マーズと小さな弟子

アズ

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Gate

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 駅を出ると、さっき列車の窓から見えた景色、カラフルな建物が並んでいた。
 これなら、自分の家も直ぐに見つけそうだ。
 駅の周りはお店が多く、一階がお店で二階より上の階は居住になっているのがほとんどであった。
 海の香りが微かに風に乗ってきているので、海が近いことも分かる。
 沢山の人達が行き交う中、私達は山へ向かって歩きだす。
 レイチェルはサムの方を見た。彼は三叉槍さんさそうを持っていた。三叉槍を武器として持っている人をレイチェルは初めて見た。それはマーズから見ても、三叉槍は珍しい武器だった。
「三叉槍か」とマーズは遂にそれに触れた。
「ああ、やっぱり珍しいですか。あんまりいないですもんね」
「若いのに三叉槍を扱えるのはもっと珍しい」
「僕はこの三叉に三つの魔法をそれぞれ宿せるんです」
「だろうな」
「もしかして、マーズさんは三叉槍も扱えたりするんですか」
「使おうとは思わない」
「そう言えばマーズさん、あなたの武器は?」
 確かに、列車に一緒に乗っている時も武器らしいものは見当たらなかった。だが、それは武器が小物だからとレイチェルは然程気にはしなかったのだが、言われてみると気になりだした。
「武器は持たない」
「え?」と、これには二人同時に同じ反応をした。
「魔導書とかでもないんですか」
「ああ。武器は荷物になるから遠出には向かないし、武器を持ちながら戦うタイプじゃない。あえて言うなら武器は呪文かな」
「呪文……成る程、言霊というわけですね」
「魔法使いが呪文を唱えるのは、それが言霊になるからだ。燃えろと唱えれば、燃え上がる。そのエネルギーにかわるのが魔力というだけ」
「でも、ベテランになると呪文すら唱えなくなるんですよね」
 マーズは頷いた。
「念じることで、詠唱を省略している。念も強くなればな。その為には強い精神力と鍛錬が必要になる。それでも、更に上の魔法には唱えるという力が増す」
「上の魔法! だから、武器はマーズさんには必要ないわけですね。高レベルの魔法が扱える人は多くありません。あなたも凄い方です」
 しかし、そう言うサムという男もかなり強い魔力をレイチェルは感じていた。彼も十分に強い。
 すると、マーズはサムから一旦目をそらして周りを見た。
「皆は事態を知らされていないのか」
「ええ、混乱になりますので」
 レイチェルは気になって「でも、街から山は近いんですよね?」と聞いた。
 レイチェルの言う通り、駅からは距離として遠くても、迫力ある山肌がここからでも見て感じられた。
 近くには海があり、山と海に挟まれた場所に街があるみたいな感じだ。
「あの山へはケーブルカーが出ていますから、そこから向かうことは出来ますが、ゲートがあるのはその山ではなく、その奥にあるもう一つの山なんです。あれは山と言ってもそれ程大きな山ではないんです。ここからでは手前の山で見えないだけで、奥にある山の方が標高は高いですよ」
「それでも近いだろ」とマーズは言った。
「まぁ……離れているとは言えませんね」
 手前が小さな山で、奥に大きな山があることから、まるで親子に例えられたりする。だが、手前の山は登山をするにも難易度は低いが、奥の山は傾斜が急であったりして、登山レベルが高く、チャレンジするには街の許可が必要とされていた。
 登山には登山レベルが設けられ、カードがある。レベルが低いものはカード無しでも誰でもチャレンジ可能だが、高レベルはプロの登山家から説明や実際に試験を受けてから登山レベルを与えられる。その与えられたレベルが登山できる山のレベル上限となる。
 因みに、ギルドメンバーは特例で登山レベル上限の免除を受ける。
 だが、特例とは言え登山レベルあくまでも、登山での死者数を減らす為に設けられた制度であることを忘れてはならない。
「今は適当に理由をつけて一般人が登山が出来ないようになっています。因みに、その女の子はどうするおつもりですか?」
「ああ、説明がまだだったな。名はレイチェルという。ギルドの研修としてギルドから許可は出ている」
「連れて行くんですか!? 危険では……」
「危険を知らないで一人前にはなれないだろ。それに、戦わせるわけじゃない。近くで見せるだけだ」
(それでも危険な気がすが……)
「分かりました。では、行き方ですが、まず、ケーブルカーであの山の頂上まで行きます。そこから気球を出してもらい、奥の山まで一気に行きます」
「それは良い。登山とか言ったら魔法で飛んで行くところだった」
「アハハ、魔力は戦闘の時用に消耗は避けたいですから」
「それもそうだな」
 マーズは簡単そうに言ったが、高い山の頂上に行くのは魔法で飛んで行くにはかなり危険である。標高が高い程、風の影響を受けるからだ。簡単に言えてしまうのはマーズのような魔法に自信のある者くらいだ。なんなら、マーズは私を抱えて行くことも楽勝だろう。



