マーズと小さな弟子

アズ

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dragon

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 竜とは何か? そう聞かれたらなんと答えが出るだろうか。伝説。神。怪物。こうも答えが変わってしまうものなのかと今更ながらに気づいたわけだ。



「師匠、竜は敵ですか?」
「人間を襲ってくるのだから敵だろう」とマーズはレイチェルの問いにそう答えた。
 マーズとレイチェルは今、同じ列車に乗って移動の最中だった。
 次の討伐先が決まったので、マーズはそこに向かうことになったのだが、バーリンが「弟子なら師匠についていって、戦い方を見て学べ」と言われついてきていた。
 学校も休みだったわけで、マーズも弟子をとった以上ついていくことを許可した。
 二人が向かっている先はガニメデから西に向け500キロ行ったエウロパという街である。カラフルな建物の三角屋根が特徴的で、美味しい食べ物も沢山ある街だ。
 港があり、そこから新鮮な魚がそのまま食べれることで観光にもなっており、生で食べるのが人気らしいが、マーズは生で食べるのが苦手だった。マーズは何度かその街に行ったことがあるのだが、一度食べた時自分には合わないと知ってから、タラのフライとポテトフライの料理しかそこでは食べないことにしていた。
 車両内にはマーズとレイチェル以外に何人かの乗客が乗っていた。無論、二人とは無関係のただの乗客だ。どの人も大きな鞄を持っていたから旅行目的だろう。
「師匠、竜は空にいるんですよね? どうやって空にいる敵と戦うんですか?」
 マーズは彼女の方を見た。レイチェルの格好と言えば、これまで制服姿しか知らなかった。だが、今は緑色のジャンパースカートを着ていた。
「さぁ」
「さぁ?」
「竜とは初めて戦うことになる。竜はそれだけ珍しいんだ」
「竜ってどんな生き物なんですか?」
「出発前までに資料は見てこなかったのか?」
 資料は図書館でも見れるし、ギルドの資料も彼女には閲覧できるようバーリンには許可を貰っていた。
「資料は見ました。ただ、師匠の認識を共有したかっただけです」
「資料通りさ。さっきも言ったが、竜とは初めて戦う」
 マーズがそう言うと、レイチェルもそれ以上は聞かなかった。
 レイチェルは知ろうとする。用心深く慎重な部分があるのだろう。性格的に。ただ、資料は参考程度でしかない。実際には違ったこともある。資料という情報に頼りすぎるのは問題だ。視野が狭まる。何事も経験だ。強くなるには経験値を上げるしかない。無論、生き残る強運は必要となるが。
 途中、赤い鳥居のトンネルが現れた。列車は無数の鳥居の下をスピードを落とすこともなく走った。
 鳥居は数秒で抜けた。
 マーズは窓から空を見た。
 今日も天気に恵まれていた。
 それからマーズは竜について考えてみた。
 竜は敵が近づくのを察知すると、毒霧を放つ。毒に関しては、毒を解析し解毒を魔法で体内で作れば問題はない。他にも竜は色々な「気」を使う。
 波動気は竜の口から放たれ、それに直撃を受ければ木っ端微塵だ。肉体は魔法で強化し、攻守共に優れた敵だ。しかし、肉体の頑丈さなら前回のトロールでも十分知った。大抵、敵は通常兵器に対して強い。その点は竜だからとはあまり関係はなく、ほとんどの敵がそうだという認識の方が正しいだろう。
 だが、それだけならまだマシというもの。厄介なのは侵略者には個性的な能力もあるということだ。
 竜の厄介な点は魔法の上書き。つまり、相手の完成させた呪文を上書きし、別の魔法に変えるというもの。例えば、此方が炎の魔法を放っても、無害な花とかに変えることができる。頑丈かどうかという議論は最早考える意味さえ感じさせない厄介さだ。
 また、あらゆる呪いの無効化。
 武器使用による攻撃はテレポート魔法で相手にお返しとまでやってみせる。
 時魔法で竜の動きを止め、魔法の上書きをさせないようにさせてからの攻撃魔法でも、今度は魔力吸収により、時が止められていても発動、あらゆる攻撃魔法は吸収され竜の体内にて自分のエネルギーに変換。
 トロールのような再生能力がないだけで、どうしようもない。
 勿論、そんな竜でも討伐はされてきた。
 まず、時魔法で動きを止め、魔法の上書きをされない状態にした上で封印魔法で竜の体を透明なガラス玉へ封印する。竜の躰の色と同じ色に玉が変色する。それから、封印された玉から竜の魔力を吸い上げ、竜の魔力を枯渇させ殺すという時間のかかるやり方でこれまで倒してきた。
 よくも考えついたものだと資料を見た時は思った。時魔法は他の魔法と違い、使用には魔法協会の使用許可が必要となる。協会の仕事は遅く、申請から許可までに最低二日はかかる。まぁ、これはギルドがやってくれたので、許可はとれていた。
 時魔法は久しぶりに使用する為、多少気合いは入っていた。
 時魔法習得には魔法協会から審査を受け合格した者だけが、魔法協会から伝授される。それ以外の方法での習得は違法とされ、処罰の対象となる。
 このように、魔法によっては免許が必要とされる。いずれ、レイチェルもギルドに入るなら免許をとっていくことになるだろう。
 竜の出現場所はエウロパから一番近い山の頂上だとのことらしい。
 早めに行って討伐する必要があった。
 無論、その間にエウロパ支部のギルドメンバーが退治していてもマーズには問題なかった。エウロパにも時魔法が使える奴はいた筈だから。
(そしたら、観光して帰るのも悪くないかもしれない)
 エウロパは夏になると祭りがあるのだが、時期がはずれているのが残念だ。



