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Thebe
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テーベ支部にはもう用がなくなったので支部を出ると、出口に緑色の軍服の兵士がヘルメットした状態で立っていた。
男の階級は軍曹だった。
「そこで何をしている。名乗れ」
「ガニメデ支部から来たマーズだ」
(マーズだと!? 聞いたことある名だ。確か、冷徹の魔法使い。 ……だが、実力は確かと聞いた)
「すまなかった。ギルドの者だったか。私はトーマスだ。なにか分かったのか?」
「いや……中に小鬼がいた」
「小鬼だって!?」
「退治はしたから大丈夫だ」
「まさか……まだ敵がいたとは」
「気づかなくて正解だ。連中は透明化を使うし卑怯な手を使う。あれは厄介だ。専門家に任せた方がいい」
(それに、軍隊じゃ余計被害を増やすだけだ)
「そうだな。忠告ありがとう。だが、小鬼を倒したのに何が気になるんだ」
「遺体が見当たらなかった。なにか知らないか?」
「いや、我々はなにもしていないぞ。そうか! 遺体の行方が気になるんだな」
「そうだ」
「なら、犬を使おう。行方が分かるかもしれない」
「罠かもしれない」
「あっ……」
「だが、やってくれ。街の為にも」
「ああ! そうだな。分かった」
それから暫くして、軍曹は仲間を集め犬を何匹か連れ、ギルドメンバーの行方を捜索した。
訓練された犬達は一方向に向かっていく。
マーズも軍の人達と同行したが、やはり嫌な予感がした。
(やはり罠かもしれないな)
犬達はどんどん街から離れていく。それまでかなりの距離を歩いたのだが、犬はまだ先を行こうとしていた。
街並みが寂しくなるにつれ、石畳の道から泥濘んでいる土の道へ出た。
「つい最近、雨でも降ったのか?」とマーズはトーマス軍曹に聞いた。
「ああ、雨は降ったな」
「そうか。この先はなにがある?」
「単なる森さ。いや、農場があったかな」
すると、軍曹の後ろを歩いていた兵士が答える。
「ありましたが、そこは今は廃墟です」
「廃墟か……」とマーズは言った。
「廃墟なら、敵も潜んでるかもな」と軍曹は言ったのでマーズは「かもしれんな」と答えた。
実際、可能性はありそうだがそれは行けば分かることで、あまりその事については考えようとはしなかった。
森の中に入っても、道は続いていた。
周囲を兵士はライフルを構え警戒しつつその道を進んだ。
だが、マーズは兵士程には過剰には警戒しなかった。それを見ていた軍曹はマーズに「経験の差かな。あなたは余裕そうだ」と言った。
「いや、敵と戦う時は余裕だったことはない。いつも、緊張感持ってやっている。相手は何人殺してきたか分からない。油断はしないようにしている」
「でも、あんたはここにいる兵士より周りが見えていそうだ」
「犬が吠えないんだ。人間の視覚より犬の嗅覚の方が優れている」
「成る程」
と言っているそばから、遥か前方から犬が吠えた。
その先にあるのは、古びた倉庫だった。木材で2階建てのそれなりの大きさだった。
扉は分厚い鉄製の引き戸であり、僅かに隙間が見える。
鍵はかかってはいないようだ。
兵士達は訓練通り建物の周囲を取り囲む。
倉庫裏に扉は見当たらず、出入り口は正面のみであることが判明した。
窓ガラスは二階に当たる高いところにしかなく、中を外から確認することは出来なかった。
仕方なく、中の状況が分からないまま軍曹は突入の命令を出した。
ライフルを構えたまま一人分開けた入口から兵士が次々と突入していく。
マーズはその後に軍曹と一緒に突入した。
倉庫の中は広々としており、中は空だった。否、奥に椅子に座らされている5人の屈強な男達がうつ向いた状態で縄できつく縛られた状態で放置されていた。
兵士は周りを確認するが、特に罠のようなものも見当たらない。
軍曹は離れた場所から5人に向け声を掛けた。
「おい、大丈夫か?」
