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07 VSカーペンター
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世の中にはとんでもない悪党がいる。そいつらは自分がどれだけ腐っているかも気にしない。マッサージ店を爆破したのはあの蝶ネクタイの男が俺を見た目つきは疑っている様子だった。それでも店を爆破させる程に潔くあの一瞬で判断したとはまず思えない。しかし、爆破は起こった。もし、外部からの攻撃だったとしても内部から爆発が起こるなんてことはあり得ない。
建物が燃え上がり、あちこちで火事を見ようと外には野次馬が集まっていた。あの爆発音からして相当の野次馬を呼んだだろう。
聴覚がイカれて暫くは無音が続いた。視界も暗闇で、それらは同じタイミングで再生し視界と聴覚が戻っていく。辺りは炎でバチバチと音が鳴っている。後方を見ると、俺を案内した男が倒れていた。ロリーは肩を揺すり意識を確認したが、男から大量の血液に気づくとロリーはそっとしてやった。
辺りを見回しても酷い有り様だった。客も未成年も全て巻き込んで、あの蝶ネクタイの男は無事きっと脱出しただろう。
「生かしちゃおけない。あんなクズは」
ロリーは走り窓から飛んだ。空高く。そして地面に着地すると、その野次馬に混じって火事の様子を見ていたあの蝶ネクタイの男がいた。
男は俺を見て驚愕し、何か言いながらリボルバーを出しロリーにその銃口を向けた。周囲にいた野次馬は悲鳴をあげる。
「あれで俺を殺せたと思ったのか?」
「な、なんなんだお前は!?」
「力を得るのはなにも不死身だけじゃない」
パワー、嗅ぎ分けられる鋭い嗅覚、視力といったあらゆる身体能力が向上している。
だが、男は構わずリボルバーの引き金を引いた。ロリーはそれを片手でキャッチすると、その弾丸を見せるように地面へと落とした。
男は目の前の相手が敵う相手でないと分かると、一目散に逃げ出した。
風は強く、通りの提灯が揺れ動く。夜空には火の粉が飛んでおり、その夜空をひょいとかけると、ロリーはその男の目の前に現れ、男がロリーに反応しきる前に男を押し出した。男は勢いよく後方へと吹き飛び、背中から勢いのまま落下し強打した。男は苦痛の声をあげた。
ロリーはそんな男に言う。
「お前のしたことは許されない。お前には檻の中で一生をそこで暮らしてもらう」
最早、この男に希望などなかった。例えここで殺されなかったとしても、その後の地獄がこの男に待っている。
すると、ロリーは野次馬から一斉に拍手喝采を受けた。
だが、ロリーにとって拍手喝采を望んでいたわけではない。これはヒーローでもなく復讐なのだから。ただ、少し思うのは、この復讐が結果として誰かを救うことになっているのなら、自分はダークヒーローにでもなってやろうと。
ロリーはそのへんに転がったままの男に既に興味を無くし、その場から立ち去った。あの男を指示した誰かがいる筈だ。組織の幹部はだいたいが尻尾持ち。あの男が組織の全貌を把握していたとは思えない。とは言え、あの男にはまだ利用価値がある。例えば会うことが出来なかったブローカーについて聞き出せていない。あの男が建物を爆破したのは証拠隠滅も含めてだと思う。どこまで情報が漏れ出しているか分からない以上、全てを焼死体と残骸だけにしておけば、あとの罪はあの部屋に向かった俺達に仕向けられる。一番炎の勢いがあったであろう箇所はそこになる筈だからだ。あとは気の狂った焼身自殺に爆弾を使ったと言い切り、警察はそれ以上の証拠を発見することはない。
だが、それはあの男の頭の中で考えられた一瞬の判断、そして用意周到、どれもあの男にはそんな凄さは微塵も感じられない。
おそらくはブローカーだろう。あの部屋にブローカーはおらず、受け付けに実際に来た男を見た蝶ネクタイの男からブローカーに連絡し、ブローカーが命令、もしくはブローカーが爆破させたか。その冷徹非道さはもう普通の人間ではない。
そしてもう一つ、遠隔操作による爆弾を何かあった時用に設置してあったというのは、普通の一般常識では考えられない。金になる箱を簡単に捨てられる潔さを事前に腹をくくってまで備えるなんて異常としか言いようがない。
ますますその男が気になった。
推測が正しければ、ブローカーはこれから警察に連行される男を放置したりはしないだろう。ブローカーが動くとしたらその瞬間。
消防と共に警察が現れ、その場で連行された男は近くの署で取り調べを受けることになった。その男の様子は落ち着きがなく、何かに怯えている様子だった。念の為に薬物検査が行われたが結果は陰性。その後で取り調べは再開されたが、様子が一変し何か吹っ切れたように今度は質問に素直に答え、罪に関しては自白を始め饒舌になっていった。一部の捜査官は事件は想定よりも早期に起訴へと持ち込めるだろうという期待があった一方で、取り調べにあたっていた捜査官にはむしろ違和感を覚えた。数多くの犯罪者と対面してきた経験から感じた直感は検査の為に取り調べが一時中断されたその間に心境の変化をもたらす何かがあったのではないかと疑った。しかも、それは署内で起きた。いったい何が彼を変えたのか?
