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夏の思い出
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地獄から熱風が吹き出た。乾いた喉に焼きつくような痛みを与え、できるだけ口を塞いだ。だが、足場はどんどん崩れていき、あわあわと声を思わず出してしまう。そして口から酸素を吸い込むと、肺に熱を感じる。痛い。体の中で悲鳴が上がっている。まだ、地獄の炎で焼かれていないのにもうこの有り様だ。地獄の炎は人間が扱う一般的な火とはどうも違うようだ。靴じゃない薄っぺらいビーチサンダルでは足裏がアツアツの鉄板の上でバーベキューされてるみたいに熱い。
巨木を分岐点に分かれてあった2つの道は気づいたら崩れて無くなっている。
底が抜け始め、その真下は地獄と炎。
炎は唸りゴウゴウと俺達に狙いを定めて火柱をたてる。それに対して間一髪逃げ続ける俺達。だが、それも長くは続かない。
餓鬼の言った通り逃げる出口のようなものは探しても見当たらない。
「あ、足場が無くなるぞ……」
ケントの方もそろそろ危ない。
木に掴まろうにもその木は地獄の炎で燃えているのだ。その炎が根っこにまで伝ってくる。
「何か方法とかないのかよ」
「ないわけじゃない。もし、輪廻転生を繰り返しているなら、俺達はもう一度死んで肉体から魂を解き放つしかない」
「そうか! それで、また別の世界へ飛べばいいんだな」
すると、小鬼の笑い声がした。
「ククク……やらせるものか」
突如、俺とケントの服が白装束に変わった。それは地獄にいる罪人達と同じ格好である。直後、木のツルが俺達の体に巻きつき捕えた。
「これでおしまいだ」
俺とケントは必死にツルから逃れようとした。だが、ツルには棘があって逃れようとするものをその棘で傷つけた。ピッと、皮膚に傷がつき、血が出る。それを見た小鬼は一瞬だったがハッとした表情を見せた。俺はそれを決して見逃さなかった。
血……血……赤い……そうか!
「分かったぞ」
俺は更に必死にもがき続けた。その度に棘が傷をつけ、体はあちこち傷だかけになって血が出始める。
「ふん、無駄な足掻きだ! そんなんじゃどうやったって死ねないぞ」
「俺の目的はそれじゃない。血だらけになることだ。ケント! 俺と同じようにやるんだ」
「分かった」
「何を考えている。遂に頭がおかしくなったか」
「餓鬼、お前が俺に最大のヒントをくれたおかげで切り抜けられそうだ。最大のヒント、それは白装束を赤くすることだ。白装束は死を意味し、逆に赤色は再生」
「クッ……勘のいいガキは」
「嫌い、でしょ」
「ああ!! ちきしょう、ちきしょう、ちきしょうめ!!」
俺達を捕えていたツルは弾かれたように粉々に飛び散り、俺達は何故か空中を浮いていた。真っ白な空から神々しい光が照らし出すと、俺達はその光に導かれるように天へと登り始めた。悔しがる餓鬼達をツルは捕え地獄へと引き戻す。
「クソクソクソ!!」
哀れみさえ感じた俺は下を見るのをやめ、上を向いた。眩しい光に俺達は包まれると、喉の痛みはすっかり消えて無くなった。
夏の夜空に大きな花が咲き、それを俺は林檎飴を持ちながら見ていた。その隣には母さんがいた。母さんははぐれないようにと手をずっと繋いでいた。そのせいで手の中は熱がこもっていた。でも、それが母の愛情だったと今は分かる。
光に包まれながら昔のことを思い出したのはきっと走馬灯だろう。光は小さな一つ一つの暖かな光で、それは蛍のように沢山散って俺達から離れていった。
目の前にいたケントは涙を浮かべていた。
多分、彼も走馬灯を見たんだろう。
俺達は赤い装束を身に纏ったままで、気づいたら現世にいた。民家にはまだ明かりのついている家もあり、そんなに夜遅くというわけではないようだ。辺りは暗く電柱の街灯には小さな虫達が集まっている。
「ここ現世だよな!? なのに俺達人間のままだぞ?」