しかし、返事がない。もう一度声を掛けても変わらなかった。
軍曹のそばにいた兵士は「気を失っているんでしょうか」と言った。
軍曹は悩んだ。だが、マーズはハッキリと告げる。
「それか、死んでるかもな」
「え?」
「不謹慎だったか? だが、何故犬は今吠えてない」
「あ……」
「あれは罠だ」
マーズがそう言うと、その場の空気が一気に緊張が高まった。
「犬は何に吠えたんだ」
「そうだ」と軍曹が言った直後、外で待機していた兵士から悲鳴が次々とあがった。
おどおどする兵士達。だが、軍曹はそこらの兵士と違い、多少頭が回った。
「ドアを閉めろ!」
(いい判断だ)
鉄のドアが閉まり、そのドアから離れた場所で兵士達はライフルを構えた。
暫くして、悲鳴が止んだ。
軍曹はマーズの方を見た。
「我々はおびき出されたのか」
「そのようだ」
直後、鉄のドアが強くドン! ドン! と叩かれた。その衝撃はビビらせる程で、明らかに人間が出せる力ではない。もっと大きな拳がぶつかるような音だ。
(小鬼じゃないな)
すると、ドアが開かれ巨大な緑の指が鉄のドアを掴んで開けているのが見えた。
「おお!!」
驚きの声は震えてもいた。
出てきたのは巨大な緑色の怪物だった。
それを見てマーズは「トロール!?」と驚きの声をあげた。
頭を下げなければ入口に入ることも出来ない大きさに加え、見た目通りのパワーと頑丈さを持ったヒト型生物。二足歩行と両手が使えるだけでなく、道具を使う知能もある。だが、小鬼のように人間の言葉が話せるわけではなかった。
ライフルで弾を撃ち続ける兵士達。そのほとんどが命中しているにもかかわらず、その肉体に傷一つつけられないでいた。
「なんて硬さだ」
兵士の誰かがそう嘆いた。
(無理もない。あれは大砲レベルの火力でようやくあれを跪かせることができる程度だ。それでも倒しきれない相手だ。だが、軍は確かにトロールの群れの進行を過去にミサイルで止めていた筈)
一人の兵士がトロールに捕まると、体重70キロ以上ある男性を軽々持ち上げ、それを床に叩きつけた。
そして、また一人トロールに捕まり、トロールに殺されていった。
どんなに弾があろうと兵士達ではトロールを止めることは出来なかった。
マーズはというと、呪文を唱え魔法を完成させていた。
つまり、今まではマーズの呪文が完成させる為の時間稼ぎだった。
「普通、詠唱無しの魔法は当たり前なんだが、古代の魔法には時に詠唱を必要とする特殊魔法が実在する。その一つ、石化の呪いだ」
マーズが唱えていた魔法というのはまさしく、石化の魔法。
トロールの足元から徐々に上へと石化が始まった。
トロールは動かなくなった自分の足を見た。そして、躊躇なく使えなくなった足を自分の爪で両足を切り裂いた。
まだ、石化していない部分から切断した為、大量の血がドバーッとその場に流れたが、これで石化を防いでみせたのだ。
「やはり、そう簡単にはやらせてくれないか」
トロールの顔には大量の汗が出ていたが、それも直ぐにおさまる。何故なら、大量の出血による死がおとずれる……のではなく、再生するからだ。
トロールは瞬時に、自身の両足をたった数秒でまた生やしたのだ。
「嘘だろ……再生しちまったよ」
トロールの厄介な点は再生能力だ。小鬼の透明化や変装はトロール程の力を持たない変わりにずる賢さが売りに対して、トロールはその肉体を活かしたパワーと、再生能力を持つ。更に厄介なのは、トロールが再生不可となり死体が腐敗した時、そこから猛毒を発生させ、それを吸い込んだ人間をゾンビに変えてしまう死んだ後も厄介なことをしてくれるのだ。だから、討伐後の処理も注意が必要なのだ。
兵士達が絶望的な表情になる一方で、トロールはニヤニヤと笑っていた。
だが、マーズだけは余裕な表情を崩さなかった。
「トロール、お前が私に勝てない理由を二つ教えてやる」
「?」
「今、私はテレポート魔法で切断された先に爆弾を仕込んだ」
トロールは目を大きくさせた。
(言葉は喋れないのに此方の会話は分かるのか?)
