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夏の思い出
03
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俺はケントを信じ言われる通りに死んだ。するとケントの言う通り、俺は豹から抜け出すことに成功し、空へと浮かんだ。そこにケントの意識も追いつく。
「それからどうしたらいい?」
「あの星座の中で一番光ってるところがあるだろ? 多分そこだ」
「分かった」
俺とケントは一番光っている星へ向かった。
そして、近づいてみて分かったことだが、それは星ではなく新たな扉だった。
俺はケントに訊いた。
「出口だと思う?」
「いや、次へ続く扉だと思う」
「本当に?」
「俺達は現世で虫の姿になり、そこで死んでこの世界へとやって来た。そして、この世界でも死に、俺達はその度に肉体から意識を解き放ったんだ。分かるか? これは輪廻転生だ。そして、それを繰り返していけば、人間になれるってことだよ」
「でも、一つだけ疑問が残るんだ。そうやって人間になれたとしても、それは子どもだった俺達とは限らないよね。むしろ、赤子から始まるかもしれない。その時は君はケントではなくなるんだ。別の誰かとして誕生するんだ。その可能性だってゼロではない」
「お前の言う通りかもな。お前は俺より賢いから。でも、引き返せないのは事実だろ?」
「そうだな……」
もう、行くしかない。既に狂い始めた運命の歯車は新たな運命をもたらそうとしている。俺達はどうなるか分からない未来へただ突っ走っている。
「よし、行くぞ」
扉は開き、俺達はその扉の先へと進んだ。
扉の先、眩しい光がやむと、そこに広がっている景色は巨大な一本の木が立っており、その根が剥き出しになってそれが地面になっていた。その名前も分からないその木にはしめ縄がされてある為、ご神木なのだろうか。あと、不思議なことに見慣れた空はその世界にはなく、真っ白だった。霧とかではない。色がないというべきか…… 。
変な世界だ。出口ではないのは確かだ。
俺達は気づいたら生前の人の姿となってその根の上に立っていた。
「やったよ! 俺達、人の姿になれたんだ!」
ケントは青いユニフォームのサッカー少年の姿。背は俺とあまり変わらない。少し長めの髪に中性的な顔立ち。ユニフォームの上からでは分からないが、全体的にやや痩せているように見えた。髪の色は若干茶髪気味。
俺はそれに比べ黒でケントより髪がふんわりしていて顔は丸顔だ。格好は自分が死ぬ直前に着ていたもので、ビーチサンダルに黒の半ズボン、半袖の白いシャツだ。
「おい、あれを見てみろよ」
ケントが指差すと、そこには見覚えのある石碑が巨大な木の手前にたってあった。だが、今度の石碑には絵がなかった。かわりにそこに書かれてある文字は日本語で書かれてあった。
極楽から抜け転生を求める者よ、汝その資格を示せ
俺は手を組み首をかしげながら「資格って何だろう?」と呟いた。
「多分、さっきの世界から抜け出せたみたいに謎解きをしろってことじゃないのか?」
いや、多分これは試練なんだ。その試練を乗り越えた先に本当に噂通り人の姿のまま現世へ戻れる……でも、そんな人がいたら現世でも噂になってる筈だ。死んだ人が蘇ったんだから。きっと、俺達は間違った道を進んでいる気がする。
だが、ケントはまだ噂を信じていた。友達として目を覚まさせるべきか。でも、俺はそれをして一度失敗している。そして今は逆に一緒行動している。でも、このままだとしたら俺達は本当にどうなってしまうか分からない。俺達は一緒に終わってしまうかもしれない。こんな時、どうしたらいいのか分からない。教えてくれる先生も親も他の大人達もいない。俺達だけだ。俺達だけでなんとかこの怪しげな世界から抜け出せなきゃ。
これはきっと輪廻転生だと思う。死んで肉体から魂を解き放ち、また別世界へ生まれ変わる。虫から動物へ。そして今度は人間へ。
そうだ……まただ。俺達はこの世界に入った時には人になっていた。前回は動物に…… 。
「おい、見ろよ。看板があるぜ」
ケントが見つけたのは木材を使った立て札だった。右へは現世、左は極楽とある。巨大な木を中心にした分岐点で、その先に道が左右それぞれに見えた。
ケントは当然現世へ向かおうとしている。
