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夏の思い出
02
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俺は自分の家族しか知らなかった。家庭にはそれぞれ色んな事情がある。それはなんとなく分かっていたつもりで、本当は実態としてはよく分かっていなかった。
ケントは決して悪い奴なんかじゃない。俺にとって極楽で初めて知り合いになって、そこから友人になった。
見捨てるものか。ケント、待っていろよ。
開いた扉へ勢いよくダイブした俺は豹になって荒野へと転がり落ちた。
頭を打って少し頭が痛いが、直ぐに起き上がると遠くに俺と同じ豹が数体日陰の中で休んでいて、あとは荒野がただ広がっていた。
俺はふと思い出したかのように振り返ったが、そこには扉はなかった。
普通、意識はお盆の時にだけ虫に変身出来る。その虫も限られていて、その季節の虫と決まっている。
だが、今の俺は豹だ。となると、扉の中はやはり現世ではなく別の世界に繋がっていて、ここでは動物の姿になれるんだ。
でも、何で豹なんだ?
普通に考えればこの場所に生息している生き物に単に勝手に変身したということになる。だとしたら何故扉の先が荒野なのか?
現世で死んだ人は肉体から意識を取り除き、その意識はそのまま極楽へと向かう。一方で極楽から現世へ特別許された期間のみ虫の姿となって帰ることが許されている。もし、これが輪廻転生に関係するとしたら、虫は畜生……となると豹は修羅……ここは極楽と違い殺し合いが激しく厳しい世……だから荒野なのか。
俺は中二病的設定が好きでその辺から少し詳しかった。
だが、もしそうだとするとやはり噂は間違いだったってことだ。ここでは人の姿に戻ることはない。もしくは、人に戻る方法がこの世にはあるのか? でも、どこに?
俺は日陰で休んでいる豹を見た。そこにいる豹達は此方をじっと見て威嚇をしていた。まるで、お前は仲間じゃないと言われているよう…… 。あんな連中とうまくやれそうにない。俺は諦めとりあえず前へ歩き出した。
この世は単なる荒野ではない筈だ。だとしたら何かあるかもしれない。多分、荒野にはないもの。
空は太陽がサンサンと照らしており、頭がおかしくなりそうな暑さだった。意識は豹ではなく人間だから、外見は豹でもこの暑さには慣れそうにないし、さっきの豹達もこの地獄のような太陽の下にずっとはいられないようだ。
その後も暫く進んでみたものの、周囲の風景は相変わらず殺風景な場所で変わらず、直ぐに見飽きてしまった。
ヤバい、このままだったらどうしよう…… 。
勢いのまま扉の中へ入ったはいいものの、何か策があるわけでもなかった。
俺は頭のいい方ではない。この場合どうしたらいいのか? この世界にネットがあるわけでもない。つくづく俺はサバイバルには向いていないと思う。その点、ケントはどうなんだろうか? 病気だったとはいえ、その前の彼はサッカーをしていたぐらいなのだから運動神経は良い方だろう。俺なんかよりずっと生き延びられそうだ。
すると、遠くにシマウマがいた。仲間は周囲には確認出来ない。お腹のあたりから空腹を知らせる汚いラッパが鳴り出した。意識は人なのに、体は本能的に狩りの態勢に入った。
それにシマウマが気づき走り出すと、自分も気がついたら逃げ出したシマウマを追っていた。目の前にはシマウマの尻尾が見える。
ここで追いつけなければこの勝敗、シマウマに軍配があがる。それは豹は持久戦には向かないからだ。もし、無限の体力を持っていれば、豹は餓死することもないだろう。いや、分からないな。餌を食い尽くしてしまうかも。だが、そうはならない。
徐々にシマウマと自分との距離が遠ざかっていく。
ダメだ、追いつけない。
すると、クスクスと笑い声がした。その声を忘れる筈がない。
「ケント!?」
「そうだよ、俺だよ」
なんとあのシマウマはケントだったのだ。
「やっぱり俺の方が速かったね」
「ケント、やっぱり扉の向こうへ行っていたんだね」
「そういう君だって。でも、驚いたよ。まさか君がここにいるんだもん。それより一ついい? どうして君が豹なの? 俺、肉食じゃなく草食だよ? なに、この格差は。不平等だ!」