「まぁ、つまりだ」
マーズはそう言って指でピストルのかたちをつくると、トロールの膝辺りに向けた。
「バーン!」
直後、トロールの両足が内側から爆発しトロールは両足を再び失った。
トロールは悲鳴をあげた。
「お前の強さぐらいは知っている。お前の自慢の肉体も内側からの攻撃は想定外だったろ?」
だが、トロールは再び足を再生させた。何度でもトロールは再生できる。無論、マーズは承知している。
「俺は何度でもお前が足を再生させる度に爆発させお前の足を奪う」
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
「さて、お前は8回両足を失ったわけだが、まだやるかい?」
流石のトロールも顔全体に大量の汗と苦痛をうかべていた。
「再生もこうなると不便だな。便利な能力に見えて欠点がある。お前にとって、両足を8回失う痛みとトラウマは相当なものだろ? だが、私を恨むなよ。お前は私と出会うまでに沢山の人間を酷たらしく殺してきたんだろ? なら、当然の報いだ」
トロールは両足をまだ再生しなかった。恐れているのだ。
「どうした? 両足はもういらないのか?」
すると、失った先から石化が再び襲った。
これにはトロールも驚いた顔をした。
「そう、これが一つ目だ。私の唱える魔法は一度完成さえすれば、その効果は重複して行われる。これが『連続魔法』だ」
そう説明が終わった頃には完全にトロールは石化していた。
歓声があがる。
しかし、これで終わりではなかった。
石化したトロールの頭上から亀裂が走ったのだ。それは真下までいき、パッカリと真っ二つに割れた。まるで、脱皮をしたかのように。
そして、現れたのはゴールド色になったトロールだった。
「あれはなんだ」と軍曹が言ったので、マーズは「キングトロールに進化したんだ」と答えた。
「進化だと?」
「たまにあるんです。稀ですが」
今度は両足もついたまますっかり元気な状態で殻から出てきてしまった。
「軍曹、あなた達は脱出された方がいい」
「あなたは?」
「見て分かったと思うが、あれはあなた達では敵わない」
「ええ、そのようです。それではお願いします」
軍曹は部下に指示を出し、全員その場を脱出した。
トロールはもう既に逃げていく人間には興味は示さなかった。
トロールが見るのはマーズ一人だ。
キングトロールはヨダレを垂らした。
「腹を空かせているのか。まぁ、そうだろう。進化をすれば、その分だけエネルギーが消費される。今、お前は更に上にいったわけだが、そのお前はガス欠同然だ。ああ、言い忘れていたが、お前が俺に勝てない理由の二つ目だ。俺は魔法を同時に発動できる。大抵の賢者と呼ばれる奴でも異なる魔法は二つが限界だ。似た魔法、例えば同じ属性なら条件は緩くなるが、私は異なる魔法を三つ以上できる」
「!?」
「あまり戦闘では使わないんだが、俺はお前に石化の魔法とテレポート魔法を使った。あと一つは」
マーズは今度は人差し指を上に向けた。
「重力魔法」
逃げていった兵士が空を見上げた。何故なら隕石が目視できるところまで迫っていたからだ。
「マジかよ……」
「隕石を引き起こすには時間がかかるんだ。近くの手頃な奴を探してここまで誘導しなきゃならない。でも、お前がちんたらしてくれたおかげで十分な時間がとれたよ。じゃ、さようなら」
マーズはそう言って煙幕をはり、トロールは必死にマーズを探しているところに、巨大な隕石がその場に落ちた。
◇◆◇◆◇
後日。
テーベ支部の葬式と復興作業が同日に行われた。
マーズはバーリンに全てを電話で報告していた。
「……分かった。ご苦労だったな。まさか、トロールだったとは」
「テーベの上空にあった文字は消えた。あれは俺が倒した小鬼の仕業だと分かった。それじゃ、俺は戻るよ」
「ああ」
