異世界で『殺し屋』

アズ

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第一章

05 銃撃戦

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 気づけば自分は病院のベッドの上にいた。そのそばにコナーズが椅子に腰掛けていた。
「気がついたか?」
「アール・リップが来る」
「え?」
 すると、本当に蜘蛛の巣野郎のアール・リップがやって来た。
「意識を取り戻したか。コナーズからは状況を聞いた。情報屋が裏切ったそうだな。すまなかった。裏切った奴は既に始末した。最も苦しみを与えてからな。フレッチャーの件は一旦忘れろ。今は治療に専念するんだ」
「リップ、その情報のせいで彼女は死にかけたんだぞ」
 怒るコナーズの裾をサヤカは引っ張り首を横に振った。
「コナーズ教授、情報屋の裏切りで我々の店や拠点もフレッチャーに渡ってしまった。一部とはいえ、被害は既に出ている。これは戦争なんだ。既にボスも動いている。報復に連中の店も襲った。これから激化するだろう。お前達も用心しろ」
「あの女が来る」
 突然、サヤカはそう言った。
「あの女?」と言ってコナーズはその女が誰か連想した。
「何故分かる?」
「タロン・ミケルセンもフレッチャーの部下達が屋敷を襲撃して交戦中」
 リップはコナーズに「なんて言ってる?」と訊いた。コナーズは彼女の言ったことをそのまま伝えた。
「クソっ!」
 リップは隠し持っていた銃を出し構えた。
 コナーズはベッドの横にいる彼女へ振り向いた。
「また、新しい能力か。どんどん成長するな。異常な程に」
「銃を持ってるでしょ。よこして」
 コナーズは護身用に持っていたストライカー式の銃をサヤカに渡した。どうせ自分が持っていても当てられる自信がない。
 サヤカは安全装置を解除しベッド上で銃を構えた。
「来る」
 そう言った直後、サヤカは時間をゆっくりにし、背後から刃物を持って現れたら白髪の青い瞳の女に向き直し、銃口をそいつの額に当てた。白髪だが、見た目は若い。30代前後か。青い瞳だとどこの国の人になるだろうか? どうして彼女は殺しの道に入ったのだろうか。
 あの時、私を仕留めそこねなければあなたが死ぬことはなかった。
 サヤカは引き金を引いた。
 銃声が響くと同時に時の流れも戻った。
 銃声に驚いた二人が振り向くと、いつの間にか遺体が転がっていた。



◇◆◇◆◇



 その頃、フレッチャーの部下達に襲撃を受けている邸宅では銃声が鳴り続けていた。広々とした庭には何人かの遺体が転がっており、窓ガラスは割られていて、通路には酷い損傷の遺体が転がっており、壁に掛けられてあった絵画には幾つもの銃痕が残っていた。
 襲撃前、書斎にいたタロン・ミケルセンは席を立ち、自慢の庭を窓から眺めた。その時、異変を察知したミケルセンは机の引き出しから拳銃を取り出し、書斎の扉の前に立った。ドアノブがゆっくりと回る。それを見たミケルセンは構わず銃をぶっ放した。ドアを貫通した弾丸は無数の穴から血が飛び出る。直後、ミケルセンは物陰に隠れた。ドアの向こうからサブマシンガンが次々と撃ち込まれた。それ以外にも複数の銃声が混じって聞こえてくる。窓ガラスは割れ、壁や棚、本にも次々と穴を開けていく。それから銃声が鳴り止むまでにかなりかかった。書斎のドアが開き、耳を済ませていると、安全ピンの抜く音が聞こえた。それが何を意味するかミケルセンは分かった。だが、それは直ぐに投げ込まれた。ミケルセンは咄嗟の判断で投げ込まれた手榴弾を拾い投げ返し、自分は割れた窓から庭へ飛び込んだ。直後爆発。ミケルセンは天然芝の上に落ちなんとか無事に助かった。そこにようやくレイフ・アポットが仲間を引き連れ追いついた。
「ボス、大丈夫ですか」
「まさかフレッチャーが大胆な野郎だったとはな」
「申し訳ありません。連中、脱出ルートから侵入してきまして」
「これが終わったらここを捨てなきゃいかんな」
 それからの銃撃戦。
 そして、現在。
 ロビーではタロン・ミケルセンと彼の護衛が家具を盾にしている侵入者に向かって撃ちまくっていた。タロンは状況を打開する為、天窓がステンドグラスになっている天井に向け銃をぶっ放した。ガラスの破片が連中の頭上に落ち悲鳴を上げる隙に仲間が回り込み仕留めていく。
 ようやく敵を仕留め終えると、タロン・ミケルセンはタバコをくわえ、火をつけ吸い始めた。
 一服し、既に死んでいる遺体を思いっきり蹴り上げる。
「フレッチャーはいないようです」
 辺りを見回してきたレイフ・アポットがそう報告した。
 すると、電話が鳴った。ミケルセンは苛立ちながらアポットに「出ろ」と命令した。
 アポットが電話に出ると、相手はリップだった。
 暫く電話をしてから受話器を戻すと、ミケルセンの方へ振り向いた。
「リップからでサヤカがフレッチャーが雇った能力者を始末したそうです」
「よしっ!」
 ミケルセンの機嫌が一つの報告で上機嫌になりガッツポーズしだした。
「サヤカは怪我してたんじゃなかったのか? いや、いい。よくやった。あとはこっちの仕事だ。アポット、行くぞ。フレッチャーにたっぷりお礼をするんだ」
「はい、ボス」