「いや、ケント。そんな筈はないんだ。ここはまだ地獄でそう思わせているだけだ。これも罠だ。その証拠に俺達は装束の格好のままだ。俺達はこれからどうやってここを脱するか考えた方がいい」
「あ、あぁ……分かった」
そうは言っても街灯の明かりの下から俺達は動けそうになかった。さっきから誰かに見られているような目線を感じていて、それも一つや二つではない。
うぅ……不気味な唸り声が聞こえてくる。だが、その正体は見えない。暗闇の中に、影の中にそれは潜んでいて、俺達が明かりから一歩踏み出すのをじっと待っているかのような感じだった。
「ど、どうする? もう一度死んで肉体から魂を解き放つのか?」
「いや……」
ケントはそう訊いてきたが、それだとまた輪廻転生を繰り返し地獄を永遠に巡ることになる。それはそれで地獄の思うつぼだ。
「俺達は神に助けを求めるしかないと思う」
「神?」
頼りなさそうな声で聞き返された。
「俺達だけで地獄を抜け出せるとか分からない」
「神に頼んで芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のように糸を垂らして下さいとお願いでもするのか? それで俺達は助かるのか?」
「糸かどうかは分からないけど、極楽があって、地獄があったら可能性はもうないとは言えないだろ?」
そう言いつつも半信半疑だが。それでも俺達は神に祈った。
だが、祈りが足りないのか地獄に落ちた俺達の祈りが届かないのか、とにかく祈り続けても何も変化が起こらなかった。
「まだ祈り続けた方がいいか?」
「いや、他の方法を考えよう。俺が思うに地獄の入口が扉だった以上、出口も同じ扉になると思うんだ。でも、俺達が通った扉はどれも地獄の中の世界に繋がっていた。他に扉があると考えた方がいいのかも」
「そうだな。 ……なぁ、訊いてもいいか。なんでそこまで俺に優しく出来るんだ」
「俺達親友だろ。困ったら手を差し伸べる。それが親友ってもんだろ」
「ああ」
すると、突然道の奥から光が放たれた。同時に光に怯えた何かは一斉にその場から去っていく。一本線の光の道が俺達の目の前まで現れ、光の先に扉が現れだした。
「これって祈りが届いたってことか!?」
「さぁ……」
俺達はその光の道に導かれるように歩き出した。
「おい、俺達の体が」
「あぁ……」
光の道を歩くにつれ徐々に体が透け始めたのだ。それがどんどん扉に近づくにつれ体は消えていき遂には意識だけになった。扉は音を立てながら開いた。
「行く?」とケントが訊いてきたので、俺は「行こう」と返事した。
俺達二人は扉の中へ入ると、扉は音を立てながらゆっくりと閉まった。
巨木を分岐点に分かれてあった2つの道は気づいたら崩れて無くなっている。
底が抜け始め、その真下は地獄と炎。
炎は唸りゴウゴウと俺達に狙いを定めて火柱をたてる。それに対して間一髪逃げ続ける俺達。だが、それも長くは続かない。
餓鬼の言った通り逃げる出口のようなものは探しても見当たらない。
「あ、足場が無くなるぞ……」
ケントの方もそろそろ危ない。
木に掴まろうにもその木は地獄の炎で燃えているのだ。その炎が根っこにまで伝ってくる。
「何か方法とかないのかよ」
「ないわけじゃない。もし、輪廻転生を繰り返しているなら、俺達はもう一度死んで肉体から魂を解き放つしかない」
「そうか! それで、また別の世界へ飛べばいいんだな」
すると、小鬼の笑い声がした。
「ククク……やらせるものか」
突如、俺とケントの服が白装束に変わった。それは地獄にいる罪人達と同じ格好である。直後、木のツルが俺達の体に巻きつき捕えた。
「これでおしまいだ」
俺とケントは必死にツルから逃れようとした。だが、ツルには棘があって逃れようとするものをその棘で傷つけた。ピッと、皮膚に傷がつき、血が出る。それを見た小鬼は一瞬だったがハッとした表情を見せた。俺はそれを決して見逃さなかった。
血……血……赤い……そうか!