「つまり、お前は自分の店を自分で爆破させたと言うんだな?」
「そうだ」
「俺には分からない。何故だ? 確かに目撃者の多くはお前が言う少年を確かに見たと言っているが、お前とは初対面だったんだろ? そいつを殺す為にわざわざ爆破させたと言うのか?」
「それだけじゃない。何度も言わせないでくれ。いいか! 俺を逮捕するなら俺にそれを命令した組織の連中も必ず逮捕してくれ。証言が必要ならいくらでも協力する」
「お前は組織を裏切ることになるんだぞ」
「既に捕まった時点で俺は尻尾切りだ。俺の要求は保護だ。俺は代わりに情報を与える」
「当然、保護はする」
「そうだ。警察は情報提供者には保護を約束すると思った」
「お前の証言通りなら司法取引は成立するだろう」
「供述書にもサインするし裁判所で証言だってする」
「いいだろう。で、お前が言う組織って言うのは」
その直後、署内の一階の方から爆発音が聞こえてきた。直ぐに火災警報器が作動。銃声はその後で同じ一階から響いてきた。
「何事だ」
「奴らだ……」
「奴ら? まさか、お前の言う組織が警察を襲撃しに来たと言うのか!? 馬鹿な……」
そんなことある筈がない……しかし、実際に署は攻撃を受けていた。
取り調べ室は3階。もし、犯人の狙いがコイツなら犯人は上へ登ってくる。
「やっぱり逃してはくれないか……ハハ……お前達は俺を逮捕した時点で消される運命にあった」
「なにを言っている?」
直後、悲鳴が響いた。警察官の悲鳴だと直ぐに分かった。
「アイツが来た……カーペンターが」
「カーペンター? お前の言っていたブローカーか?」
「アイツは尻尾持ちだ」
「何なんだ、その尻尾持ちって!?」
その頃、署の外で爆発を聞いて集まった野次馬の中からロリーは襲撃を受けている署へと向かった。
一階は爆発の威力が物語る有り様で、死体が幾つか転がっているのが見えた。窓ガラスは全て割れており、焦げ臭い。壁も床も焼けており、所々消火しきれておらず火が残っている。スプリンクラーはもう作動していない。床にはその水だろうか濡れていた。そこに長身の緑色のコートにフードを深く被った一人が突っ立っていた。そいつは署に入ってきたロリーに気づくと振り向いた。
黒髪で鼻が高く、その上に古い刃物傷が残っていた。目つきは悪く、無精髭を生やしたままだ。そして、奴は2本の尻尾を生やしていた。
「組織の存続の危機になると手段を選ばなくなるのか」
「ロリーだな」
3本になったロリーの尻尾を男は見た。
「組織から逃げ出したのは尻尾が2本少年だと聞いていたが」
「組織からまだ聞いてなかったのか? 俺は3本になったんだ」
「そうか」
「俺の方が尻尾の数は多い」
「確かに。無事捕らえるのは無理そうだ」
「逃げる気はないんだな?」
「まだ、任務を達成していない」
「お前も失態すればお前が殺そうとしている男同様尻尾切りだ。どうして組織に忠誠を誓える?」
「忠誠心なんてものはない。組織にいる人間に理由は様々だ。恐怖心、互いの利益による協力関係という利益に従う利己心。お前は俺達組織にはない復讐心で歯向かっているようだが、そういうお前も結局組織から離れられないでいる」
「お前はどうなんだ?」
「優越感。俺は力が欲しかった。その力を振るいたかった。俺は幹部の中で唯一単独行動が認められている。役目は掃除」
「組織は俺の確保を望んでいるようだが?」
「俺は生け捕りを望んではいない。俺は自分の欲求に素直に従う。言っとくが、尻尾の数で勝敗の全てが決まるわけじゃない」
すると、建物全体がキシキシと鳴り出した。
「改築!!」
突然、入口と窓に壁ができ、そこにいたフロアの天井が下がっていく。
「プレス!」
「建物を操る能力か。てっきり爆弾の能力かと思ったぜ」
「能力を得るまでは爆弾魔だった」
「切り裂き魔といい狂った連中ばかりが幹部か」
