あやかしという病

アズ

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04 赤いあやかし

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 環境活動家のごく一部の過激派思想の持ち主達によるテロ事件。増え続ける人口に対し環境破壊がより一層高まる中での人類抹殺思想は世界各地にいる過激派に電波され、爆弾のスイッチのごとく、実行は移された。毒が巻かれ、沢山の人々が死のうが彼ら一部の過激派には響かない。暴力的で破壊行動をするのは今に始まったことではない。ただ、それは平和的に取り組む環境活動家と一色単にすべきではない。過激派はキャンバスを真っ黒にするが、平和的な環境活動家はどのような社会を望むのか、思想を訴える。活動は無意味ではなく、世界の企業はその声を無視出来なくなっている。世界はそのように緩やかに進む中、環境の変化のスピードはそれより遥かに上回る。問題はその過激派に対して各国の(特に先進国)政府が対処するのは困難であるということだ。目に見える国籍という敵があるわけではない。そういった目に見えにくい相手にどのように対処するというのか? 中国であれば可能かもしれない。だが、自由で監視されない社会を望む民主主義社会においては中国のようにはいかないだろう。結果、平和が脅かされる日々を過ごすことになる。環境活動家の弾圧は上手くいかない。政府はいつだって環境活動家を嫌う。日本政府が化石賞を毎回受賞する裏では厄介にしか思っていない政治家はゼロだろうか? 残念ながらその答えが日本の現実だ。まさに、日本が狙われたのもそれが理由かもしれない。そんなことを口にすれば、命を奪われた被害者遺族達からの批判は避けられないが、そもそも環境破壊について後ろ向きだった日本が招いたと考えず被害者意識しかないのは、そもそも歴史認識からずっとそうだろう。歴史の授業が例えば戦争悲惨さしか語らず、何故加害者としての日本の責任をそう多く語らない教師がこれ程多いのかは言うまでもない。
 日本の歴史は単に敗戦国で終わらない。これは、日本が真に歴史を乗り越えた国なのかという話だ。それは、戦争を知らない若者にまで責任を持つべきか否かではなく、日本の歴史が何をして現在に至るのかという歴史観の議論である。
 話を戻し、一万人を出した犠牲は人口増加を続ける世界においてはデータ上で見れば微々たる数字だろう。だが、その数字は単なる数字ではなく、その1という数字にはデータでは表せない重みがあることを忘れてはならない。
 しかし、時折希薄になりがちだ。他人の命故だろうか。そこまで感心が寄らず、単なるデータに成り果てる。今日、何人の死者が出た。戦争で何人亡くなった。その数字のあまりの大きさに人はいちいち数字の1の重さを認識出来ているわけではない。感覚の麻痺と言えよう。そう、麻痺しているのだ。