◇◆◇◆◇



 エウロパ駅に到着すると、アナウンスと共に扉は開き、二人は駅に降りた。
 そのまま駅の出口へ向かうと、そこには明らかにマーズを待っていたであろう青年が立っていた。そうと分かったのは独特の雰囲気が感じられたからだ。ギルドメンバーの鍛え上げられた魔力が。
 マーズは青年に近づいた。黒髪に青いジーンズに白いシャツの男はマーズより若かった。
「俺を待っていたのか?」
「はい、マーズさんのことは既に連絡を受けています。俺はサムと言います」
「なんだ、てっきりお前達が先に討伐してしまったんじゃないかと思っていたんだが」
「はい、その通りなんですが……」
「その反応だと失敗したのか」
 竜のような強くて厄介な侵略者は大抵決まった倒し方になる。いわゆる、攻略法というやつだ。それに失敗したということは、誰かがヘマをしたということになる。
「いえ、違います」
「違う?」
「はい。マーズさんの仰る通り支部の皆は先に竜退治に向かいました。しかし、此方が近づくと竜は攻撃するわけでもなく、自分の長い躰を使って空中に円をつくりだしたんです。その円の中心から暗闇が突然現れました」
「ゲートか」
「え!? あ、はい。そうです」
(凄い、この人。今の説明だけで分かってしまうなんて)
「竜はゲートをつくると、魔力を使い果たしそのまま消滅しました」
「なに?」
「マーズさんが疑問に思うように、僕らも疑問に思いました。今までにないことです。でも、それ以外にも不思議なことがあるんです。後で分かった話、竜は数日前からあの山の頂上に現れていたようなんです。何故、直ぐに街を襲わなかったのか……」
「成る程。つまり、竜の目的は街を襲う以外にあった。それがゲートと関係があるんだな」
「僕らはそう考えてます。マーズさんはどう思いますか?」
「さぁ……まだ、分からないな。それで、ゲートから何か現れたのか?」
「いえ、まだ。しかし、ゲートからもの凄い魔力を感じます」
「つまり、デカい奴を送り込む為に竜は自らを犠牲にしたのか。で、他の仲間は?」
「ゲートのそばで待機しています」
「なら、案内しろ」
「はい」
(もっと厄介なことになったか……)
 こればかりはマーズも想定外の事態に発展していた。
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