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05 契約
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鏡の世界にいた一時は例えあやかしが見せた幻想であれ、宇津木にとっては貴重な時間だった。過去のあやかしが他の鏡に移動する際に起きた地震は全く客の来ない店にのみ響き渡り、世間の日常に変化は訪れない。夕飯の支度を始め、小学生は宿題をし、中学高校は部活か塾に励み、社会人はまだその時間は労働だ。誰しもが理想な夢を見たいと感じるが、人の無意識が映し出すのはいつだって現実のストレスからだ。鏡の中で出会った母も望んだものであると同時に孤独を感じての故でもあった。この広い家と思い出の物が溢れていればそうなる。
割れた破片が床に散らばり、私は何か弾けた気がした。母は何かを伝えようとしていた。しかし、それを最後まで聞くことは出来なかった。
小鬼はクスクスと不気味な笑いをしている。小鬼の掌の上には保健の教科書で見た心臓がある。その心臓は不思議とバクバク動いていて、なぜだかその心臓の持ち主を知っているような気がした。
母があれを封印していたのは多分、私を守る為だったんだろう。母はあのあやかしに主従関係を結んだ。あやかしが同意の上だったのかを考えなかったが、考えれば二つの可能性がある。同意か否か。後者であればそのあやかしは復讐をするだろう。しかし、母はもういない。では、復讐の矛先はどこへ向かうのか。その鋭い矛先は娘の私に向けられる。母はそれを避ける為にあのあやかしを封じていた。何がきっかけで封印が解けたのかは謎であるが、恐らくあの壺ではないのか。小鬼は封印が解かれ自由となった。もう、あの壺に効力はきっとない。
小鬼は不敵な笑みで心臓をそっと撫でた。
「ワシは非常に満足している。分かるか? 理由は至って単純。この瞬間をずっと待ち遠しく感じていたからだ。今やワシを支配していた女の娘をワシが支配する立場となった。女はあの封印が破れることまでは想定しなかっただろう。あの男が現れたおかげでワシは目覚められた。あの男の名はとてつもない力によって守られている。あいつが何者かは知らんが、あの男が壺に触れた瞬間、何重にも施された封印が全て破壊された。あやかしとの契約条件はあやかしの真の名を知ること。その逆にあやかしが人間に名を問い、人間がそれに答えると人間はあやかしにこうして魂を取られる。古来、人が悪魔と契約し、最後魂は悪魔に食われるように、契約は命のやり取り。あやかしにとって真の名は命そのもの。お前は過去のあやかしに名を問われ答えた。ワシが鏡を割らなければお前の魂は過去のあやかしのものになっていた。ワシはその魂を強引に過去のあやかしから奪った。だからこうして今はワシの手の中にお前の魂がある」
宇津木は唾を飲み込んだ。
殺される……きっとそうだ。
しかし、小鬼は直ぐには殺さなかった。当然であろう。殺害ならいつだって出来た。
「お前の油断を誘う為に過去のあやかしを使ったが、使うまでもなくお前は本当にあの母親から何もかもを教えてはもらえなかったようだな」
自分に特別な力がないのは分かっていたし、母が娘に引き継がせるつもりがそもそもなかったからだ。
「お前は今やワシの玩具だ」
一方俺は、突然見えるようになった道化師のあやかしについて調べる為に古川が残した隠れ家に来ていた。まだ、全ての資料が読み終えていないものは、ダンボールの中にあった。沢山あるダンボールを開けていくと、古文書が入っていた。その中に巻物が一つ入っていた。
古い巻物はとても傷んでおり、慎重に扱う必要があった。それを開いていくと、そこに描かれているのはあやかし達の大行進だった。これが百鬼夜行か。巻物を全て広げると相当の長さになり部屋いっぱいに使っても足りない程の長さだ。誰がこの絵巻物を描いたのか作者の名前がなかった。どれも不気味な姿をしている。想像するに、その行進の先頭があやかしの中でも上位な気がする。もし、あやかしに序列があればだ。そう考えて見てみると、その先頭はほぼ同列で先頭を歩く4体の姿が描かれてある。俺はこの巻物について古川がそれなりに調べまとめてあるノートを同じダンボールの中から見つけた。そのノートを見ながらもう一度絵巻を見てみた。
黒く塗りつぶされたそれはおそらく死のあやかし。