 俺は宇津木の事情に詮索も入り込むつもりもない。というより、どうしたら良いのかさえ分からない。宇津木は立ち上がり奥の部屋へ入っていった。小鬼は「お前に出来ることはない」と言った。小鬼の判断や助言は正しいのだろう。俺は店を出て帰ることにした。
 翌日、着信のことを忘れ普通に出社した俺は編集長に怒られた。他の社員は既に事件について情報を仕入れに外に出たきりだった。
「君、自分が何の職に就いているのか自覚ある? そのままオカルトライターになるなら私は止めんが、その前に退職届を出すのを忘れないようにしてくれよ」
 それは、お前は必要ないと最後の警告をされたも同じだった。
「それと、お前に面会が来ている」
「誰ですか?」
「それはこっちのセリフだ」
 俺は肩を沈め、俺待ちの客のところへ向かった。そこにいたのは例の吸血鬼のあやかしだった。
「お前は!」
「いや、大変ですねぇ。過去のあやかしと会って来たんですか? 随分あやかしにも詳しくなったんじゃありません?」
「懲りないな、お前は」
「それはこちらのセリフですよ。あんなにあやかしに対する恐怖を知っておきながら、関わるのをやめないんですからむしろどういう神経をしているのか是非とも聞かせてもらいたいぐらいです」
「今度は何の用だ?」
「とぼけないでもらえますか? あなたが古川が転送したデータ先を突き止めたのを知っているんですよ」
「知ってもお前達は手が出せない」
「その通り。許可がなければ入ることが出来ない」
「言っとくが許可はしないからな」
「実は交渉であなたにそれを売って欲しいんです。その分の大金はお渡しします。どうですか、3億は」
「なんだと?」
「これで、あなたは今の仕事を辞められる。いいですか、あなたはあやかしと関わるのをやめる。私もあなたと関わるのをやめる。しかもあなたは大金を得るんです。悪い話しじゃないでしょ?」
「かもな」
「答えは直ぐでなくて結構です。考える時間を与えます。返答は電話でお願いします」
 名刺を渡してきた。俺はそれを受け取ると胸ポケットにしまった。
 吸血鬼のあやかしが去っていくのを見てから、俺はスマホを出しネットのコメント欄を見た。ニュースは世界で起きた事件で持ち切りだが、コメントでは過激派に対する批判や環境破壊はデマであるというコメントが目立って見えた。そして、日本が化石賞を受賞した国であるという自覚あるコメントは少ない。あるのはヒステリックになって溢れたコメント。被害者の同情は理解出来るが、日本が環境破壊の加害者としての見方はほぼない。
 日本の問題は単に電気自動車化では済まない。その電力は火力発電と原子力だが、再生可能エネルギーには消極的、ネガティブな意見が多いのが現実だ。そうであろう、山をいじり森を伐採しメガソーラー計画をすれば、盛り土による災害が彷彿され反対派が現れ計画は阻止され、原子力は地震が起きる国にそもそも原子力の安全性や、そもそも原子力の安全保障問題もある。故に原子力発電の反対派もいる中で火力発電に頼り続けている現状、そして電力供給の安定の課題を見るだけで問題は山積みだ。
 結論として、この国は病んでいる。もし、病に対する治療法、処方箋があるなら直ちに実行すべきだろう。
 ふと、俺は目線を窓の外に向けた。すると、近くの交差点の角に派手に目立つ赤鼻の道化師が立っていた。何かの祭りというわけではない。むしろ、周りの通行人はその道化師に気づいていない様子だ。俺は瞬時にそれがあやかしだと気がついた。
 今度は何だ…… 。



 一方で落ち込みからようやく少しは立ち直った宇津木は、自分の寝室から出た。リビングには小鬼がテーブルの上にちょこんと座っていた。
「もし、母親のことで悩みがあるなら、もう一度過去のあやかしの鏡に入って母親と会って話してくることだな」
「出来るの?」
「だが、もし過去に心がとらわれるようなことがあれば、もうこちらへは戻ってはこれまい。そうなれば、お前は鏡の住人だ。それでも行くか?」
 宇津木は少し悩んだが、答えは変わらなかった。
 店に行き、鏡の前に立つ。かけられた布をはがし、鏡を見た。再び子どもの姿になると、服装もブルマ姿になった。
 深呼吸し、それから一歩踏み出した。鏡の中に身体が完全に入り込む。小鬼はそれを店内から見届けた。
 眩し光が一瞬視界を襲い、それがおさまると自分は外にいた。
「宇津木! 何度言ったら分かる! シャツはしまえと言っただろ」
「はい!」
 目の前には竹刀を持った体育教師がジャージ姿で険しい顔をして立っていた。
 あれ? さっき声が重ならなかった? 隣を見ると、同じように怒られた女の子がシャツを入れていた。あれ、この子も宇津木って言うんだ。
 というよりさっきと違いクラス全員ロボットではなく、人の姿をしていた。
 これって…… 。
「よし、これから持久走の練習を始める! まずは準備運動から」
 ラジオ体操の音楽がかかり、準備運動を始める横で宇津木は同じ苗字の子を見た。同じポニーテールで顔はどこか大人びている。
 というか、よりによって持久走!?
 それからは地獄だった。
 運動をろくにやってこなかったのがここにきて露見したかのような。
 結局、順位はクラスでビリだった。
 ようやくゴールし、座り込む。そこに同じ苗字の宇津木がやって来た。
「お疲れ」
「あ、どうも」
「あなた、私と同じ苗字ね。名前は?」
「桃華」
「私は芳佳」
「え……」
 それは母の名だった。
「やっぱりね。あなたあやかしが見えるんでしょ?」
「え、えーと……」
「なら、あなたは過去のあやかしを通じてこの世界に来たのね。あなた本当に私の娘? こんな危険なことをするなんて」
「なによ! 私だってしたくて来たんじゃないから」
「なら、何しに来たのよ」
「あ……」
「どうして、あやかしなんかと関わってるの?」
「え?」
「私はあやかしから困っている人を救う為よ。私にはその力がある。あなたは?」
 私は首を横に振った。
「ない。見えるだけ」
「私はあなたに私みたいになるなって言わなかった?」
「言ってない」
「なら、私のミスか。とにかくあやかしとはこれ以上関わらないように。あなたを元の世界に戻す方法なら私がなんとかするわ」
「待ってよ! 勝手に決めないで。私は話し聞きにここまで来たの。お母さんは私のこと嫌いだったの?」
 いつも一人だった。店の裏から母が人助けをしていたのは分かっていた。そんな母に憧れもあった。だけど、いつも母は他人ばかり救うだけで、私はずっと一人だった。
「馬鹿ね、そんなこと聞きにリスクを犯してまで来たわけ?」
「馬鹿って何よ! こっちの事情も知らないで」
「知るわけないわ。今の私はまだあなたのお母さんじゃないもの」
「私はずっと一人だった」
「だから何? 慰めて欲しいわけ? 謝って欲しいわけ? あなた私の娘でしょ? ハッキリ言ったらどうなの?」
 思わず泣きそうになるのを必死に堪えた。
「次は泣き虫か」
 小声だったが十分に聞き取れた私は気づけば体当たりしていた。
「何するんだよ!」
 母と娘の喧嘩。お互いを殴ったり蹴ったり。お互いボロボロになって息がきれるまで。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 そこに二人の脳天に竹刀が落雷のように落ちた。
「馬鹿たれ!」
 私はあまりの激痛に意識を失った。