◇◆◇◆◇


「あっちはなんとか無事らしい」
 蜘蛛の巣野郎はそう言ったがコナーズもサヤカも別に彼を心配していなかった。
「それで、これからどうする?」とコナーズが聞くと、蜘蛛の巣野郎はニヤリとして「フレッチャーは俺達を追い詰めようとして逆に追い詰められた。もう奴は終わりさ」とそう答えた。



 その言う通りフレッチャーは二日後に遺体で発見された。フレッチャーを探しているファミリーに彼の頭部だけが郵送されたのだ。
 そしてその頃、サヤカは功績を認められ幹部入りを果たしていた。といっても襲撃事件で幹部の一人がそれで失い空席が生まれ、その埋め合わせではある。
 一方で、フレッチャーの死は我々の勝利以外に組織拡大の大きな一歩としてもなる。当然、警察、軍はよりタロン・ミケルセンを警戒するだろう。そして、ミケルセンが逃げた日本人の能力者を匿っていることも。
 軍も警察も密かにその厄介なサヤカを潰したがっている。だが、ちょっかいを出せばフレッチャーの二の舞いになるだろう。
『死にたくなければタロン・ミケルセンを怒らせてはならない』
 この言葉に嘘はない。市民にまで被害が及び、警察や軍の家族までもが標的となる。女だろうと子供だろうとだ。
 大尉にサヤカ殺害を命じた少佐も、命令を取り下げるしかなかった。
 だが、大尉には考えがあった。



 どんよりとした空で、大尉は一人墓地へ訪れていた。その手にはスコップがあり、目の前には掘ったばかりの穴があった。
「やはりなかったか」
 自分の直感を信じて分かったのはコナーズ教授の遺体がないということだ。だが、彼はどうやって死を偽造出来たのか?
 ともあれ、ミケルセンは日本語を喋れない。奴に通訳しているのは墓にいないゾンビの仕業で間違いないだろう。
 大尉は自分の直感から確信に変わると、次に考えていることが実行に移せそうな気がした。その確率は今ので上がった。
 サヤカを始末するには、協力者が必要だ。そして、最も適任なのはたった一人しかいない。通訳のコナーズ教授だ。もし、彼を我々に引き込めればやれる筈だ。あとはどう少佐に説明し納得させるか。
 大尉はスコップを投げ捨て引き返しながらじっくりと作戦を考えた。成功する方法を。



◇◆◇◆◇



 とある教会。そこに一人の黒髪の女性と教会のシスターがいた。
「シスター、どうか司祭様に掛け合ってはいただけないでしょうか。私の娘が何かに取り憑かれたようなんです」
「悪魔ですか?」
「ええ……恐らくは」
「その娘は自分は悪魔だと名乗ったのですか?」
「いいえ。でも、分かるんです。別人だって。それに、娘は私と同じ瞳の色はブラウンです。でも、今の娘の瞳は青いんです。おかしいでしょ? ブラウンがいきなり青い瞳になるなんて。そんなことはあり得ないわ。きっと、青い瞳を持った悪魔に取り憑かれたのよ」
「青い瞳? それってこれのこと?」
 シスターの瞳が徐々に黒から青色へと変わっていく。
「そんな、どうして……」
 シスターは嘲笑った。
「あの子の魂はもうこの世にはいない。死んだのよ」
「どうして!?」
「私は『移動』能力者。瞬間移動やモノだけの移動、それだけでなく魂の移動、入れ替えも出来る」
「誰か! 誰か!」
「無駄よ」
「え?」
「この教会にいる全員がもう既に青い瞳をしているんだから」
「そんな……どうか神様……」
「ええ、祈る時間はあげるわ。人間に出来ることはそれくらいだから」
「この悪魔め」
「悪魔? まぁ、結構よ。どう呼ばれようと。ただ、死ぬ前に覚えておいて。私の名はアンナ。あんたを殺す女の名前。そして、あなたが死んだ後に入る魂の名は」
「……」
「フレッチャー」
「誰か助けて」
「神に祈れ! だが、これは神の仕業だ」
「嘘よ。神がそんなことする筈ないわ」
「いいや。私は神にこの地へ召喚された」
「そんな筈はないわ!」
「神はこう答えるだろう。女よ、くたばれ。そして、その肉体を明け渡せと」
「神はそう仰らないわ。この悪魔め」
 直後、外で雷が落ちた。
「どう? 気分は」
 既に女はブラウンから青い瞳をしていた。
「俺は……死んだと思った」
 アンナは優しくフレッチャーの頬を擦る。
「あなたの魂は死んでいない」
「狂っている」
「あら、最初は乗り気だったじゃない。あのタロン・ミケルセンを出し抜けると喜んでた」
「だからっていきなりミケルセンを狙うか? おかげで仲間は死んだ」
「大丈夫。仲間の魂はこの教会の人達に移したから」
「移動……」
「そう。肉体は男らしさから女らしくなっちゃったけど別に構わないわよね?」
 フレッチャーは自分の今の体を見た。
「男とか女とか言わないでよね。私がいればそんなの関係ないんだから」
「どうするつもりだ?」
「世間はあなたが死んだと思っている。でも、本当は私達は生きている。ここはいい隠れみの。神に祈りを捧げる善良がまさか銃をぶっ放すとは誰も想像しないでしょ?」
「また、タロン・ミケルセンを狙うのか?」
「ううん。まだね。あの女には少し油断した。まさか、未来を見れる力があっちにあるとは思わなかったから。今はチャンスを伺うの。リベンジの機会をね」
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