の件はどうだ?」
「何故それを!?」
「お前は子どもの臓器移植の斡旋のパイプ役なのは知っている。それだけじゃない。違法に子どもを誘拐してだ。その実行犯の素顔がばれたらお前は整形でそいつらの顔を変えて見つからないようにもしているな。もし、実行犯が捕まってそいつらがベラベラと喋りだしたら警察がお前に辿り着く可能性があるからだ。違うか?」
「どこでそれを知った!?」
「俺はその実行犯を知っている」
「くそっ!」
「お前は終わりだ」
「俺をどうするつもりだ? 俺を殺すのか? いや、違うな。もし、殺すつもりならとっくにやっている。今、こうして会話しているのもお前にとってはリスクな筈だ」
「お前に一つ訊きたい。お前がこの事件の黒幕でないことぐらい分かってる。その黒幕は誰だ?」
「知らん」
「信じると思うか?」
「お前の復讐が組織だということはだいたい分かった。だが、お前分かってるのか? お前の家族だって無事に済まない。何世代だろうと組織は追っかけ全員殺すだろう」
「その脅しは聞き飽きた。俺には約束がある。組織の犠牲者になった子供達に復讐を誓った」
「それじゃお前も誘拐された子か」
「さぁ、早く言え! 黒幕は誰だ」
「殺せ! お前なんかに喋るか。だがな、ここから生きて帰れると思うなよ」
 その直後、ドアが蹴破られぞろぞろと銃を装備した物騒な顔連れの男達が現れた。そいつらの目は獣のようで、まるで殺しを何とも思っていないようなそんな危険なニオイが連中から漂っていた。
「お、おい、お前達、俺を助けっ」
 医者が助けを求めようとする最中で連中は医者の言葉を銃声で遮った。一斉に放たれた弾丸の雨は近くにあった花瓶を割り、床に花が落ちて一面が水浸しになり、壁と壁画と壁掛けの時計に穴が無数にあいた。白いバスローブには赤い血液が複数出て男はあっという間に息を引き取り、その後ろに隠れるように頭を下げたロリーはなんとか無事だった。銃を持った連中も少年が医者を盾にして助かったことに気づいていた。仲間の二人が合図を送り回り込む。少年はその気配にいち早く気づき、研究所にいた組織の連中から奪った拳銃の安全装置を解除すると、その一人に向かって3発引き金を引いた。発射された弾のうち一発は肩に命中し、そのせいで持っていた銃をその男は床に落とした。仲間が目の前でやられても助けるより先に銃を撃ったロリーに向かってまた激しい銃撃を浴びせた。
 それは数秒間だった。
 顔にまでタトゥーを入れている男が合図し発砲をやめると、そいつが倒れ込んでいる少年に近づいた。
 やったか?
 顔は見えない。顔はうつ伏せていた。だから、男は完全に近づく前に確実に後頭部へ銃口を向け引き金を引こうとした。だが、それよりも早く懐に隠していた拳銃でその男を殺られる前に殺った。
 また一人の男が倒れた。
 ロリーは血だらけのまま起き上がり立ち上がった。
 撃たれたのは右腕、左横腹、左胸だ。
「何で立ってられる」
 少年は答えなかった。かわりに尻の方から2本の尻尾が現れた。
「まさか例の実験の被験体!? しかも、尻尾が2本だと」
「尻尾が2本あると驚異の生命力を持つ。それは、寿命は伸び超速再生を得る」
「ば、化け物……」
「その化け物に変えたのはお前達だ」
「か、構わん。撃て! 撃て!」
 一斉にロリーに向かって撃ち始める。
「いくら超速再生でも不死身ってわけじゃねぇ!!」
 連中は弾が尽きるまで撃ち続けた。
 カチ、カチという音が鳴り、弾が尽きると男達はニヤリと笑みを見せた。
 これで殺ったと思った。
 だが、ロリーは立ち上がった。口から弾丸を吐き出すと、体にあいた穴は次々と塞がっていく。
「そんな……」
「それぐらいじゃ死ねないよ」
 すると、男は手榴弾の安全ピンを外しロリーに向かって投げた。ロリーは転がる手榴弾を拾って直ぐに連中へと投げ返した。
「うわー!!」
 連中はどよめいたがもう手遅れだった。連中のいる場所で手榴弾は爆発し、何人かを巻き込んだ。
 ロリーはその間に部屋から抜け出し、入ってきた場所と同じ部屋へ向かってバルコニーに出ると、4階から地上へと飛び降りた。
 あれだけ派手に銃撃戦をやったんだ。誰かが既に通報を終えている頃だろう。警官がやってくるまでそう時間はない筈だ。となれば長居は無用。とっととその場から走り去った。



 後日。夜の銃撃戦による殺人事件は大都会の治安に不安を与えた。だが、それも時間がたてばまたいつもの日常に戻る。大都会はそういうところだった。
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