赤い巨大な鬼はメモがないが、俺の知っているあのあやかしのことだろう。
もう一体は皮膚のない顔の筋肉が剥き出しのあやかし。体は酷い火傷を負ったような姿で、赤黒い。炎のあやかし。
最後は骸骨に眼帯をしたあやかし。憎悪のあやかし。
ノートには、このあやかし達はいったいどこから現れたというのか? と古川が残した言葉があった。地獄ではないのか? それともあの世か? いつからあやかしが出現したのかさえ詳しい年表すらない。
俺の知っている百鬼夜行絵巻とは違うが、百鬼夜行絵巻が複数存在することは聞いたことがあった。これがわりと信憑性がありそうだ。
古文書の方にも興味深い記述が見つかった。あやかしとの契約の方法だ。宇津木の母親はあの赤鬼のあやかしを従えていたようだし、その方法があるんだろうと思っていたが、方法は案外複雑ではなかった。あやかしには真の名が存在し、その名を呼ぶことであやかしは逆らえなくなり、主となる人物の所有物の中から一つがランダムに契約の証としてそのあやかしの魂が宿るというものだ。となれば、あの占い店にあったあの壺は宇津木の母と契約した際の証としての品だったことになる。だが、古文書に書かれてあるのはそれだけではない。続きには、逆にあやかしからの問いに名前を答えると、その名はあやかしのものとなり、名前を奪われるとある。
あやかしにとって真の名は命そのものらしい。その命綱を握れば契約が成立する。だが、逆にあやかしから名前を聞かれたらうっかり答えてはならないということだ。ルールさえ分かればあとは気をつければいいだけだ。
そうだ、宇津木さんにも伝えておかないと。
俺はスマホで宇津木の電話番号にかけた。
暫くしても宇津木は電話には出てこなかった。忙しいのだろうか、俺は時間を置くことにした。
俺は本来の目的に取り掛かった。あの道化師のあやかしだ。どうしても頭からあの不気味なあやかしが頭から離れない。何もなければそれでいいが、これまで会ったあやかし達を考えると、今度はちゃんと事前情報を知っておきたかった。一番の理想はあやかし図鑑があればいいのだが、現実は都合よくいかなかった。なんとなくそんな気はしていたが。
かわりに見つかったのは古川への何通もの手紙だった。手紙の中身を見るのは本来なら抵抗あるものの、資料と一緒に保管しているところを見ると、あやかし関連だろうと想像はついた。開封済みの封筒から手紙を出し読み始めるとやはりあやかし関連だった。古川にあやかしで困っている人達の相談だった。古川はオカルトライターをやりながら彼らの相談にのっていたのだ。彼の仕事は一部の人達には役に立っていた。この俺もその一部に加わっている。更に現状からして結果的に俺は古川が歩んだ道を辿っているようでもあった。
俺は腕時計を見てもう一度宇津木に電話をかけてみた。だが、宇津木が電話に出ることはなかった。
俺はバイクに跨り群馬へと急いだ。理由は単純、あれだけ電話して出ないのだから不安に感じるのは当然だった。
バイクのスピードを上げながら、俺の頭の中の回転数もついでに上げた。これまでの事を整理しまとめると、あやかし達には真の名があり、それを売ったりは決してないということ。暗黙のルールはあやかし達の中で徹底されていると今は考えている。問題は、あやかしそれぞれはバラバラに行動しているが、あやかしに『同志』という考えは存在するのだろうかということだ。そう疑問に感じたのは例の巻物、百鬼夜行を見てのことだ。あれはあやかしの言ってしまえば『群れ』だ。いざとなればあやかしは集まり行進を始める、もし、その繋がりが今も残るなら百鬼夜行が再び行われる可能性はゼロではないということだ。それはないと信じたいが。
もう一つは、あやかしが人間にとって災害級の被害であるとして、あやかしは人類を滅亡出来るのか? それはあやかしの目的なのか? あやかしによっては人間にも協力者がいるとのことだが、その関係性も成立していることが疑問だ。
理解出来ている範囲がこうも狭く限定的なのは情報が不足しているからだろうが、そもそもあやかしは科学の範囲の外枠だ。俺が立ち向かっているのはその外枠だ。古川達のような科学の外枠を追求する人達は科学の信仰者には理解されずおかしな人というレッテルを貼られてしまうのだろう。俺はその道を進んでいる。