「そんなことよりケント。君の家……」
「うん、分かってる。とにかくついてきて」
「ケント? いったいどこへ行こうとしてるの?」
「いいからいいから」
ケントはそう言うばかりで全く行き先を説明しようとしなかった。俺は仕方なくケントの言う通りに従った。
道中、豹の死体を見つけた。痩せ細っており、多分狩りが上手くいかず餓死したんだろう。
「ケント、君はこの世界に一年もいたの?」
「ただの一年じゃない。俺はこの広い世界で色々なものを発見していき、それで少しずつこの世界について分かってきた」
「ケント、君はまだ人になるのを諦めてはいないの?」
「うん。君はどうして扉の中へ?」
「君を連れ戻す為だよ」
「俺? 言っとくけど目的を果たすまでは戻れないよ」
「それじゃ本当に人に戻れるの?」
「ほら、あれ」
ケントはそう言ったので俺も前方の先を見た。そこにはこの荒野にあるには異質な巨大な石碑がたっていた。その石碑には上の方に鳥のような絵と下に文字が掘られてある。
「何て書いてあるの?」
「さぁ、分からない。だが、この石碑がただもんじゃないことぐらいは分かるだろ?」
「うん」
「これの他にあと3つ似たようなものがあるんだ」
「これ以外に同じのが3つも?」
「そっ。それは東西南北それぞれに一つずつこの石碑が立ってあるんだ。これ、絶対何か意味があると思わないか?」
「うん、思う」
「それでだ、文字は分からないけど石碑には違う絵が掘られてあるんだ。これは鳥に見えるだろ? 他のは龍、それに虎みたいなのと亀に長い尻尾。これらはきっと朱雀、青龍、白虎、玄武だと思うんだ」
「聞いたことある」
「だろだろ。そうきたらあと一つ。麒麟だ。そして、麒麟は幸福の象徴でもある。俺達が目指すはその麒麟ってことになるわけ。で、それは4つの石碑が十字に交わる中心にある……そこまでは分かったんだ」
「真ん中にも石碑があったのか?」
「いや、それがなかったんだ。でも、麒麟がいないのはおかしいだろ? だからずっと探し回ったんだが、それらしいものとしたら野生のキリンぐらいしか見当たらなかった」
「キリンと麒麟はどうみても違うと思うけど」
「俺もそう思ったんだけど他にそれっぽいのはなくて。で、困っていたわけ」
「キリンは答えじゃなかったの?」
「どうみてもキリン。何も起こらなかった」
「それってつまり……」
「この謎を解かない限り俺達はこの先へも出ることも出来ないってことになる」
「そんな!」
「それだけじゃない。ここに長居すると、意識は徐々に肉体に馴染み俺達は人間の記憶を完全に忘れてしまうんだ。俺にはもうあまり時間は残されていない。次の年には俺は完全にシマウマになっているだろう」
「それ、本当なの!?」
「本当さ。ここにいる動物も全てかは分からないけど、俺達と同じように扉から入った連中さ。俺はその一人を知っているが、そいつはお前が来る前に完全な獣になってしまったんだ」
「だ、大丈夫だよ。だってあと一年はあるんだろ?」
「そうも言ってられるかな? ここで獣になった奴がいるってことは、それだけここの謎は難しいってことじゃないのか? それに、俺は草食動物だから一年だけど、君は肉体動物だ。この世界にいたら必ず飢えが襲ってくる。さっき君が獣の顔になって僕を追いかけてきたみたいに」
「あ、あれは違う! 君だと知らなくて」
「そうじゃない! いいか、俺じゃなくても俺達みたいなのがここでは生き物になるんだ。君は食べずに生きてはいけない。だが、ここにいるのは元は人間だ。君は生きる為に人間を殺せるか?」
俺はそれを言われハッとした。ケントは更に続ける。
「この世界では草食動物よりも肉食動物の方が獣へと落ちるのが断然早い。そして、おそらくだけど、獣に落ちたらもう人へは戻れなくなる」
「ど、どうしたらいい?」
「とにかく君は空腹に耐えろ。もし、餌に食らいついた時、君は君でいられなくなる」
それはケントより下手したら一日で俺は俺でなくなるかもしれないということだ。
「他に何か分かったことはないの?」
「今言ったことがほとんど全部だ」
「そんな……」
「とりあえず、君はこれ以上動かない方がいい。肉食動物は毎日餌を食べるわけじゃないんだ。でも、沢山動いたらそうもいかなくなる」