「なぁ、待ってよケント。こんなの簡単過ぎる。石碑にあるだろ、汝、その資格を示せって。その案内通りに行って本当に現世に辿り着けるとは思えない。きっと罠だ」
「行ってみなきゃ分からないだろ? 多分、まだゴールじゃなくて長い試練の道かもしれないだろ」
ケントは冗談ぽくそう言った。
「それより君はどうするんだ? 極楽へはそっちみたいだけど、別に人に戻りたいわけじゃないんだろ。無理してついてこなくたっていい。ここまで来てくれただけ俺は嬉しいよ。でも、お前まで巻き込ませたくない」
「俺達、友達だろ? 巻き込みたくないとか言うなよ。俺はお前が心配なんだ。この分岐で俺と君がずっと離れ離れになる気がして」
「離れたって俺達は親友だ」
「ケント! 俺だって生き返れるならそうしたいと思ってるさ! それはお前だけじゃない。君は信じなきゃ運命は変えられないと思ってるみたいだけど、少しは疑うことも覚えろよ。これは罠だ」
「だったらどうしろって言うんだ! 俺達は人の姿に実際なれただろ! 噂通りじゃないか。このわけの分からない世界で輪廻転生を繰り返し人間になれた。あとは現世にそのまま行けばいいだけのことじゃないのか」
「君はそう言うけど、まだ分からないことが残っているぞ」
「え?」
「君が言っただろ。このわけの分からない世界と。俺達は何も知らず扉の中をくぐってしまった。その噂が信用できるかはこの世界が何なのか少しは考えなくちゃ」
「分かるのか?」
「俺の予想だけど……あの扉は『万象の扉』なんかじゃない。この世界は想像と違うけど、地獄だ」
「地獄!?」
すると、突然石碑に亀裂が走り崩れ始めた。その中から黒い煙と小鬼が現れた。
「お、鬼!?」
「餓鬼だ」
「餓鬼?」
「ククク……勘のいいガキは嫌いだ。どいつもこいつも騙されるというのに、なんでお前みたいな小さなガキがこれに気づくか」
「ど、どうなってるんだ!?」
すると、ご神木だと思われた木が突然燃え始めた。
バチバチと音を立てながら勢いよく燃える木をケントは呆然と眺めていた。
「ケント、長くその火を見ちゃダメだ。心を持っていかれるぞ」
そう言われハッと我に返った。
小鬼は悔しそうに舌打ちした。
「勘のいいガキは嫌いだ。あのまま心を持っていかれればそいつは抜け殻になって今よりずっと楽になっていただろうに」
「どういうことだよ」
「ハッ、そっちのガキはまだ状況が飲み込めていないようだな」
「ケント、ヒントはあった。しめ縄が逆になっていたんだ。諸説色々あるけど、それはご神木じゃない」
「そうだ。あれは封じていたのさ」
燃える巨木から沢山の悲鳴が聞こえてくる。
助けてくれー
早くここから出してー
苦しい……苦しい……
熱い熱い熱い熱い!!
耳を塞ぎたくなる声だ。炎から僅かに見える地獄の景色。そこで地獄に落とされた人々が地獄の刑を受けているのが見える。生身のまま焼かれ続けても尚死ねずに苦しみ続け、巨体の鬼が振るう鞭を背中に受け皮膚が剥がれ血肉があらわになる。
ケントは涙目になっていた。
「お前達は道を踏み外した魂だ。地獄に落ちるのは当然だろ? あのまま魂をあの影達にくれてやるわけにはいかん。ククク……よく見ろ地獄の景色を! もうじき、お前達もそこへ落ちるのだ。愚かな魂よ」
「どうしてだよ! もっと生きたいと思っちゃいけないのかよ!」
「強欲な魂だこと。このガキが言ってただろ。人生は一度きり。それは皆変わらない。何故、お前だけが特別扱いされると思ってる」
「あの噂は嘘だったのか」
ケントは足に力を失い膝を地面につけた。
「ケント、あれは単なる噂なんかじゃない。俺は君がいなくなった一年、極楽で君が聞いたという噂を知ってそうな人を探し回った。でも、そんな人は一人もいなかったんだ。多分、人間に戻りたいと思った魂だけにそれが伝わるんだと思う。それが地獄の扉の隙間から漏れ出した囁きだったんだ。君を誘い込む為のね」
「素晴らしい! 完璧だ。そこまで分かっていてノコノコ親友の為についていくお前も愚かだがな」
「見捨てたりはしない。お前には分からないだろう餓鬼。お前には親友と呼べる仲間がいないんじゃないのか」
また、餓鬼は舌打ちした。
「本当に勘の鋭い奴だ。俺の痛いところを突いてくる。ククク……だが、そろそろ時間だ。その生意気もそろそろ続かなくなるだろう。ククク……」
突如、地面が揺れ始めた。木の根がバキバキと折れ、炎が隙間から吹きでる。あちこちで穴が開くと、そこから小鬼がぞろぞろと下から現れ出した。