群馬へはまだ長い。途中のインターを降りる案内板が見えた。今なら引き返せる。このまま直進すれば間違いなく引き戻せなくなる。そうなれば俺はいよいよ今の会社を退職しなきゃならない。今どき、売り手市場と言われたところで、データでは非正規雇用が上昇し貧困が社会問題化されている中で、こんな俺が中途採用の転職先が上手く見つかるだろうか? 俺が進もうとしている道は東京のような道路ではなく、舗装もない道と呼べない隙間を走るようなものだ。俺は簡単に人生を捨てるのか? こんなよく分からない問題なんて目をそらし、知らないフリをすればいい。科学の進歩した道を歩まず何故道へわざわざ逸れるのか? 合理的ではない。
「ふん」
俺は思わず鼻で笑った。
茨の道が俺の人生か。俺はそんな道をアクセルを緩めることなく進む馬鹿なんだろう。大馬鹿だ。
俺はバイクを走らせながら狂ったように笑った。案内板は示す、その先を。目的地は群馬、茨、あやかし、普通からの脱線。
店の扉に鍵はかかってはいなかった。そのまま中に入ると、占いのテーブルの上に小鬼が座っていた。テーブルの隣に宇津木が下着姿で直立していた。
「う、宇津木さん!?」
宇津木は耳を赤くして目をそらしていた。
「お前の仕業か! まさか、契約!?」
「ほぉ、知っていたか。なら、そこの無知な女とは違うな」
「今すぐ宇津木さんを解放しろ」
「みすみす奴隷を手放すものか」
小鬼は指をパチンと鳴らした。すると、宇津木は「嫌っ……」と言いながらも手は勝手に後ろに回し、ブラのフックへ手を伸ばした。パチッ、フックが外れるとブラは重力に従い床に落ちた。華奢な体に乳輪が顕になる。大きすぎず小さくもない胸の膨らみが視界に入り思わず釘付けになりそうになる。目をそらしてなんとか見ないようにするも、小鬼は不敵な笑みを見せる。
「何故目をそらす? 見たいのだろ? 欲望に従い思う存分見るがいい。そうでないとワシの復讐にはならん」
「やめてくれ!」
「何故? 例えお前がその女の裸を見たとしてお前が悪いことになるのか? 女が堂々と裸になり、しかも隠さず見せているのだぞ? 女は今も手を横にしお前に見てもらいたいそうだ」
「それは宇津木さんの意思じゃないだろ。お前がそうさせているだけだ」
「男はいつだって都合よく解釈してるだろ。合意の上だったと言いつつ女の弱みに漬け込み従わせる。卑劣な生き物だ。女は女で金目的で男を罠にかける。男女のいざこざはつまらないテレビドラマより遥かにドラマがある」
「随分と人には詳しいんだな」
「そこの女の母親がまさに色んな人間の悩みの相談に乗っていたからな。興味深かったよ。人間のいざこざがな」
「あやかしにはないのか?」
「なんだと?」
「お前があやかしの中で序列が上位なのは知っている。そんなお前がまんまと人間に支配されたんだ。他のあやかしに知れ渡ったんじゃないのか? お前の地位はもうその頃と同じじゃない。違うか?」
小鬼の額の血管が浮かび上がった。
「随分偉そうにペラペラと喋るじゃないか、吸血鬼のあやかし! お前も人間側についたか!!」
「おや、バレましたか。つい、本音が滑ってしまいました」
吸血鬼のあやかしは人間の姿をコピー出来た。
「言っときますが、あなたのように人間の下僕になったつもりはありませんよ。吸血鬼は簡単に眷属をつくり出せる。あなたみたいに苦労はこちらはないんです」
小鬼はどんどん大きくなり、巨大化した。天井を突き破り壁を破壊し、ビルの高さ程の巨体へと姿を変えた。
「取り引きしたな」
「ええ。私の目的は古川が残した隠れ家の出入りの許可です」
「やはり、人間と取り引きしてあやかしの存在を危険に晒すお前を見逃すわけにはいかないな」
「分かりますか? あの男はそれなりに策士です。あやかし同士衝突させどちらが負けるにせよ、あの男にとってはメリットでしかない。あなたが負ければ女は助かり、私が敗北すれば私と人間との取り引きを絶つことができる。あの男の思惑通りになりたくなければあなたは女をとっとと解放し自由にどこへでも行くことです」
「それはお前にとって都合のいい話しだな」
「バレましたか」
「嘘が下手なんだよ!」
「嘘は嫌いですから」
「嘘つけ!!」
大きな拳が振り下ろされ、吸血鬼のあやかしはそれを避ける。拳は空振りしそのまま地面をえぐった。巨大な穴をつくると、沢山のコウモリが巨大な肉体を囲み、喰らいついた。血を吸い出すコウモリ。それを振り払う赤のあやかし。振り落とされたコウモリは次々と即死して地面に落ちていく。その度に呪いという毒が赤のあやかしを襲う。軽い頭痛と目眩を起こし、唾液を垂らす。