「わ、分かった」
「君はそこにいて。あとは俺が動くよ」
そう言ってシマウマのケントは行ってしまった。
俺は日陰に入り、とにかく体力を使わないよう努力した。
気づいたら俺は寝ていたようで、ケントの呼び声で俺は目を覚ました。
「起きたか?」
「寝てた……」
「残念ながら真ん中にもう一度行ってみたけど何もなかったよ。あと、キリンもかわらずってとこ。大丈夫?」
「まぁ、まだ人間やってるよ」
「それはなによりだね」
「あれ、もう夕方?」
空はすっかりオレンジ色をして自分はそんなに寝ていたのかと驚いた。
「まぁ、君の場合寝てた方が体力は消耗しないしその方がいいだろ。明日も俺に任せておけ」
「なんだか悪いな。本当なら君を助けるつもりが助けられちゃって」
「助ける? 別に助けなんか必要なかったのに。でも、まぁありがとよ」
「俺は後悔してたんだ。君を一人で行かせてしまったことに」
「何言ってるんだ。これは俺が決めたことなんだ。むしろ、俺が余計なことを君に言ったから、君をこんな目に巻き込んでしまった」
「いや、いいんだ」
「それじゃ、お互い様ってことで」
「そうだね」
それから日が落ち、夜空には星々が光って見えた。
「こんな世界でも星空は綺麗なんだね」
「あぁ、そういえばそうだな。あんま星とか気にしたことなかったから」
「そうなんだ。あ、そういえばさ、星座といえばきりん座があるの知ってる?」
「え? 俺、星座とか詳しくないから教えてくれる?」
「ほら、アレだよ」
俺は直ぐ近くに見える星座を目線で送った。
「アレだよ! 俺達が探してたのは! 君は本当に天才だよ」
「どういうこと?」
「星座に詳しくなかったら解けなかった謎だよ。麒麟は空を飛ぶんだ。俺はずっと地上ばかりを見ていた。でも、答えは空にあったんだ」
「でも、どうやって空へ行くの? 俺達じゃ空は飛べないよね」
「一つだけ方法がある」
「え?」
俺は全く思いつかず、ケントが答えを言うのを待った。
「死ぬことさ」
「え、死ぬの!?」
「星座に詳しくないと解けない謎、そして、それが分かっても方法が予想外。この謎こそがまさに多くのチャレンジャーを脱落させた難問なんだよ。でも、ヒントはあった。ヒントは2つある。一つは石碑。そこから導き出せるきりんというワード。そして、2つ目は俺達がこの世界に来ていきなり動物になっていただろ? 俺達は自分から虫になって極楽から現世に行くことが出来たが、この世界では突然そうなった。その謎こそがヒントだった。俺達は死ぬ必要があるんだ。しかも、まだ人間のうちにね。そして、意識をもう一度肉体から解き放つんだ。そうすれば、あのきりん座の光る出口へ行ける筈さ」
「わ、分かった」
ケントは決して悪い奴なんかじゃない。俺にとって極楽で初めて知り合いになって、そこから友人になった。
見捨てるものか。ケント、待っていろよ。
開いた扉へ勢いよくダイブした俺は豹になって荒野へと転がり落ちた。
頭を打って少し頭が痛いが、直ぐに起き上がると遠くに俺と同じ豹が数体日陰の中で休んでいて、あとは荒野がただ広がっていた。
俺はふと思い出したかのように振り返ったが、そこには扉はなかった。
普通、意識はお盆の時にだけ虫に変身出来る。その虫も限られていて、その季節の虫と決まっている。
だが、今の俺は豹だ。となると、扉の中はやはり現世ではなく別の世界に繋がっていて、ここでは動物の姿になれるんだ。
でも、何で豹なんだ?
普通に考えればこの場所に生息している生き物に単に勝手に変身したということになる。だとしたら何故扉の先が荒野なのか?
現世で死んだ人は肉体から意識を取り除き、その意識はそのまま極楽へと向かう。一方で極楽から現世へ特別許された期間のみ虫の姿となって帰ることが許されている。もし、これが輪廻転生に関係するとしたら、虫は畜生……となると豹は修羅……ここは極楽と違い殺し合いが激しく厳しい世……だから荒野なのか。
俺は中二病的設定が好きでその辺から少し詳しかった。
だが、もしそうだとするとやはり噂は間違いだったってことだ。ここでは人の姿に戻ることはない。もしくは、人に戻る方法がこの世にはあるのか? でも、どこに?