「お前達に逃げ場はない。お前の言う通りここは地獄。どこへ逃げようと地獄からは抜け出せやしない」
「それからどうしたらいい?」
「あの星座の中で一番光ってるところがあるだろ? 多分そこだ」
「分かった」
俺とケントは一番光っている星へ向かった。
そして、近づいてみて分かったことだが、それは星ではなく新たな扉だった。
俺はケントに訊いた。
「出口だと思う?」
「いや、次へ続く扉だと思う」
「本当に?」
「俺達は現世で虫の姿になり、そこで死んでこの世界へとやって来た。そして、この世界でも死に、俺達はその度に肉体から意識を解き放ったんだ。分かるか? これは輪廻転生だ。そして、それを繰り返していけば、人間になれるってことだよ」
「でも、一つだけ疑問が残るんだ。そうやって人間になれたとしても、それは子どもだった俺達とは限らないよね。むしろ、赤子から始まるかもしれない。その時は君はケントではなくなるんだ。別の誰かとして誕生するんだ。その可能性だってゼロではない」
「お前の言う通りかもな。お前は俺より賢いから。でも、引き返せないのは事実だろ?」
「そうだな……」
もう、行くしかない。既に狂い始めた運命の歯車は新たな運命をもたらそうとしている。俺達はどうなるか分からない未来へただ突っ走っている。
「よし、行くぞ」
扉は開き、俺達はその扉の先へと進んだ。
扉の先、眩しい光がやむと、そこに広がっている景色は巨大な一本の木が立っており、その根が剥き出しになってそれが地面になっていた。その名前も分からないその木にはしめ縄がされてある為、ご神木なのだろうか。あと、不思議なことに見慣れた空はその世界にはなく、真っ白だった。霧とかではない。色がないというべきか…… 。
変な世界だ。出口ではないのは確かだ。
俺達は気づいたら生前の人の姿となってその根の上に立っていた。
「やったよ! 俺達、人の姿になれたんだ!」
ケントは青いユニフォームのサッカー少年の姿。背は俺とあまり変わらない。少し長めの髪に中性的な顔立ち。ユニフォームの上からでは分からないが、全体的にやや痩せているように見えた。髪の色は若干茶髪気味。
俺はそれに比べ黒でケントより髪がふんわりしていて顔は丸顔だ。格好は自分が死ぬ直前に着ていたもので、ビーチサンダルに黒の半ズボン、半袖の白いシャツだ。
「おい、あれを見てみろよ」
ケントが指差すと、そこには見覚えのある石碑が巨大な木の手前にたってあった。だが、今度の石碑には絵がなかった。かわりにそこに書かれてある文字は日本語で書かれてあった。
極楽から抜け転生を求める者よ、汝その資格を示せ
俺は手を組み首をかしげながら「資格って何だろう?」と呟いた。
「多分、さっきの世界から抜け出せたみたいに謎解きをしろってことじゃないのか?」
いや、多分これは試練なんだ。その試練を乗り越えた先に本当に噂通り人の姿のまま現世へ戻れる……でも、そんな人がいたら現世でも噂になってる筈だ。死んだ人が蘇ったんだから。きっと、俺達は間違った道を進んでいる気がする。
だが、ケントはまだ噂を信じていた。友達として目を覚まさせるべきか。でも、俺はそれをして一度失敗している。そして今は逆に一緒行動している。でも、このままだとしたら俺達は本当にどうなってしまうか分からない。俺達は一緒に終わってしまうかもしれない。こんな時、どうしたらいいのか分からない。教えてくれる先生も親も他の大人達もいない。俺達だけだ。俺達だけでなんとかこの怪しげな世界から抜け出せなきゃ。
これはきっと輪廻転生だと思う。死んで肉体から魂を解き放ち、また別世界へ生まれ変わる。虫から動物へ。そして今度は人間へ。
そうだ……まただ。俺達はこの世界に入った時には人になっていた。前回は動物に…… 。
「おい、見ろよ。看板があるぜ」
ケントが見つけたのは木材を使った立て札だった。右へは現世、左は極楽とある。巨大な木を中心にした分岐点で、その先に道が左右それぞれに見えた。
ケントは当然現世へ向かおうとしている。
「なぁ、待ってよケント。こんなの簡単過ぎる。石碑にあるだろ、汝、その資格を示せって。その案内通りに行って本当に現世に辿り着けるとは思えない。きっと罠だ」
「行ってみなきゃ分からないだろ? 多分、まだゴールじゃなくて長い試練の道かもしれないだろ」
ケントは冗談ぽくそう言った。