「そいつはお前を最初に捕らえた男のことだな」
「知っているのか?」
「同じ幹部だ。最近は会っていないが」
天井が頭につきそうなところまで下がってくると、ロリーは拳を上げて天井を突き破った。
「身体能力の上昇に特化した能力か……シンプルだな」
「建物を改造出来るなら、巨大な檻にして俺を捕らえられるだろ」
「今見せた力じゃそれも簡単に壊して脱出するだろ? 考えたことはあるか? 脱出ゲームの脱出不可能なゲームを作るのとそれを脱出してみせる挑戦者と、どっちが難しいのか。お前を見たら作る方が難しいと気づいたよ」
男は人差し指と親指で四角を作り出す。すると、壁と床から煙があがり、やがて炎が吹き出た。
「焼却炉」
すると、男の視界からロリーが消えた。
「どこへ消えた!?」
辺りを見回すと、背後から強く重い衝撃が入る。その勢いは骨を砕けきった。口から大量の血液が吐き出される。
「うぶっ……」
男はうつ伏せの状態で倒れると、炎は直ぐに消えた。
「建物を爆弾で破壊しなくてもお前の能力ならここにいる人をいとも簡単に消せた筈だ。なぜ回りくどいことをする? それもお前の性癖か?」
「ハハハ……流石に不死身とは言え痛えな……確かにお前の言う通りだ。だから、組織は俺に掃除を任せた。だが、それじゃつまらないだろ……」
「お前のくだらない癖のせいで任務を失敗しても良かったのか?」
「俺の知る限りではそれで人生を失敗した人間はいくらでもいる。くだらない性癖で身分も金も人も失った奴らとかな。あの店に来ていた客も組織に弱味を握られうまいこと利用されると知らずにガキとやりたいが為に衝動をおさえられなかった馬鹿だ。だが、賢いふりをしたってだめさ。人間はとことん馬鹿な生き物さ。それを自覚している奴程、立ち回りは上手いが。自分の言い訳、逃げ道を用意周到に!? ぐはっ!?」
男は再び大量の血液を嘔吐した。
「な、何故だ!? 何故再生しない??」
「いや、再生してる筈だ。現にお前の骨は治りかかっている。お前に変化があるとしたら、それは心境だろう。お前はずっと今まで沢山の人間を殺めてきた。お前はずっと殺す側だった。それが今、初めて殺される側に回ったんだ。恐怖してるんじゃないのか? 初めて自分の死を実感して」
「馬鹿な! 俺はずっとこれからも殺す側だ。お前なんかに殺されるか!!」
「威勢はよくとも、お前は3本の俺に殺られるかもしれないと本能では思っているんじゃないのか? 能力は心境によって変化する。殺意が増せば力も強まるし、弱気であればお前を守っている力も弱まる」
「バカをぬかせ! お前は俺が殺るんだ」
男は両手をつくと、起き上がってきた。
「随分必死だな。お前の優越感はどこへ消えた?」
「ガキがっ……」
男は立ち上がると、少し笑みを見せた。
「お前の言う通り能力は心境に影響する。今の俺はこれまで以上にお前に殺意がある。その意味分かるよな?」
「それで俺を殺せるといいな? だが、殺意ならお前だけじゃないぞ。お前の爆弾で無関係な命まで消したんだ。俺はお前を許さないし、お前達を許さない」
建物が燃え上がり、あちこちで火事を見ようと外には野次馬が集まっていた。あの爆発音からして相当の野次馬を呼んだだろう。
聴覚がイカれて暫くは無音が続いた。視界も暗闇で、それらは同じタイミングで再生し視界と聴覚が戻っていく。辺りは炎でバチバチと音が鳴っている。後方を見ると、俺を案内した男が倒れていた。ロリーは肩を揺すり意識を確認したが、男から大量の血液に気づくとロリーはそっとしてやった。
辺りを見回しても酷い有り様だった。客も未成年も全て巻き込んで、あの蝶ネクタイの男は無事きっと脱出しただろう。
「生かしちゃおけない。あんなクズは」
ロリーは走り窓から飛んだ。空高く。そして地面に着地すると、その野次馬に混じって火事の様子を見ていたあの蝶ネクタイの男がいた。