 サムに案内され、ケーブルカーに乗り込み、そこから頂上へと向かう。
 ただ、座っているだけで頂上に行けるなんて、凄い発明だとレイチェルは感心した。
 レイチェルはケーブルカーに乗るのは初めてで、その一時は楽しめた。
 頂上に到着すると、ギルドが手配した気球が既に用意出来ていた。
「いつでも行けるぞ」と気球乗りが言った。
「彼は気球乗りの中で一番腕がいいんです。そこは安心して下さい。それじゃ、向かいましょう」
 3人は気球に乗り込むと、気球は上昇し、奥にある険しい山へ向かった。
 確かに、頂上はここより遥かに上にあり、山の途中から雪が積もっていた。
 上に行けば行く程に寒くなる。地上からだいぶ離れた高さになると、雪まで積もるのか。
 事前に気球の中にあった厚着を着込み、寒さをしのぎながら頂上へ気球は近づいていった。
 3人はそこで空から強い魔力を感じた。
 心配になったのか、サムはもう一度マーズに「本当にあの子も一緒に連れて行くんですか」と聞いた。
「正直、さっきより魔力を強く感じます」
「お前がそこまで心配するのも分かる。確かに、凄い魔力を感じる。だが、弱い相手では研修の意味にはならない」
「分かりました」
 おそらく、サムはもう二度と同じ質問はしないだろう。それ以上は野暮になるからだ。
 頂上まであと僅かなところまで気球がいくと、空にある暗闇が確認出来た。
「デカいな。直径にして約200メートル以上といったところか」とマーズが言うと、顎に触れながらサムは「やっぱり」と言った。
「前見たより大きくなっているぞ」
「なら、ゲートは大きくなり続けていたということになるな」
 すると、気球乗りの男は暑くもないのに、汗をかいていた。
「俺は男だから、受けた依頼は絶対やり遂げてみせるが、魔法適性が最悪だった俺でも、ここまで来るとヤバいってのが分かるぜ」
 気球乗りの男も屈強な体をしている。そんな男でも怯えてしまう程だ。このゲートからいったいなにが現れてくるというのか。