男の階級は軍曹だった。
「そこで何をしている。名乗れ」
「ガニメデ支部から来たマーズだ」
(マーズだと!? 聞いたことある名だ。確か、冷徹の魔法使い。 ……だが、実力は確かと聞いた)
「すまなかった。ギルドの者だったか。私はトーマスだ。なにか分かったのか?」
「いや……中に小鬼がいた」
「小鬼だって!?」
「退治はしたから大丈夫だ」
「まさか……まだ敵がいたとは」
「気づかなくて正解だ。連中は透明化を使うし卑怯な手を使う。あれは厄介だ。専門家に任せた方がいい」
(それに、軍隊じゃ余計被害を増やすだけだ)
「そうだな。忠告ありがとう。だが、小鬼を倒したのに何が気になるんだ」
「遺体が見当たらなかった。なにか知らないか?」
「いや、我々はなにもしていないぞ。そうか! 遺体の行方が気になるんだな」
「そうだ」
「なら、犬を使おう。行方が分かるかもしれない」
「罠かもしれない」
「あっ……」
「だが、やってくれ。街の為にも」
「ああ! そうだな。分かった」
それから暫くして、軍曹は仲間を集め犬を何匹か連れ、ギルドメンバーの行方を捜索した。
訓練された犬達は一方向に向かっていく。
マーズも軍の人達と同行したが、やはり嫌な予感がした。
(やはり罠かもしれないな)
犬達はどんどん街から離れていく。それまでかなりの距離を歩いたのだが、犬はまだ先を行こうとしていた。
街並みが寂しくなるにつれ、石畳の道から泥濘んでいる土の道へ出た。
「つい最近、雨でも降ったのか?」とマーズはトーマス軍曹に聞いた。
「ああ、雨は降ったな」
「そうか。この先はなにがある?」
「単なる森さ。いや、農場があったかな」
すると、軍曹の後ろを歩いていた兵士が答える。
「ありましたが、そこは今は廃墟です」
「廃墟か……」とマーズは言った。
「廃墟なら、敵も潜んでるかもな」と軍曹は言ったのでマーズは「かもしれんな」と答えた。
実際、可能性はありそうだがそれは行けば分かることで、あまりその事については考えようとはしなかった。
森の中に入っても、道は続いていた。
周囲を兵士はライフルを構え警戒しつつその道を進んだ。
だが、マーズは兵士程には過剰には警戒しなかった。それを見ていた軍曹はマーズに「経験の差かな。あなたは余裕そうだ」と言った。
「いや、敵と戦う時は余裕だったことはない。いつも、緊張感持ってやっている。相手は何人殺してきたか分からない。油断はしないようにしている」
「でも、あんたはここにいる兵士より周りが見えていそうだ」
「犬が吠えないんだ。人間の視覚より犬の嗅覚の方が優れている」
「成る程」
と言っているそばから、遥か前方から犬が吠えた。
その先にあるのは、古びた倉庫だった。木材で2階建てのそれなりの大きさだった。
扉は分厚い鉄製の引き戸であり、僅かに隙間が見える。
鍵はかかってはいないようだ。
兵士達は訓練通り建物の周囲を取り囲む。
倉庫裏に扉は見当たらず、出入り口は正面のみであることが判明した。
窓ガラスは二階に当たる高いところにしかなく、中を外から確認することは出来なかった。
仕方なく、中の状況が分からないまま軍曹は突入の命令を出した。
ライフルを構えたまま一人分開けた入口から兵士が次々と突入していく。
マーズはその後に軍曹と一緒に突入した。
倉庫の中は広々としており、中は空だった。否、奥に椅子に座らされている5人の屈強な男達がうつ向いた状態で縄できつく縛られた状態で放置されていた。
兵士は周りを確認するが、特に罠のようなものも見当たらない。
軍曹は離れた場所から5人に向け声を掛けた。
「おい、大丈夫か?」
しかし、返事がない。もう一度声を掛けても変わらなかった。
軍曹のそばにいた兵士は「気を失っているんでしょうか」と言った。
軍曹は悩んだ。だが、マーズはハッキリと告げる。