「分かったぞ」
俺は更に必死にもがき続けた。その度に棘が傷をつけ、体はあちこち傷だかけになって血が出始める。
「ふん、無駄な足掻きだ! そんなんじゃどうやったって死ねないぞ」
「俺の目的はそれじゃない。血だらけになることだ。ケント! 俺と同じようにやるんだ」
「分かった」
「何を考えている。遂に頭がおかしくなったか」
「餓鬼、お前が俺に最大のヒントをくれたおかげで切り抜けられそうだ。最大のヒント、それは白装束を赤くすることだ。白装束は死を意味し、逆に赤色は再生」
「クッ……勘のいいガキは」
「嫌い、でしょ」
「ああ!! ちきしょう、ちきしょう、ちきしょうめ!!」
俺達を捕えていたツルは弾かれたように粉々に飛び散り、俺達は何故か空中を浮いていた。真っ白な空から神々しい光が照らし出すと、俺達はその光に導かれるように天へと登り始めた。悔しがる餓鬼達をツルは捕え地獄へと引き戻す。
「クソクソクソ!!」
哀れみさえ感じた俺は下を見るのをやめ、上を向いた。眩しい光に俺達は包まれると、喉の痛みはすっかり消えて無くなった。
夏の夜空に大きな花が咲き、それを俺は林檎飴を持ちながら見ていた。その隣には母さんがいた。母さんははぐれないようにと手をずっと繋いでいた。そのせいで手の中は熱がこもっていた。でも、それが母の愛情だったと今は分かる。
光に包まれながら昔のことを思い出したのはきっと走馬灯だろう。光は小さな一つ一つの暖かな光で、それは蛍のように沢山散って俺達から離れていった。
目の前にいたケントは涙を浮かべていた。
多分、彼も走馬灯を見たんだろう。
俺達は赤い装束を身に纏ったままで、気づいたら現世にいた。民家にはまだ明かりのついている家もあり、そんなに夜遅くというわけではないようだ。辺りは暗く電柱の街灯には小さな虫達が集まっている。
「ここ現世だよな!? なのに俺達人間のままだぞ?」
「いや、ケント。そんな筈はないんだ。ここはまだ地獄でそう思わせているだけだ。これも罠だ。その証拠に俺達は装束の格好のままだ。俺達はこれからどうやってここを脱するか考えた方がいい」
「あ、あぁ……分かった」
そうは言っても街灯の明かりの下から俺達は動けそうになかった。さっきから誰かに見られているような目線を感じていて、それも一つや二つではない。
うぅ……不気味な唸り声が聞こえてくる。だが、その正体は見えない。暗闇の中に、影の中にそれは潜んでいて、俺達が明かりから一歩踏み出すのをじっと待っているかのような感じだった。
「ど、どうする? もう一度死んで肉体から魂を解き放つのか?」
「いや……」
ケントはそう訊いてきたが、それだとまた輪廻転生を繰り返し地獄を永遠に巡ることになる。それはそれで地獄の思うつぼだ。
「俺達は神に助けを求めるしかないと思う」
「神?」
頼りなさそうな声で聞き返された。
「俺達だけで地獄を抜け出せるとか分からない」
「神に頼んで芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のように糸を垂らして下さいとお願いでもするのか? それで俺達は助かるのか?」
「糸かどうかは分からないけど、極楽があって、地獄があったら可能性はもうないとは言えないだろ?」
そう言いつつも半信半疑だが。それでも俺達は神に祈った。
だが、祈りが足りないのか地獄に落ちた俺達の祈りが届かないのか、とにかく祈り続けても何も変化が起こらなかった。
「まだ祈り続けた方がいいか?」
「いや、他の方法を考えよう。俺が思うに地獄の入口が扉だった以上、出口も同じ扉になると思うんだ。でも、俺達が通った扉はどれも地獄の中の世界に繋がっていた。他に扉があると考えた方がいいのかも」
「そうだな。 ……なぁ、訊いてもいいか。なんでそこまで俺に優しく出来るんだ」
「俺達親友だろ。困ったら手を差し伸べる。それが親友ってもんだろ」
「ああ」
すると、突然道の奥から光が放たれた。同時に光に怯えた何かは一斉にその場から去っていく。一本線の光の道が俺達の目の前まで現れ、光の先に扉が現れだした。
「これって祈りが届いたってことか!?」
「さぁ……」
俺達はその光の道に導かれるように歩き出した。
「おい、俺達の体が」
「あぁ……」
光の道を歩くにつれ徐々に体が透け始めたのだ。それがどんどん扉に近づくにつれ体は消えていき遂には意識だけになった。扉は音を立てながら開いた。
「行く?」とケントが訊いてきたので、俺は「行こう」と返事した。
俺達二人は扉の中へ入ると、扉は音を立てながらゆっくりと閉まった。
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