俺は日陰で休んでいる豹を見た。そこにいる豹達は此方をじっと見て威嚇をしていた。まるで、お前は仲間じゃないと言われているよう…… 。あんな連中とうまくやれそうにない。俺は諦めとりあえず前へ歩き出した。
この世は単なる荒野ではない筈だ。だとしたら何かあるかもしれない。多分、荒野にはないもの。
空は太陽がサンサンと照らしており、頭がおかしくなりそうな暑さだった。意識は豹ではなく人間だから、外見は豹でもこの暑さには慣れそうにないし、さっきの豹達もこの地獄のような太陽の下にずっとはいられないようだ。
その後も暫く進んでみたものの、周囲の風景は相変わらず殺風景な場所で変わらず、直ぐに見飽きてしまった。
ヤバい、このままだったらどうしよう…… 。
勢いのまま扉の中へ入ったはいいものの、何か策があるわけでもなかった。
俺は頭のいい方ではない。この場合どうしたらいいのか? この世界にネットがあるわけでもない。つくづく俺はサバイバルには向いていないと思う。その点、ケントはどうなんだろうか? 病気だったとはいえ、その前の彼はサッカーをしていたぐらいなのだから運動神経は良い方だろう。俺なんかよりずっと生き延びられそうだ。
すると、遠くにシマウマがいた。仲間は周囲には確認出来ない。お腹のあたりから空腹を知らせる汚いラッパが鳴り出した。意識は人なのに、体は本能的に狩りの態勢に入った。
それにシマウマが気づき走り出すと、自分も気がついたら逃げ出したシマウマを追っていた。目の前にはシマウマの尻尾が見える。
ここで追いつけなければこの勝敗、シマウマに軍配があがる。それは豹は持久戦には向かないからだ。もし、無限の体力を持っていれば、豹は餓死することもないだろう。いや、分からないな。餌を食い尽くしてしまうかも。だが、そうはならない。
徐々にシマウマと自分との距離が遠ざかっていく。
ダメだ、追いつけない。
すると、クスクスと笑い声がした。その声を忘れる筈がない。
「ケント!?」
「そうだよ、俺だよ」
なんとあのシマウマはケントだったのだ。
「やっぱり俺の方が速かったね」
「ケント、やっぱり扉の向こうへ行っていたんだね」
「そういう君だって。でも、驚いたよ。まさか君がここにいるんだもん。それより一ついい? どうして君が豹なの? 俺、肉食じゃなく草食だよ? なに、この格差は。不平等だ!」
「そんなことよりケント。君の家……」
「うん、分かってる。とにかくついてきて」
「ケント? いったいどこへ行こうとしてるの?」
「いいからいいから」
ケントはそう言うばかりで全く行き先を説明しようとしなかった。俺は仕方なくケントの言う通りに従った。
道中、豹の死体を見つけた。痩せ細っており、多分狩りが上手くいかず餓死したんだろう。
「ケント、君はこの世界に一年もいたの?」
「ただの一年じゃない。俺はこの広い世界で色々なものを発見していき、それで少しずつこの世界について分かってきた」
「ケント、君はまだ人になるのを諦めてはいないの?」
「うん。君はどうして扉の中へ?」
「君を連れ戻す為だよ」
「俺? 言っとくけど目的を果たすまでは戻れないよ」
「それじゃ本当に人に戻れるの?」
「ほら、あれ」
ケントはそう言ったので俺も前方の先を見た。そこにはこの荒野にあるには異質な巨大な石碑がたっていた。その石碑には上の方に鳥のような絵と下に文字が掘られてある。
「何て書いてあるの?」
「さぁ、分からない。だが、この石碑がただもんじゃないことぐらいは分かるだろ?」
「うん」
「これの他にあと3つ似たようなものがあるんだ」
「これ以外に同じのが3つも?」
「そっ。それは東西南北それぞれに一つずつこの石碑が立ってあるんだ。これ、絶対何か意味があると思わないか?」
「うん、思う」
「それでだ、文字は分からないけど石碑には違う絵が掘られてあるんだ。これは鳥に見えるだろ? 他のは龍、それに虎みたいなのと亀に長い尻尾。これらはきっと朱雀、青龍、白虎、玄武だと思うんだ」
「聞いたことある」
「だろだろ。そうきたらあと一つ。麒麟だ。そして、麒麟は幸福の象徴でもある。俺達が目指すはその麒麟ってことになるわけ。で、それは4つの石碑が十字に交わる中心にある……そこまでは分かったんだ」
「真ん中にも石碑があったのか?」
「いや、それがなかったんだ。でも、麒麟がいないのはおかしいだろ? だからずっと探し回ったんだが、それらしいものとしたら野生のキリンぐらいしか見当たらなかった」
「キリンと麒麟はどうみても違うと思うけど」
「俺もそう思ったんだけど他にそれっぽいのはなくて。で、困っていたわけ」
「キリンは答えじゃなかったの?」
「どうみてもキリン。何も起こらなかった」
「それってつまり……」
