湯屋

アズ

文字の大きさ
5 / 5

05 夜

しおりを挟む
 夢の中ではすっかり夜空となり、綺麗な月が見えた。等間隔の明かりが道を照らしている。黄金の湯からスタートした私達は更に森の奥を進んだ。すると、猿が入っている温泉を見つけた。猿達はこちらを見るが、別に襲ってくる様子はない。親子の猿が仲良く一緒の湯に浸かって幸せそうにしていた。
 更に進むと煙が見えてきた。
「あれ何かな?」
「まさか火事……」
 だが、それは火災ではなかった。何故か燃えている真っ赤な炎の湯だった。その先には緑の毒々しい色をした湯も遠くに見えた。
「お姉ちゃん」
 つばきは咄嗟に私の腕を掴んだ。さっきまでは魔法のような夢だったのが、幻想という霧が晴れたかのように外に出た途端、そこはまるで何かを罰するかのような地獄巡りに思えた。
 あの少女は私達を地獄へ案内していたのか?
 これ以上進むべきかどうか悩んだ私はつばきの方を見た。彼女に不安な表情が伺えたが、私達は絶対に生きてやると約束している。
「つばきちゃん、とりあえず行けるところまで行ってみる? それで怪しかったら引き返して次の作戦を考えてみるでどうかな?」
「お姉ちゃんが言うならそうする」
「うん」
 私達は更に奥へと進んだ。
 夜の森の中から梟の鳴き声がする。私達の住んでいる街はこの森のような自然はない。ほとんどが車専用の道に店や家が建ち、僅かな自然があった公園も姿を消し、大きなショッピングモールが出来ると商店街は閑散とした有り様になった。人口が減ると学校は次々と合併し、来年度からは部活動が無くなる学校も出てきた。街の大きな変化に取り残された高齢者はほとんど外の出来事を知らずに老人ホームで残りの一生を過ごしている。物騒な事件が増え、世の中に不安が増え、陰が広がる。深い陰は太陽を遮り闇をつくる。私達が住むビル群もりはまさにこの森のように。誰もが太陽の光を求め探し回り、再び太陽の光に照らされることを望んでいる。光は希望だ。幸せになる為に希望を掴もうと深い闇の中を藻掻いている。



 更に進むと川の流れる音が聞こえてきた。それは気のせいではなく、目の前に石橋が見えてきた。私達はその橋を渡った。橋を渡った先で私達は森を抜けた。花畑があり、私達は来た道を振り返ると鬱蒼とした森が背後にあった。その中を私達は歩いてきたのだ。小道の入口はとても心細い程に森の小さなトンネルのようで、とても信じられなかった。
 前を向き直すと森が抜けたことで夜空の星達を見ることができ、見慣れた夜空の景色より美しかった。
「こんなに綺麗に星が見える」とつばきは興奮気味に言った。私は頷いた。
 夢だと分かっていても、私達の現実世界では見ることの出来ない景色だ。私達の夜は人間の明かりのせいで夜空の本当の輝きを知らない。夜は怖いもので、明るくしようとする。そうすることで人は落ち着く。だが、自然界にも明かりはある。
 ホタルが私達の周りを飛んだ。ホタルなんて現実では見たことがない。勿論、これは夢だ。
 さっきまでの地獄とはなんだか違う。でも、多分きっと私はこの夢がなんなのか分かってきた気がした。
 地獄というより私達は今、あの世と現実を彷徨っているんじゃないのか。だからこの温泉には出口がなく、ずっと道は続いているんじゃないのか。だとしたら、極楽湯はそのまま極楽を意味するのではないのか? でも、さっき見てきた道を振り返ると、極楽でないものも混じっている。例えば、適度ならそれは極楽になり、欲をかけばそれは地獄にもなり得る。だから、長湯は禁じられのぼせる前に出ろということではないのか? しかし、そうだとしてもまだ分からないことがある。例えば、私達が何故あの世と現実を彷徨っているのか。やはり仮説は間違いか?
 不思議な私達の夢はここで途切れた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...