宮沢事件簿

アズ

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消えた弟

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「その男が言うには弟に子どもに会ってみないかと言ってきたことだったってこと?」
 宮沢が電話の向こうから聞いてきた。
「そう」
「ふーん……なんで今頃?」
「その男が言うには検査は結局していないが、子どもが成長するにつれ、自分と似ていないと気づいたからだそうだ」
「なる程ね。で、弟さんはなんて返したの?」
「男が言うには会わないと言ったらしい」
「そうなんだ。因みになんで?」
「それは分からない。でも会ったら認めたことにならないか?」
「さぁ? 弟さんの子どもだと思うの?」
「いや、どうだろう……」
「それじゃその男は弟さんにそれだけ言いに会いに来たってこと?」
「そう。あ、いや、その男は結局女性とは別れたらしい」
「となるとその男は弟さんを憎んでるわけじゃないんだね」
「そうなるね。第一、一度はそのカップルは別れていたんだし」
「なんかややこしいような……」
「三角関係なのはそうだね」
「ああ、そうだね。まぁ、それじゃ元彼女は今は一人で子どもを見てるってこと?」
「いや、実家に戻ったらしい」
「実家? まぁ、そうだよね……だとしたら実家の方は子どもが増えるからたまったもんじゃない? あまり素直に孫が見れて嬉しいとは言えなさそう」
「親は孫が見れて嬉しいらしいよ」
「あ、そこまで分かってるんだ」
「ただ、女性の方はちゃんとした仕事に就いてるわけじゃないから大変だとは思うけど」
「それじゃ実家がほとんど見る感じ?」
「じゃないかな」
「えー大変だね」
「でも、それと行方不明は関係ないでしょ?」
「うーん……どうだろう。車置いて逃げたとかじゃないし突然な感じでいなくなったんだからそうだと思うけど」
「そもそもなんで弟はいなくなったんだ?」
「悪いけど、そろそろ休憩時間終わるからもういい?」
「ああ、ごめんごめん。休憩中に電話しちゃって」
「別にいいよ。気になってたし」
「ありがとう聞いてくれて」
「あのさ、多分だけど大丈夫だと思うよ」
「え?」
「車があるなら外出したとしても遠くへいくつもりはなかった筈だし、事故の可能性は低いでしょ。その辺りで事件の話しもなかったし、まさか大の大人を誘拐しようとはならないんだから」
「そうなんだよなぁ」
「だから可能性があるのはさ、やっぱりわざと自分から姿を消したと思うんだよね」
「自分から? どういうこと?」
「例えば独りになりたかった、だから電話にも出ない。なにかそういった理由があったのかも」
「なる程……直ぐにはその動機になるようなものは浮かばないけれどその可能性が一番あるかもしれない。いや、まさか……」
「思ったんだけどさ、弟さんがあれ程自分の子どもじゃないと否定していたのは不倫した彼女を責めるだけじゃなく嫉妬して女性を突き放す口実でもあったんじゃない? ただ、本当は自覚はあった。それが突然あなたにそっくりですと言われて、弟さんは結婚もせず子どもを孕ませそれが本当に自分の子どもだと分かって親や家族に相談出来なかったんじゃない? 家族に話せたのは自分の子どもじゃないと相手が悪いことにして自分を正当化出来たからじゃないのかな……ごめん、こんな話しはすべきじゃなかった。勝手な想像だから忘れて」
「いや、そんな予感はしていたし分かっていたよ」
「もし、そうなら弟さんは時間がくれば戻ってくると思うよ。家に帰れる自分の足があるんだから」
「でも、もとはといえば元彼女が浮気したことなんだけどな」
「それも、向こうの男がなんで別れた女性に会っちゃうのかって話しだけど、本当のところどっちが先に接触しだしたのかな? 向こうの男からなら話しは変わると思うよ。男の告白もきっと全てではない筈だ。不都合なことは喋らず都合のつく話しだけしたかもしれない。まぁ、それも本当のところは分からないんだけどね」




 数日後、宮沢の言う通り弟は自分の足で戻ってきた。
 弟は各方面にまずは謝り、それから子どもの件を告白した。
 随分遅いけれど、子どものことは今から考えればいい。
 多分、彼なりに整理する時間が欲しかったのかもしれない。