「吸血鬼が飼うコウモリを攻撃し倒せば倒す程あなたが不利になるだけですよ」
しかし、赤いあやかしは突然煙を上げ更に巨大化した。頭が雲に届くぐらいの巨体にだ。
「おやおや……」
巨大な足の裏はコウモリと吸血鬼のあやかし諸々踏み潰した。
吸血鬼の呪いが体内から消えたのを感じとると、赤のあやかしは宇津木を探した。しかし、宇津木の姿はなかった。
男そっくりに化けた吸血鬼が現れたのだから、奴も近くにいたのはなんとなく想像はしていた。いつの間にあの男は宇津木を救い出したようだ。
「それでワシを出し抜いたつもりか」
赤のあやかしは掌を広げ宇津木の魂、心臓を出現させた。
「これがある限りワシから逃れることは出来ない」
人は科学を信仰してきた。そして、科学で証明出来ない分野の議論は不毛として処理してきた。だが、世界は科学で全てが証明出来ないように、科学の範囲は世界という全体に対して限定的であり狭いものだ。俺達が相手にしているのはその科学の外枠であり、これまで現代では不毛として処理してきた分野であり、当然対抗手段を持たない。俺はそれをなんとかしようとしていた。考えてみて欲しい。人間がこれまで進化させてきた輝かしい科学は勿論、それを発明してきたアインシュタインやエジソンやノイマンですら恐らくは太刀打ち出来ないものだ。その有名な発明家や科学者に劣る凡人の俺が巨大な敵を相手に今している。
あの巨大な敵は誰も認識されない。平和な日常は今も俺達以外のところで続いている。俺の日常は古川の一報から崩れ去った。
隣で意識を取り戻した宇津木が目を開けた。俺は運転に集中していた。
「駄目! 私、あのあやかしに魂をとらわれてしまったの」
「契約のことなら古川の資料にあった。悪いけど、解除方法は主が死ぬか、主が契約を破棄しない限り解除は不可能なんだ」
「でしたら私を置いてあなたは逃げて下さい」
「そういうわけにもいかない」
「無理ですよ……あれには勝てない」
「勝つ必要はないんです。あいつの真の名さえ分かれば、あいつは何も出来ません」
「え?」
「あなたのお母さんがしたように再び奴と契約し主従関係を復活させるんです」
「でも、今の私には無理です。主従契約が出来るとしたらあなたしかいません。ですが、あのあやかしの真の名を私は知りません」
「それは、真の名を誰かに教えることは主の権利の譲渡になるからです。そして、譲渡した主は再び主に戻ることは不可能になるんです。だから、あなたは母親から真の名を教えてはもらえなかった」
「そこまで調べがついたんですか!? でも、真の名は知らないんですよね? それとも、吸血鬼のあやかしから聞けたとか?」
「いいえ。あやかし達は相手を売るということはしないようです。暗黙のルールがあるんでしょう」
「なら」
「本当は吸血鬼のあやかしに勝ってもらいたかったんですが」
吸血鬼のあやかしから借りた車の窓からは吸血鬼のあやかしとの戦いを終えた巨大なあやかしが立っていた。
「思ったんですがあなたのお母さんはどうやってあいつの真の名を知れたんでしょう?」
「それは……分かりません」
「あなたのお母さんは特別な力があったと言いますが、その力を持ってしても例えば強引に聞き出せたとは思えない。むしろ、俺達と同じ状況だったんじゃないかって思う」
「同じ状況?」
「ええ。例えばあの赤いあやかしを俺達は小鬼や他の呼び名で呼んでましたが、それはあいつの本当の名を知らないから。でも、あの見た目を見た時、ヒントがあるんじゃないかって」
「自在に体を大小出来る鬼……それがヒントとか?」
「調べても古川が集めた絵巻の百鬼夜行はネット上にはなかったから多分ネットはアテにならない。かと言って古川の集めた資料にあやかしの真の名を記したものはなかった」
「それじゃ……」と言いつつも宇津木の頭の中からは何も出てこなかった。
「案外、意外な名前かもしれない。当てられそうで当てられないとか」
「それって……」
「まさか……」
だが、これは賭けだった。車を停止させ運転席を出ると俺は赤いあやかしを見た。
「逃げるのはおしまいか? まぁ、逃げたところで簡単に追いつくが」
「お前の真の名は青鬼」
「なに?」
「お前の名は青鬼だ!」
赤いあやかしは動きをやめ止まった。
駄目だったか?