◇◆◇◆◇



 頂上近くにある平らな場所があったので、そこに気球が到着すると、3人は降りた。
 サムは降りた後で気球乗りの男にお礼を言った後で「あなたは避難して下さい」と言った。
「申し訳ないが、ありがたくそうさせていただくぜ」
 そう言って、3人を載せた気球は行ってしまった。
 マーズは改めて空にあるゲートを見た。
「来るな」
「え!?」とレイチェルは驚く。
 マーズの目は厳しい。
 そこに、頂上で待機していた他のメンバーが3人のもとに集まってきた。
「来たか」と言ったのは大男。二の腕はメンバーの中で一番太く、例えるならパワー系みたいな肉体している。やや日焼けしている彼はサッパリ坊主の頭をしている。
 もう一人は黒髪の長髪で髪と同じ色の着物を着ていた。細身の男性は黒い鞘の刀を持っていた。
 最後に矢を入れた矢筒だけを持ったピンク色の髪をした女性だ。しかし、その女のどこを見ても肝心の弓が見当たらない。
 3人とも年齢でいったらマーズさんと然程変わらないんじゃないだろうかと思う。
 サムはマーズとレイチェルに向け3人を紹介しだした。
「着物の人はスイさん、女の人はシシリーさん、最後はマットだ」
「ねぇ、サム。そこの女の子はなに?」
「ああ、レイチェルさん。ギルド研修だってマーズさんがいっ」
「どういうこと? 一般人をこんな危険な場所に連れて行くなんて」
 マーズは答える。
「サムが説明した通りだ。許可なら出ている」
「ハッ、あなたは本当に冷酷な男なのね。噂通り。一般人を巻き込むなんて随分神経がおかしいんじゃないの? ギルド本部に言って抗議してやる」
「おいおい待てよシシリー」と間に入ってきたのはマットだった。
「今は喧嘩している時じゃないだろ。終わってからそういうのはやってくれ」
「そもそもギルド本部はこの異常な状況が分かっていないんだわ! 連れてきたのはマーズ一人って!? あり得ないわ!! もっと沢山人をよこしてくれると期待してたのに。やはり、お偉いさんは現場に出ないから分からないのよ」
「シシリーとか言ったか。あんた、分かってないね」
「なに!」
「ギルドはどこも人手不足だ。要請して一人でも来たんだ。それで文句を言うなら、単にお前が弱いってことだ」
「随分言ってくれるじゃない」
「いや、マーズの言う通りだ」と今度はスイが喋った。
「なによ、スイまで私の敵に回るつもり?」
「そうじゃない。冷静に考えた上で言っている。マーズは他のどこかのメンバーと違って戦力になる。それをギルドはよこしたってことさ。マーズくらいの戦力なら、他のところに応援に行っていてもおかしくない。それをこっちによこしたのは、ギルドなりに状況を考えてくれたからだ」
「レイチェルなら、俺が守るからあんたは気にしなくていい」
「随分余裕そうに言ってくれるじゃない」
「もうよせ」とマットは止める。
「そんなことより来るぜ。多分、あちらはマーズが来たことで此方の魔力量のトータルで気づいちまったようだ」
「なによ。私達の魔力量が足りないとでも言うつもり。皆、ムカつくのよ」
 怒りながら、シシリーは魔力を指に込めた。
 ピンク色に指の腹が光ると、魔力で弓を作り出した。
「魔法の弓!?」とレイチェルが驚くとマットは笑みをレイチェルに見せた。
「そうさ。シシリーの狙撃は普通の弓じゃ耐えられないんだ。どんなに魔力を込めてつくられた武器でも、2、3撃放てば木っ端微塵さ。だから、シシリーは自分の魔力で弓をつくるしかないのさ。自分の魔力なら、耐えられるからな」
 ピンク色の弓をつくると、矢を矢筒から取り出し、ゲートに狙いをつけると、それを放った。
 矢はシシリーの魔力を宿しながらゲートの中心に向かって飛んでいった。
 それを見たスイはため息をついた。
「なによ、スイ。こういうのは敵がのこのこ現れる前に先制するものよ」
 シシリーの矢はゲートの中へ入っていき、やがて見えなくなっていった。
 それから数秒後、稲妻が光った。
「全く……やってくれたな」
「ああ、スイの言う通りだな」とマーズは言う。
「お前が放った矢の魔力をあちらは吸収しちまったぞ」
「え? なに言ってるのよ、そんなことできるわけないじゃない」
 しかし、マーズの言ったことがまるで的中したかのように、ゲートの奥の魔力が更に高まった。
「嘘っ!?」
「後悔しても遅い。さぁ、来るぞ」とマットは構えをした。
 暗闇に見えるだけのゲートから巨大な魔力が近づいてくるのと同時に、神々しく光る正体が暗闇から現れだした!!
 8つの翼と、左腕は赤い目をした白い蛇で、それは巨大な杖に巻き付き、それはまるで杖を持っているようで、体型はまるで大人の女性のようなヒト型で、白いワンピースの下からは足ではなく木の根が飛び出ている。
 長い髪は金色に輝き、右手は白い人間の手をしており、その天使か神にも見えるその正体の手前には黄金のラッパが浮遊して、吹かれるのをまるで待っているかのようだ。その周りを無数の天使のようなものが取り囲む。
 巨大なそれは、約200メートルの直径をギリギリ通過し、空へ現れた。
「おい、マーズ。あれなんだか分かるか?」とマットが聞いてきたので「いや、初めてだ」と正直に答えた。
「おいおいまさか親玉とか言うんじゃないだろうな」
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