「それか、死んでるかもな」
「え?」
「不謹慎だったか? だが、何故犬は今吠えてない」
「あ……」
「あれは罠だ」
マーズがそう言うと、その場の空気が一気に緊張が高まった。
「犬は何に吠えたんだ」
「そうだ」と軍曹が言った直後、外で待機していた兵士から悲鳴が次々とあがった。
おどおどする兵士達。だが、軍曹はそこらの兵士と違い、多少頭が回った。
「ドアを閉めろ!」
(いい判断だ)
鉄のドアが閉まり、そのドアから離れた場所で兵士達はライフルを構えた。
暫くして、悲鳴が止んだ。
軍曹はマーズの方を見た。
「我々はおびき出されたのか」
「そのようだ」
直後、鉄のドアが強くドン! ドン! と叩かれた。その衝撃はビビらせる程で、明らかに人間が出せる力ではない。もっと大きな拳がぶつかるような音だ。
(小鬼じゃないな)
すると、ドアが開かれ巨大な緑の指が鉄のドアを掴んで開けているのが見えた。
「おお!!」
驚きの声は震えてもいた。
出てきたのは巨大な緑色の怪物だった。
それを見てマーズは「トロール!?」と驚きの声をあげた。
頭を下げなければ入口に入ることも出来ない大きさに加え、見た目通りのパワーと頑丈さを持ったヒト型生物。二足歩行と両手が使えるだけでなく、道具を使う知能もある。だが、小鬼のように人間の言葉が話せるわけではなかった。
ライフルで弾を撃ち続ける兵士達。そのほとんどが命中しているにもかかわらず、その肉体に傷一つつけられないでいた。
「なんて硬さだ」
兵士の誰かがそう嘆いた。
(無理もない。あれは大砲レベルの火力でようやくあれを跪かせることができる程度だ。それでも倒しきれない相手だ。だが、軍は確かにトロールの群れの進行を過去にミサイルで止めていた筈)
一人の兵士がトロールに捕まると、体重70キロ以上ある男性を軽々持ち上げ、それを床に叩きつけた。
そして、また一人トロールに捕まり、トロールに殺されていった。
どんなに弾があろうと兵士達ではトロールを止めることは出来なかった。
マーズはというと、呪文を唱え魔法を完成させていた。
つまり、今まではマーズの呪文が完成させる為の時間稼ぎだった。
「普通、詠唱無しの魔法は当たり前なんだが、古代の魔法には時に詠唱を必要とする特殊魔法が実在する。その一つ、石化の呪いだ」
マーズが唱えていた魔法というのはまさしく、石化の魔法。
トロールの足元から徐々に上へと石化が始まった。
トロールは動かなくなった自分の足を見た。そして、躊躇なく使えなくなった足を自分の爪で両足を切り裂いた。
まだ、石化していない部分から切断した為、大量の血がドバーッとその場に流れたが、これで石化を防いでみせたのだ。
「やはり、そう簡単にはやらせてくれないか」
トロールの顔には大量の汗が出ていたが、それも直ぐにおさまる。何故なら、大量の出血による死がおとずれる……のではなく、再生するからだ。
トロールは瞬時に、自身の両足をたった数秒でまた生やしたのだ。
「嘘だろ……再生しちまったよ」
トロールの厄介な点は再生能力だ。小鬼の透明化や変装はトロール程の力を持たない変わりにずる賢さが売りに対して、トロールはその肉体を活かしたパワーと、再生能力を持つ。更に厄介なのは、トロールが再生不可となり死体が腐敗した時、そこから猛毒を発生させ、それを吸い込んだ人間をゾンビに変えてしまう死んだ後も厄介なことをしてくれるのだ。だから、討伐後の処理も注意が必要なのだ。
兵士達が絶望的な表情になる一方で、トロールはニヤニヤと笑っていた。
だが、マーズだけは余裕な表情を崩さなかった。
「トロール、お前が私に勝てない理由を二つ教えてやる」
「?」
「今、私はテレポート魔法で切断された先に爆弾を仕込んだ」
トロールは目を大きくさせた。
(言葉は喋れないのに此方の会話は分かるのか?)