「クソが……」
赤いあやかしは徐々に体を小さくし、あやかしが持っていた宇津木の魂は消え、宇津木の心臓部に白い光が宿った。
「成功したのか!?」
小鬼はテクテクと俺の近くまで来ると「何故青鬼だと分かった」と聞いてきた。
「宇津木の母親がお前の真の名をどうやって知ったのか考えたら、俺達でも解けるんじゃないかって思っただけだ」
「何故どいつもこいつもワシの名前を当てるんだ!」
「なんだ、宇津木の母親以外にもいたのか?」
「とっとと殺しておけば良かったわ」
確かに殺されかけたが。
小鬼は観念したのかその場に座り込みあぐらをかいた。
「まさか、今度の主がお前とはな。しかも、呪われてるじゃないかお前」
「あ……」
すっかり忘れていた。
「道化師のあやかしにつけられているんだ。どうにかしてくれないか」
「何故ワシが? お前が死ねばワシはまた自由の身!」
「命令でも?」
「ぐっ……」
小鬼は深いため息をついた。
「仕方ないな……全く世話のかかる主だこと」
俺は車に戻り宇津木に終わったことを報告した。
「あの……見ました?」
宇津木は顔を赤くしながら俺が被せた上着を掴んでいた。
「見ないよう努力はしました」
「いえ、すみません……むしろ、助かりました。あなたは私の命の恩人です。ありがとうございます」
テクテクと小鬼がやって来て「ならいっそ二人は結婚したらどうなんだ」と言った。
「はぁ!?」
「えぇ!?」
「お似合いだな……」小鬼は呆れた顔をして二人を眺めた。
割れた破片が床に散らばり、私は何か弾けた気がした。母は何かを伝えようとしていた。しかし、それを最後まで聞くことは出来なかった。
小鬼はクスクスと不気味な笑いをしている。小鬼の掌の上には保健の教科書で見た心臓がある。その心臓は不思議とバクバク動いていて、なぜだかその心臓の持ち主を知っているような気がした。
母があれを封印していたのは多分、私を守る為だったんだろう。母はあのあやかしに主従関係を結んだ。あやかしが同意の上だったのかを考えなかったが、考えれば二つの可能性がある。同意か否か。後者であればそのあやかしは復讐をするだろう。しかし、母はもういない。では、復讐の矛先はどこへ向かうのか。その鋭い矛先は娘の私に向けられる。母はそれを避ける為にあのあやかしを封じていた。何がきっかけで封印が解けたのかは謎であるが、恐らくあの壺ではないのか。小鬼は封印が解かれ自由となった。もう、あの壺に効力はきっとない。
小鬼は不敵な笑みで心臓をそっと撫でた。
「ワシは非常に満足している。分かるか? 理由は至って単純。この瞬間をずっと待ち遠しく感じていたからだ。今やワシを支配していた女の娘をワシが支配する立場となった。女はあの封印が破れることまでは想定しなかっただろう。あの男が現れたおかげでワシは目覚められた。あの男の名はとてつもない力によって守られている。あいつが何者かは知らんが、あの男が壺に触れた瞬間、何重にも施された封印が全て破壊された。あやかしとの契約条件はあやかしの真の名を知ること。その逆にあやかしが人間に名を問い、人間がそれに答えると人間はあやかしにこうして魂を取られる。古来、人が悪魔と契約し、最後魂は悪魔に食われるように、契約は命のやり取り。あやかしにとって真の名は命そのもの。お前は過去のあやかしに名を問われ答えた。ワシが鏡を割らなければお前の魂は過去のあやかしのものになっていた。ワシはその魂を強引に過去のあやかしから奪った。だからこうして今はワシの手の中にお前の魂がある」
宇津木は唾を飲み込んだ。
殺される……きっとそうだ。
しかし、小鬼は直ぐには殺さなかった。当然であろう。殺害ならいつだって出来た。
「お前の油断を誘う為に過去のあやかしを使ったが、使うまでもなくお前は本当にあの母親から何もかもを教えてはもらえなかったようだな」
自分に特別な力がないのは分かっていたし、母が娘に引き継がせるつもりがそもそもなかったからだ。
「お前は今やワシの玩具だ」
一方俺は、突然見えるようになった道化師のあやかしについて調べる為に古川が残した隠れ家に来ていた。まだ、全ての資料が読み終えていないものは、ダンボールの中にあった。沢山あるダンボールを開けていくと、古文書が入っていた。その中に巻物が一つ入っていた。
古い巻物はとても傷んでおり、慎重に扱う必要があった。それを開いていくと、そこに描かれているのはあやかし達の大行進だった。これが百鬼夜行か。巻物を全て広げると相当の長さになり部屋いっぱいに使っても足りない程の長さだ。誰がこの絵巻物を描いたのか作者の名前がなかった。どれも不気味な姿をしている。想像するに、その行進の先頭があやかしの中でも上位な気がする。もし、あやかしに序列があればだ。そう考えて見てみると、その先頭はほぼ同列で先頭を歩く4体の姿が描かれてある。俺はこの巻物について古川がそれなりに調べまとめてあるノートを同じダンボールの中から見つけた。そのノートを見ながらもう一度絵巻を見てみた。
