雨を降らす男

アズ

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 土曜日の午後。俺は塾に呼ばれ行くと、先生が俺を個室へと案内した。
 そこで真面目な顔をして言われたことは「このままだと、志望校を変えるしかない」だった。
「いや、そこをなんとか」
 すると、大きなため息がもれる。
「あのさ、皆もう一年前からさ勉強頑張ってるの。君はどうなの? 頑張ってるの? そうじゃないよね? なんで頑張れないの? そんなんじゃさ希望する大学に行けないことぐらい分かるよね?」
 自分でも分かっていた。天才ではないんだからもっと頑張らなきゃいけないし、そういった努力が足りないという先生の指摘も合っていた。
 今の俺には圧倒的危機感が足りなかった。
 今、こうして言われることで頭によぎるのは「留年」という言葉だった。
 だが、一年勉強して変われるのだろうか。
「親とよく話し考えておいて」
 先生との会話はそれで終わった。



◇◆◇◆◇



 真っ直ぐ家に帰ると、母親は俺の顔を見るなり「ちょっと話しがあるんだけど」と言ってきた。
「なんだよ」
 まさか、男の話しかと思った。
「あのね、私介護の資格取ろうと思っているの?」
 違った。
「介護?」
「うん。国家資格をね」
「介護の仕事するの?」
 介護と訊いて大変そうなイメージしか湧かない。
「なんで介護なの?」
「そりゃ、今のところがそれより安いからよ」
「でも、介護って大変なんでしょ?」
「そうだけどさ、分かってるでしょ? 次郎は高校へ行くんだし、幸太郎もなんか将来の夢決めてるみたいでさ、専門学校行くって言ってるし」
「次郎は将来の夢とかあるのか?」
「工業科に行くんだって。そこで資格とかとるみたい。それより、あなたは何になりたいのよ」
「そんなの分からないよ」
 自分のことなのに投げやりに答えたことに、親は不満そうな顔をする。
「分からないって……」
 正直、大学に入れさえすれば良かった。それすら、危ぶまれているが。
「大学を卒業する時に就活でさ、受かるところに就職するよ」
「まぁ、夢がないね」
 正直、俺が希望する就職先に就職が可能なのかどうか。
 どうしてもネガティブになり夢を追い求めないのはいつからでどうしてなのか…… 正直、長男だからと許され、それに甘えていた自分があったからなんだろう。自分を厳しく出来ず、周りから厳しくされ、ようやく気づく自分のだらしなさと怠慢は、俺の悪い性格だった。
 だが、同時に周りの大人達から責められ似たような事を言われることに嫌気をさしていた。
 自分でも時折思う。面倒くさい人間だと。



◇◆◇◆◇



 次の夢はもっと絶望的ではないのか。自分の置かれている状況を察しながら眠りに入ったのだが、目覚ましが鳴る前に目覚めた俺は、どんな夢を見ていたのか覚えていなかった。
 だが、あれほど鮮明だった夢なのだから覚えていてもおかしくない筈だ、と根拠なく、ただ前回がそうだったという理由だけでそう決めつけていた。でも、思うのだ。多分、あの夢の続きを自分は見ていない。
 そう思うと、もうあの夢の続きは見れないのかと残念に感じた。
 予想では、自分は雲の中、いや、宇宙にいっているかもしれない。その予想通りか、なんだか自分で確かめたくなっていた。
 そんなどうしようもないことを考えるより、俺にはやるべきことがあった。
 朝起きて、やる事を終えた俺は勉強にとりかかった。
 今日は小テストがある。
 中間や期末に比べればたいしたテストではないと思っていても、その積み重ねは大きなテストにも範囲として出てくる。
 時計を見ながら勉強できるところまで終え、それから学校へと向かった。



 教室に着くと、楽しい雰囲気というよりどこかピリッとした空気が流れていた。
 テスト期間が近いせいもあるし、大学を受験する人にとってはこのテストの結果で人生を左右するかもしれないからだ。
 先生がいつもより早く教室に入ると、皆は着席した。
 時間となり、テスト用紙が配られる。
 勉強したところで、テストは定刻通り後ろの席から回収された。
 手応えは満点だった。



◇◆◇◆◇



 それから日がだいぶ経過したが、あの夢を見ることはなかった。
 期末試験を終え、テストが返却されると、その結果に俺は驚いた。
 自分のテスト結果ではないように思えてしまったが、名前を確認するとやはり自分の名前だった。
 自信は確かにあった。
 だが、こうして結果として目にするまで不安があった。
 しかし、どうだろう。
 自信通り結果は身についていた。
 ずっと怠けていた自分に腹が立った。
 後悔したい。過去に戻れるならそうしたい。
 でも、過去には戻れない。
 サボっていた分の時間は取り戻せない。だが、これから先、挽回は可能だ。
 このテストの結果を見て、俺はようやく本物の自信を知った。
 なんだ、やれば出来るのか。
 皆、この経験を既に中学生の時に得ている。俺は遅すぎた。でも、それは自分が悪い。
 これから、この調子でやればきっと。



 俺はこのテストの結果を早速学校が終わってから直行で塾へと向かった。
 塾の先生も、テストの結果を見て顔色を変えた。
「なんだ、できるじゃないか。なんでもっと早くやらないんだ」
 俺は嬉しくなってたまらなかった。だが、恥ずかしさもあって素直になれず、顔はなんとか平常を保とうと無駄な努力をしていた。



◇◆◇◆◇



 今なら、あの夢の続きを見たとしても、前回のように酷い状況にはなっていない筈だ。きっと、足に地面がついているだろう。
 そう自信満々に眠りにつくと、気づけば自分の目の前は灰色が広がっていた。
「なんだこれ……」
 下を向けば足が宙ぶらりんになっている。その先は見えない。
 直ぐにこれは雲の中だと気づいた。
 あの夢の続きである。
「まさか……」
 そのまさかだった。想像とは真逆で状況が悪化していたのだ。
 このままいけば俺はいよいよ宇宙か。
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