男は俺を見て驚愕し、何か言いながらリボルバーを出しロリーにその銃口を向けた。周囲にいた野次馬は悲鳴をあげる。
「あれで俺を殺せたと思ったのか?」
「な、なんなんだお前は!?」
「力を得るのはなにも不死身だけじゃない」
パワー、嗅ぎ分けられる鋭い嗅覚、視力といったあらゆる身体能力が向上している。
だが、男は構わずリボルバーの引き金を引いた。ロリーはそれを片手でキャッチすると、その弾丸を見せるように地面へと落とした。
男は目の前の相手が敵う相手でないと分かると、一目散に逃げ出した。
風は強く、通りの提灯が揺れ動く。夜空には火の粉が飛んでおり、その夜空をひょいとかけると、ロリーはその男の目の前に現れ、男がロリーに反応しきる前に男を押し出した。男は勢いよく後方へと吹き飛び、背中から勢いのまま落下し強打した。男は苦痛の声をあげた。
ロリーはそんな男に言う。
「お前のしたことは許されない。お前には檻の中で一生をそこで暮らしてもらう」
最早、この男に希望などなかった。例えここで殺されなかったとしても、その後の地獄がこの男に待っている。
すると、ロリーは野次馬から一斉に拍手喝采を受けた。
だが、ロリーにとって拍手喝采を望んでいたわけではない。これはヒーローでもなく復讐なのだから。ただ、少し思うのは、この復讐が結果として誰かを救うことになっているのなら、自分はダークヒーローにでもなってやろうと。
ロリーはそのへんに転がったままの男に既に興味を無くし、その場から立ち去った。あの男を指示した誰かがいる筈だ。組織の幹部はだいたいが尻尾持ち。あの男が組織の全貌を把握していたとは思えない。とは言え、あの男にはまだ利用価値がある。例えば会うことが出来なかったブローカーについて聞き出せていない。あの男が建物を爆破したのは証拠隠滅も含めてだと思う。どこまで情報が漏れ出しているか分からない以上、全てを焼死体と残骸だけにしておけば、あとの罪はあの部屋に向かった俺達に仕向けられる。一番炎の勢いがあったであろう箇所はそこになる筈だからだ。あとは気の狂った焼身自殺に爆弾を使ったと言い切り、警察はそれ以上の証拠を発見することはない。
だが、それはあの男の頭の中で考えられた一瞬の判断、そして用意周到、どれもあの男にはそんな凄さは微塵も感じられない。
おそらくはブローカーだろう。あの部屋にブローカーはおらず、受け付けに実際に来た男を見た蝶ネクタイの男からブローカーに連絡し、ブローカーが命令、もしくはブローカーが爆破させたか。その冷徹非道さはもう普通の人間ではない。
そしてもう一つ、遠隔操作による爆弾を何かあった時用に設置してあったというのは、普通の一般常識では考えられない。金になる箱を簡単に捨てられる潔さを事前に腹をくくってまで備えるなんて異常としか言いようがない。
ますますその男が気になった。
推測が正しければ、ブローカーはこれから警察に連行される男を放置したりはしないだろう。ブローカーが動くとしたらその瞬間。
消防と共に警察が現れ、その場で連行された男は近くの署で取り調べを受けることになった。その男の様子は落ち着きがなく、何かに怯えている様子だった。念の為に薬物検査が行われたが結果は陰性。その後で取り調べは再開されたが、様子が一変し何か吹っ切れたように今度は質問に素直に答え、罪に関しては自白を始め饒舌になっていった。一部の捜査官は事件は想定よりも早期に起訴へと持ち込めるだろうという期待があった一方で、取り調べにあたっていた捜査官にはむしろ違和感を覚えた。数多くの犯罪者と対面してきた経験から感じた直感は検査の為に取り調べが一時中断されたその間に心境の変化をもたらす何かがあったのではないかと疑った。しかも、それは署内で起きた。いったい何が彼を変えたのか?