黒く塗りつぶされたそれはおそらく死のあやかし。
赤い巨大な鬼はメモがないが、俺の知っているあのあやかしのことだろう。
もう一体は皮膚のない顔の筋肉が剥き出しのあやかし。体は酷い火傷を負ったような姿で、赤黒い。炎のあやかし。
最後は骸骨に眼帯をしたあやかし。憎悪のあやかし。
ノートには、このあやかし達はいったいどこから現れたというのか? と古川が残した言葉があった。地獄ではないのか? それともあの世か? いつからあやかしが出現したのかさえ詳しい年表すらない。
俺の知っている百鬼夜行絵巻とは違うが、百鬼夜行絵巻が複数存在することは聞いたことがあった。これがわりと信憑性がありそうだ。
古文書の方にも興味深い記述が見つかった。あやかしとの契約の方法だ。宇津木の母親はあの赤鬼のあやかしを従えていたようだし、その方法があるんだろうと思っていたが、方法は案外複雑ではなかった。あやかしには真の名が存在し、その名を呼ぶことであやかしは逆らえなくなり、主となる人物の所有物の中から一つがランダムに契約の証としてそのあやかしの魂が宿るというものだ。となれば、あの占い店にあったあの壺は宇津木の母と契約した際の証としての品だったことになる。だが、古文書に書かれてあるのはそれだけではない。続きには、逆にあやかしからの問いに名前を答えると、その名はあやかしのものとなり、名前を奪われるとある。
あやかしにとって真の名は命そのものらしい。その命綱を握れば契約が成立する。だが、逆にあやかしから名前を聞かれたらうっかり答えてはならないということだ。ルールさえ分かればあとは気をつければいいだけだ。
そうだ、宇津木さんにも伝えておかないと。
俺はスマホで宇津木の電話番号にかけた。
暫くしても宇津木は電話には出てこなかった。忙しいのだろうか、俺は時間を置くことにした。
俺は本来の目的に取り掛かった。あの道化師のあやかしだ。どうしても頭からあの不気味なあやかしが頭から離れない。何もなければそれでいいが、これまで会ったあやかし達を考えると、今度はちゃんと事前情報を知っておきたかった。一番の理想はあやかし図鑑があればいいのだが、現実は都合よくいかなかった。なんとなくそんな気はしていたが。
かわりに見つかったのは古川への何通もの手紙だった。手紙の中身を見るのは本来なら抵抗あるものの、資料と一緒に保管しているところを見ると、あやかし関連だろうと想像はついた。開封済みの封筒から手紙を出し読み始めるとやはりあやかし関連だった。古川にあやかしで困っている人達の相談だった。古川はオカルトライターをやりながら彼らの相談にのっていたのだ。彼の仕事は一部の人達には役に立っていた。この俺もその一部に加わっている。更に現状からして結果的に俺は古川が歩んだ道を辿っているようでもあった。
俺は腕時計を見てもう一度宇津木に電話をかけてみた。だが、宇津木が電話に出ることはなかった。
俺はバイクに跨り群馬へと急いだ。理由は単純、あれだけ電話して出ないのだから不安に感じるのは当然だった。
バイクのスピードを上げながら、俺の頭の中の回転数もついでに上げた。これまでの事を整理しまとめると、あやかし達には真の名があり、それを売ったりは決してないということ。暗黙のルールはあやかし達の中で徹底されていると今は考えている。問題は、あやかしそれぞれはバラバラに行動しているが、あやかしに『同志』という考えは存在するのだろうかということだ。そう疑問に感じたのは例の巻物、百鬼夜行を見てのことだ。あれはあやかしの言ってしまえば『群れ』だ。いざとなればあやかしは集まり行進を始める、もし、その繋がりが今も残るなら百鬼夜行が再び行われる可能性はゼロではないということだ。それはないと信じたいが。
もう一つは、あやかしが人間にとって災害級の被害であるとして、あやかしは人類を滅亡出来るのか? それはあやかしの目的なのか? あやかしによっては人間にも協力者がいるとのことだが、その関係性も成立していることが疑問だ。
理解出来ている範囲がこうも狭く限定的なのは情報が不足しているからだろうが、そもそもあやかしは科学の範囲の外枠だ。俺が立ち向かっているのはその外枠だ。古川達のような科学の外枠を追求する人達は科学の信仰者には理解されずおかしな人というレッテルを貼られてしまうのだろう。俺はその道を進んでいる。
群馬へはまだ長い。途中のインターを降りる案内板が見えた。今なら引き返せる。このまま直進すれば間違いなく引き戻せなくなる。そうなれば俺はいよいよ今の会社を退職しなきゃならない。今どき、売り手市場と言われたところで、データでは非正規雇用が上昇し貧困が社会問題化されている中で、こんな俺が中途採用の転職先が上手く見つかるだろうか? 俺が進もうとしている道は東京のような道路ではなく、舗装もない道と呼べない隙間を走るようなものだ。俺は簡単に人生を捨てるのか? こんなよく分からない問題なんて目をそらし、知らないフリをすればいい。科学の進歩した道を歩まず何故道へわざわざ逸れるのか? 合理的ではない。