 目が覚めた時、保健室のベッドの上にいた。
「気がついた? 今は保健の先生も呼ばれて私達しかいないわ。ここでなら話しの続き出来るでしょ?」
「ううん、なんかスッキリした」
「あら、そう? まぁ、色々あったのは察するわ。なら、あなたはあやかしと何でまだ関わってるの?」
「本当はお母さんを憎んでなんかいなかった。ただ、羨ましかった。多分、それだけ」
 嫉妬していた自分に嫌気がさして、母にも嫌われたかと思ったが、母は私の頭を撫でた。
「痛かったでしょ? ごめんね、これぐらいしかしてやれなくて」
「ううん」
 あんなに遠かった母と同じ背丈、同じ目線で見れた。それだけで貴重な体験を自分はしていた。
「虐められてたの? さっき一人だって言ったから」
「今は友達がいる」
「虐めた奴はあやかしで呪ったら?」
「しないよそんなこと。私が一番知ってるから、呪いはロクなことにならないって」
「流石、私の娘ね。そうよ、呪いは、あやかしは災いしか起こさない」
「ねぇ、一つだけ教えて。あの赤い小鬼について」
 直後、母の顔色が一変した。私はそれを見て急に寒気がした。
「まさか、あれの封印が解けたの?」
「え? 封印って?」
「いい? あれは封印しておかなきゃならないの。あれは死のあやかしと同じぐらい危険なあやかしなの」
「え、どういうこと?」
 だが、答えを聞く前に突然母の姿が消えた。
 自分はいきなり現実世界へと引き戻されていた。
 宇津木は後ろを振り返った。鏡が割られてあった。
「どうして……」
 割ったのは、この店にいたあの赤い鬼しかいなかった。
 ゆっくりと振り返り、小鬼を見た。
 占いのテーブルにちょこんと座ってこっちを見ている。突然、ニヤリと笑った。それは初めて見る小鬼の表情だった。
 わざとあれを見せる為に私を鏡の世界へ誘導したんだ…… 。
 私は分かった。あやかしに例外はない。こいつも当然あやかしだということを忘れてはいけなかった。
「何が目的なの?」
 宇津木は恐る恐る聞いた。あやかしはただ、不気味に笑うだけだった。
 突然、地震が襲ってきた。大きな激しい揺れだ。
「なんなのこれ……」
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