「この謎を解かない限り俺達はこの先へも出ることも出来ないってことになる」
「そんな!」
「それだけじゃない。ここに長居すると、意識は徐々に肉体に馴染み俺達は人間の記憶を完全に忘れてしまうんだ。俺にはもうあまり時間は残されていない。次の年には俺は完全にシマウマになっているだろう」
「それ、本当なの!?」
「本当さ。ここにいる動物も全てかは分からないけど、俺達と同じように扉から入った連中さ。俺はその一人を知っているが、そいつはお前が来る前に完全な獣になってしまったんだ」
「だ、大丈夫だよ。だってあと一年はあるんだろ?」
「そうも言ってられるかな? ここで獣になった奴がいるってことは、それだけここの謎は難しいってことじゃないのか? それに、俺は草食動物だから一年だけど、君は肉体動物だ。この世界にいたら必ず飢えが襲ってくる。さっき君が獣の顔になって僕を追いかけてきたみたいに」
「あ、あれは違う! 君だと知らなくて」
「そうじゃない! いいか、俺じゃなくても俺達みたいなのがここでは生き物になるんだ。君は食べずに生きてはいけない。だが、ここにいるのは元は人間だ。君は生きる為に人間を殺せるか?」
俺はそれを言われハッとした。ケントは更に続ける。
「この世界では草食動物よりも肉食動物の方が獣へと落ちるのが断然早い。そして、おそらくだけど、獣に落ちたらもう人へは戻れなくなる」
「ど、どうしたらいい?」
「とにかく君は空腹に耐えろ。もし、餌に食らいついた時、君は君でいられなくなる」
それはケントより下手したら一日で俺は俺でなくなるかもしれないということだ。
「他に何か分かったことはないの?」
「今言ったことがほとんど全部だ」
「そんな……」
「とりあえず、君はこれ以上動かない方がいい。肉食動物は毎日餌を食べるわけじゃないんだ。でも、沢山動いたらそうもいかなくなる」
「わ、分かった」
「君はそこにいて。あとは俺が動くよ」
そう言ってシマウマのケントは行ってしまった。
俺は日陰に入り、とにかく体力を使わないよう努力した。
気づいたら俺は寝ていたようで、ケントの呼び声で俺は目を覚ました。
「起きたか?」
「寝てた……」
「残念ながら真ん中にもう一度行ってみたけど何もなかったよ。あと、キリンもかわらずってとこ。大丈夫?」
「まぁ、まだ人間やってるよ」
「それはなによりだね」
「あれ、もう夕方?」
空はすっかりオレンジ色をして自分はそんなに寝ていたのかと驚いた。
「まぁ、君の場合寝てた方が体力は消耗しないしその方がいいだろ。明日も俺に任せておけ」
「なんだか悪いな。本当なら君を助けるつもりが助けられちゃって」
「助ける? 別に助けなんか必要なかったのに。でも、まぁありがとよ」
「俺は後悔してたんだ。君を一人で行かせてしまったことに」
「何言ってるんだ。これは俺が決めたことなんだ。むしろ、俺が余計なことを君に言ったから、君をこんな目に巻き込んでしまった」
「いや、いいんだ」
「それじゃ、お互い様ってことで」
「そうだね」
それから日が落ち、夜空には星々が光って見えた。
「こんな世界でも星空は綺麗なんだね」
「あぁ、そういえばそうだな。あんま星とか気にしたことなかったから」
「そうなんだ。あ、そういえばさ、星座といえばきりん座があるの知ってる?」
「え? 俺、星座とか詳しくないから教えてくれる?」
「ほら、アレだよ」
俺は直ぐ近くに見える星座を目線で送った。
「アレだよ! 俺達が探してたのは! 君は本当に天才だよ」
「どういうこと?」
「星座に詳しくなかったら解けなかった謎だよ。麒麟は空を飛ぶんだ。俺はずっと地上ばかりを見ていた。でも、答えは空にあったんだ」
「でも、どうやって空へ行くの? 俺達じゃ空は飛べないよね」
「一つだけ方法がある」
「え?」
俺は全く思いつかず、ケントが答えを言うのを待った。
「死ぬことさ」
「え、死ぬの!?」
「星座に詳しくないと解けない謎、そして、それが分かっても方法が予想外。この謎こそがまさに多くのチャレンジャーを脱落させた難問なんだよ。でも、ヒントはあった。ヒントは2つある。一つは石碑。そこから導き出せるきりんというワード。そして、2つ目は俺達がこの世界に来ていきなり動物になっていただろ? 俺達は自分から虫になって極楽から現世に行くことが出来たが、この世界では突然そうなった。その謎こそがヒントだった。俺達は死ぬ必要があるんだ。しかも、まだ人間のうちにね。そして、意識をもう一度肉体から解き放つんだ。そうすれば、あのきりん座の光る出口へ行ける筈さ」
「わ、分かった」
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