「ふん」
俺は思わず鼻で笑った。
茨の道が俺の人生か。俺はそんな道をアクセルを緩めることなく進む馬鹿なんだろう。大馬鹿だ。
俺はバイクを走らせながら狂ったように笑った。案内板は示す、その先を。目的地は群馬、茨、あやかし、普通からの脱線。
店の扉に鍵はかかってはいなかった。そのまま中に入ると、占いのテーブルの上に小鬼が座っていた。テーブルの隣に宇津木が下着姿で直立していた。
「う、宇津木さん!?」
宇津木は耳を赤くして目をそらしていた。
「お前の仕業か! まさか、契約!?」
「ほぉ、知っていたか。なら、そこの無知な女とは違うな」
「今すぐ宇津木さんを解放しろ」
「みすみす奴隷を手放すものか」
小鬼は指をパチンと鳴らした。すると、宇津木は「嫌っ……」と言いながらも手は勝手に後ろに回し、ブラのフックへ手を伸ばした。パチッ、フックが外れるとブラは重力に従い床に落ちた。華奢な体に乳輪が顕になる。大きすぎず小さくもない胸の膨らみが視界に入り思わず釘付けになりそうになる。目をそらしてなんとか見ないようにするも、小鬼は不敵な笑みを見せる。
「何故目をそらす? 見たいのだろ? 欲望に従い思う存分見るがいい。そうでないとワシの復讐にはならん」
「やめてくれ!」
「何故? 例えお前がその女の裸を見たとしてお前が悪いことになるのか? 女が堂々と裸になり、しかも隠さず見せているのだぞ? 女は今も手を横にしお前に見てもらいたいそうだ」
「それは宇津木さんの意思じゃないだろ。お前がそうさせているだけだ」
「男はいつだって都合よく解釈してるだろ。合意の上だったと言いつつ女の弱みに漬け込み従わせる。卑劣な生き物だ。女は女で金目的で男を罠にかける。男女のいざこざはつまらないテレビドラマより遥かにドラマがある」
「随分と人には詳しいんだな」
「そこの女の母親がまさに色んな人間の悩みの相談に乗っていたからな。興味深かったよ。人間のいざこざがな」
「あやかしにはないのか?」
「なんだと?」
「お前があやかしの中で序列が上位なのは知っている。そんなお前がまんまと人間に支配されたんだ。他のあやかしに知れ渡ったんじゃないのか? お前の地位はもうその頃と同じじゃない。違うか?」
小鬼の額の血管が浮かび上がった。
「随分偉そうにペラペラと喋るじゃないか、吸血鬼のあやかし! お前も人間側についたか!!」
「おや、バレましたか。つい、本音が滑ってしまいました」
吸血鬼のあやかしは人間の姿をコピー出来た。
「言っときますが、あなたのように人間の下僕になったつもりはありませんよ。吸血鬼は簡単に眷属をつくり出せる。あなたみたいに苦労はこちらはないんです」
小鬼はどんどん大きくなり、巨大化した。天井を突き破り壁を破壊し、ビルの高さ程の巨体へと姿を変えた。
「取り引きしたな」
「ええ。私の目的は古川が残した隠れ家の出入りの許可です」
「やはり、人間と取り引きしてあやかしの存在を危険に晒すお前を見逃すわけにはいかないな」
「分かりますか? あの男はそれなりに策士です。あやかし同士衝突させどちらが負けるにせよ、あの男にとってはメリットでしかない。あなたが負ければ女は助かり、私が敗北すれば私と人間との取り引きを絶つことができる。あの男の思惑通りになりたくなければあなたは女をとっとと解放し自由にどこへでも行くことです」
「それはお前にとって都合のいい話しだな」
「バレましたか」
「嘘が下手なんだよ!」
「嘘は嫌いですから」
「嘘つけ!!」
大きな拳が振り下ろされ、吸血鬼のあやかしはそれを避ける。拳は空振りしそのまま地面をえぐった。巨大な穴をつくると、沢山のコウモリが巨大な肉体を囲み、喰らいついた。血を吸い出すコウモリ。それを振り払う赤のあやかし。振り落とされたコウモリは次々と即死して地面に落ちていく。その度に呪いという毒が赤のあやかしを襲う。軽い頭痛と目眩を起こし、唾液を垂らす。
「吸血鬼が飼うコウモリを攻撃し倒せば倒す程あなたが不利になるだけですよ」
しかし、赤いあやかしは突然煙を上げ更に巨大化した。頭が雲に届くぐらいの巨体にだ。
「おやおや……」
巨大な足の裏はコウモリと吸血鬼のあやかし諸々踏み潰した。
吸血鬼の呪いが体内から消えたのを感じとると、赤のあやかしは宇津木を探した。しかし、宇津木の姿はなかった。
男そっくりに化けた吸血鬼が現れたのだから、奴も近くにいたのはなんとなく想像はしていた。いつの間にあの男は宇津木を救い出したようだ。
「それでワシを出し抜いたつもりか」
赤のあやかしは掌を広げ宇津木の魂、心臓を出現させた。
「これがある限りワシから逃れることは出来ない」