「それより君はどうするんだ? 極楽へはそっちみたいだけど、別に人に戻りたいわけじゃないんだろ。無理してついてこなくたっていい。ここまで来てくれただけ俺は嬉しいよ。でも、お前まで巻き込ませたくない」
「俺達、友達だろ? 巻き込みたくないとか言うなよ。俺はお前が心配なんだ。この分岐で俺と君がずっと離れ離れになる気がして」
「離れたって俺達は親友だ」
「ケント! 俺だって生き返れるならそうしたいと思ってるさ! それはお前だけじゃない。君は信じなきゃ運命は変えられないと思ってるみたいだけど、少しは疑うことも覚えろよ。これは罠だ」
「だったらどうしろって言うんだ! 俺達は人の姿に実際なれただろ! 噂通りじゃないか。このわけの分からない世界で輪廻転生を繰り返し人間になれた。あとは現世にそのまま行けばいいだけのことじゃないのか」
「君はそう言うけど、まだ分からないことが残っているぞ」
「え?」
「君が言っただろ。このわけの分からない世界と。俺達は何も知らず扉の中をくぐってしまった。その噂が信用できるかはこの世界が何なのか少しは考えなくちゃ」
「分かるのか?」
「俺の予想だけど……あの扉は『万象の扉』なんかじゃない。この世界は想像と違うけど、地獄だ」
「地獄!?」
すると、突然石碑に亀裂が走り崩れ始めた。その中から黒い煙と小鬼が現れた。
「お、鬼!?」
「餓鬼だ」
「餓鬼?」
「ククク……勘のいいガキは嫌いだ。どいつもこいつも騙されるというのに、なんでお前みたいな小さなガキがこれに気づくか」
「ど、どうなってるんだ!?」
すると、ご神木だと思われた木が突然燃え始めた。
バチバチと音を立てながら勢いよく燃える木をケントは呆然と眺めていた。
「ケント、長くその火を見ちゃダメだ。心を持っていかれるぞ」
そう言われハッと我に返った。
小鬼は悔しそうに舌打ちした。
「勘のいいガキは嫌いだ。あのまま心を持っていかれればそいつは抜け殻になって今よりずっと楽になっていただろうに」
「どういうことだよ」
「ハッ、そっちのガキはまだ状況が飲み込めていないようだな」
「ケント、ヒントはあった。しめ縄が逆になっていたんだ。諸説色々あるけど、それはご神木じゃない」
「そうだ。あれは封じていたのさ」
燃える巨木から沢山の悲鳴が聞こえてくる。
助けてくれー
早くここから出してー
苦しい……苦しい……
熱い熱い熱い熱い!!
耳を塞ぎたくなる声だ。炎から僅かに見える地獄の景色。そこで地獄に落とされた人々が地獄の刑を受けているのが見える。生身のまま焼かれ続けても尚死ねずに苦しみ続け、巨体の鬼が振るう鞭を背中に受け皮膚が剥がれ血肉があらわになる。
ケントは涙目になっていた。
「お前達は道を踏み外した魂だ。地獄に落ちるのは当然だろ? あのまま魂をあの影達にくれてやるわけにはいかん。ククク……よく見ろ地獄の景色を! もうじき、お前達もそこへ落ちるのだ。愚かな魂よ」
「どうしてだよ! もっと生きたいと思っちゃいけないのかよ!」
「強欲な魂だこと。このガキが言ってただろ。人生は一度きり。それは皆変わらない。何故、お前だけが特別扱いされると思ってる」
「あの噂は嘘だったのか」
ケントは足に力を失い膝を地面につけた。
「ケント、あれは単なる噂なんかじゃない。俺は君がいなくなった一年、極楽で君が聞いたという噂を知ってそうな人を探し回った。でも、そんな人は一人もいなかったんだ。多分、人間に戻りたいと思った魂だけにそれが伝わるんだと思う。それが地獄の扉の隙間から漏れ出した囁きだったんだ。君を誘い込む為のね」
「素晴らしい! 完璧だ。そこまで分かっていてノコノコ親友の為についていくお前も愚かだがな」
「見捨てたりはしない。お前には分からないだろう餓鬼。お前には親友と呼べる仲間がいないんじゃないのか」
また、餓鬼は舌打ちした。
「本当に勘の鋭い奴だ。俺の痛いところを突いてくる。ククク……だが、そろそろ時間だ。その生意気もそろそろ続かなくなるだろう。ククク……」
突如、地面が揺れ始めた。木の根がバキバキと折れ、炎が隙間から吹きでる。あちこちで穴が開くと、そこから小鬼がぞろぞろと下から現れ出した。
「お前達に逃げ場はない。お前の言う通りここは地獄。どこへ逃げようと地獄からは抜け出せやしない」
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