「まぁ、つまりだ」
マーズはそう言って指でピストルのかたちをつくると、トロールの膝辺りに向けた。
「バーン!」
直後、トロールの両足が内側から爆発しトロールは両足を再び失った。
トロールは悲鳴をあげた。
「お前の強さぐらいは知っている。お前の自慢の肉体も内側からの攻撃は想定外だったろ?」
だが、トロールは再び足を再生させた。何度でもトロールは再生できる。無論、マーズは承知している。
「俺は何度でもお前が足を再生させる度に爆発させお前の足を奪う」
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
「さて、お前は8回両足を失ったわけだが、まだやるかい?」
流石のトロールも顔全体に大量の汗と苦痛をうかべていた。
「再生もこうなると不便だな。便利な能力に見えて欠点がある。お前にとって、両足を8回失う痛みとトラウマは相当なものだろ? だが、私を恨むなよ。お前は私と出会うまでに沢山の人間を酷たらしく殺してきたんだろ? なら、当然の報いだ」
トロールは両足をまだ再生しなかった。恐れているのだ。
「どうした? 両足はもういらないのか?」
すると、失った先から石化が再び襲った。
これにはトロールも驚いた顔をした。
「そう、これが一つ目だ。私の唱える魔法は一度完成さえすれば、その効果は重複して行われる。これが『連続魔法』だ」
そう説明が終わった頃には完全にトロールは石化していた。
歓声があがる。
しかし、これで終わりではなかった。
石化したトロールの頭上から亀裂が走ったのだ。それは真下までいき、パッカリと真っ二つに割れた。まるで、脱皮をしたかのように。
そして、現れたのはゴールド色になったトロールだった。
「あれはなんだ」と軍曹が言ったので、マーズは「キングトロールに進化したんだ」と答えた。
「進化だと?」
「たまにあるんです。稀ですが」
今度は両足もついたまますっかり元気な状態で殻から出てきてしまった。
「軍曹、あなた達は脱出された方がいい」
「あなたは?」
「見て分かったと思うが、あれはあなた達では敵わない」
「ええ、そのようです。それではお願いします」
軍曹は部下に指示を出し、全員その場を脱出した。
トロールはもう既に逃げていく人間には興味は示さなかった。
トロールが見るのはマーズ一人だ。
キングトロールはヨダレを垂らした。
「腹を空かせているのか。まぁ、そうだろう。進化をすれば、その分だけエネルギーが消費される。今、お前は更に上にいったわけだが、そのお前はガス欠同然だ。ああ、言い忘れていたが、お前が俺に勝てない理由の二つ目だ。俺は魔法を同時に発動できる。大抵の賢者と呼ばれる奴でも異なる魔法は二つが限界だ。似た魔法、例えば同じ属性なら条件は緩くなるが、私は異なる魔法を三つ以上できる」
「!?」
「あまり戦闘では使わないんだが、俺はお前に石化の魔法とテレポート魔法を使った。あと一つは」
マーズは今度は人差し指を上に向けた。
「重力魔法」
逃げていった兵士が空を見上げた。何故なら隕石が目視できるところまで迫っていたからだ。
「マジかよ……」
「隕石を引き起こすには時間がかかるんだ。近くの手頃な奴を探してここまで誘導しなきゃならない。でも、お前がちんたらしてくれたおかげで十分な時間がとれたよ。じゃ、さようなら」
マーズはそう言って煙幕をはり、トロールは必死にマーズを探しているところに、巨大な隕石がその場に落ちた。
◇◆◇◆◇
後日。
テーベ支部の葬式と復興作業が同日に行われた。
マーズはバーリンに全てを電話で報告していた。
「……分かった。ご苦労だったな。まさか、トロールだったとは」
「テーベの上空にあった文字は消えた。あれは俺が倒した小鬼の仕業だと分かった。それじゃ、俺は戻るよ」
「ああ」
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