人は科学を信仰してきた。そして、科学で証明出来ない分野の議論は不毛として処理してきた。だが、世界は科学で全てが証明出来ないように、科学の範囲は世界という全体に対して限定的であり狭いものだ。俺達が相手にしているのはその科学の外枠であり、これまで現代では不毛として処理してきた分野であり、当然対抗手段を持たない。俺はそれをなんとかしようとしていた。考えてみて欲しい。人間がこれまで進化させてきた輝かしい科学は勿論、それを発明してきたアインシュタインやエジソンやノイマンですら恐らくは太刀打ち出来ないものだ。その有名な発明家や科学者に劣る凡人の俺が巨大な敵を相手に今している。
あの巨大な敵は誰も認識されない。平和な日常は今も俺達以外のところで続いている。俺の日常は古川の一報から崩れ去った。
隣で意識を取り戻した宇津木が目を開けた。俺は運転に集中していた。
「駄目! 私、あのあやかしに魂をとらわれてしまったの」
「契約のことなら古川の資料にあった。悪いけど、解除方法は主が死ぬか、主が契約を破棄しない限り解除は不可能なんだ」
「でしたら私を置いてあなたは逃げて下さい」
「そういうわけにもいかない」
「無理ですよ……あれには勝てない」
「勝つ必要はないんです。あいつの真の名さえ分かれば、あいつは何も出来ません」
「え?」
「あなたのお母さんがしたように再び奴と契約し主従関係を復活させるんです」
「でも、今の私には無理です。主従契約が出来るとしたらあなたしかいません。ですが、あのあやかしの真の名を私は知りません」
「それは、真の名を誰かに教えることは主の権利の譲渡になるからです。そして、譲渡した主は再び主に戻ることは不可能になるんです。だから、あなたは母親から真の名を教えてはもらえなかった」
「そこまで調べがついたんですか!? でも、真の名は知らないんですよね? それとも、吸血鬼のあやかしから聞けたとか?」
「いいえ。あやかし達は相手を売るということはしないようです。暗黙のルールがあるんでしょう」
「なら」
「本当は吸血鬼のあやかしに勝ってもらいたかったんですが」
吸血鬼のあやかしから借りた車の窓からは吸血鬼のあやかしとの戦いを終えた巨大なあやかしが立っていた。
「思ったんですがあなたのお母さんはどうやってあいつの真の名を知れたんでしょう?」
「それは……分かりません」
「あなたのお母さんは特別な力があったと言いますが、その力を持ってしても例えば強引に聞き出せたとは思えない。むしろ、俺達と同じ状況だったんじゃないかって思う」
「同じ状況?」
「ええ。例えばあの赤いあやかしを俺達は小鬼や他の呼び名で呼んでましたが、それはあいつの本当の名を知らないから。でも、あの見た目を見た時、ヒントがあるんじゃないかって」
「自在に体を大小出来る鬼……それがヒントとか?」
「調べても古川が集めた絵巻の百鬼夜行はネット上にはなかったから多分ネットはアテにならない。かと言って古川の集めた資料にあやかしの真の名を記したものはなかった」
「それじゃ……」と言いつつも宇津木の頭の中からは何も出てこなかった。
「案外、意外な名前かもしれない。当てられそうで当てられないとか」
「それって……」
「まさか……」
だが、これは賭けだった。車を停止させ運転席を出ると俺は赤いあやかしを見た。
「逃げるのはおしまいか? まぁ、逃げたところで簡単に追いつくが」
「お前の真の名は青鬼」
「なに?」
「お前の名は青鬼だ!」
赤いあやかしは動きをやめ止まった。
駄目だったか?
「クソが……」
赤いあやかしは徐々に体を小さくし、あやかしが持っていた宇津木の魂は消え、宇津木の心臓部に白い光が宿った。
「成功したのか!?」
小鬼はテクテクと俺の近くまで来ると「何故青鬼だと分かった」と聞いてきた。
「宇津木の母親がお前の真の名をどうやって知ったのか考えたら、俺達でも解けるんじゃないかって思っただけだ」
「何故どいつもこいつもワシの名前を当てるんだ!」
「なんだ、宇津木の母親以外にもいたのか?」
「とっとと殺しておけば良かったわ」
確かに殺されかけたが。
小鬼は観念したのかその場に座り込みあぐらをかいた。
「まさか、今度の主がお前とはな。しかも、呪われてるじゃないかお前」
「あ……」
すっかり忘れていた。
「道化師のあやかしにつけられているんだ。どうにかしてくれないか」
「何故ワシが? お前が死ねばワシはまた自由の身!」
「命令でも?」
「ぐっ……」
小鬼は深いため息をついた。
「仕方ないな……全く世話のかかる主だこと」
俺は車に戻り宇津木に終わったことを報告した。
「あの……見ました?」
宇津木は顔を赤くしながら俺が被せた上着を掴んでいた。
「見ないよう努力はしました」
「いえ、すみません……むしろ、助かりました。あなたは私の命の恩人です。ありがとうございます」
テクテクと小鬼がやって来て「ならいっそ二人は結婚したらどうなんだ」と言った。
「はぁ!?」
「えぇ!?」
「お似合いだな……」小鬼は呆れた顔をして二人を眺めた。
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