異世界

アズ

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第一章

02 花火

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 突然現れた銀色の円盤によって調査団を乗せた宇宙船が攻撃を受け破壊されたというニュースは人類にとって衝撃のニュースとして速報された。各国の防衛省や国のトップが会見を行い、最低限の情報のみ公開し、それ以外は全て現在調査中で新たに分かり次第情報を随時公開するという発言に留まった。実際、防衛省も各国と連携し情報収集につとめていた。
 破壊された残骸は宇宙で散らばっており、現在軍がそれらを回収している。
 宇宙船は色んな種類が存在し、調査団の宇宙船も複数のタイプが存在するが、破壊された宇宙船のタイプは潜水艦に近い外見をしており、それは実際に他の星の海を潜水することが可能だった。乗組員は全員死亡。軍人、研究者達だ。宇宙船にはその船の開発や調査団を支援する各国の国旗がついていたが、一方で攻撃した円盤に国旗のようなものはなかった。軍の戦闘タイプでも国旗を掲げる筈がないということは、宇宙人に国旗というものはないのか? 招待された研究者はあらゆる議論をしてきたが、ほとんどは答えになるようなものはなかった。ほとんど分からない。これが唯一の答えだろう。
 期待はしていなかったが、結局時間の無駄だと知ると腹が立ってそれを発散する為に煙草を吸い始めたのは白人の少佐だった。
「まともな学者はいないのか。ただ税金を無駄に消費するしかない学者じゃなくてよ」
 そんなことを言われても少佐の部下達はそういった宇宙人というオカルトじみたものには全くの無縁だから当然人脈なんてものはない。
「連中は警告無しに攻撃してきた。なら、連中は攻撃的と見ていいんだよな? でなきゃ、また円盤を見つけたら躊躇なく攻撃しないとまたやられることになる」
「まだ上からの許可がありません、少佐」
 いくら少佐という輝かしい階級があれど、人類全体に関わる問題に関しては許可が必要とされた。
「相手が攻撃仕掛けた場合は防衛手段として攻撃が許可されています。ただ、銀色の円盤の動きは素早く攻撃を当てられるかは不明です。現在、円盤の動きのデータを元にしたシュミレーターを各隊員に行わせていますが、未だ倒せたものはいません」
「いや、一人いただろ」
「いや……それは相討ちでした。正直に言えば技術の面では相手の方が上回っていると思います」
「ハッキリ言うじゃないか大尉」
「少佐はハッキリと言われたいようでしたので」
「勿論その通りだ」
 軍服を着た宇宙軍の二人は現在宇宙基地にいた。基地とは地上ではなく宇宙にあった。宇宙軍に選ばれた兵士は地上で厳しい訓練と試験を合格して選ばれた精鋭が宇宙へと飛び、この基地で住み込みで任務を果たす。居住エリアには娯楽施設も完備されている。基地には武器や宇宙用の戦闘機、宇宙船には調査用、運搬用とそれぞれある。少佐以上は定期的にリモートで地上との通信で報告を含めた会議に参加することになっている。先程、地上との交信を終えた少佐が今苛立っているのは、エイリアンとの遭遇した際の戦闘許可がこの基地にいる自分達指揮官ではなく、地上にいるお偉いさんだということだ。
 少佐は早歩きで部下のいる訓練所へと向かった。そこにはシュミレーターが幾つもあり、兵士達はそこで円盤の敵と戦っていた。その中に若い女の隊員がいた。黒いタンクトップ姿で髪は黒のショートボブだ。
「君が唯一円盤と相討ちだった隊員か?」
「はい、少佐」
「名は」
「カリラ・ウエストです」