「つまり、お前は自分の店を自分で爆破させたと言うんだな?」
「そうだ」
「俺には分からない。何故だ? 確かに目撃者の多くはお前が言う少年を確かに見たと言っているが、お前とは初対面だったんだろ? そいつを殺す為にわざわざ爆破させたと言うのか?」
「それだけじゃない。何度も言わせないでくれ。いいか! 俺を逮捕するなら俺にそれを命令した組織の連中も必ず逮捕してくれ。証言が必要ならいくらでも協力する」
「お前は組織を裏切ることになるんだぞ」
「既に捕まった時点で俺は尻尾切りだ。俺の要求は保護だ。俺は代わりに情報を与える」
「当然、保護はする」
「そうだ。警察は情報提供者には保護を約束すると思った」
「お前の証言通りなら司法取引は成立するだろう」
「供述書にもサインするし裁判所で証言だってする」
「いいだろう。で、お前が言う組織って言うのは」
その直後、署内の一階の方から爆発音が聞こえてきた。直ぐに火災警報器が作動。銃声はその後で同じ一階から響いてきた。
「何事だ」
「奴らだ……」
「奴ら? まさか、お前の言う組織が警察を襲撃しに来たと言うのか!? 馬鹿な……」
そんなことある筈がない……しかし、実際に署は攻撃を受けていた。
取り調べ室は3階。もし、犯人の狙いがコイツなら犯人は上へ登ってくる。
「やっぱり逃してはくれないか……ハハ……お前達は俺を逮捕した時点で消される運命にあった」
「なにを言っている?」
直後、悲鳴が響いた。警察官の悲鳴だと直ぐに分かった。
「アイツが来た……カーペンターが」
「カーペンター? お前の言っていたブローカーか?」
「アイツは尻尾持ちだ」
「何なんだ、その尻尾持ちって!?」
その頃、署の外で爆発を聞いて集まった野次馬の中からロリーは襲撃を受けている署へと向かった。
一階は爆発の威力が物語る有り様で、死体が幾つか転がっているのが見えた。窓ガラスは全て割れており、焦げ臭い。壁も床も焼けており、所々消火しきれておらず火が残っている。スプリンクラーはもう作動していない。床にはその水だろうか濡れていた。そこに長身の緑色のコートにフードを深く被った一人が突っ立っていた。そいつは署に入ってきたロリーに気づくと振り向いた。
黒髪で鼻が高く、その上に古い刃物傷が残っていた。目つきは悪く、無精髭を生やしたままだ。そして、奴は2本の尻尾を生やしていた。
「組織の存続の危機になると手段を選ばなくなるのか」
「ロリーだな」
3本になったロリーの尻尾を男は見た。
「組織から逃げ出したのは尻尾が2本少年だと聞いていたが」
「組織からまだ聞いてなかったのか? 俺は3本になったんだ」
「そうか」
「俺の方が尻尾の数は多い」
「確かに。無事捕らえるのは無理そうだ」
「逃げる気はないんだな?」
「まだ、任務を達成していない」
「お前も失態すればお前が殺そうとしている男同様尻尾切りだ。どうして組織に忠誠を誓える?」
「忠誠心なんてものはない。組織にいる人間に理由は様々だ。恐怖心、互いの利益による協力関係という利益に従う利己心。お前は俺達組織にはない復讐心で歯向かっているようだが、そういうお前も結局組織から離れられないでいる」
「お前はどうなんだ?」
「優越感。俺は力が欲しかった。その力を振るいたかった。俺は幹部の中で唯一単独行動が認められている。役目は掃除」
「組織は俺の確保を望んでいるようだが?」