「戻って来て良かったね」
「色々とありがとうな」
「全然結局何も役立たなかったし」
「いやいや、宮沢の推理当たってたよ」
「だから、こんなのは推理じゃないって。トリックを解いたわけでもないんだから。皆大袈裟なんだよ」
「そんなことないよ」
「それで、なんとかなりそうなの?」
「まぁ、それはこれからだし」
「そうか」
「それじゃまた連絡するよ」
「ああ、分かった」
 電話を切ると宮沢はスマホを台所の上に置いておくと、実家の畑でとれたゴーヤを使ったゴーヤチャンプルを作りにかかる。実家には畑以外にそれ程大きくはない田んぼもあって、毎年実家から野菜と一緒に段ボールで送られてくるからそれを食べている。おかげで野菜を食べるようになった。それでも運動不足のせいか腹が少し出始めている。最近は朝のランニングを習慣に取り入れる努力をしている。これで腹が引っ込めてくれたらいいんだけれど。
 宮沢は電話からの報告でとりあえず一件落着と思った。向こうの高橋からもそんな雰囲気だったし。まぁ、弟さんはこれからかもしれないけれど、とりあえず無事だったのだから良かった。




 だが、あまり好きではないゴーヤを食べていると、アパート二階ワンルームにある昼のテレビで速報が流れた。
 一人暮らしの男性前田泰介が賃貸アパートの一室で遺体として発見されたと報じられた。
 直後、着信音とインターホンが同時に鳴った。画面にはさっき話したばかりの高橋からだった。
 宮沢は電話にまず出て「悪いけどまたかけ直す。誰か来たみたい」と言いながら玄関へ向かった。この家にインターホン鳴らしてくる人なんて普段いない。警戒しつつ小さな窓から外を覗いた。すると、スーツ姿の男性二名が立っていた。
 宮沢はドアを開けた。
「あ、こちら宮沢さんお宅で間違いありませんか? 我々こういう者です」
 そう言って警察手帳を見せてきた。
「警察?」
「はい。それであなたは宮沢さん?」
「あ、はい。私が宮沢です」
「申し訳ありませんが下の名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「代吉です」
「ありがとうございます。因みにお独りで住まわれていますか?」
「そうです」
「ありがとうございます。実は宮沢さんに伺ったのは高橋真司さんのことで」
「真司がなにか?」
「いえ、厳密には真司さんではなくその弟さんなのですが、まず確認ですが高橋真司さんとはどういった関係ですか?」
「同じ大学の卒業生でそのあともたまに連絡を取り合う仲ですよ」
「では、その弟さんと会ったことはありますか?」
「いえ、それはありません。弟さんのことは兄の真司から聞いたくらいにしか」
「どんなことだったか覚えていませんか?」
「弟が行方不明になったという話しを聞いて、ただそれから戻ってきたと聞きました」
「そうでしたか。それ以外のことで何か知っていることとかありますか?」
「知っていることとは?」
「弟さんのことで」
「あの、なんで弟さんなんでしょう? 戻ってきたんですよね?」
「弟さんが無事だったことは承知しています。我々が聞きたいことは弟さんを探しているということではなく、弟さんが失踪中に何をしていたのかを知らべているのです」
「どういうことですか?」
「申し訳ありませんがそれにはお答え出来ないんです。宮沢さんがお兄さんから色々話しをしていたのは高橋さんから聞いています。他になにかありませんでしたか?」
 つまり、既に高橋は警察に色々と聞かれたということか。でも、なんで?
「真司からは弟が振った女性の話と、その元彼氏がその弟さんと会っていた話ですかね。ああ、あと子どもの件です」
「具体的にお願いできます?」
「はい。弟さんが女性と別れたあとでその女性が妊娠していたんですけど、その女性は元彼氏と度々会っていて浮気していたことに怒った弟さんは女性を振ったと聞いています。子どもは生まれたようですが、自分の子か分からないので弟さんは検査するまで認めていないとか」
 警察は私の話を細かくメモをしていく。
「あとはその元彼氏さんは女性とうまくいかず別れたとも。子どもが自分と似ていなかったっていうことで元彼氏さんは別れる前に弟さんに子どもに会わないかと言ったようです。土曜日です。行方不明になる前日だったとか」
「それから?」
「会っていないと聞いています。それで元彼氏さんは実家に戻ったと聞いています。聞いたのはそれぐらいです」
「そうですか。それでは質問は以上となります。ご協力ありがとうございました」
「あ、はい」
 玄関の扉が閉まると少し鼓動が早くなっているのに気がついた。
 自分はスマホで直ぐに高橋にかけ直す。
「もしもし」
「あ、今忙しかった」
「いや、さっき警察が来て真司の弟さんのことで色々聞かれたけどなにかあったの?」
「そうなんだ……俺にもよく分からないんだ。ただ、今日ニュースにも既になってるけど元彼女の元彼氏が遺体で発見されたんだ」
「え!?」
「名前は前田泰介。どうも誰かに殺されたみたいなんだ」
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