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警察署、取り調べ室。
そこに呼び出されたのは小池先生だった。
「あの、今日は学校で訊くんじゃないんですね」
「ええ、違います。小池先生ですよね、犯人は」
小池は目を見開いた。まさか!? という顔をした後で、なんとか冷静を取り戻そうとしているが、バレバレである。
明らかに一瞬、バレたのかと顔に出ていた。
だが、小池はあくまでも否定に回った。自信があると言わんばかりに。
「いや、何を言ってるんですか刑事さん。私が犯人なわけないじゃないですか。だって、私には犯行が不可能なんですよ? それとも、私がやったという証明でも出来るんですか?」
「警察に対して挑発とはいい度胸をしているな、先生」
「……」
岡田は近くで見ているから分かる。小池の目は揺らいでいる。その奥には怯えた感情が混ざっていた。
警察学校で相手の仕草や目の色を見逃すなと散々言われてきた。その理由が今なら分かる。相手の感情がだだ漏れだ。
「いいでしょう、あなたの口からでは話せないようなので私がかわりに説明しましょう。まず、さっき言ったことを訂正します。あなたはやっていない」
「え?」
「正確にはあなたは小林を殺害したわけじゃない。共犯者だ」
小林は唾をのみ込んだ。
「確かに、あなたが職員室から立ち去った時間は僅かだ。だが、その僅かな時間で出来ることがある。あなたがトイレに行ったとされる時間、あなたは予め教頭の巡回後に開けた窓を閉めに向かった。あなたにはそれが出来た。つまり、その前には小林は殺されていたことになる」
「そんなまさか。私が犯人を招いたと言うんですか」
「そうだ。計画はこうだ。まず、あんたは小林先生を一人にする為に六年の教室に時間指定で呼び出した。その間に打ち合わせ通り窓を開け時間になったらもう一人の犯人はそこへ侵入し、一人で待っている小池先生を後ろから予め用意しておいたロープで殺害。滑車の原理で持ち上げ自殺に見せかけると、犯人は入ってきた窓から脱出。時間を見て、お前はトイレに行くふりをしてその窓の鍵を閉めれば、お前のアリバイが成立した殺人事件が出来上がるってわけだ」
「確かに、理屈では可能かもしれないけど刑事さん、だとしたら動機はなんだ? ほら、言ってみろよ」
「お前はその前に訊かないんだな、共犯者は誰だって」
「共犯者もなにも俺はやってない」
「共犯者もいるぜ、この署にな」
「え……」
「お前と同じように取り調べを受けている」
「そんなの嘘だ」
「小林はとんでもない野郎だ。殺されていい奴なんていないが、その共犯者は違った。小林は特にある女子児童に目を付けた。その被害者の父親がお前の共犯者だ」
「っ!」
「それに対し、お前の動機はしょうもない内容だ。小林の弱みにつけこんだお前は小林を孤立させた後で、金銭を要求した。バレたくなければ金をよこせとでも言ったんだろ。だが、逆にそれを録音され、立場は逆転した。小林には勝算があった。証拠がないことだ。あくまでも子ども達の証言しかない。一人をのぞいては。しかし、その女の子が警察に全てを話す勇気がないことぐらい小林は考えていた。小林は分かっていて狙ったんだろう。対してお前はどうだ。証拠をとられ、逆に脅されたお前は考えた。そして、この計画を考えた。小林がどの子をお気に入りにしていたのか分かったお前はその保護者である父親と接触した」
「……」
「計画はかなり考えたみたいだな。自分が捜査の目にいっても、自分には犯行が不可能だと示せれば、警察はそれ以上自分を疑うことがなくなる。滑車の原理を共犯者に教えたのもお前だな。だが、ここで問題が発生する。その原理を使うとなれば、ネクタイは使えない。ネクタイを使って自殺をしなければ警察は不審に思うのではないか。何故、わざわざロープを用意したのか。お前が計画の段階でロープにこだわったのは、警察が早い段階で事件だと気づくことを想定した上で計画されたからだ。何故か。警察に早く滑車の原理を使って自殺を見せかけた犯行に見せることで、まず第一に一人で出来る犯行だと警察に思わせる必要があったからだ。でなければお前のアリバイが疑われるからだ。第二に、手間のかかる工作ではお前の短い間に職員室から出ても不可能であると示すことになるからだ。警察は自殺に見せかけた殺人事件として考えるだろうとお前は考えた。自分のアリバイを成立させる為だと思わせない為にはカモフラージュとして十分だった。因みにだが、お前の共犯者、自白したぞ」
それを訊いて一気に脱力した。
「どうして分かった?」
「そうだな……強いて言うなら、子ども達の有力な証言かな」
それを訊いて小池は大きなため息をついた。
◇◆◇◆◇
その後、小池は弁護士が来るまで黙秘を続けていたが、共犯者が罪を認め供述をしたことから、結局最後は罪を認めた。
学校の教師のトラブル、そして殺人事件。そんな大ニュースをマスコミが黙っていられるわけもなく、大々的に連日報道された。
「とんでもない学校でしたね」と岡田は言った。
「学校というより教師だったが」
「まぁ、確かに関係ありませんでしたね」
「お前はどんな学生だったんだ?」
「私ですか? 中学からはずっと部活ばかりで勉強はろくにやってなかったですかね。落合さんは?」
「記憶にないなぁ」
「そんな、自分に言わせておいて喋らない気ですか?」
