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05 父親 〈前編〉

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 ジョンとウォルターはあれから一週間ぶりにパブで再会した。といっても、ディーンが殺された事件以降ウォルターとはよく会うようになった。
「あの後、アリスには会えたのか?」
「あぁ」
「それだけか? 他にもっとあるだろ。例えばお前にとっては父を殺した男の娘でもあるだろ。お前にとっては複雑な筈だ。他にもアリスが言っていた真犯人を見たという話しはどうだったんだ?」
「アリスの父親は確かに俺の父を殺したがアリスは関係ない。加害者の家族だからという理由で俺は恨んだりしない。アリスには俺からそう言ったが、アリスの方はそう簡単に割り切れるわけじゃない。あいつにも色々あっただろうし、あの事件で逮捕されたときも自分の父親を恨んだそうだ。父親と同じ血が流れているというだけで疑われたんじゃないかってね。それは彼女にとって父親は呪いなのさ。それにやはり読み通りアリスは弁護士に言われた通りにディーン殺しの真犯人を知っている素振りを見せただけだと言っていた。その弁護士をあんたが調べることになっていたが、そっちはどうなった?」
「弁護士とは会ってきたさ。弁護士は依頼人とのやり取りについて警察に話すことはないと言われたよ」
「まさか、それで引き下がったわけじゃないだろうな」
「誰に言ってる。とは言え、職業柄弁護士は口が堅いからな。だからその弁護士の助手を問い詰めたさ。そしたらその弁護士は何故か担当でもないディーン殺人事件について調査していたと吐いたよ。流石に理由まではその助手も知らなかったようだが」
「だとしたら弁護士はあの事件について何か知っているかもしれないんだな」
「まぁ、待て。話しはまだ続きがある。俺は助手の話しをもとにもう一度弁護士を問い詰めた。そしたら観念したよ。弁護士が言ったのは、アリスが逮捕された後日にアリスの母親から電話が会ってな、一人娘のアリスをどうか救ってくれと懇願されたそうだ。母親にとって家族はアリスだけだからな。必死に守ろうとしたんだろう、そう弁護士は受け取ったが、ハッキリ言ってその時のアリスは厳しい状況に立たされていた。だから、弁護士は素直に無実を勝ち取るのは厳しく、素直に犯罪を認め減刑を求める戦略の方が現状の娘の立ち位置上望ましいが、アリスは頑なに自白を断り無実を訴え続けていてこのままでは厳しい判決が下されることになると告げた。その時、母親は司法取引出来ないか聞いてきたそうだ」
「母親だったのか?」
「実際、母親はアリスと面会している。きっと、母親と弁護士とアリスの3人の中で話し合いが行われた筈だ。一週間もかかったのは俺が母親からも話しを聞いたからだ。だが、母親はアリスからディーン殺人事件の真犯人を見たと聞いたそうだ。それで、母親はそれを司法取引に出来ないか弁護士に相談したそうなんだ」
「どうなってる!? 話しが見えてこないぞ」
「つまり、3人のうち誰かが嘘をついているってことだ」
 ジョンは頭を抱えた。あのアリスが咄嗟にあんな嘘を思いつき俺に捜査協力させる魂胆を一人で思いついたとは考えにくい。だからこそ弁護士が怪しいと見ていたが、その弁護士は母親からの相談でアリスに司法取引の話しをした。その母親はアリスの面会でディーン殺人事件の真犯人を見たと言った。だが、それは母親の嘘かもしれない。
「誰が嘘をついている……いや、待てよ。母親が娘を助ける為についた嘘にしては遠回り過ぎだ。単純に誰かに相談するなり頼れば良かった。母親が嘘ではないなら、娘が嘘をついたことになる」
「だが、何故だ?」
「一つだけある。だが、それは突拍子もないことだ」
「なんだそれは?」
「アリスが裏切り者だっていうことだ。アリスはあの店に働いている以上組織について知っていただろうし、あの店の客の中には政治家も含まれていた。アリスは両者との繋がりがあるし、組織を崩壊させても奴は困ることはない」
「だが! それは自ら罠に飛び込み警察にわざと捕まったことになるぞ。リスクが大き過ぎるし失敗したらアリスは臭い飯を食わされることになる」
「その通りだ。だが、もしリスク相応以上の報酬があるとしたらアリスは引き受けたかもしれない」
「そんな馬鹿な! 間違えていたら人生を棒に振っていたところだぞ」
「だが、彼女にとって既に父親のせいで人生が滅茶苦茶にされていたらどうだ? 実際、彼女は仕事も人間関係も長続きしていない。父親が残した呪縛は彼女の人生を十分に苦しめた。彼女は転機を最後の最後に求めたのかもしれない」
「そこまで追い詰められていたのか……」
「被害者の遺族だけじゃない。加害者の家族だって一つの事件は不幸でしかない」
「それじゃアリスを探すのか?」
「もう見つからないかもしれない」
「どうして?」
「例えば報酬が大金だったのなら国外とか、遠出しているかもしれない。呪いから自由を求めて」
「政治家がディーン殺人事件の真犯人を知っていて警察に黙っている奴がいるのか?」
「理由は分からない。そもそも、ディーン殺人事件には真犯人の動機を俺達はまだ知らない。ディーンはいったい何に巻き込まれたんだ……」
「ジョン、残念だがイアンは起訴される。裁判になればイアンは有罪でディーン殺人事件はイアンが殺害したことで事件は解決したことになる」
「裁判まで時間はないな」
「正確には判決まで時間がないだ。例えイアンが一審を不服として控訴しても判決を覆す新たな証拠が出てこない限りはイアンにとって厳しいだろう」
「イアンの弁護士は?」
「国選弁護人だ。難しいだろうな」
「クソッ!」
 もっと時間があればとジョンは思った。
「とりあえずアリスの行方はこちらで調べてみる」
「頼む。お前が頼りだ」
「分かってる」