 その頃地上では調査団の船がやられたという報道と同時にその調査団の乗組員が公表されていた。その中にザックの兄の名が入っていた。村の人達もザックの兄のことは知っており、学校は急遽休校となり葬儀が行われた。村の人達がその葬儀に駆けつけ、共に急な別れを悲しんだ。ザックの父親は泣きじゃくり、その周りを村の男達が囲んだ。母親の周りには女達が、そして、ザックの周りには子ども達が囲んだ。
「なぁ、分かるか? 兄貴が死んだと分かっても遺体がないんだ……墓をつくったところでそこに兄貴はいないんだ。墓参りをしたって、そこに兄貴はいないんだ」
 泣きながらザックは訴えた。皆がどう答えてあげればいいか分からない中、ランスは答えた。
「空へ、その向こうの宇宙に向かって祈ればいいと思うよ」
 ランスは彼の肩を抱きながらそう答えた。
「俺、兄貴を殺した奴が憎い。この手で殺してやりたい」
 ザックは空へ拳を強く握りしめた。それはザックの怒りだった。




 翌日の天気は猛吹雪だった。ランスにとってそれは体感したことのない寒さだった。こういった天気では大人でも外に出るのは危険ぐらいだ。学校は休校となり、ランスはリウと一緒に家の中にいた。
「こうなったら晴れるまで外には出られないな」
 チーズを塗ったパンを乗せた皿を2枚持ちながらリウはそう言った。テーブルに置き、一つをランスの方に向けた。ランスは朝食をいままでほとんど食べない習慣だったが、ここに来てからは食べるようになった。勝手にリウが用意してしまうからだ。残すのも悪いしもったいないので食べるようになった。
 ランスは朝食を食べながらリウに質問した。
「宇宙人は人間の敵なんだよね?」
「どうだろうね」
「でも、ザックのお兄さんを殺した」
「あゝそうだ。だが、それでいきなり宇宙戦争になるかはまだ分からない。なにせ、敵の意図が分からない。それに、規模も不明だ。宇宙人はどこから現れたのか……もし、調査団が向かっていた星にその宇宙人がいたのなら、少なくともその星に近づくべきじゃないだろうな」
「でも、相手が攻撃を仕掛けてくる前に攻撃した方がいいんじゃない?」
「それは分からないな。宇宙人はもしかすると防衛の為に正当な理由で調査団を攻撃したかもしれない」
「でも、調査団はその宇宙人を攻撃はしなかったんだよ。なのに攻撃してきたんだ! いきなり」
「敵はパニックになって攻撃したかもしれない」
「どうしてリウさんはザックのお兄さんを殺した宇宙人の肩を持つの」
「そうじゃない。ザックのお兄さんを殺した宇宙人は憎いさ。だが、そうやって戦争を始めれば大勢がもっと死ぬことになる。まず、人間は宇宙人に勝てるのかだ」