「本当に覚えてないんだ。それだけあまりいい思い出はなかったかもな」
社会の中で閉鎖された学校という空間には今も小さなトラブルが起きている。
そこに呼び出されたのは小池先生だった。
「あの、今日は学校で訊くんじゃないんですね」
「ええ、違います。小池先生ですよね、犯人は」
小池は目を見開いた。まさか!? という顔をした後で、なんとか冷静を取り戻そうとしているが、バレバレである。
明らかに一瞬、バレたのかと顔に出ていた。
だが、小池はあくまでも否定に回った。自信があると言わんばかりに。
「いや、何を言ってるんですか刑事さん。私が犯人なわけないじゃないですか。だって、私には犯行が不可能なんですよ? それとも、私がやったという証明でも出来るんですか?」
「警察に対して挑発とはいい度胸をしているな、先生」
「……」
岡田は近くで見ているから分かる。小池の目は揺らいでいる。その奥には怯えた感情が混ざっていた。
警察学校で相手の仕草や目の色を見逃すなと散々言われてきた。その理由が今なら分かる。相手の感情がだだ漏れだ。
「いいでしょう、あなたの口からでは話せないようなので私がかわりに説明しましょう。まず、さっき言ったことを訂正します。あなたはやっていない」
「え?」
「正確にはあなたは小林を殺害したわけじゃない。共犯者だ」
小林は唾をのみ込んだ。
「確かに、あなたが職員室から立ち去った時間は僅かだ。だが、その僅かな時間で出来ることがある。あなたがトイレに行ったとされる時間、あなたは予め教頭の巡回後に開けた窓を閉めに向かった。あなたにはそれが出来た。つまり、その前には小林は殺されていたことになる」
「そんなまさか。私が犯人を招いたと言うんですか」
「そうだ。計画はこうだ。まず、あんたは小林先生を一人にする為に六年の教室に時間指定で呼び出した。その間に打ち合わせ通り窓を開け時間になったらもう一人の犯人はそこへ侵入し、一人で待っている小池先生を後ろから予め用意しておいたロープで殺害。滑車の原理で持ち上げ自殺に見せかけると、犯人は入ってきた窓から脱出。時間を見て、お前はトイレに行くふりをしてその窓の鍵を閉めれば、お前のアリバイが成立した殺人事件が出来上がるってわけだ」
「確かに、理屈では可能かもしれないけど刑事さん、だとしたら動機はなんだ? ほら、言ってみろよ」
「お前はその前に訊かないんだな、共犯者は誰だって」
「共犯者もなにも俺はやってない」
「共犯者もいるぜ、この署にな」
「え……」
「お前と同じように取り調べを受けている」
「そんなの嘘だ」
「小林はとんでもない野郎だ。殺されていい奴なんていないが、その共犯者は違った。小林は特にある女子児童に目を付けた。その被害者の父親がお前の共犯者だ」
「っ!」
「それに対し、お前の動機はしょうもない内容だ。小林の弱みにつけこんだお前は小林を孤立させた後で、金銭を要求した。バレたくなければ金をよこせとでも言ったんだろ。だが、逆にそれを録音され、立場は逆転した。小林には勝算があった。証拠がないことだ。あくまでも子ども達の証言しかない。一人をのぞいては。しかし、その女の子が警察に全てを話す勇気がないことぐらい小林は考えていた。小林は分かっていて狙ったんだろう。対してお前はどうだ。証拠をとられ、逆に脅されたお前は考えた。そして、この計画を考えた。小林がどの子をお気に入りにしていたのか分かったお前はその保護者である父親と接触した」
「……」
「計画はかなり考えたみたいだな。自分が捜査の目にいっても、自分には犯行が不可能だと示せれば、警察はそれ以上自分を疑うことがなくなる。滑車の原理を共犯者に教えたのもお前だな。だが、ここで問題が発生する。その原理を使うとなれば、ネクタイは使えない。ネクタイを使って自殺をしなければ警察は不審に思うのではないか。何故、わざわざロープを用意したのか。お前が計画の段階でロープにこだわったのは、警察が早い段階で事件だと気づくことを想定した上で計画されたからだ。何故か。警察に早く滑車の原理を使って自殺を見せかけた犯行に見せることで、まず第一に一人で出来る犯行だと警察に思わせる必要があったからだ。でなければお前のアリバイが疑われるからだ。第二に、手間のかかる工作ではお前の短い間に職員室から出ても不可能であると示すことになるからだ。警察は自殺に見せかけた殺人事件として考えるだろうとお前は考えた。自分のアリバイを成立させる為だと思わせない為にはカモフラージュとして十分だった。因みにだが、お前の共犯者、自白したぞ」
それを訊いて一気に脱力した。
「どうして分かった?」
「そうだな……強いて言うなら、子ども達の有力な証言かな」
それを訊いて小池は大きなため息をついた。
◇◆◇◆◇
その後、小池は弁護士が来るまで黙秘を続けていたが、共犯者が罪を認め供述をしたことから、結局最後は罪を認めた。
学校の教師のトラブル、そして殺人事件。そんな大ニュースをマスコミが黙っていられるわけもなく、大々的に連日報道された。
「とんでもない学校でしたね」と岡田は言った。
「学校というより教師だったが」
「まぁ、確かに関係ありませんでしたね」
「お前はどんな学生だったんだ?」
「私ですか? 中学からはずっと部活ばかりで勉強はろくにやってなかったですかね。落合さんは?」
「記憶にないなぁ」
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