 後日。ディーン殺人事件以降色々あったジョンにとってモヤモヤが晴れずにいた。そのせいか毎朝のトレーニングも集中出来なかった。そのモヤモヤを少しでも晴らすにはやはりシャワーで一度頭を整理するに限った。
 シャワーを浴びていると、電話が鳴り始めた。ジョンは壁に拳をぶつけ深いため息をついた。
 体の水滴を拭い受話器を取り電話を出た。
「もしもし」
「なんだ、またシャワー中だったか?」
 その声はウォルターだった。
「お前わざとだろ」
「アリスだが、やはり出国したようだ」
「……そうか」
 その時、今度はインターホンが鳴った。
「来客のようだぞ」
「分かってる」
「服着ろよ」
 ジョンは言い返そうとしたが、その前に電話が切れた。
 ジョンは乱暴に受話器を戻すと服を着てから玄関を開けた。
 いたのはスーツ姿の金髪のポニーテールの女性が立っていた。年齢は三十代前半といった感じか。
「ジョンさんですね?」
「あぁ、そうだが」
「私は調査管のマクシェラです」
「調査管?」
「はい。実は今週から闘技場は老朽化もあって補修工事が行われているのはご存知でしょうか?」
「勿論」
 ジョンは腕を組み、壁に寄り掛かった。
「それがどうした、マクシェラ調査管」
「その補修工事中に作業員が闘技場に地下があることを発見したのです」
「何?」
「誰も闘技場に地下があることを知りませんでした。しかし、それがあったのです。そこで私のような調査管は歴史的建造物でもある闘技場の地下を歴史調査したいわけです。そこで、あなたにも調査に加わってほしいのです。ジョンさんは闘技場の英雄ですし、闘技場について一番詳しいあなたに意見も聞ければと思いお願いをしたいのです」
「成る程、いいだろう。俺も闘技場の地下がどうなっているか知りたいしな」
「では、外で待っていますので準備が終わったら声をかけて下さい」
「分かった」
「あと、シャツ後ろ前ですよ」
「あ……」




 準備が整い、彼女の車で闘技場へ向かった。闘技場は老朽化による補修工事で休みとなっており、出入り口付近では業者の車や人が出入りしていた。その中にジョン達の乗る白い車が入った。
 闘技場横の駐車場に車を良い位置でとめると、降車して直ぐ近く建物の入口へと二人は入っていった。
「ヘルメットをして下さい」
 マクシェラはそう言って作業員と同じヘルメットをジョンに渡してきた。ジョンはそれを受け取り頭に被る。マクシェラも同じように被ると、彼女の案内で選手入場口へと向かった。その手前の横にある巨大な柱の前に作業員が数人集まっており、ライトで下の方を向け照らしていた。
「柱の壁の劣化が酷く業者に見てもらったら空洞があるって分かったんです。それで調査する為にハンマーを柱にぶつけたら簡単に穴があいて、本当に空洞になっていたの。その空洞は地下まで続いていてね」
「他の柱は大丈夫なのか?」
「安心して。全ての柱を調査した結果、この柱だけが空洞だったわ。多分、設計ミスじゃなくわざとね。東の入場口の付近と選手控え室が西と微妙に違かったの。この違和感はこの柱のせいね」
「何の為に?」
「今、地下へ先行して調査に行った調査官がいるから、もう少し待ってくれる?」
 マクシェラに言われジョンは暫く待っていると、柱の中から懐中電灯の光が現れ、そこからヘルメットをした男の調査官が地下から出てきた。
「ストリンガー、どうだった?」
「凄いよ、マクシェラ。地下は思ったより広い。それに闘技場地下を中心に都市全体へ地下通路が走っている」
「本当!?」
「あぁ。これは歴史的大発見だ。その時代から多分地下通路を使って兵士が素早く移動出来るようにしていたんだよ。例え都市に敵が侵入しようともこの地下を利用すれば不意打ちも狙える。マクシェラ、これは限られた人しか知られてない秘密の通路さ。だからどの史料にもこの通路について記されていなかった」
「だとしたら私達は凄いものを発見したのよ!」
「俺も地下がどうなっているか見てみたい」
「あぁ、構わないよ。ただ、気をつけてくれ。まだ調査段階だから安全かどうかまだ分からないからな」
 ジョンは懐中電灯を受け取り、柱の空洞から地下へと降りた。地下はそれなりに深く、人が立って歩いても問題ないスペースだった。続いてマクシェラも降りてきた。
「凄い……」マクシェラはライトで照らしながら興奮していた。
「まさか闘技場にこんな地下があったとは」
 地下の円形に沿って壁には等間隔に壁龕へきがんがあり、その中に戦士達の彫像があった。
「これは?」
 ジョンの問いにマクシェラが答える。
「おそらく闘技場のかつての英雄達ね。何人かは記録で見た顔よ」
 ジョンはすっかり見入っていた。かつての闘技場の英雄となれば当然だ。
 すると、奥の方で一つだけジョンでも見知った顔を見つけた。
「そんな馬鹿な……親父?」
 マクシェラはジョンに近づき同じ彫像を見る。
「あり得ないわ。これが出来たのはずっと昔だもの。 ……でも、もしかしたらあなたのお父様はこの彫像と血縁関係にあるかも」
「本当か?」
「もっと調べてみないと分からないけど、もし、そうだとしたらあなたの強さはきっと血縁にあったことになる。あなたのお父様も」
 二人はその彫像を見た。やはり似ていた。親父に…… 。
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