「俺は生け捕りを望んではいない。俺は自分の欲求に素直に従う。言っとくが、尻尾の数で勝敗の全てが決まるわけじゃない」
すると、建物全体がキシキシと鳴り出した。
「改築!!」
突然、入口と窓に壁ができ、そこにいたフロアの天井が下がっていく。
「プレス!」
「建物を操る能力か。てっきり爆弾の能力かと思ったぜ」
「能力を得るまでは爆弾魔だった」
「切り裂き魔といい狂った連中ばかりが幹部か」
「そいつはお前を最初に捕らえた男のことだな」
「知っているのか?」
「同じ幹部だ。最近は会っていないが」
天井が頭につきそうなところまで下がってくると、ロリーは拳を上げて天井を突き破った。
「身体能力の上昇に特化した能力か……シンプルだな」
「建物を改造出来るなら、巨大な檻にして俺を捕らえられるだろ」
「今見せた力じゃそれも簡単に壊して脱出するだろ? 考えたことはあるか? 脱出ゲームの脱出不可能なゲームを作るのとそれを脱出してみせる挑戦者と、どっちが難しいのか。お前を見たら作る方が難しいと気づいたよ」
男は人差し指と親指で四角を作り出す。すると、壁と床から煙があがり、やがて炎が吹き出た。
「焼却炉」
すると、男の視界からロリーが消えた。
「どこへ消えた!?」
辺りを見回すと、背後から強く重い衝撃が入る。その勢いは骨を砕けきった。口から大量の血液が吐き出される。
「うぶっ……」
男はうつ伏せの状態で倒れると、炎は直ぐに消えた。
「建物を爆弾で破壊しなくてもお前の能力ならここにいる人をいとも簡単に消せた筈だ。なぜ回りくどいことをする? それもお前の性癖か?」
「ハハハ……流石に不死身とは言え痛えな……確かにお前の言う通りだ。だから、組織は俺に掃除を任せた。だが、それじゃつまらないだろ……」
「お前のくだらない癖のせいで任務を失敗しても良かったのか?」
「俺の知る限りではそれで人生を失敗した人間はいくらでもいる。くだらない性癖で身分も金も人も失った奴らとかな。あの店に来ていた客も組織に弱味を握られうまいこと利用されると知らずにガキとやりたいが為に衝動をおさえられなかった馬鹿だ。だが、賢いふりをしたってだめさ。人間はとことん馬鹿な生き物さ。それを自覚している奴程、立ち回りは上手いが。自分の言い訳、逃げ道を用意周到に!? ぐはっ!?」
男は再び大量の血液を嘔吐した。
「な、何故だ!? 何故再生しない??」
「いや、再生してる筈だ。現にお前の骨は治りかかっている。お前に変化があるとしたら、それは心境だろう。お前はずっと今まで沢山の人間を殺めてきた。お前はずっと殺す側だった。それが今、初めて殺される側に回ったんだ。恐怖してるんじゃないのか? 初めて自分の死を実感して」
「馬鹿な! 俺はずっとこれからも殺す側だ。お前なんかに殺されるか!!」
「威勢はよくとも、お前は3本の俺に殺られるかもしれないと本能では思っているんじゃないのか? 能力は心境によって変化する。殺意が増せば力も強まるし、弱気であればお前を守っている力も弱まる」
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「随分必死だな。お前の優越感はどこへ消えた?」
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男は立ち上がると、少し笑みを見せた。
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