「君の率直な意見を聞かせてくれ。銀色の円盤相手に人間が勝てると思うか?」
「難しいと思います。相討ちと言っても何回かやってようやくでまぐれのようなものです。そのような確率ではとても作戦とは呼べないと思います」
「それはパイロットの技術の問題か? それとも戦闘機の技術か?」
「両方です。しかし、人間があのスピードに追いつくには厳しいと思います。訓練を重ねてもギリギリだと思います」
「無人機ならどうだ?」
 最近の軍ではパイロットを乗せるより無人機に力を注いでいる傾向がある。実際に能力は向上している。
「難しいです」
「もう一度先程の質問をするが、ハッキリ答えてくれ。人間はあの円盤に勝てるか?」
「人間では円盤には勝てません」
 これで何が問題なのか少佐の中でハッキリした。
 直後、警報が鳴り響いた。
「何事だ」
 すると、一人の兵士が慌てた様子で少佐のもとに現れた。
「大変です! 開拓中だった星Kが急に消滅しました」
「消滅!? 消滅したってどういうことだ」
「少佐、警報は星Kが消滅したからではありません」と大尉は言う。
「例の銀色の円盤です」
 大尉はそう言ってタブレットに出ている映像を見せた。それはこの基地の外のモニター映像である。そこには銀色の円盤が無数にそこに待機していた。
「狙いはここか!?」
 円盤は一斉に赤い光線をこの基地目掛けて放ち始めた。大きく揺れる基地。
「全員直ちに出撃!」
 隊員達は急いで戦闘機のコックピットに入り、エンジンを起動させた。基地では既に爆発が置き火災が起きている。直ちにそのエリアの通路の壁を降ろし、酸素供給を遮断する。だが、止まない攻撃に消火は間に合わず、次々と破壊されながら部品は宇宙へと漂う。
 次々と戦闘機が基地から出撃している頃には致命的なダメージを基地は受けており、既に基地を放棄しなければならない段階レベルにきていた。早く脱出をしなければならないが、戦闘機が出撃している最中に基地は大爆発を起こし大破した。
 カリラ・ウエストは自分がさっきまでいた基地が無残にも破壊されていく光景を見て、恐怖を感じた。自分もあと少し遅れていれば死んでいた。
 まさか自分が戦闘機に乗って宇宙戦をエイリアン相手にするとは思いもしなかった。本当にエイリアンがいたとは。
 戦闘機は銀色の円盤目掛けて攻撃を仕掛けた。銀色の円盤は一斉に宇宙へと散らばった。それを追いかける戦闘機だったが、速度は円盤が勝っていた。簡単に追いかけていた戦闘機の後ろをとると赤い光線で攻撃し、戦闘機は大破した。次々と宇宙で戦闘を散り散りになって繰り広げるが、人間は手も足も出ない有様だった。暗闇の宇宙で幾つもの炎の玉が出ては消えた。
 ダメだ! 皆訓練通り連携がとれていない。皆、圧倒的な敵に怯えている。やけになっても勝てる相手じゃない。戦略的撤退こそが今のベストだ。これでは全滅してしまう。しかし、それを指揮しなければならない人も次々と消えていく。
 カリラは操縦桿を握りしめながら出来るだけ多くの仲間に撤退を促してから、自分もその場から猛スピードで離脱を試みた。
 カリラの言葉が届いたのか幾つかの戦闘機も続いて撤退を始めた。しかし、その背中を追うようにしつこく銀色の円盤は追ってきた。
「来るな! 来るな! こっちに来るんじゃねぇ!!」
 叫びながら逃げるパイロットの声が消えた。次々と消えていく声。カリラは振り返らずとにかく逃げることに集中した。すると、自分のコックピットから警報が鳴った。後ろに銀色の円盤が自分を追っていた。カリラは倒すのではなく逃げ切ることだけに集中した。シュミレーターでは戦うことを前提にしたらまぐれで相討ちだったが、逃げることに全力したシュミレーターはやっていない。可能性は……ある!
 フレアのスイッチを入れ、一旦敵のロックから外れると旋回を始めた。相手はフレアに驚いたのか一旦よろめくような動きを見せたが直ぐにカリラの戦闘機を追いかけ始める。カリラは腕と集中力が極限になるまで銀色の円盤から逃げ続けた。しかし、いっこうに距離が離れない。再び警報が鳴り相手にロックされフレアのスイッチを入れてもカチカチと鳴るだけで、使い切ったのを知るとカリラは自分の死を覚悟した。だが、何故か銀色の円盤は攻撃をしてこなかった。明らかにチャンスだと言うのに、円盤は何故かカリラの戦闘機を追うのをやめ、仲間の円盤のいる方へと引き返していった。
 助かったという安堵と同時に何故? という疑問がわいた。
 カリラは気持ちと呼吸を整えると、周囲を見渡した。だが、自分以外に戦闘機は見当たらなかった。
 無数の銀色の円盤は集まり始めると、まるで瞬間移動をしたかのように一瞬にして消えた。
「あの円盤のどうやったらあんな動きが出来るって言うんだ」
 人間の常識が通用しない初めての相手だということが生き残って得た唯一の収穫だった。




 宇宙軍の基地の大破、そして戦闘機が円盤相手に敵わなかったという報告は各国の大統領、首脳にはあまりに衝撃的な内容だった。
 もし、万が一あれがこの星にやって来たら……それは人類が絶滅もゼロではないということだった。
 あらゆる人類滅亡の予言が歴史上ある中でも人類はなんだかんだと生き残り、むしろ世界の人口を増やし続けている。しかし、これは本当に人類滅亡がやって来たかもしれない。多くの政治家達は本気でそう思った。
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