ファンタジー世界で運び屋やります。たまに戦います。

アズ

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第一章

08 雪のエリアボス戦〈上〉

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 太陽の日射にあたりギラギラと眩しい海面を眺めながら一本の釣り糸をたらし、僅かな変化に期待しながらのんびりウォルターは過ごしていた。そこに一つのメッセージが入る。それはブラックチームのリーダーであるビルからだった。
 ウォルターはメッセージを読み終わると釣り糸をあげて後方にいるケイブに声を掛けた。
「仕事だ」
「こっちは用意出来てるよ」
「ビルから、エリアボスを見つけたようだ」
「もう? 攻略早くないか?」
「それが、そいつは最深部じゃなくエリア内を自由に移動しているらしい」
「なにそれ?」
「とにかく、ビル達はせっかく見つけたエリアボスを見逃したくはないらしく現在も追尾中だ。あと少ししたら他のチームも合流する」
「急ぎだね。会議無しでいきなり攻略に入るのか?」
「情報によれば今回のエリアボスは体力がこれまでと大きく違う。つまり、長期戦必須。まぁ、長期戦は想定内になるが。作戦はチームの交代制で攻撃を続け、HPとMP、武器の消耗を見ながら交代し、後ろに下がったチームは俺達が届けた武器とアイテムを受け取り補給する」
「それじゃ俺達の役割は重要になるね」
「他の運び屋も当然作戦に加わる。俺達はより多くを無事届けることが任務だ」
「一つ聞いていいか? 今回のエリアボスってどんな感じなの?」
「白い蛇だそうだ」
「蛇?」
「巨大な蛇は大地を這いずりながら移動を続けている。チームには前衛2チーム、残りは後衛、俺達は補給係。前衛はさっき言った通りボスに集中、後衛はボス戦で集まってくるであろう敵モンスターを前衛に近づけさせない役割がある。問題は俺達はその戦いの中に突入し後衛に物を届けなきゃならない。後衛が俺達をカバーしてくれるだろうがリスクはゼロじゃない」
「しかも、それを何回か成功させなきゃならない」
「そうだ。更に俺達補給係にとって最悪な事態がもう一つある。それは足場の悪いフィールドだってことだ。スノーバイクがあれば便利だが、そんなものまでは流石にない。考えがあるのはソリだ。風を利用し、スピードをあげる。風は魔法で起こせばコントロール可能だ」
「それであの帆のついたソリが必要だってわけか」
「その通り。移動手段の問題は最初っから分かっていたことだからな」
「しかし、会議もやらずよくそんな作戦が直ぐに移れたね」
「ボスを発見した白とブラックが立案した作戦だ」
「白!?」
「他のチームもその作戦に異論は出なかった」
「まぁ、最初に見つけたチームが先に作戦を出せるってことになってるからねぇ」
「さて、話しはこれぐらいにして、準備が済んだのなら俺達も向かうとしよう」



◇◇◇◇◆



〈一回目の補給〉


 最初に耳にしたのは激しい銃撃戦。それから爆発。
 帆のついたソリが風を受けて雪の上をスピードをあげてその方角へと突き進む。
 ほとんどモンスターと遭遇せずに済んでいるのも向こうが激しい戦闘をし、モンスターが集中しているからだろう。
 それとは違い、遠くで点々と爆発が起きているのは遠隔での起爆。これでモンスターを少しでも分散させている。耳を頼りにしているモンスターには効果的だ。
 激しい戦闘に補給係であるウォルター達は徐々に緊張感が増していった。
 その道中、一つのソリが向こうからやってきた。それはペニー&アメリアのチームだ。彼女達も補給係としてこの作戦に参加していた。
 すると、ウォルターに通信が入る。
「こちらウォルター」
「こちらペニー。補給へ向かうなら覚悟して。雑魚モンスターの数が予想以上でこちらの仲間が一人やられたわ。まだ、作戦は始まったばかりだというのにね」
「ご忠告どうも」
「健闘を祈ってる」
「こちらもだ」
 そこで通信は終わる。
「さて、覚悟はしていたものの元イエローチームのリーダーから予想以上という言葉を聞いちまった。まさか今回の作戦、甘く見てたわけじゃないだろう。となると、本当にヤバい状況らしい」
 その的中はスバリだった。移動中、積もった雪に赤い地溜まりや、途中に腕や足が落ちて近くにプレイヤーが雪に上半身埋まっている姿も見かけた。
 ケイブは唾を飲みこみ銃を構えた。
 と、突然大きな地震が起こった。ソリはその衝撃で積荷とウォルター達を乗せたままジャンプし、地面から足が一瞬だけ離れた。そのまま再び着地した時、その衝撃でソリの足の部分が破損。投げ飛ばされたウォルター達はクッションとなってくれる雪の上へと落下した。
「おい皆、無事か?」
 ウォルターは多少のダメージを負ったが回復が今すぐ必要な程ではなかった。
「あぁウォルター……こっちは全員無事みたいだ」
「積荷は?」
「ええっと……無事だ。あ! だけどウォルター。まずいことになった。ソリの足の部分が折れてる。これじゃ走れないよ」
「直せそうか?」
「応急処置なら。でも、それだとスピードは落とすことになるよ」
「これが最後ってわけじゃないんだぞ。まだ、これは最初だ。とにかくこの積荷だけでもなんとしてでも届けないと攻略組がヤバいことになる」
「あぁ、分かってる! 今、全速力で直してる」
 ソリの修理には約数分の時間が使われた。
 そして、ソリが直った後でもスピードをおさえなきゃならなかった。
「だいぶえらいタイムロスをしちまった」
 だからといって焦っても仕方がない。



 結局、予定より約10分の遅れでようやくウォルター達は後衛のチームを見つけた。
 後衛は次の補給係に直ぐ気づくと「補給が来た。合流する為、援護しろ」と仲間同士合図を送った。
 狼系モンスターの群れが近くにいたが、後衛の銃撃とウォルター達の発砲でそれを遠ざけた。
 合流に成功すると、積荷を後衛にウォルター達は引き渡した。
「予定より遅くなってすまない」と、ウォルターは後衛のグリーンチームに謝罪した。
「トラブルか?」
「直ぐ対処した」
「ならいいが、頼むぜ補給係。お前達が届けられなくなったら俺達は終わりだ」
「一つだけいいか? ボスの状況を知りたい」
「メッセージが送られた通り、まだまだ相手の体力はあるってところだ」
「分かった」
「補給は受け取った。それじゃまたよろしく」



◇◇◇◆◆



〈攻略組〉


 補給は2回受け、2回交代。巨大な蛇には沢山の銃撃、矢、斬撃を受け、傷から赤い血が流れ出ていた。そいつが移動すれば、そのあとに血痕が残る。雪だから余計それは目立つ。まるでホラー。
 各チームの損失は今のところゼロ。攻略は時間はかかっているものの地道にボスの体力を削っていく。
 だが、問題は前衛、後衛どちらも気が抜けないことにある。
 巨大な白い蛇は再び森の中に突入し、木々をなぎ倒し移動する。
 こいつの移動ルートに法則があればいいんだが、移動はランダムで法則性はないように見える。
「しかし、白の連中やりますねぇ。連中だけで4分の1削ったんじゃありませんか? 特にジュリー・ハーボーの攻撃魔法はえげつなかった」
 隣にいたビルは回復薬を飲みながら聞いていた。
 飲み終えた空瓶を投げると袖で口を拭った。
 それでも、敵の体力は半分は残っている。やはり、厄介なのはこのフィールド上モンスターの特性だ。そのせいで補給してもそいつらに使ってしまって消耗が激しい。
 ビルは森の中から現れた狼系モンスターに向け発砲し、命中させた。即死でなくても動けなくさせれば構わなかった。
 狼の群れを相手にするのはかなり面倒だった。すばしっこく、こちらの狙いが中々命中しない。おまけに森の中では連中の鼻の方が効くだろう。臭い袋で連中を追い払いでもしたら、そいつらは前衛の方へと向かってしまう。全く最悪だ。
 すると、突然巨大な蛇がシャーッ! という悲鳴をあげると、また巨大な蛇は暴れだした。その度に地上では大きな振動が響き渡り、それはまるで地震のように地上にいる全員を巻き込んだ。
「またジュリーか。今日のMVPは確定か?」



 そのジュリーがいる白チームは前衛にいた。目の前にいる巨大な白い肉体は長く先から先を見通せない。だが、逆にそれは巨大な的であり、どうぞ当てて下さいと言っているも同じだった。
 その蛇の真上に剣を突き刺したまま全速力で走る少女の姿があった。少女の走った先には突き刺して出来た深い傷の線が走っており、そこからドバッと大量の血液が湧き出た。だが、血液はずっと噴水のように湧き出るわけではなく、傷ついた肉体は徐々に塞がっていき流血はやがて落ち着き出す。敵の再生能力だろうが、数秒タイムラグあって再び傷口は突如開き、さっきよりもド派手に血液が噴水のように吹き荒れた。
 それがジュリーのスキル。
 〈治癒不可能〉〈MPドレイン〉この2つのスキルは単なるダメージだけでなく、回復、再生を無効として流血であればそれは死ぬまで永続され、回復魔法を一切受け付けない。
 ジュリー事態の攻撃力の高さというより、ジュリーが沢山敵に傷をつければつける程に敵は弱体化する特別なスキルだ。
 おかけで白かった装備はどんどんと敵の血の色に染まっていく。
「ジャンヌ」
「はい」
 呼ばれたジャンヌは直ぐジュリーのそばへ現れた。まるで、瞬間移動したかのように。
「人間が禁断の果実を口にし楽園を追放された話しを知っているか?」
「有名な話しですね」
「そこに蛇が呪いを受け地面を這いずるようになったとあるが、その前の蛇には足があったんだろうか?」
「私には足のない方が蛇らしいと思いますが」
「本質の話し、そそのかされた人間は禁断の果実を口にしたとあるが、そもそも簡単に口にしてしまう時点で人間は約束を守れないってことだろう。蛇はきっかけに過ぎない。例え蛇がいなくても人が禁断の果実を口にするのは時間の問題だった」
「そうですね」
「ブラックのリーダー、あれはダメだ。他のチームが裏で策略を練っていることに気づけていない。色を持つチームがうまく手を組んでいるなんて単なる見せかけに過ぎない」
「ビルに教えるんですか?」
「まさか。これが終わったら連中は終わる」
 少し前の出来事。仮面の連中が現れ、そいつらにモンスターを誘導させ一人を残し全滅させた。そう、一人を残して。無論、仮面について喋らせる為だ。だが、そうして仮面を剥がした時、その顔に見覚えがあった。直後、奴はログアウトした。空の肉体だけが今も我々の手札のカードとして保管してある。
 手札は多い方がこの状況を支配できる。
 カードゲームと同じ理屈だ。なにも難しい話しではない。
「ジャンヌ。我々は勝つぞ」
「はい」

    
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